綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、ドアを閉める

 

 

 

 

 

「あの……ありがとうございました」

 

 執事(バトラー)……違った、マウリツさんがこっちを見た。

 

「おいおい、そもそも助けられたのは俺達やこのアートリスだ。約束通りキミの事は伏せるし、スカベンジャー連中だって任せてくれたらいい。それともう一度確認するが、今迄と変わらず、だな?」

 

「はい、お願いします。今の私はジルですから」

 

「そうか……もし良ければ、また話を聞かせてくれ。勿論出来る範囲でいい」

 

 本当は色々聞きたいだろうけど、そのあたりは流石マウリツさんだ。まるで何も無かったかのように普通でいてくれる。

 

「そう、ですね」

 

「よし、ジルは待ってろ。奴等を知り合いの蒼流に引き渡してくる。そのあとギルドに一緒に行こう」

 

 頷くと、マウリツさんはポンと俺の肩を叩き去って行った。見送ってすぐ、後ろにある椅子にお尻を落とせば漸く力が抜ける。

 

「疲れた……ツェイス達に見つからなかったし、良かったけど」

 

 クロが何度も魔素感知をしやがるから、躱すのに神経を使ったのだ。アイツったら妙な技術ばっかり磨いて……魔素感知、気配隠蔽、痴漢、それと犬みたいに鼻が効く。おまけに教えた魔力強化の所為で逃走や追跡も巧い。うーむ、どう考えても勇者の能力じゃないだろ。はぁ、誰がクロを鍛えたんだよ全く……

 

「でも、どうしよう……」

 

 呪われた大熊(カースドウルス)の討伐諸々に費やした日数は三日。ちなみに、馬で飛ばせば同じ期間でアートリスに着く、王都から。まさか全部お母様の掌の上ってこと? よく考えたら仕事に行けって妙に急かされた気がする……いやいや、流石に気の所為だよな?

 

 でも、ツェイスの顔を見たら思い出してしまった、お母様との会話を。

 

「ツェイスと結婚?」

 

 駄目だ、想像も出来ない。友達としては大好きだけど、そんな……

 

「毎日毎夜、子作り……」

 

 いやいやいや! 無理無理無理だってば!

 

 前世で童貞、今世もしょ……うぅ、おかしいよね⁉︎ まだ何も経験してないのに、いきなり子作りとかさ! インジヒやシェルビディナンの二人の事は理解したけど、その対策が子供を沢山産みなさいって……

 

 月明かりだけの薄暗い部屋、多目に飲んだワインの香りと柔らかなベッドは現実感が薄い。恐る恐る上げた瞼の先には上半身裸のツェイス。どうしたら良いか分からなくて動かないでいると、羽織っていた服をスルスルと脱がされて……気付いたら下着や自慢のオッパイに逞しい腕と手が、手が……

 

「わぁー‼︎ 何を考えて……」

 

「ジル?」

 

「ひゃい⁉︎」

 

 頭を抱えていたら上の方から渋い声が降って来た。

 

「どうしたんだ? 珍しく大きな声だな」

 

「い、いえ! 何でもなくて……」

 

「ふむ? 頬が真っ赤だが」

 

 気の所為ですぅ!

 

「マ、マウリツさん、奴等は?」

 

「ん? ああ、もう終わったよ。余計な話はさせないから安心してくれ。それにブルーム達は後で説明する事にした。先ずはギルドへの報告が必要だろう?」

 

「あ、はい」

 

「よし行こう。ギルド長も首を長くして待ってる筈だ」

 

 頭を振って変な想像を追い出す。

 

「しかし、殿下は何の用でアートリスに来たんだろうな。視察って感じじゃないし、剣神まで連れてとなると……ウルスって単語が聞こえた気がしたからそっち関連か?」

 

「そ、そうですね、きっと」

 

 長い脚を動かしてマウリツさんは歩く。でも、その速度は自然に調整されてて、俺の歩幅に合わせくれてるのが分かった。女性としては高身長なジルだけど、流石にマウリツさんやツェイスには勝てないし。

 

 あの時の会話はやっぱり聞こえて無かったみたい。距離もあったし、何より王族の話に聞き耳を立てるなんて不敬になる。マウリツさん達は基本的に真面目で、この世界だったら当たり前だ。

 

「ジルが討伐済みだから安心だな。スカベンジャーの罪状が決まるのも早まるだろう」

 

「はい」

 

 まあツェイスが一言で終わらせるかな、たしかに。

 

「ウルスの親子には悪いがアートリスに被害が無くて良かったよ。この街にはジルの大切な妹も居るからな」

 

「え? そ、そうですね」

 

 大切って単語に反応してしまった。

 

「ははは、キミはあの娘の事になると超級冒険者から可愛らしい女性に早変わりだ。魔剣を唯一骨抜きにしたのがターニャお嬢様とは、不思議なものだよ」

 

 うぅ、恥ずかしい! だってターニャちゃんの超可愛い顔や慎ましい胸を思い出したんだもん。あと至高のお尻も!

 

 気を逸らすために顔を上げれば何人も手を振って来たり挨拶してくる。街中を歩く時、笑顔で返すと皆が嬉しそうにするのが楽しい。ちょうど今も三人組の女の子達がぴょんぴょん跳ねながらバイバイしてくれた。うん、可愛い。

 

「……信じられないな、こう見ると」

 

 ん? マウリツさん、苦笑い。何でしょう? すると、周りに聞こえないよう小声で伝えて来る。

 

「いや、キミはバンバルボア帝国の皇女殿下で、此処はツェツエ王国第二の都市アートリス。街中を護衛も連れず歩くなんて有り得ないだろう? なのに皆が幸せそうに手を振ったり声を掛けたり……何だか冗談みたいだよ」

 

「うーん、でも私は気にしてないですから。これからも……」

 

 これから。うん、きっと大丈夫。ターニャちゃんと買い物したり、デートしたり。街のみんなと会話してパルメさんやマリシュカと……

 

「おっと、済まない。余計な話だったな……」

 

「あ、いえ」

 

 悲しそうな表情に見えたのかな……知らなかったけど顔色に出やすいらしいから。

 

「あ、もうすぐ着きますね!」

 

 話題をチェンジ! 超絶美人のジルに暗い雰囲気は似合わないのだ‼︎

 

 見えて来たのは冒険者ギルドだ。たった三日なのに何だか懐かしい。重厚感のある大扉が視界に入ると、二階建ての建物も全体が見渡せた。あの中にはターニャちゃんとお茶した喫茶店もある。

 

「お、そうだな。ジルはリタ嬢と先に話すか?」

 

「いいですか?」

 

「構わんよ。先に行ってる」

 

「ありがとうございます」

 

 よし、リタの可愛い成分を吸収して元気を貰うのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 ソバカスと幼い笑顔、ちょっとお転婆な感じもあって可愛いのだ、リタは。マウリツさんはとっくに姿が無いし、余り待たせるのも良くないかもだけど。

 

「リタ、ただいま」

 

「……」

 

「リタ?」

 

 何やらボーってしてるな。どしたの? 視線を合わせると何やら呟いた。

 

「……可愛い」

 

「そ、そうかな?」

 

 どちらかと言えば美人じゃない? 昔は超絶美少女ジルちゃんだったけど。ムフフ、何となく照れ臭いなぁ。

 

「お持ち帰りしたい」

 

「……え?」

 

 オモチカエリ? 

 

 え、えぇ⁉︎ かかかか、構わないけど、いいの⁉︎ 経験無いし、リタをうまくリード出来るか分からないよ⁉︎ そ、そうだ! 念の為ターニャちゃんにバレないようにしないと……落ち着いて深呼吸!

 

「その……えっと、不束者ですがお手柔らかにお願いします。あ、でもお風呂に入ってからね。汚いかもしれないし」

 

 超絶美人ジルの身体を最高の状態にしますから!

 

「ハァ……あんな美少年、ギルド長からは聞いてたけど」

 

 ん?

 

「美少年?」

 

「勇者クロエリウス様……」

 

 あのぉ、変態エロ餓鬼痴漢ヤロウの名前が聞こえましたけど?

 

「ちょっと、リタ、リタってば」

 

「ん、んん? あ、あれジル? いたの?」

 

「……さっきから居ますけど?」

 

「あはは……ゴメンゴメン」

 

「どうしたの?」

 

 聞きたくねぇ……

 

「ジル、聞いてよ! ついさっき勇者クロエリウス様がギルドを訪れてね。紅い瞳なんて宝石みたいで……」

 

「ふーん。それで?」

 

「え? ギルド長に用事があったみたいだけど」

 

 変に期待しちゃったじゃないか! まあ勝手に盛り上がっただけですけど!

 

「リタ、カースドウルスの討伐が終わったよ。これからギルド長に報告に行こうと思って。来客中ならまたにする……」

 

「あ、うん、大丈夫だよ? 帰ったらすぐに上がれって言ってたから。それに怪我もないみたいだし……良かった。さすがジルだね!」

 

「……そっか」

 

 ま、待てよ……まさか……

 

「ね、ねえ。他に誰か来たかな? ほら、腹立つくらいにイケメンの人とか、渋い感じのオジサマとか」

 

「んんー? ふふ、誰よそれ。クロエリウス様だけだってば」

 

 良かった……それと、笑顔が可愛いです! しかし変態エロ餓鬼痴漢ヤロウだと教えてあげるべきだろうか。クロが。

 

 丁度いい。今のうちにクロを捕まよう。余計なことしないように釘を刺さねば!

 

「じゃあ上がるね?」

 

「はーい。ね?後でまた話そう? ほら、キーラだっけ? あの可愛いメイドちゃんの事もあるし」

 

「う、うん」

 

 忘れてた! どうしよう……

 

 トボトボと階段を上がってたら、フリフリ手を振るリタが見えて笑ってしまった。

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 アートリスのギルド長、ウラスロ=ハーベイは気持ちの良い爺様だ。ありがちなブラック上司じゃないし、働き者。口はちょっと悪いけど根は優しい。そして、何よりも俺がお気に入りなのは見た目! 真っ白で長い髭、小柄で突き出た腹、ツェツエ王国の戦士長時代に使ってた武器はお約束の斧! 本人は認めないけど絶対にドワーフだよ、間違いないのだ。

 

「絶対手先が器用で鍛冶とか得意に決まってる。ムフフ」

 

 金槌を握る姿を想像しながら階段を上がり、暫く進むとギルド長の部屋がある。

 

 マウリツさんが説明してくれてるだろうし、時間は取らない筈だ。ドワーフに軽く状況説明して帰ろう。

 

 お家に着いたらキーラにスカベンジャーの事も聞いて、念の為余り街中に出ないように注意しなくちゃ。あとお母様の動きに目を光らせる必要もある。あ、三日も経ったし御土産でも買おうかな……

 

 色々考えてたらもう扉の前だ。重要な話もあるし、話し声が漏れないよう頑丈で分厚いドア。ノックも強めにしないとダメなのが玉に瑕だよね。

 

 ちょっとだけ待つと用意された伝声管?からウラスロの声が漏れ出てきた。超絶美人の御到着ですよー?

 

『ああ、入っていいぞ』

 

 入室の許可を貰ったのでノブを回して扉を押し開けた。何気に重いのだ、このドアって。

 

 

 

「ガハハ! しかし相変わらずだな爺さんは」

「うるせぇぞ、コーシクス!」

「おいおい、お偉いギルド長様となれば少しは上品になれよ」

「けっ、竜鱗の副長様にそっくり返してやるよ」

「古い馴染みとは言え俺が居るのを忘れてないか? 二人とも」

「おっと、これは失礼しました、殿下」

「……はっ、す、すいませんツェイス王子殿下」

「くくく、冗談だよギルド長。幼い頃によく二人の掛け合いを見てたからな。懐かしい気持ちで一杯だ」

「いやはや、お恥ずかしい」

「なに格好つけてんだ爺さんよぉ」

「だからお前は黙ってろ」

 

 

 

 ……あれぇ?

 

 何か幻が見えるなぁ。それに幻聴が聞こえるし。

 

 ストレスかな、きっと。思い切り目を瞑って、ついでにゴシゴシ擦れば消えて無くなるはず。ゆっくりと瞼をあげたら、ほら大丈夫!

 

 うん。

 

 紫紺の瞳で俺を楽しそうに見てるツェイスがいて、

 

 ガハハって馬鹿笑いしてるシクスさん、

 

 何だか同情の色を浮かべるウラスロ=ドワーフ。

 

 三人が三人とも立ち竦む俺を見てる。

 

 

 

「間違えました」

 

 しっかりとドアを閉めて踵を返す。マウリツさんも居ないし、きっと間違えたんだ、うん。よし、帰ろ。

 

「駄目ですよ、お師匠様」

 

「うひゃ⁉︎」

 

 真後ろにちっこい男の子が立っていた。まあクロなんだけど、気配消すの益々上手になってないか? キーラと同じくらい……この世界のちびっ子って全員ヤバいだろ。

 

「さあ、入って下さい」

 

「ちょ、ちょっと押さないで!」

 

「抵抗するんですか? まあそれも良いですけど。じゃあ……」

 

「キャ、ど、どこ触ってるのよ!」

 

「お尻ですが?」

 

 堂々と宣言するな、おバカ!

 

「ほら、用事があるの、ね?」

 

「はいはい、くだらない言い訳するなら胸も触りますよ?」

 

「もう触ってるし!」

 

 ワチャワチャしてたら閉めたはずの扉が開いた。見れば呆れた顔のウラスロがいて、嫌味ったらしい溜息を吐くのだ。あのさぁ、溜息を溢したいのは俺だよね?

 

「何やってるんだ、全く。ツェイス王子殿下がお待ちだぞ」

 

「お師匠様、お先にどうぞ」

 

「え、ちょ、ま……」

 

 シクスさんがこっちを指差しながら馬鹿笑いしてるからすっごいイラッとする。ツェイスなんて肩肘付いてニヤニヤしてるし!

 

 仕事は? ねぇ、仕事は⁉︎ さっき言ってたじゃん! て言うか先回り早過ぎだよね⁉︎

 

「まあ座ってくれ。話をしよう」

 

 くっ、このイケメンめ……ニヤけた面まで格好良いじゃないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

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