綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、帰れない

 

 

 

「うわぁ、あれって群体(レギオン)じゃん……アイツってキモいんだよなぁ」

 

 まだ遠いけど、樹々の合間に見えちゃったのだ。

 

 マウリツさん達は無事みたいだから其れは良かったんだけど。

 

「しぶとくてグロいし、近づいたら臭いもん」

 

 赤黒い肉玉? 何て表現すれば良いか分からないけどそんな感じ。大小沢山の眼がギョロギョロしてて、手や足があちこちからニョキニョキ生えてるから肉玉と言われると違う気がするかな。

 

 何より、死霊(レイス)の一種なのに受肉してるから触れるのが気持ち悪い。グチャグチャネチョネチョしてるから尚更……うーむ、脳内だけど擬音ばかり喋っちゃったよ。

 

「それに何故かエロいし」

 

 ずっと昔、レギオンに遭遇した時は最悪だった。

 

 バンバルボアにいた頃、城を抜け出した夜。暑い日だったから肝試しでもしようと考えたのが駄目だった。詳細は思い出したく無いけど、油断して捕まって……ヌチャヌチャヌルヌル、間一髪! そんな感じ。俺に触手プレイの趣味は無いと言っておこう。

 

「剣でも触れたくない。と言うか近づきたく無い」

 

 そんな訳で魔法を準備。何でも良いけど氷かな。森の中だし、本当なら水魔法が適してるかもだけど何となくイヤ。ほら、誰かさんのお母様を思い出すから。

 

「よいしょっと」

 

 鋭い氷柱を三本射出。キラキラ綺麗だけど無茶苦茶頑丈なんだよ? おっと、森を傷つけたくないから突き抜けたヤツは消してっと。うーん、消しゴムで擦る感じ? いや違うかな。

 

「うげぇ……まだ生きてる」

 

 マジでキモいな。元の世界に棲息していた最強生物Gに匹敵するよ。追加を差し上げますから、早く消えてください。

 

「マウリツさん、お待たせしました」

 

 そして格好良く参上! 超絶美人のジル! 髪はフワリとさせて、キリリとした横顔に気を配るのだ。敢えてマウリツさんを見ないのが大事だと思う。イメージは召喚された精霊みたいな? 最高のジル、その演出は重要ですよ?

 

「いや、丁度だよ、ジル」

 

 おお……マウリツさんってば相変わらず渋いぜ。台詞も格好良いもん。ハードボイルド系主人公が似合うよきっと。ほら、煙草と酒、銃? ハリウッド映画とかにいそう。

 

「良かった。大熊(ウルス)の動きは未だ鈍いみたいですけど、此方は捕捉されてますね。ゆっくり向かって来ています」

 

「ああ。情け無い話だが、頼むよ」

 

「はい。あの……子熊は?」

 

 呪われた大熊(カースドウルス)が出現した以上、原因が有るよね。

 

「此処から少し離れているが見つけたよ。括り罠に嵌っていた」

 

「括り罠……そうですか」

 

 括り罠? どこの馬鹿だ、そんな事するなんて。ウルスの居る森だから禁止されてるんだぞ? 捕まえて罰を与えないと……

 

 兎に角、今は討伐するしかないか。

 

「……皆さんは討ち漏らした死霊(レイス)をお願い出来ますか? 暫くはウルスに集中しますので」

 

 魔力を剣に注ぐ。刃に変化は無いけど万遍なく纏わせたらOKだ。いきなり全力にはしないよ? 本気で魔力を通すと斬る時の感触や抵抗が感じられないから色々とヤバいのだ。それに相手の出方も分からないままだと拙い時もある。

 

「任せてくれ」

 

「はい 」

 

 せめて早く終わらせよう。

 

 普段は温厚な熊だから可哀想だよな……子熊と一緒に埋葬してあげないと。

 

「……ごめんね」

 

 あっ……つい溢しちゃった。何時もの演技じゃ無いから何だか恥ずかしいぞ。うぅ、もしかしてマウリツさんに聞こえたかな? そっと横を見たけど気付いて無いみたいだ。ふぅ、良かった良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マウリツさん達が散開したから言葉遣いは大丈夫なんだけど……

 

「デカくない?」

 

 想像以上です。

 

 森の奥から現れた母熊だろうウルスの体高、二階から見下ろされる感じ……熊らしい四足歩行は忘れてしまったんだろうな。

 

 身体は茶色い毛に覆われてて、ずっと開いたままの口には鋭い牙がズラズラと並んでる。上半身が特に大きいから足が短く見えるな、その分太いけど。あと爪が剣みたいに長い。それと半分精霊種に近付くって話だけど、パッと見は普通だ。

 

 ただ、本来なら円らな瞳も真っ赤に光って凄く怖い。

 

「うわぁ、目が合った」

 

 ぶっとい樹も簡単にへし折ってるし、捕まったら終わりだろうなぁ……ジルちゃんの細い腰なんてポキリだよ、うん。

 

 あ、最初のターゲットが決まったみたいです。俺に。

 

「ヴヴヴゥ、ギギギ……」

 

「もう熊の声じゃない……可哀想に」

 

 多分正気も失っているんだろう。

 

「物理的な攻撃には勿論だけど、魔力に対しても抵抗力が高いらしいし、苦しめたくない。一思いに首を落としたいけど届かないな……」

 

 そんな風に観察している時だった。

 

 剣が生えてると錯覚してしまう手で、隣に立つ樹を力任せに殴った。そして膂力が尋常じゃないんだろう、大した抵抗も見せずに擦り抜けたと感じる。当然に太い幹が折れてこっちに吹き飛んで来た。

 

「わっ⁉︎」

 

 想像を超えるスピードだったから慌ててしまう。魔力強化を済ませていたから問題は無かったけど……

 

「森の守り神みたいな熊なのに」

 

 素早く横に躱して距離を取る。しかし、本当なら森を蔑ろにする様なヤツを許さない獣なんだけどな。何だか哀しい。

 

「魔力強化してるのに補足されたままだな。多分眼で見てない。魔素感知の一種か、変容した魔力の所為かも」

 

 これ以上はウルスだって望まない筈だ。心を失って森を傷つけるなんて。そう思って魔法を放つ。生成したのはさっきと同じ氷の槍を二本、そしてタイムラグ無しで射出。放った俺には見えているけど、実際には目にも留まらぬ速さってヤツだ。丁度こっちを確認してたマウリツさんは勿論、ウルスも反応出来ていない。だけど……

 

「……消失した?」

 

 両脚を狙ったけど、当たる寸前に消えてしまった。一瞬だけ拮抗した様に見えたけど、その後は一方的な感じかな。うーん……

 

「多分魔力が足りない? 変則的な障壁かな」

 

 正直余り経験のないタイプの防御だ。

 

 これが物理的にも魔法にも耐性が有るって言われる理由みたい。強力な魔法を求められるのは、防御を抜けるだけの魔力が必要だから。でもそうなると制御に問題が出る。どうしても森にダメージが出るし、マウリツさん達を邪魔してしまうかも。

 

 魔狂いのエロジジイが言ってたなぁ……呪われた大熊(カースドウルス)を相手にしたら余計な容赦や情けは捨てろって。それが一番の償いなんじゃって。あの瞬間だけは真面目な顔してた。

 

「仕方無い……か」

 

 一気に駆け出す。遠かったウルスの身体がグングンと近付き、視界には下半身しか見えなくなった。それだけデカイのだ。強化した剣を横で構えて、足元を抜ける瞬間振り抜く。速度も合わさって我ながら凄い斬れ味。僅かな抵抗、生き物を斬った感触はしない。近いのは鎧とか岩だろうか。

 

 可哀想だし残酷だけど脚を切断した。当然に立っていられなくなりウルスはバランスを崩す。やはりもう普通じゃないのか、悲鳴すら上げない。ただ、恨みがましい視線を俺に向けるだけだ。

 

 質量が凄いからか、倒れた瞬間少し地面が揺れる。そして、自らの脚すら無視して腕を振り回して来た。でも予測済みだから、その場所にもう俺はいない。

 

 背後に周り跳躍。

 

 流石のカースドウルス、もう俺に気付いて腰を捻るのが見えた。凄いな……この速度でも反応出来るなんて。間違いなくバックブローの如く、裏拳の要領で攻撃する気だろう。

 

「……危ない‼︎」

 

 空中に居る俺では避けられないと思ったのか、マウリツさんの心配そうな声が耳に届く。嬉しいけど大丈夫ですから。

 

 魔力弾を目の前に生成し、回転してくる腕……正確に言うと肘辺りに当てる。ただの魔力だけど、純度も密度も殲滅魔法に近いレベルだ。最初の魔法と今の剣で大体の防御力は理解したからね。そしてこれも予想通りに障壁を抜けて、破裂音が森に響き渡った。

 

 これにはウルスも耐えられず、逆方向に反力が働いて腕がへし折れた。まあ一種のカウンターだったし……くそ、ここまで残酷な攻撃なんてするつもり無かったのに……

 

「ゴメンな……本当の仇は見つけ出して、必ず償わせるよ」

 

 延髄に向けて剣を薙いだ。この瞬間だけ全開に強化しているから、さっきの様な抵抗を感じない。文字通り空気を斬った感触だけ。

 

 勢いのまま着地、瞬時に魔素感知。残る死霊の位置を把握して魔法を放った。まだジアコルネリとか双子が戦っているのは分かってる。でも、何だか早く済ませたくなったのだ。あれ……何だか気持ち悪いし、ちょっとイライラしてるなぁ。

 

 死霊達の末路も確認する気が起きず、少しだけ目を瞑る。んー、無意識だったけど胸元に手を添えてるな、俺。

 

「ジル……大丈夫か?」

 

 無言で佇んでる風だったからマウリツさんが声を掛けてきた。でもちょっとだけ待って欲しい、いつものジルに戻るから。思い切り深呼吸して握ったままの剣を鞘に戻す。あれ? 右手に力が入ってたのか、ちょっとだけ痛い。

 

「……すいません、いきなり魔法を」

 

 場面に寄っては危険だもん。接近戦をしていたマウリツさんやジアコルネリには迷惑を掛けないようにしたけど、警告もしなかったのはモラルに欠ける。

 

「気にするな」

 

 よし、落ち着いた。ゆっくりと振り返って笑顔を浮かべる。ジルはいつも綺麗じゃないとね!

 

「討伐完了ですね。槍蒼の雨の皆さんに怪我は無いですか? 治癒魔法なら使えますから任せて下さ……あっ、ブルームさんが治癒士でしたね。私ったら忘れてまし……」

 

「もういい、もういいんだ」

 

 マウリツさんはそう言うと、俺の両肩を優しく摩った。周りにはいつの間にかだけど全員が揃っている。ジアコルネリ、ブランコブルームの双子、珍しくピピも。

 

「少し休んでいろ。母熊は子供と一緒に埋めて来る。その方が良いだろう?」

 

「……手伝いますね」

 

「おいおい、助けて貰った上に討伐までさせて、おまけに休憩も無しなんて俺達の立場を考えてくれ。頼むよ」

 

 自然にエスコートされ太い樹の根元に腰を下ろされた。何となく抵抗出来なくて、そのまま座ってしまう。

 

「でも……」

 

「じゃあ役割分担だ。周囲の警戒はジルに任せていいか?」

 

「あ、はい」

 

 言われなくても街を離れたら度々魔素感知をしてるけど。

 

「何かあったら呼んでくれ。ジアコルネリ、皆、行くぞ」

 

 何かを言いたそうなジアコルネリを連れてマウリツさん達は去って行った。此処からは母熊の遺体が見えない。樹の反対側に座ってるみたいだ。

 

 さっきまで沢山いた死霊も消え去り、いつもの森が視界に入る。

 

「綺麗だな……」

 

 陽の光が所々に降りて来て、少しだけ明るくなった。

 

「何だっけ? 天使の梯子、薄明光線……忘れた」

 

 日本で習った筈だけど覚えてない。頭の良いターニャちゃんだったら分かるかも。いやいや、異世界転生の秘密はバレてないんだから、聞いたらおかしいだろう。俺は綺麗で格好良いお姉様じゃないと駄目なのだ。

 

「そう言えば最近TSイベントで遊べてないなぁ。お風呂も着替えも予想と違ったし。うーむ、残るイベントって何だろ?」

 

 ラッキースケベを発生させる? でもターニャちゃんって冷静に対処しそう。もし反対の立場だったら超絶美人相手に普通で居られるかなぁ? 俺だったら絶対無理って断言出来ます。そう考えるとターニャちゃんヤバいよな。本当にTSした元男の子なのか自信が無くなっちゃうよ、うん。

 

「ん? あれは」

 

 ターニャちゃんの超可愛いお尻を幻視していたら、視線の先に光る物を見つけた。少し距離はあるけどその正体も分かる。下ろしていた自慢のお尻を上げ、テクテクと歩けば到着だ。

 

「括り罠か。一部に魔力銀を応用したヤツだな。強制的に締まり続けて獲物を……」

 

 一度罠に掛かると魔法による解除しか脱出は不可能だろう。勿論知識のある人間ならば他にも方法はあるが、例えば()()だったら無理だ。

 

「魔力銀なら追えるかも……それに新しい。つまり仕掛けた奴は近くにいるか回収に来る筈」

 

 魔力を送るとゆっくりと金属の混ざった天糸(てぐす)が締まる。まあ天糸と言っても魔物から取れた糸だけど。

 

 この感じなら幾つも仕掛けてあるだろう。ウルスが他にも居たら最悪だ。

 

「全部取り除かないと。それに」

 

 ギルド長からも頼まれてた。出来れば原因をって。

 

「仕方無い、よ。でも、早く帰ってターニャちゃんと……うまくいかないな」

 

 ツェイスの事もあるし、余りお母様を自由にしたくないんだけど……あの人、何するか分からないんだよ、マジで。

 

 でも、母熊の仇を逃したく無い。

 

「マウリツさん達に話そう」

 

 丁度埋葬が終わったのか、皆が此方に歩いて来るのが見えた。

 

 

 




また来週に投稿予定です
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