綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
「ジルの言う通りだな。このままには出来ない」
変わらぬ渋い声でマウリツさんは返してくれた。
ウルスの親子は埋葬されて、ほんの少し落ち着いたかな。母熊は大き過ぎて運べないから子熊を連れて来たみたい。お花を捧げるくらいしか出来ないのは少し残念。
そう言えば討伐証明を採ってくれたみたいで感謝だね。すっかり忘れてたよ。
「しかし、どうやって探すんだ? 此れから夜になるし、見つけ出すだけでも難しいだろう?」
双子の一人が括り罠を観察しながら聞いて来た。まあ普通はそう思うよね。
「魔素感知を応用します。この罠は魔力銀を使用してるので」
「……スマン。魔力銀が使われているからって理由になるのか? 応用って言っても不可能はあるだろう」
今度は双子のもう片方が会話に入る。双子なだけに声もそっくりだなぁ。まあ魔力銀自体は珍しい物質じゃないし、元の世界ならプラスチック的な? やっぱり二人にも魔素感知の応用は難しいみたい。隠してる訳じゃないし教えてあげましょう。
「魔力銀は名前の通り魔力を集め易いですよね? 勿論通常の感知では見つからないので、薄く引き伸ばして広げる感じでしょうか。使われている魔力銀の量や加工精度によって調整する必要がありますが、幸い実物が此処にあるので。その状態で感知すると、対象物は穴が空いた様に見えますから、えっと……いつもの逆、みたいな、その」
説明の途中からだけど、全員の頭の上に疑問符が浮かんだのが分かってしまいました。うぅ、説明が難しい! イメージは漁師さんが使う魚群探知機なんだけど、言っても伝わらないし……
「その……魔力から指向性を消して……あ、グルグルって感じで」
ぬぉぉ、脳内イメージを言葉にするって大変だよ。
「まあその話は後にしよう。ジル、キミなら感知で追えるって事だな?」
マウリツさん、ありがとう! この辺の気配りは大人の男って感じだよな、うん。
「はい。ただ時間が掛かるかも」
「分かった。皆も疲れているだろうが、放置して帰る訳にもいかないな。何よりこんな罠を仕掛けた奴を捕まえる必要がある」
んん? あ、あれ? これって一緒に来る感じ? いやいや、一人で行くつもりなんですが!
「マ、マウリツさん。私一人で大丈夫ですから……もう暗くなりますし、皆様は早朝から大変で」
何とか誤魔化そうと頑張ったんだけど、やっぱりマウリツさんに止められた。
「おいおい、俺達にも手伝いくらいさせてくれ。討伐も調査も、更には犯人まで任せるなんて恥ずかしくて帰れないからな。なあ、みんな」
「「勿論だ」」
「是非一緒に!」
「ん」
双子、ジアコルネリ、ピピの順番で見事に返してくれた。くれたけど、正直余り嬉しくないよぉ。だって俺は基本的にソロだし、別のパーティに一人参加なんて気遅れするって……それに超絶美人の演技だって続ける必要があるじゃん! そ、そうだ! 女性として上手く逃げてしまえば良いのでは?
「あの、えっと」
「ん? 当たり前だが寝床は分けるし、俺やブルーム達は既婚者だ。ジアコルネリ達にも馬鹿な真似はさせない、と言うか不可能だ。魔剣の怒りに触れたい阿呆はいない……いや、フェル爺以外だが。それに、出来るなら色々と教えて欲しいんだ。さっきの魔素感知の件もあるだろう?」
おぅ……見事に先手を打たれました。やっぱり大人の気配りは要りません! まあ男女混在したパーティなんて珍しく無いし、当然なんだけど……
「わ、分かりました」
しかし、ターニャちゃんとの時間がどんどん遠のいて行くなぁ。
○
○
○
森から集めて来た薪に火を灯した。着火は魔法でね。
何だか皆が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。薪の拾い集め、整地、寝床や食事の準備。手伝いますって言ったんだけど、無理矢理休まされたのだ。
どうやら"
今は倒れた樹にお尻を下ろして目の前の焚き火の世話をしているところだ。長居をするつもりが無かったから御飯も着替えも用意してない。と言うか魔力強化して帰る予定だった。まあ俺も冒険者だから慣れてはいるんだけどね。
うん、木々の隙間から星空が見えるし天候は大丈夫そう。雨なんか降ったら最悪だし良かった。
「せめて水浴びしたいなぁ。でも定番の覗きとかされたりして……もしくは服を脱いでる時に偶然出くわしてキャーッとか。いやいや、そんなイベントはターニャちゃんでお願いします」
「ジル、何か言ったか?」
追加の薪を集めに行ったマウリツさんだ。もう十分過ぎる量を両手で抱えてる。槍も置いたままだし大丈夫なのかなと思ったけど、俺の魔素感知なら万が一も無いだろうってさ。まあ、その通りなんですけれど。
しかし危なかったぜ。つい独り言が溢れたもん。
「いえ、何も。皆さんは?」
話を逸らそう、うん。
「食材集めだな。ピピが付いてるから直ぐに帰るだろう。アイツは森に詳しい」
「お湯を沸かしておきましょうか?」
「ん? ああ、頼むよ」
複数のパーティだけあって、長期間滞在用の準備もバッチリだ。目の前には思った以上にデカい金属製の鍋がある。水魔法で満たして蓋をすれば後は待つだけだな。
お母様なら最初から熱々のお湯を出すかも。昔、悪戯するのに開発したらしいって……うぅ、つい思い出しちゃった。だから水魔法は苦手なんだよ、全くもう。
「分かってはいるが簡単に魔法を使うよな、ジルは」
丁寧に薪を積み重ねながら、マウリツさんが少し呆れた様に話す。
「ただ水を出しただけですから。他の魔法士の方でも同じ事が……」
「おいおい、依頼中で森の中とくれば行使量を減らすもんだぞ? いつ魔物に出くわすか分からんし、普通は川から汲んで来る。水場の確認や確保は冒険者の嗜みだろう?」
ん? そうだっけ? 最近集団行動してないからなぁ。そもそも余り得意じゃないし? まあ言われてみれば確かになって思うけどね。
「すいません。何時もの癖で」
「責めてる訳じゃないさ。キミなら問題ない事くらい分かってる。何年か前にフェル爺……いや"魔狂い"が言ってたよ、ジルの
ほほう。変態エロジジイの癖に中々格好良い名前じゃん。寧ろ"万能"より好き。因みに、エロジジイの名前は"フェルミオ=ストレムグレ"なんだけど、響きが洒落てて腹が立つ。隙さえあればお尻とか胸を触って来る爺様なのに!
「くく……流石のジルもフェル爺は苦手か。まあ
つい苦い顔をしてしまったのがバレたみたい。でも否定はしませんから。しかし帰って来るのか……やっぱり王都には近寄らないようにしよう! ツェイスの件もあるし。
何人か近付いて来たので何となくマントを閉じる。ジアコルネリとかチラチラ胸とか見てるの分かるし、何よりピピがヤバい。あの忍者、視線や気配を消すの上手いんだよ。まあ自慢のオッパイだから仕方無いけどね。
「良いキノコあった」
ピピが持つ籠に沢山キノコが入ってるみたい。真っ赤、ピンク、エグい黄色、それに紫色……あのぉ、それって毒キノコじゃないっすか?
「お、赤笠茸じゃないか。良く見つけたな。それに芋茸にラッパも。今夜は豪勢だぞ」
……どうやら大丈夫らしい。こっちの世界の食材って美味いんだけど色合がヤバいんだよな。一人だと怖くて手が出ないヤツばっかりだもん。
「秘蔵の肉も出そう。キャッツバードの塩漬けだ」
キャッツバードだと⁉︎ 大好物です! ありがとうブルーム! い、いやブランコか? そっくりで分からない……
こうなると俺も何か出したいな。とっておきがポーチに……
「良ければスープを作りましょうか?」
ターニャちゃん特製のコンソメ! いやブイヨン? 製法も名前も良く知らないけど滅茶苦茶美味い。何と味噌もベースに加えたヤツで、お湯に溶かすと洋風味噌汁みたいになる。食材を選ばずに何でも最高のスープにしてくれるのだ! 味見させて貰った時は驚いたなぁ。
「ジルさんお手製のスープ……アートリスに帰ったら奴等に殺されるな、ハハ」
ジアコルネリが何やら言ってるが、まいっか。
「楽しみだ。しかし、余り見ない色だな。何処で売ってるヤツだ?」
ブランコ? ブルーム? 今更聞けないし困ったな。
「売り物じゃないんです。ターニャちゃ、えっとウチの子が作ってくれて」
お湯の沸いた鍋にポチャリと入れる。軽く混ぜたら続いて食材達。キノコ達は水魔法で洗って荒く裂けば良いだろう。それと野草類も彩りにっと。栄養もバッチリだな。あと氷も生成して入れる。煮立たせてしまうと塩辛くなってしまうからだ。塩漬け肉もあるから微調整しよう。
「おお、確かターニャだよな? 食材の目利きも料理の腕も最高だって市場の連中が言ってたぞ。最近じゃあ有名だからな」
何ですと⁉︎ 凄いし流石だけど、料理の腕前を何で知ってるんだ? ターニャちゃんお手製の御飯は俺専用なのに……
「ああ、新しい調理方法とか考え出したって聞いた事あるな。確か何品かは皆と共同開発したって話だ。まあジルに美味しい物を出して上げたいってのが理由だから可愛らしいもんだ」
「……え? 私に、ですか?」
「うん? 知らなかったのか? あの界隈じゃ知られた話だが……しまったな、本人が隠してるなら悪い事をした。きっと恥ずかしくて仕方無いんだろう。ジル、聞かなかった事にしてくれないか」
「それは大丈夫ですけど……」
どうしよう、凄く嬉しいんですが‼︎ うぅ、ターニャちゃんに早く会いたいよー。ギュッてして、チューして、一緒にお風呂入ろう?
「はは、魔剣も妹分には弱いんだな。そんな笑顔初めて見たよ。ほれ、ジアコルネリなんて真っ赤になってるじゃないか」
「マママウリツさん⁉︎ やめて下さいよ!」
ドッと笑いが起きて俺も楽しくなってしまう。うん、この辺はパーティの良いところだよね。
「ジルの心からの笑みなんて貴重だ。良く拝んでおけよ。それに失恋の痛みも消えてなくなるらしい。効能は保障付きだ」
冗談でも少し恥ずかしい。それと、ちょっと失恋話を聞いてみたい……まあ可哀想だから許してやろう。
「香りが立って来ましたね。もう少しだと思います」
「確かに美味そうな匂いだな……こりゃ堪らん」
だよね! ターニャちゃんお手製スープの素だけど今夜は特別だぞ? その辺から手折った枝で作ったヘラを使い、ゆっくり掻き混ぜると益々良い匂い。
「お水を出しますからカップを……冷たくしましょうか?」
「冷たい水? 確か汎用魔法で……何でもありだなぁ。パーティにジルが居たら
そう? まあ最近は戦闘用以外も鍛えてるからね。ほら、ターニャちゃんが喜ぶし。
「ジアコルネリさんもどうぞ」
「……あ、ありがとう」
あらら……超絶美人、ジルちゃんスマイルにヤラレたな? むっふっふ。
「少しは落ち着いたみたいだな。良かったよ」
「マウリツさん……ありがとうございます」
むぅ、色々気を遣わせたみたいだなぁ。大丈夫、もう元気ですよー。
「よし、頂こうか。待ち切れないからな」
「「よっしゃー‼︎」」
「ん」
ピピさんや、アンタのお椀だけ異常に大きくない? それとさっきから「ん」しか喋ってないよな? 何処か憎めないのが面白いけど、見た目通りの大食いなんだな。
「ピピ、それ、いつもよりデカイだろ。普段は少食の癖に」
違うのかよ!
「ど、どうぞ。皆さんのお陰で沢山ありますから」
「生涯に一片の悔いもなし」
喋った! しかもすっごい大袈裟だし。まあ良いけどさ。
最後に自分のを準備してっと。お椀は予備を貸してくれたのだ。スプーンは木を削って作ったよ? 魔力銀製のナイフなら簡単だからさ。
「「美味い!」」
うんうん、当然です。双子はそっくりな笑顔と声、そして全身で喜びを表してくれた。ジアコルネリはフーフーと息を吹きかけてるけど猫舌なんだろう。ピピは無言、マウリツさんの目元も緩んだまま黙々と食べてる。
おお……マジで美味い。スープは勿論だけど極彩色のキノコ達もイケる。あとキャッツバードの塩漬けはアクセントになってて飽きない。夜空の下、焚き火を囲んで食事なんて正に冒険者!って感じだなぁ。
「おかわり?」
ピピ、もう食べたん⁉︎ 一番量があるのに……何で疑問系なのかは聞かないぞ。
「はい、どうぞ」
これは負けてられないぞ。俺だってもっと食べたいんだからな!