綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
「どうした?」
嬉しそうに笑うツェイス。近くで見ると紫紺の瞳の色合いが良く分かった。やっぱり弱点が何もないのだろうか、生まれながらのイケメンには……
「お師匠様、力が入ってますね」
「クロ……貴方も原因なんだけど?」
反対側に顔を向ければイケメンショタが居る。こっちは紅い瞳。リタも言ってたけど宝石みたいなのは認める。
向かい側にはギルド長のウラスロと竜鱗騎士団副長のシクスさんが座ってる。それはともかくとして、ツェイスとクロに文句を言いたいのだ。
俺たちが腰を預けているのは高級そうなソファ。三人掛けなら小さくて、二人ならちょっと大きい、そんな感じなんだけど……
「近くないですか、二人とも」
右隣にはツェイスが居て、太腿とか擦れるほどに身体を寄せている。あと背凭れに腕を這わしてるから、ちょっと動かしたら当たりそうなんです、俺の背中。左側のクロなんて顔をこっちに向けて視線をガッチリ固定。勿論その先には俺の横顔。ん? もし魔素を動かしたらお仕置きするから。おい、匂いを嗅ぐな。
「気にするな。大体クロエリウスがあっちの椅子に座らないのが悪い」
「殿下こそ。高貴な御方なんですから、あちらにどうぞ」
ウラスロが用意したのか頑丈そうな椅子がポツンと置かれている。お誕生日席の位置にあるし、上座?的なやつかなぁ。
「……じゃあ私が」
「駄目だ」
「ダメです」
何でさ!
俺を真ん中に挟み、二人が曰う。目が笑ってないのが怖い。
クロは意外でもないけど……ツェイスはどうしたんだろう? ずっと前に求婚されたときはグイグイ来てた。でもツェツエの貴族連中が文句を付けてからは大人の対応に変わったのに。こんな風に気持ちを態度に出すなんて最近だと珍しい。
「
「う……」
耳元でツェイスが囁く。擽ったいからやめて! やっぱり、予想通りだけどバレてるし……
「ツェイス……」
「それでいい」
うぅ、思い出して来た……ツェイスって元々は俺様キャラだったんだ! 逃げようにも反対側には機嫌の悪そうなエロ餓鬼が居て無理だし……
「なあコーシクス、俺達は席を外すか?」
「爺さん、こんな面白いのに見物しないなんて有り得ないだろ」
シクスさん、後で覚えてろよ……あとウラスロドワーフ様! お願いだから居なくならないで!
「ギ、ギルド長、依頼の報告があるので二人で話しましょう」
とにかく脱出しなければ!
「ん? もうマウリツが済ましたぞ? 事前にピピから概要は聞いていたし、正規な手続きで終わらせたから安心していい。ご苦労だったな、ジル」
ははは、仕事が早いなぁ、二人とも。全然嬉しくないですが。
「……何で三人が此処に?」
「んなもん決まってるだろう。ジルで遊ぶ為だ、ガハハ」
「……仕事は? 大丈夫なんですか?」
「ん? 何故だ?」
「え? だって大門の所で……あっ」
今のナシ! ナシで!
「やっぱり隠れてたか。ああ言えば油断して此処に来ると踏んだが、予想通り過ぎて可愛いぞ、ジル。因みにだが、仕事は特に無いし、受付に見つからないよう此処に来た。確か仲の良い者がいるんだろ?」
リタが知らなかったのはその所為か! もしかしたらクロだけ顔を出したのも作戦かも。むむむ、完全にやられました! あとツェイスが可愛いとか言うとムズムズするからやめて欲しいです。しかし、ヤバいぞコレは……よし、一旦退却を……
「さて、ジルが逃げ出さない内に話をしよう。クロエリウスにも聞いて欲しいし、ギルド長にも確認しておきたい事があるからな」
クロは緊張の面持ち。え? 逃げたりしないよ? ほんとだよ?
「全く……変わらないな、ジルは」
「えっと……」
優しそうな笑顔だったけど、直ぐに切り替えて真面目な空気に変わる。それを感じたのかギルド長は勿論、シクスさんも表情が引き締まった。
「お前達には話すが、俺が許可しない限り外に漏らす事は許さん。分かったな?」
「無論です、殿下」
「は、はい」
「このウラスロ、全てに賭けて」
「では……このツェツエ王国より遥か彼方、バンバルボア帝国の宝珠、ジルヴァーナ皇女を改めて紹介しよう」
はぁ、仕方無いか。
背筋を伸ばしてっと。ソファは狭いままですが。
○
○
○
「……以上だ」
「なるほど……」
シクスさんはポリポリと頬を掻いて呟いた。数秒だけ沈黙すると、徐に片膝を着き頭を下げる。ウラスロの爺様も同時に。
「数々の無礼、ご容赦ください。ジルヴァーナ皇女殿下」
「同じく。このウラスロ=ハーベイ、如何様にも御意志のままに」
「……二人とも頭を上げてください。そして、謝るべきは此方でしょう。まだ子供だった私はこのツェツエ王国に辿り着き、アートリスの皆様には暖かく迎えて頂きました。生まれも、名前さえも欺いた私を、です。それに」
シクスさんもウラスロも顔を見せてくれた。口を挟まず、俺の言葉を待っている。
「今の私は、冒険者協会アートリス支部所属の冒険者、ジル。確かにバンバルボアは祖国ですが、同時にアートリスを深く愛しています。それでは駄目、でしょうか?」
「皇女殿下……」
「勿体無い御言葉」
ツェイスは黙ったまま見守っている。クロはソファに固まってしまって動いていない。珍しいな、あんなクロは。
「ツェイス……」
「ああ」
ねぇ? そろそろいいよね?
目で訴えたらクスリと笑うツェイス。悔しいけど似合ってて格好良い。悔しいけれど!
「よし、一応の礼は尽くした。二人とも、いいぞ」
「……しかし……こりゃ一本取られたな! 試合以外にも負けるとはさすが魔剣、いや皇女殿下だ。ガハハ!」
「だな。まあ只の町娘な訳が無いと思っていたが、帝国の皇女様とはなぁ……何回驚かせてくれんだよ、全く」
ちょっと⁉︎ あ、あれぇ?
「あ、あの……」
さっきまでのシリアス何処いったん? 頑張って皇女っぽくした俺の頑張りは? ねぇ!
「ん? どうした?」
「そう睨むなよ、な?」
「だって……さっきの何なんですか⁉︎ 凄い緊張したんですけど!」
膝まで床に下ろしてさぁ!
「此処にいる皆は一人残らず長い付き合いになる。悪気なんて無いのは知ってるし、今更皇女として扱って欲しいとも思っていない筈だ。アートリスに来てもう八年、何度も俺達を助けてくれた。まあ生い立ちやツェツエに居る理由が気にならないと言えば嘘になるが……でも、キミは"ジル"なんだろう?」
「それはそうだけど……それならあんな雰囲気やめようよ。凄く怖かったんだよ?」
「ああ、済まない。でも、大切な事だ。見ろ、クロエリウスは未だ受け入れる事が出来ていない。それが普通だ」
「う、まあ……分かった、けど」
「さて、続きを話そう。クロエリウス、お前にも大切な事だぞ? そのまま呆けておく気か?」
「……い、いえ、話を聞かせて下さい」
「全員コレに目を通してくれ。勿論ジルもだ」
○
○
○
何度見返しても腹が立つんですが!
手に持った紙を握り潰したくなる。いや、魔法で燃やし尽くしたい!
元の世界だとA4サイズくらいの高級紙にはカラフルな文字とポップ、あと可愛らしいイラストが踊っている。イラストはデフォルメされた女の子で……いや、間違いなく俺、つまりジルだけど。妙に上手いのが腹立たしい。
まず一行目の題からしておかしいのだ。
「集え強者たちよ。勝者には帝国宝珠を捧げよう」
因みに、実際にはビックリマークも多用され、頭が痛くなる感じです。色も沢山で目がチカチカする……
「大会概要。開催地はアートリス近郊(未定、変更の可能性あり)。詳しくは大会主催者までお問い合わせ下さい。開催日は面接合格者のみにお伝え致します? 雨天決行って何……遠足、遠足なの?」
これ、絶対に怒っていいやつだよね?
「参加資格①。一定の戦闘経験或いは準ずる
最後が怖い。
「参加資格②。景品(後述します)を幸せに出来る方。またそれを誓い実行出来ること。バンバルボア帝国の講義を終了され理解し、その上で景品に愛を注ぐ事を条件とします」
絶対遊んでるよね、コレ! 愛のところなんてデフォルメされた俺が誰かにチューしてるし! 嫌な予感がして顔を上げれば、クロが決意の表情で拳を握ってる。く、年齢制限は……制限は……無いです。
「け、景品について……」
分かってはいる、いるよ? でも万が一の可能性が……
「景品名、ジルヴァーナ=バンバルボア……バンバルボア帝国の皇女であり、超級冒険者。二つ名は"魔剣"。彼女を妻に迎える事が出来ま、す……?」
プルプルと両手が震えて止まらない。
「主催……バンバルボア帝国ジルヴァーナ捜索隊。代表者及び連絡先、シャルカ=バンバルボア(母)……ってお母様‼︎ 何やってるの⁉︎」
思わず大きな声を出したのも悪く無い筈だ。無茶苦茶だし、用意が早すぎてムカつく! お母様らしいなって思うのが尚更ね!
「と言う訳だ」
「ツェイス、あのね……此れは、えっと」
「流石ジルの母上だ。まだお会いしてないが、
「僕参加しますから! お師匠様は誰にも渡さない‼︎」
「ええ……?」
クロが勢いよく立ち上がり宣言した。身分差を気にして絶望してたのが、参加資格に無いから蘇ったみたい。
「安心していい。大抵の奴は参加すら出来ないさ。良く見てみろ。問い合わせ先は書かれていないし、どう連絡したらよいかも不明だろ? つまり、もう大会は始まっていて、辿り着くのも簡単じゃない。ジルと顔馴染みじゃないとどうしようも無い訳で、遊んでるようで考えられている」
そうだけど、そこじゃなくて……
「更に言えば合格基準も明確に示されてない。シャルカ皇妃陛下は全てを見ているのだろう。恐ろしい方だ」
恐ろしいのは合ってるけど!
「さて、コーシクス」
「はっ」
「アートリスに混乱が起きないよう取り計らえ。この案内は無差別に配布されていないから、問題は起きないと想定出来る。シャルカ皇妃陛下は聡い方だろう。だが、万が一もある。残る参加者に関しては思い当たるが……それは後で話す」
「委細承知致しました」
「ギルド長」
「殿下」
「もう理解してるだろうが、近郊で邪魔の入らない場所を幾つか見繕ってくれ。過分な破壊を行う気は無いが戦闘が行われる。それと悪いが……」
「お任せ下さい。余計な茶々が入らないようにしておきます」
「済まないな」
表向きギルドは王国から独立してるけど、目の前で行われているのは真逆だ。まあウラスロの爺様は元戦士長だから建前でしかないけど。
このメンバーを集めた理由も分かった。クロを除け者にしないのはツェイスらしい潔さかなぁ。
「ジル、遠い目をしないで現実に帰って来い」
「あ、はい」
「それでは行くか」
「……何処に?」
一応聞いておく。ほら、僅かな希望を持って、ね。
「キミの屋敷だ。決まっているだろう?」
「ですよね」
僅かな希望も打ち砕かれました!
うぅ、話の流れが急過ぎて頭が混乱するよぉ……お母様が関わると何時もこんな感じ。でもさっきのチラシは絶対に許せないけどね! 帰ったら文句を言おう。
「ジル」
「……なに?」
クロ達は先に部屋を出たから俺達だけだ。
「キミが……クロエリウスや俺を男として見ていないのは知っている。差し詰め友人や弟だろう? あの日、ツェツエの貴族連中が反対しなくても、ジルは逃げ出した筈だ」
「……それは」
知ってたのか……考えてみたら当たり前かぁ。ツェイスって頭も良いし。
「でも、俺はキミを心から愛している。初めて会った時から」
「う……」
少し上の方から真っ直ぐに見詰められて、身体が固まる。多分上目遣いになってる筈……ヤバい、恥ずかしい!
「ジルに認められる男に、そしてキミの母上に許して頂けるよう頑張るつもりだ。だから、見ていてくれないか、俺達を」
真剣な言葉。
「友達として大好きだよ、二人とも……でも、もし、それでも好きにならなかったら?」
意地悪な聞き方だけど、仕方が無い。だって俺の好きな人はターニャちゃんなんだから。皇族としての義務? 紅と黒の竜、アイツらの話を聞いて無かったら全速力で逃げ出してるはず……でも、やっぱり、魔力強化をしない自分が居る。
「もっと頑張るさ」
ポンと頭に手をのせられた。自然に。
おい……
そんな格好良いこと、前世でしてみたかったなぁ……