綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、すれ違う

 

 

 あの晩の夜光花、綺麗だったな……

 

 まあ勧められた白ワインで酔ってしまって、途中からは記憶が飛んじゃったけど。リュドミラちゃんが笑顔と一緒に連れて案内してくれた花壇、色とりどりの夜光花が咲き乱れていた。

 

 鮮やかな光、点滅、ジンワリと淡い色。

 

 夜空に飾られた星々の様に。

 

 今、俺の視界にあるのは自慢の我が家、その庭だ。光の質も量も、あの夜には敵わないだろう。でも魔力を応用したランタンやランプが日中とは違う幻想的な景色を作り出していた。

 

「ターニャちゃん」

 

 朝食を二人で楽しんだテーブルと椅子。その内の一つに腰掛けたターニャちゃんが振り返る。屋敷内を探したけど見つからなくて、さっきキーラから教えてもらったのだ。早く話をしたかったけど、お母様の相手をしてて時間が随分遅くなっちゃったよ。

 

「あ、お姉様」

 

「夕御飯、本当に美味しかったって。キーラも凄く褒めてたよ」

 

 隣に腰掛けて、もう一度お庭を眺めてみる。ターニャちゃんも俺から視線を外して同じ景色に向かったみたい。

 

「有り合わせでしたけど。シャルカさんの様な高貴な方の口に合う料理なんて思い付かないですから、結局何時もの感じになっちゃいました」

 

「ターニャちゃんの料理はいつも最高だからね? それと、騙されちゃ駄目。お母様は確かにソド家って言う古い名家の生まれだけど、昔はすっごい御転婆だったんだよ?」

 

「そうなんですか? 立ち姿や仕草も素敵で、空気感も凄いなって思ってました」

 

「お母様は水魔法が得意なんだけど、もう一つ使える属性があってね。それはそれは悪戯好きで好戦的な女の子だったらしいわ。昔内緒で周りの人から教えて貰ったから間違いないよ」

 

「もう一つ?」

 

「土魔法よ。気に入らない娘や下心満載の男の子に泥団子をぶつけて泣かせるのが得意技だってさ。街中にも抜け出して、お付きを困らせる毎日だったって。おまけに買食いが大好きだったの」

 

 綺麗なドレスや生意気な男の子を泥だらけにするのが得意技だったのだ。しかも魔法を使った逃亡も巧く、かなりヤバイ娘だったらしい。ジャンクフードもばっちり嗜好品に入ってるし。因みに、若かりし頃の経験は自身の愛娘を捕まえる技術に生かされているらしい。困ったものです、はい。

 

「ふふふ、やっぱり母娘なんですね。お姉様の幼い頃の話を聞きましたけど、まるで生写しみたい。毎日の様に城を抜け出して、泥だらけで帰って来たって。それに、ジルヴァーナ捜索隊の前身は被害者の会で……」

 

「う……そんな事まで聞いたの?」

 

 お母様、余計な話をしすぎ!

 

「はい」

 

 こう言う時のターニャちゃんて楽しそうなんだよなぁ。

 

「理由があるんだよ? 一番は魔法の訓練で、魔力強化だけは城内で無理だったから」

 

「ああ、成る程。だから怪我が絶えなかったんですね」

 

「最初の頃は制御が出来ないから、筋断裂とか骨折とか……壁に激突してオデコから血がピューッて。その分治癒魔法の腕が磨かれたんだけどさ。そんなだからキーラとか皆が私を監禁までしたんだよ? 酷いよね、うん」

 

「それは仕方無いのでは? 皇女殿下が毎日怪我してたら当たり前だと思います……って言うか骨折って」

 

 ジト目だ! それも可愛いぞ。

 

「ま、まあ、兎に角お母様の事は気にしないで」

 

「魔力銀の服じゃないと丸裸になるって以前聞きましたけど、まさか抜け出した街中で……?」

 

 ヒィ……⁉︎

 

「わ、わぁ! 夜のお庭も綺麗だよね、ね?」

 

 あの日は悲惨だった……下着ごと粉々に千切れたからなぁ。全力で上空に飛び上がり、屋根伝いに逃げたのだ。暫くの間、妖精が街に現れたって噂が立ったからね、素っ裸の。ターニャちゃん、呆れたような溜息やめない?

 

「お姉様?」

 

「え⁉︎ ご、誤魔化したりしてないよ⁉︎」

 

「良かったですね」

 

「うぇ? なにが?」

 

 素っ裸が良い訳ないよね⁉︎ 

 

「ツェイス王子殿下との事です。六年前に知り合って、本当ならお付き合いしてた筈だとも。貴族から身分を理由に反対されたらしいですけど、バンバルボア帝国の皇女なら全部解決ですね。色々とアリスお嬢様から聞いたので分かってます」

 

「ツェイスの事……」

 

 ターニャちゃんは前を向いたまま滔々と話している。濃紺の瞳からは感情が見えなくて、何を想っているのか分からない。膝から下の両脚はプラプラと揺れて幼く見えた。

 

「シャルカさんの、お母様のお許しがあるなら、悩みは全部消えてなくなる。私もツェイス王子殿下と話しましたけど、お姉様を拒むなんて絶対に有り得ないですよ。本当に……素敵な夫婦になるでしょうね」

 

 唇は幸せそうに笑う。でも何故か瞳は哀しそうに伏せられた……そんな気がする。ランプの灯りも何だか大人しくなって、ユラリと歪むんだ。

 

「決まった訳じゃないよ……私は……」

 

 するとターニャちゃんは此方を見て、疑問符を浮かべた視線を俺に合わせた。

 

「嬉しくないんですか?」

 

 どうなんだろう?

 

 自意識は変わってないからツェイスと付き合うなんて想像もした事ない。そもそも大好きなのはターニャちゃんなのに。でも、お母様の気持ちや皇族としての義務だって理解出来る。ルオパシャちゃんより遥かに強い竜が二人、当たり前に勝てる気はしない。

 

 例えば今、目の前にインジヒとシェルビディナンの二人が現れて、ターニャちゃんを害そうとしたら……バンバルボアの義務を果たさなかった所為で、抗う戦士が足りなかったら? 俺は酷く後悔するんじゃないか? 大切な、初めて心から好きになった人が苦しんで……ううん、パルメさんやリタ、マリシュカ。リュドミラちゃんやタチアナ様、クロエさんも。キーラやバンバルボアの皆だって……この世界には沢山知り合いが居る。

 

 勿論直ぐに戦う訳じゃないけど、未来に必ず起きちゃう事だ。其れを知ってるのに、ただ好きな様に過ごしていい? 未来の、大切な人達の好きな人や子供達が苦しむ世界。

 

「分からないよ……何が正しいかなんて」

 

 質問の答えになってないからか、ターニャちゃんが怪訝な顔をしたのが分かる。

 

「……聞かせて欲しい事があります」

 

「なぁに?」

 

「お姉様は、ツェイス殿下を大切に想っていますか?」

 

 大切に、か。ツェイスは……何て言えばいいだろう。話し易い、性格だって優しい、其れに本音を出しても笑って相手してくれる。友達だけど、その中でも親友って思える、そんな奴かな。

 

 戦うときだって、安心して背中を預けることが出来る人なんて僅かだし。六年前に会ってから今まで、楽しい時間が沢山あった。

 

「……えっと」

 

 大切と言えば、大切、だよな?

 

「ふふ、もういいです。よく分かりましたから」

 

「え? そう?」

 

 何だか大人びた微笑が浮かんだけど、すぐに立ち上がって表情が見えなくなっちゃった。何が分かったんだろ?

 

「……キーラさんと話す事あったの忘れてました。お姉様、また明日、お休みなさい」

 

「あ、うん、お休み」

 

 そのまま駆け足で走り去るターニャちゃん。最後までこっちを見てくれなかった。ちゃんと答えなかったから怒ったのかな……

 

「はぁ……いつかこんな日が来るかもって考えてたけど、いきなりだよなぁ」

 

 別にバンバルボア帝国が嫌いな訳じゃ無い。むしろ皆が大事にしてくれたし、お姫様気分も沢山味わって楽しかったから。まあ、皇女としての勉強からは逃げ回ってましたけど! 

 

「だって継承権も無かったし? まさかそんな理由で大事にされてたなんて、うぅ」

 

 確かに瞳の色を随分褒められた気がする、今更だけど。はぁ、もっとしっかり話を聞いておけばよかったかなぁ。いやいや、聞いてたら脱走は早まったはず! 「子作り頑張れよ」なんて肩を叩かれたら、全力の魔力強化を使っただろう、服がビリビリに破れても。

 

「でもこのまま有耶無耶にするのか? ターニャちゃんを好きな気持ちに蓋をして……」

 

 吃驚するだろうなぁ。お姉様だと思ってる俺から告白されたりしたら、不審者を見るように睨まれそう。キモいとか言われたら死ねる。

 

「そもそもTS女の子なのか、はっきり聞いてない。中身が男の子なら可能性は高まるけど」

 

 でもなぁ……ターニャちゃんって他の男共と違ってチラチラエロい目で見て来ないし、お風呂とかでも普通にしてた。スキンシップにも動じないから確信が得られないよ。ス、スキンシップか……うへへ。

 

お姫さま(おひーさま)、少し宜しいでしょうか?」

 

「うひぃ⁉︎ キ、キーラ? いつの間に……」

 

 マジで気配が薄いな! 八年前と違い過ぎだよ! "演算"のタチアナ様と近いものを感じる……つまりヤバい、うん。

 

「はい」

 

「吃驚した……はい、此処に座って」

 

「いえ、皇女殿下と同じ席など不敬ですから」

 

「やめようよ……昔みたいに普通にして?」

 

「あの頃は子供でしたから……幸せな日々の思い出としてずっと憶えています。先程シャルカ様の仰られた通り、お姫さま(おひーさま)はバンバルボアの希望。何だか誇らしいです」

 

 いやいや、会った時抱き着いて来たし、"ジルヴァーナに罰を"で嬉しそうに縛ったよね⁉︎ 

 

「じゃあ皇女としてお願い。座って? あ、それより私の膝の上に乗るのもアリ!」

 

 キーラは背が伸びてないし、可愛らしさをバッチリ残している。おかっぱ頭も変わってない。うん、可愛い。

 

「それは……唆られますが、遠慮しておきます。叱られてしまいますので」

 

「お母様に? まさか大丈夫だよ」

 

 慣れてるから!

 

「シャルカ様でなく、ター……いえ、何でもありません。では隣に失礼します」

 

 腰を下ろしたキーラは益々ちっこい。可愛い。て言うかターって何? ま、いっか。

 

「どうしたの?」

 

「シャルカ様から暫く滞在すると伺いました。ですので屋敷の設備を使わせて頂く許可を……それと鍵や火を使えなくて……」

 

「なんだ、そんなこと? 好きに使っていいよ。鍵とかは魔素の操作が必要だけど、後で教えてあげるね。キーラなら大丈夫でしょ?」

 

 ターニャちゃん基準で慣れてるから忘れてた。魔素のパターンを知らないと鍵一つ開けられないもんね。お風呂や水道だって使えなくて大変だろう。当たり前だけど、魔素を目視して、自由に動かして、オマケに消しちゃうなんて無茶苦茶だからなぁ。

 

「魔素の操作ならば嫌でも覚えさせられましたから、多分大丈夫です」

 

 何だかジト目が痛い……ま、まあ昔は色々あったね、うん。

 

「それならお母様にも教えないと」

 

「あ、シャルカ様なら大丈夫です。さっき楽しそうに遊んでました。お姫さま(おひーさま)の部屋、解錠出来たって」

 

「えぇ⁉︎」

 

 あかん! プライベートの危機だ‼︎

 

 しかも……あの趣味全開衣装部屋を見られたら大惨事だぞ⁉︎ 女教師のスーツなんて可愛いものだし……い、いやあの部屋はターニャちゃんすら簡単に開けられない厳重な仕様だから大丈夫な筈。お姉様としての威厳を失う訳にいかなかったから魔改造したのだ。アレは生半可な技術では不可能なレベルだからな。

 

 でも、一応物理的な鍵も用意しよう。何だか嫌な予感がするから!

 

「ん? どしたの?」

 

 キーラが幸せそうに笑ってる。

 

「何だか懐かしくて……お姫さまは凄く大人びた方になりましたけど、変わってないなと」

 

「まあ、背も伸びたし」

 

「その胸、詰め物してないですよね?」

 

「ふっ、天然モノよ?」

 

 思い切りふんぞりかえり、最高のオッパイを突き出す。まあ超絶美人ですから?

 

「やっぱりソド家の血筋でしょうか。シャルカ様も大変立派なモノをお持ちですし……」

 

「まあお母様の血が濃いのは間違いないわね。恥ずかしいけど顔も似てるから」

 

 あの妖しい色気だけは違いますけど。

 

「ふふ、そうですね」

 

「キーラ」

 

「何でしょう?」

 

「八年前、ゴメンね。内緒で居なくなって」

 

「其れは……最初随分腹が立ちました。あと情け無さと。私の存在はその程度だったのかと沢山泣いちゃいましたよ? でも今は、何となく、幸せです」

 

「何で?」

 

「内緒です」

 

「ええ……? 気になって寝られ無いよ」

 

「罰です。八年も私を放って置いたんですから」

 

 ついさっき皇女殿下って敬ってる感じ出してたよね?

 

「綺麗……お姫さま、本当に」

 

 真正面で視線を逸らさずに言われると恥ずかしい。でも、キーラだって可愛いよ?

 

「ん? そう言えば」

 

「はい?」

 

「ターニャちゃんと話す事なかった? この後」

 

「いえ、特には。何故ですか?」

 

 あれぇ? 確かキーラと話すからって駆け足で……急ぎの用事かと思ったのになぁ。

 

「ううん、何でもないの」

 

 何だろ? まあ告白の事も考えないとだし、明日もっと話をしよう、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 




書き溜め出来てないけど投稿しちゃいます。いつも不定期で、読んで貰ってる方には申し訳ないです。
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