綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、ひと安心する

 

 

 

 

 

 沈黙。

 

 それが今、アートリスに向かう俺達を包んでいた。

 

 休憩前まで煩かったブルームは無言、剣を握る手に力が入ってるジアコルネリ、マウリツさんは何かを考えるように顎をさすっている。ブランコだけは後方、つまり隠蔽魔法で隠れた俺の居るあたりをチラチラ見て来る。ピピは……うん、知らない。

 

 多分色々と考えてるんだろうなぁ。

 

 うーむ、パルメさんにはバレた訳だし今更かも。でもアートリスの皆も構えちゃうだろうから、今迄通りにはならない? あー、それってなんだか寂しいな。

 

 だけど確信には至らないだろうし、知らんぷりするのもありで……知らぬ存ぜぬを貫き通せばと考えたりもする。

 

 スカベンジャーの連中も何かを察しているのか静かなものだ。

 

「ブランコ、少し任せていいか?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 そんな事を考えていたらマウリツさんが歩く速度を落とした。まあ後ろに居る俺に合わせるためだよね。でもやっぱり、今更嘘は付きたくないなぁ……特にマウリツさんにはお世話になってるし。それにチラチラ見える表情からも確信してるっぽい。

 

 ブランコに確認すると足を止める。視界には入るけど声の届かない微妙な距離になった。うん、仕方無いね。隠蔽を薄くして、と。

 

「すいません……何だか混乱させて」

 

「……いや、誰も悪くない。その……あー、奴等が言っていたが」

 

「はい」

 

「その感じ、事実なんだな? いや、この話し方も失礼になる……」

 

 う、やめてくれぇ。

 

「マウリツさん、お願いです。お願いですから今迄通りに。今の私はアートリスのギルドに所属する冒険者で、貴方のよく知るジルですから……嘘をつく様な事になって御免なさい」

 

 少しだけ俯き、何かを考えている。そう見えた。

 

「そうか……バンバルボア帝国の……キミの過去は誰も知らなかったが、そう言う事だったんだな」

 

「確かに私の本当の名前はジルヴァーナ、です。でも、今の私だって……」

 

「不思議なものだが余り驚かないな。寧ろ納得感が強いよ。キミが俺達とは違う生まれだと知れても……誰もがそうじゃないか?」

 

 無理矢理な感じだけど笑顔を浮かべるマウリツさん。気を遣ってくれてるのが分かる。

 

「そうでしょうか?」

 

「ああ。気付いてなかったかもしれんが、食事やお茶を嗜む仕草が随分違ったからな。一時期はかなり話題に上った事もあるんだ。アートリスに来た頃は特に。だからよく話していたよ、他国の貴族の娘じゃないかって。まあ、まさか皇女殿下とは思わなかったが」

 

 え? そなの? 誰も聞いて来なかったよね?

 

「フフ、何て顔してるんだ。やっぱりジルはジルなんだな……安心した」

 

「うぅ、そんなに分かり易いですか?」

 

「ん? 表情のことか? 悪いがバレバレだ」

 

 ポーカーフェイスには自信があったんですが? ほら、ミステリアスな謎多き美人さんで高嶺の花的な……

 

「今、自信があったのにって考えただろう? もう一度言うが、バレバレだよ」

 

 えぇ⁉︎ 

 

「頬が紅いぞ。くくく……」

 

 何だか恥ずかしい! 話を逸らそう!

 

「え、えっと、とにかく今迄通りでお願い出来ますか?」

 

「つまり、身分を伏せて変わらずに過ごす。それでいいんだな? キミが望むなら皆にも言い聞かせる。それにスカベンジャー連中から姿を隠しておけば、後はどうとでもなるだろう。任せておけ」

 

「あ……ありがとうございます」

 

 やっぱりマウリツさん格好良いなぁ。渋いオジサマって感じがヤバいもん。もし執事服を着てたら最高に似合う。

 

「礼を言われる事じゃないさ。でも、ウチの娘はキミを夢の国の王女様だって信じてるから合わせてくれよ? 何だかややこしいが」

 

 クシャリと笑い、ポンと肩を叩かれる。娘さん、以前は抱き着いて放してくれなかったけど……凄く可愛いから大歓迎なんだけどね。

 

「はーい」

 

「最後に確認だが」

 

 分かってますよー。

 

「死神キーラ、ですよね?」

 

「そうだ」

 

「キーラは私が幼い頃から側に居てくれた子なんです。色々と世話をしてくれて、話し相手も」

 

 他にもあるけど……お風呂にオハヨーのチューに、あと可愛い服とか? 絶対に言いませんよ?

 

「文字通りのお世話係ってことか?」

 

「はい。ターニャちゃんみたいに小さな娘で、戦うどころか剣だって握った事も無いと思います。ですから殺し屋なんかじゃありません」

 

 ホッと力が抜けたマウリツさん。何だか御免ね?

 

「じゃあアイツらは何で彼処まで警戒してるんだ? 気配無くとか逃げられないとか」

 

 距離を置いて歩いているアイツら、つまりスカベンジャー連中はこちらに気付いてもいない。

 

「さ、さあ? 不思議ですね」

 

 ジルヴァーナ捜索隊として腕を磨いたなんて言えません! 被害者の会では帝国予算に少しダメージを入れたなんて秘密なのだ!

 

「……ジル?」

 

「わ、私は悪くないです、はい」

 

「……そうか」

 

 察した。渋目の表情はそう言っている。おかしい、何故バレるんだ?

 

「と、とにかく、街に混乱なんて起きません。キーラは私の家に居ますけど、大丈夫です」

 

 シャルカお母様の事なんて知らない、うん。

 

「良かったよ。他国から来た凄腕の殺し屋だったりすれば街は厳戒態勢になるだろうし、何よりギルドも国軍もピリピリするからな。知らなくても雰囲気は伝わるものだ。物騒なアートリスなんて誰も望まない」

 

「はい。帰った後も変わらず賑やかなアートリスのままですから」

 

 うんうん。ん? 何だか一瞬イヤな予感が……なんだろう、気の所為だよなきっと。

 

「よし、ジルはそのまま隠れて……いや、別行動にするか?」

 

「此処まで来たので一緒に帰ります。明日には着くでしょうし、何より彼らを最後まで見届けないと」

 

 大熊(ウルス)の子供は死んでしまったのだ。親は望みもしないのに変幻してしまった。事情は分かったけれど、だからと言って許せる訳じゃない。ギルド長にも報告しないとね。

 

「そうだな……その通りだ。よし、そのまま距離を取っておいてくれ。ブルーム達には俺から伝える。口外しないと約束しよう」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 ふぅ……何とかなったな。とにかくお母様やキーラには大人しくして貰おう。いつまでもツェツエにいる訳にいかないし、きっと大丈夫。多分、お願い、ね? さっきの予感も勘違いさ、うん。

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

「何だか人が多いな」

 

「ですね。アートリスの門は普段自由に出入り出来ますから、あんな人集りなんて珍しいですよ」

 

 ツェツエ王国の王都アーレ=ツェイベルン、まるでその大門の前の様に多くの人集りがある。まだ随分距離があるのによく見えた。ブランコの独り言にジアコルネリが返したけど、否定なんて無理だ。

 

 うわぁ……帰りたい。いや、家はアートリスだけど。

 

「何かあったか? 呪われた大熊(カースドウルス)討伐が完了したのも伝わってる筈だよな?」

 

「ピピさんが先行してますから多分……」

 

「だよなぁ。催し物も季節じゃないし……うーむ」

 

「ブランコ、魔素感知をしてみろ。門の前、ヤバいぞ」

 

「あん? ヤバいって……うお⁉︎ ブルーム、何だよアレは……凄い魔力だぞ!」

 

「そんなにですか?」

 

「ああ、魔力の密度が凄まじい。魔力量もズバ抜けてるのが分かる程だ。まあ魔物じゃないから安心だが」

 

 でしょうねぇ。しかし良く知ってる魔力だなぁ、ははは。

 

 よし。

 

 隠蔽魔法全開‼︎ お母様の水魔法にも負けない行使だぜ! 逃げ足なら誰にも負けないから! うぅ、我ながら虚しいです。だけど人に触れたら見つかるから気を付けないと。それに魔力強化との併用は難しいからそっとね。

 

 やっぱり何かを察したマウリツさんが近寄ってくる。

 

「ジル、居るんだろう? 誰なんだ?」

 

「……えっと、多分すぐに分かります」

 

「ふむ?」

 

「私は隠れて街に入るので、ギルドで合流させて下さい」

 

「む? まあ……頑張れ」

 

「……はい」

 

 とは言え様子だけは確認しよう。本当に何かあったなら大変だもん。ほら、気の所為かもしれないし?

 

「みんな、行くぞ」

 

 マウリツさんの号令で前へと歩き出した。縛られたままのスカベンジャー達は見せ物みたいだけど同情はしない。寧ろ顔を晒した方が良いくらいだ。因果応報ってやつだね。

 

 ズンズン近づくと予想通りの姿が目に入る。

 

 常識的に考えて護衛やお付きに囲まれてるのが当たり前だけど……そんな常識なんて知らんとばかりに立ち話をしてる、平気そうに。まあ王国最高クラスの戦闘力を誇る二人だからなぁ。護衛より強いなんて笑い話にしかならない。

 

 それでも何人か騎士の姿が見える。一人残らず有名な飾りを鎧につけてるから注目の的だね。盾を二枚重ねたような意匠は竜の鱗を示してるってさ。

 

「「おいおい、マジかよ……」」

 

 双子が綺麗にハモった。

 

「誰ですか? 一人はとんでもない美形ですけど」

 

 ジアコルネリは初めて見るらしい。まあ現代日本じゃあるまいし、テレビやネットなんて無いからね。幾ら凄い人でも顔まで知らないのが普通。だからこそ顔を覚えて貰えたら一種の名誉にもなる。だから、まあそれが普通だよ? あと超イケメンなのは認める。男のくせして美形って表現が合ってるし。

 

「バカ……あの方がこの国の王子殿下だよ。ツェイス殿下だ」

 

「えっ⁉︎ あ、あの人が⁉︎」

 

 波打つ金の髪は軽く流していて、紫紺の瞳が特に目立つ。あの色は王家独特だし、血統の現れだから。腹立たしいまでの整った体型、品のある立ち姿は遠くからでも分かった。て言うか足が長過ぎでしょうよ。イケメンか? 生まれながらのイケメンなのか⁉︎

 

「ああ。それでいて"風雷"の才能(タレント)を持ち、剣技や指揮能力も抜群だ。ツェツエの繁栄は約束されているって訳だな」

 

「うへぇ……見た目から凄いですけど、とんでもないですね。じゃあ隣の人は?」

 

「ジアコルネリにとってはある意味で目指すべき御仁だよ。まあ追い付けたらヤバいが……竜鱗騎士団の副長にして剣神、名をコーシクス=バステド。超級の剣聖サンデル=アルトロメーヴスと対等に斬り結ぶ事が出来る剣の申し子だな」

 

「マジっすか⁉︎ 凄ぇ……握手してくれますかね?」

 

「随分と気さくな人らしいし頼めば大丈夫じゃないか? 貴族出身でもないからな」

 

「ん、あれ? よく見たらもう一人いますね。随分ちっこいし、子供かな」

 

 げっ、アイツまで居るのか……ツェイスとかと違って気配を消すのが上手いから分からなかったよ。その技術を磨いた動機が最悪だけど。セクハラをする為でしかも相手は限定だし。エロガキめ!

 

「あれは勇者だな。確か名は、クロエリウス」

 

 はい、合ってます。

 

 マウリツさんは流石に知ってるみたい。まあ実力はまだまだだけど将来性は抜群だからね。鍛えたら相当な戦士になるのは間違いない。冒険者なら中級のトパーズを超えてコランダムにもギリギリ届くと思う。近い将来ダイヤモンド級だって可能かも。まあクロは蒼流騎士団所属だからあくまで比喩だけどさ。

 

「あの子供が? うーん、言われてみれば上品そうかも。それにツェイス殿下とは違う感じの美形ですよね。紅い瞳なんて珍しいな」

 

 上品? いま上品って言った?

 

 いやいやいや、アイツは超絶ど変態ですから! 騙されちゃダメだよ⁉︎

 

「まあアレだけの面子なら人集りも当たり前だろう。御挨拶をしたいところだが失礼になっても拙い。謎も解けたし、少し距離を取ってアートリスに入るか」

 

 全員が頷きゆっくりと進む。こっちを見て首肯したのはマウリツさんの気遣いかな。うん、流石です。

 

 俺は槍蒼の雨と離れて近くで観察しよう。何しに来たか確認しないと……くっ、近づくと益々気に喰わない。イケメンショタに超イケメンにイケメンオヤジ、やっぱりコイツらは男の敵だ!

 

「殿下、アレを」

 

「ああ、マウリツだな。つまり"槍蒼の雨"の皆か」

 

 ひぅ⁉︎

 

 シクスさん、鋭過ぎじゃない⁉︎ 明後日の方向を見てたじゃん! あんなに離れてるんだよ⁉︎

 

「クロエリウス、どうだ?」

 

「お師匠様が本気で隠蔽したら誰にも分かりませんよ。でも、何となく、()()()()

 

 ヒィ⁉︎ 

 

 おいクロ……鼻をクンクンするな。犬かお前は。

 

「お前がそう言うなら、居るか。どうするかな」

 

 ニヤリと笑う。や、やめよう? ね?

 

「今はやめておいた方が……全力で逃げられたら追い付けませんよ?」

 

「そうだな。無事を確認出来たし、良しとしよう。まあ幾らカースドウルスと云えどアイツが負ける訳ない。会えたら良かったが……急ぎの仕事もある。行くぞ」

 

 おっ、仕事か何かでアートリスに来たっぽい。良かった……お母様が手を回した訳じゃ無かったんだ。

 

「ですね」

 

 考えたら当たり前だ。

 

 ふぅ、一安心です!

 

 よし、ギルドの報告を済ましたら早くお家に帰ろう。ターニャちゃんと話がしたいし、顔が見たい。ギュッてしてお風呂に入るぞぉ!

 

 

 

 

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