綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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ターニャ視点です


☆女の子、思い悩む

 

 

 

 

 

「シャルカさん、お姉様は指名の依頼を受けたみたいです。ギルドのリタさんから聞いて来ました」

 

「帰って来ないから心配で……ありがとう、ターニャさん」

 

「そんな……私も同じですから。呪われた大熊(カースドウルス)?の討伐だそうです。何だか強そうですね」

 

「……ウルス。しかもカースド」

 

「シャルカさん?」

 

「聞いた事ない?」

 

「あ、はい。ギルドや魔物関係は余り……お姉様も殆ど教えてくれません。多分関わらせたく無いと考えてる、そう思います」

 

「そう……まあジルヴァーナなら大丈夫よ。帰ったら話を聞きましょう。不安にさせてごめんなさいね」

 

 名前も何となくそうだし、きっと凄く強い魔物なんだろう。リタさんも隠し事してた感じだったから間違いない。僕が不安にならないようにしてくれてるのが分かる。

 

 でも、それが嬉しい訳じゃ無いんだ。

 

 自分は守られていると理解してる。過保護の筆頭はお姉様だけど、街のみんなや友達だってそうだ。何も出来ない子供だから当然なのかもしれないけれど……

 

 お姉様は、世界に五人しかいない超級冒険者"魔剣"。

 

 世界に冠たる大国、バンバルボア帝国の皇女。

 

 悲しいくらい優しくて、誰よりも強い。

 

 目の前に居るシャルカさんと同じくらい綺麗なのに、凄く可愛らしい。

 

 でも、いやだからこそ、対等ではいられない。だって……友人でも、冒険者仲間でも、そして愛し合う恋人でもない。今の僕は妹なんだから。そう、クロエリウスやツェイス王子殿下のように振る舞うことも出来やしない。

 

 おかしいよね、凄く幸せな女の子の筈なのに何で悲しい?

 

「あ……」

 

 僕をジッと見てる、シャルカさんが。最近何だか多い気がする。何となく視線を感じる時もあるし、魔素が不規則に蠢いてるのを知った日も。

 

「あの……何でしょうか?」

 

 何時もならニコリと何処か妖しい笑顔を浮かべるシャルカさんは、真剣な表情を崩さないまま言葉を紡ぐ。

 

「ターニャさん。ジルヴァーナもいないし貴女と話がしたいの。そうね……天気も良い朝だし、お庭にでもどうかしら? ()()()()()()()()()()()()()()、大切な事があるでしょう?」

 

 言葉を返す事も出来ずに、頷くしかなかった。

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 この屋敷も庭も本当に素晴らしい。

 

 お姉様と朝食を共にした場所を背に、屋敷を何となしに見てしまう。

 

 屋敷そのものは二階建てで、壁は真っ白。屋根は赤茶けた刻の流れを感じる洋瓦だ。庭を囲う様にL字型をしてるから全体が見渡せる。ううん、屋敷の窓からも庭園を楽しめる様に改築し直したんだろう。買い取って減築し、庭を整備したって聞いたし。

 

 お風呂も嘘みたいに綺麗だし、慣れて来た部屋も部屋と呼べない程に広い。クローゼットなんてそれひとつ有れば寝泊まり出来そう。各所に魔法を使った設備が整っていて、現代日本と変わらない便利さだ。お姉様は間違いなく日本からの転生者だから当たり前なのかも。

 

 でも……さっきも感じた想いが胸を圧迫してくる。

 

 どれだけ素晴らしい屋敷も、こんなに美しい庭園も、不便など感じない設備も。誰もが優しい街のみんなが居て、大切にしてくれる。

 

 なのに、今はただ怖いだけ。

 

 お姉様がツェツエの王妃になれば、この屋敷から、アートリスから離れてしまう。一人暮らしに見合う場所に引越して、自由に過ごせたとしても……もうお姉様は隣に居ない。

 

「幸せを祝うのが当然なのに……」

 

 怖い、凄く怖いんだ。

 

 こんな事ならもっと沢山一緒に居れば良かった。お姉様の希望通りにお風呂やベッドに。一杯抱き締めて、一杯キスをして。

 

「僕は、好き。あの人が」

 

 姉妹としてじゃない。ずっと傍にいたい。

 

 なんて馬鹿なんだ。もう全てが遅いのに。

 

 いや、そもそもお姉様は可愛い妹として愛してくれてるんだ。恋人なんかじゃ絶対にない。だからこんな気持ち早く消してしまおう。笑顔で送り出さないと心配させてしまう。

 

 ごちゃごちゃと考えていたら目の前には椅子があり、シャルカさんは向かい側に腰を下ろしていた。そう言えば、歩いている間に話し掛けられなかったな。不思議に思い観察してみたら、逆に僕が観察されているのが分かった。

 

 今度はニコリと笑う。その笑顔はお姉様と違うけれど凄く綺麗だ。親娘ってこんな感じなんだろうか。

 

「キーラ」

 

「はい」

 

「お茶をお願い」

 

「少々お待ち下さい」

 

 さっきまで居なかった筈のキーラさんは、無表情のままに手を動かし始めた。手伝いたいけど、そんな雰囲気じゃない。

 

「ターニャさん、どうしたの? 座って?」

 

「は、はい」

 

「あら、緊張してる? 御免なさいね、()()()()かしら」

 

「……いえ、大丈夫です」

 

 "怖い"の意味は違うのにドキリとする。僕を見詰めるマリンブルーの瞳、綺麗なのに呑み込まれそう。

 

「そう? それじゃ、ちょっと話を聞いて欲しいの」

 

「勿論です」

 

 話す内容なんて分かりきってるけど……避けようの無い現実だ。

 

「ジルヴァーナとのこれから、貴女とあの娘の事を考えないとね」

 

 キーラさんが淹れたお茶がコトリと置かれた。それとお姉様特製のクッキー。甘くてホロホロと溶けて行くから最初は吃驚したっけ。

 

「シャルカ様。この菓子はお姫さま(おひーさま)が焼かれたそうです。私も少しだけ頂きましたが、本当に美味しくて驚きます」

 

「あらあら、そうなの? あの娘も少しは成長したのかしらね。身体ばっかり立派になって心はそのままだったから」

 

 片手を添えて上品に口へ運ぶ。

 

「まあ……! キーラの言う通り、本当に美味しいわ」

 

「はい。それでは失礼致します」

 

 キーラさんは同席せず立ち去った。

 

「さて、最初に状況を整理しましょうか。私がジルヴァーナに求めているのはバンバルボア帝国の皇族、その皇女としての義務ね。話した通り、水色の瞳は始原の竜に連なる者。()()()()()()と子を成し、広く受け継ぐ。其れさえ果たすならば今迄通りに自由で居て欲しい、私はそう考えてるの。皇帝陛下には私から話すし、ある程度の御許可も頂いてる」

 

「……そうですか」

 

 少し困惑した。今更だし、そもそも僕に改めて話す内容とは思えない。いや、身の振り方や今後の距離間をどうするかって話かも。つまり、余計な事をするなって……

 

「でも、人の気持ちは別ね。皇妃として失格なのかもしれないけれど、ジルヴァーナが心から愛する人と人生を歩んで欲しい。そう思う私も居る」

 

「シャルカさんはお母様ですから当然だと思います」

 

「そう? そんな事を言ってくれる人なんて初めてよ? やっぱりターニャさんって凄いわ」

 

「は、はあ」

 

 母なんだから当たり前……いや、皇族としては珍しい考えなのかも。世界が違えば常識だって変わるだろう。

 

「それで、教えて欲しいのだけど、ジルヴァーナに好きな人って居るのかしら? 八年も離れて過ごすと分からない事だらけで」

 

「えっと、正直なところ分かりません。多分ツェイス殿下を想われてると……」

 

「ターニャさんでも? 分からない?」

 

「はい。お姉様って以前から自分の事を話してくれなかったので……過去も、気持ちも……すいません」

 

 バンバルボアも、皇女としての立場も、昔の話だって。僕は子供だし、考えなくても分かる。あの人は思うよりずっと大人だった。

 

()()()()

 

「……え?」

 

「本当に何も話さなかった? それとも気付かなかったのかしら。ううん、見ないようにしてるのかも」

 

「シャルカさん、何を仰ってるのか……」

 

 謎掛けみたい。誰の気持ち? 誰の話?

 

「質問は変えてないわよ? ジルヴァーナは誰が好きなのか、そう聞いてるの」

 

 ジワジワと行き止まりに追い込まれる感じがする。お姉様が言ってたな、シャルカさんは怖い人だよって。でも、やっぱり分からない。

 

「ご、御免なさい。分かりません」

 

「そう」

 

 シャルカさんは何かの興味が薄れたのか、お茶を手に視線を逸らす。そして、もう一度僕を見た。

 

「ターニャさんはどうする? 将来のこと」

 

「まだ考えていません。仕事を見つけて、住まいを用意して……王都には知り合いの貴族様がいますので、甘える事になるかもと」

 

「ジルヴァーナに付いていかないのかしら?」

 

 被せるように質問が来た。本当に何が聞きたいのか分からない。

 

「私には身分を保証する事も、高貴な方と共に歩く知識や経験もありません。お姉様は優しいですから私に合わせてくれていたと思います。つい最近も、其の所為で迷惑を掛けてしまいました」

 

 公爵の息子、ミケルに嵌められてお姉様がピンチになってしまった。王都で起きたあの事件は僕が居なければ起きなかっただろう。そう、身分不詳の女の子を保護したばっかりに。そもそも異世界から飛んできた僕に身元なんてある訳ない。

 

「まず、経験や知識は身に付けていくものよ。ターニャさんは未だ若いし、何もおかしい事はないと思うわね。それと、身分に関してはバンバルボア帝国が後見しても良いと言ったら?」

 

 もしそうなら……凄く嬉しい。なのに何故か胸が詰まる。

 

「不思議です」

 

「あら、何が?」

 

「何故そこまで? 全部ご存知の筈です。私には過去の記憶もありません。ターニャという名前すらお姉様に付けて貰いました。誰とも知らぬ人間を皇女殿下の傍に置くなど、本来なら許されないと思います」

 

「貴女、凄く頭が良いわねぇ。ジルヴァーナに見習って欲しいくらい」

 

「お世辞は」

 

「お世辞じゃない。前も言ったはずよ。私はこんな事で言葉を紡ぎたく無いの」

 

 掌が汗で濡れてる。それに少しだけ震えも……何でだろう。

 

「私こそ不思議ね」

 

「何がですか?」

 

「どうしてジルヴァーナから距離を取ろうとしてるのか、不思議」

 

「べ、別にそう訳じゃ」

 

「皇妃であり、母である私が良いと言ってるのよ? ジルヴァーナを見ていればターニャさんがどれほどに尽くしてくれたか分かる。集めた情報でも明らかだし、話している今も変わらずそう思うわ」

 

「尽くしたなんて。私こそどれだけ助けて貰ったか……お姉様はいつも気に掛けてくれて」

 

 あれ? 何でお姉様と一緒に居るのが辛いと思ってるんだろう。シャルカさんの言う通り、遠ざけようとしてる?

 

「ターニャさん」

 

「あ、はい」

 

 シャルカさんは立ち上がり、僕の横に座り直した。握られた手は凄く暖かくて、緊張が少し解れた気がする。

 

「はっきり言うわ。貴女が離れたら、ジルヴァーナは泣いてしまうでしょう。それどころか皇女としての義務も捨てて八年前のように逃げ出すに決まってる。ツェイス殿下のことを心から愛しているなら別かもしれないけど、そう確信が持てないみたいだし」

 

 そんなこと……

 

「有り得ないと思う? 色々と考えてしまっても、大切な事を切り捨てないで欲しいの。でも、ジルヴァーナの気持ちを否定するなら、これ以上言わない」

 

「……いえ。少し前に大好きだって言ってくれました」

 

「ね? お願い、ずっと傍で支えて?」

 

「いいんでしょうか、私で」

 

「貴女じゃないと駄目」

 

 耐えられるのか? 想像してみたら良い、お姉様が別の男にって。それを毎日見続けて……

 

 ああ、やっと分かった。身分だとか、過去だとか、沢山理由をつけて来たけど、結局はただのヤキモチなんだ。大好きなお姉様が別の男に笑顔を送り、別の誰かにプルプルさせられる。小さな、子供の、僕の、気持ち。

 

 何で女の子なんかに?

 

 あの森で出会ったとき、元の通りの身体だったなら……分かってる、もしそうだったら、僕は此処に居ないって。

 

 答えなんて最初から一つしかなかったんだ。

 

「分かりました。是非お姉様の傍で仕えさせて下さい。キーラさんの様に頑張ります」

 

「ありがとう。でも……」

 

「でも?」

 

「貴女はキーラじゃない。さっき言ったでしょ? 大切なことは何なのか、切り捨てちゃ駄目。私はいつも思うの。心に在る想いは言葉にして初めて伝わるものだって」

 

「え?」

 

「ふふふ」

 

 分かるわけない、ないよね?

 

 僕がお姉様の事を好きだなんて。姉妹としてじゃなく、恋心を抱いてるなんて。

 

 盗み見たシャルカさんの瞳は……海の様に深く、そして青かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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