綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
昨日は中途半端だったし、ターニャちゃんと落ち着いて話をしたかったんだけどなぁ。
何だか避けられてる気がする。気の所為?
だって最近日課だったほっぺにチューも断られたし、目も合わせて貰えない。まあお客様が居ますからって言われたらそうだけどさ。でも泊まったのはお母様とキーラだけだし、余り気にしなくてもいいのに。そう言えば他の連中はどうしてるのか聞いたら、アートリスの各所に宿を借りてるらしい。俺の調査には細心の注意を払ってたって。むぅ……
ターニャちゃんお手製の朝ご飯。
お母様は楽しそうに舌鼓を打ってる。バンバルボアで出てくる料理も凄く美味しかったのは憶えてるけど手が込みすぎてるからなぁ。目の前に並んでるのは色合いは鮮やかだけど、決して珍しい感じじゃない。
パン、卵料理には特製のケチャップ、お野菜は軽く火を通してあって甘い。スープはツェツエ伝統の塩辛い濃い目のヤツ。でも味噌汁を少しだけ感じるのが不思議だ。あとアーレでは定番だった魚のフライも添えてある。
「本当に美味しいわ。素朴な味の中にしっかりとした風味。普段から下拵えに慣れてないと、こんな深い味わいにはならないから……このスープは独特なのに他が淡い味付けだから合ってる。ジルヴァーナが骨抜きにされるの分かるわね」
だよね! 出汁とかも拘ってるの丸分かりだもん。ケチャップもお手製だから他では味わえません。マジでヤバいのだ。
ほら、料理自慢の旅館に泊まったら翌朝に食べるヤツあるじゃん。白米、味噌汁、焼き魚、海苔と漬物。別に珍しく無いのに滅茶苦茶美味いよね。あんな感じなんだよ、ターニャちゃんの作る料理って。
「ありがとうございます。お口に合うかドキドキしてたので安心しました」
「その感じ、お世辞だと思ってるでしょう? この娘なら分かると思うけど、私はこんなお世辞は言わないの。ね、ジルヴァーナ」
「うんうん、お母様は食べ物に煩いんだよ? 例えば昔なんて」
「ジルヴァーナ?」
「あ、えと……何でもないです」
怖い……
「お茶を淹れ直しますね。先日お姉様が良い茶葉を手に入れてくれたので」
「あら、ありがとう」
「手伝うよー」
色々お話し出来るし。
「いえ、座っていて下さい。大丈夫ですから」
でも、あっさり断られました。可愛いお尻やショート髪を眺めてみるが、結局振り返ったりしなかった。鋭い勘でいつもバレるんだけどなぁ。どうしよう、凄く不安になってきたぞ。
「全く……ターニャさんも不安なのよ。そもそも皇女の立場も明かして無かったんでしょ?
「え? 今日は別に……ギルドに行くと何かあるだろうけど。えっと、仕事に行ってもいいの?」
逃げ出したりしない様に監禁されると思ってた。だって我ながら心当たりが有り過ぎだからね、うん。
「当たり前じゃない。ジルヴァーナはツェツエの冒険者で超級。未だに信じられないけれど、バンバルボアにも噂が届いていた"魔剣"でしょう? 心配ないと言えば嘘になる。でも貴女の
うへぇ、色々バレてるなぁ。
「うーん、分かった」
「それに」
「ん?」
「ターニャさんを置いて逃げ出すの? 無理でしょう?」
「う……」
この何でもお見通しな感じ、やっぱり変わってない。街の男共を掌で転がしてきた此の俺を、簡単にコロコロするとは……さすがお母様。嬉しくないけど。
「失礼します」
おや?
「キーラ、どうしたの?」
「お客様です。かなりお急ぎの様ですが、如何しましょうか?」
屋敷の外回りを掃除に行くと出て行ったキーラだったから、だれかと会ったのかな? 来客の予定なんて無かったはずだけど。
「誰だろう?」
「冒険者ギルドのリタ様です」
「リタ? て言うか知ってるの、キーラ」
「はい、事前に色々と調べさせて頂きましたので。昨日のパルメ様同様に大切なご友人と理解しております」
「……そう。着替えたら直ぐに行くわ」
「はい、そうお伝えします。客間でよろしいですか?」
「うん」
交友関係から行動まで調査済みかぁ。まあ皇女としてだから理解はするんだけど。束縛は昔の方が酷かったしね。
「急ぎみたいだから行って来ます、お母様」
「ええ、ターニャさんには言っておくわ」
「お願い」
急ぎか。何だろ? そうそう強い魔物なんて現れないし、他にも冒険者は居るからね。でも、どんどんターニャちゃんと話すタイミングが遠のく気がする。急いで帰らないとだな。
○ ○ ○
「リタ、おはよー」
「ジル! 早く来て! ギルド長が呼んでるの!」
客間の扉を開けた途端、駆け寄られてリタに両手を掴まれた。ソバカスも残る幼い容姿が可愛いけど、真剣な眼差しを見れば下心も消えて行った。
「リタ、落ち着いて」
「あ、ごめん……」
「装備は整えたから大丈夫。向かいながら教えてくれる?」
「うん」
「キーラ、ターニャちゃんを頼むわね」
「はい、お任せを」
如何にも教育の行き届いた使用人、そんな空気を醸し出すキーラを見てリタも戸惑ってるみたい。メイド服も似合ってるもんね。そう言えば、バンバルボアの事を未だ言ってないな。うーん、何て言えば……「俺ってば皇女だったんだよ、ははは」何て冗談以下だろうし。そもそも信じて貰える? あと拡声器オババのマリシュカはどうすれば良いのか分かんない。
「行ってらっしゃいませ」
キーラは屋敷を出る時もピシリとした姿勢のまま送り出してくれた。お母様は気を利かして顔を出さないみたい。懸命な判断です、うん。
チラチラとそのキーラを眺める仕草やその顔も可愛い。家から少しだけ距離を取ると、漸くリタが声を出した。
「ジル、貴女まさか」
え? もうバレた⁉︎ 超絶美人のジルだから、高貴なる空気でも溢れてしまったか⁉︎
「えっと、あの子はキーラって言って」
「ターニャちゃんに飽き足らず、また可愛い娘を拾って来たの? ちょっとドン引きなんだけど。おまけにメイド服、あんな演技までさせて……まさかお風呂に無理矢理連れ込んだりしてないわよね? あと着せ替えさせたり」
「うぇ⁉︎」
違う‼︎ そんなことある訳……いや、あるけど。昔はお風呂とかお着替えとか、あとオハヨーのチューも……
「マジカヨ……引くわー、ホントまじで」
「ちちち違うから! 拾ってません!」
「じゃあ、何よアレ。そもそも昨日今日で身につく仕草じゃないし、どっかの金持ちから掻っ攫ったってきた? しかもジル好みのちっちゃな可愛い系」
「ひ、人聞きの悪い事言わないで!」
ほら、街中だし周りから白い目で見られてる気がする! と言うか、俺に対してそんなイメージなの⁉︎
「……だって絶対に高貴なところで仕えてた感じじゃん。あのキーラって子」
確かにそうですけど! 今は話題をチェンジだ!
「ほ、ほら。そんな事よりギルドの用事は?」
今頃思い出したみたいで、ジト目が真面目な色に変わった。
「えっとね、ギルド長から詳しい話はあると思うけど」
「うん」
「西の森で……」
耳を傾けた頃には、遠くにギルドの建物が見えて来た。
到着するや否や、ドワーフが……違った、ギルド長のウラスロ=ハーベイが真剣に伝えて来た。リタは真面目な表情で後ろに立ってる。いつの間にやら俺専属の受付嬢になってるけど、大歓迎なので指摘はしない。
「間違いなく"カースドウルス"ですか?」
さっきリタから聞いたけど、中々有り得ない事だから再確認。
「ああ、さっきピピが知らせて来た。マウリツ達が時間稼ぎをしてくれているが、相性が悪過ぎる。アレに物理攻撃は殆ど効かないからな。ブランコやブルームが魔法士として唯一対抗出来るだろうが……」
「"槍蒼の雨"の皆さんが……確かにマウリツさんの槍やジアコルネリさんの剣では難しい、ですね。ピピさんもナイフ使いでしたし」
槍蒼の雨はリーダーのマウリツさんがダイヤモンド級だから相当上位のパーティだ。双子のブランコ、ブルーム兄弟も魔法士と治癒士として結構有名で、凄腕と言っていい。でも、どちらかと言えば槍と剣をメインアタッカーに据えたパーティだから、相手によっては苦戦する。まあそれでもダイヤモンド級は大抵の魔物を倒しちゃうけど。
「ああ。"
元は森の守り神みたいな獣で、巨大な
そして、子供を万が一でも殺した場合は最悪。自然死以外を親が知ると一気に凶暴性が増し、"カースドウルス"へと変幻する。カースドは半分精霊種となり、付近の死霊を集め始めて一種の軍団を形成。しかも物理的な攻撃の効果が減少し、強力な魔法が必要になる。何より、子供の仇を取るまで諦めたりしない。仇と言っても見境無しだ。
本当に可哀想だけど討伐以外に手が無くなる。ウラスロの爺様が言った様に、時間を掛ければ掛けるほど厄介なのも理由の一つだ。
「でも、誰が子供を? ギルドは勿論、ツェツエでも禁止されているのに」
ツェツエの法により、ウルスの住う森での行動には様々なルールがあるのだ。
「分からん。出来ればその辺りも探ってくれ。それと……お前にとって、ウルスを殺さないといけない辛い仕事だが……」
「ギルド長、直ぐに出ますね」
「……ああ。超級"魔剣"ジル。此れは正式なギルドからの依頼だ。
「はい、お請けします」
「リタ、魔剣が受領した。記録して、同時に本部へ報告だ」
「はい!」
「それでは」
「頼む」
リタが心配そうにしてるし、ちょっと気合入れよう。
元は野生の熊みたいなモノだから本能が非常に強い相手だ。下手に知能のあるその辺の魔物なんて全く相手にならない。確かアートリスに来たばかりの頃に一回だけ現れたのは覚えてる。まだ冒険者登録を済まして無かったから、あくまで噂程度だ。
確か"魔狂い"が討伐したはず。まあ魔力馬鹿のエロジジイなら適任だし、驚くことじゃない。
二年前、超級に上がる時に資料は見せて貰ったと思う。あと変態エロジジイからも話を聞いたし。真面目に聞いてたら、いきなり胸を触りやがったから思い切りぶん殴ったのを覚えてる。
「何度か森で見かけたけど、確かにでっかい熊だったな……ヒグマの2倍とかあった気がする、多分だけど」
ヒグマの雌でも2m程度だから合ってる筈だ。カースドウルスになると、もう怪獣に近いよな。
「いくら魔力銀の服と言えど、衝撃の全ては受け切れないよなぁ。質量は1トンを軽く超えるはずだから、まともに喰らったらヤバい。オマケに死霊達もワンサカ出るだろうし」
その魔力銀の服は細身のパンツに白黒ボーダー柄。袖を肘あたりでクシャクシャってしてあるデザインで女の子らしさを忘れてない。パンツはジーンズにそっくりだけど、足元に向かって細く絞られてる。まあ、今から戦いに行く格好には見えない。薄手のマントと剣帯が無ければ、だけど。
街道から逸れれば、視界には馬車や歩いてる人もいなくなった。
アートリスを出る時は騒がしかったけど、今は静かなものだ。討伐が完了しなかったら街だってタダじゃ済まないかもしれないから、門番の人達も緊張した感じだったし。
行って来ますって視線を合わせたらホッとしてたけどね。
全身に魔力を送ると着ている服が肌に張り付くのを感じる。この瞬間が意外と好きで、気も引き締まるのだ。
魔素感知を行い、距離と方角を確認。
「よし」
軽く右脚を踏み出すと、全ての景色が後方へとぶっ飛んで行く。体感では空を飛ぶような感じかな。
マウリツさん達なら大丈夫だと思うけど、少し心配だ。可愛い娘さんも居るし、怪我だってして欲しくない。
「今行きますから」
待ってて。
あと、早く帰ってターニャちゃんと話さないと!
次は来週末頃に投稿予定