綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、歌う

 

 

 

 

 冒険者総合管理組合アートリス支部、つまりアートリスの冒険者ギルドから出て周りを見渡した。

 

 街中には見慣れた景色と石畳。偶に通り過ぎる貨物馬車は凄くゆっくりで和む。お馬さんのパカパカって蹄の音、好きなんだよなぁ。特に石畳だと音が軽やかな気がするんだ。

 

 ツェツエ王国の王子ツェイス、竜鱗騎士団の副長であるコーシクスさん、あと見た目だけは可愛らしい勇者クロエリウス、この三人が一緒だ。護衛だった筈の竜鱗の騎士達は同行していない。

 

 俺はそんな野郎達に囲まれるようになっていて、何だか居心地が悪いかもしれない。行き先は我が家なのに、その目的が気に喰わないのだ! 逃げようかなって思うけど、色々な事情で難しい。もう考えるのも面倒で、さっきから気になってるコトを頑張って思い出し中。今の俺を的確に表した歌があったんだけどなぁ。現実逃避なのは分かってるけど。

 

 むぅー

 

 引っ掛かってるのに、さっきから思い出せないのだ。

 

 ドリドリドリ……いや、違うな。

 

 何だっけ?

 

 プニュプニュ……いやいや、それはターニャちゃんのホッペ。んー、確か、ドから始まる言葉で……

 

「ジルの隠蔽魔法は凄まじいな……街中をこれだけ無関心な状態で歩けるなど」

 

「ですな。正直広めたくない技術と……悪意ある者が知れば何をするか分かりません」

 

「殿下、コーシクスさん、その点は安心して下さい。この水準で扱うにはそれこそ魔力強化をお師匠様並みに行使出来なければ不可能ですよ。僕も全容は掴めませんが、ある種強化と対極の位置にある技術で……同時行使はお師匠様ですら無理だそうです」

 

「ほう。魔剣、つまり"万能"の才能(タレント)を持つジルも同時には扱えない魔法か。なるほど、それなら安心だ。そうだろう、コーシクス」

 

「ひと安心です。しかしそうなると……」

 

「なんだ?」

 

「今のジルには悪戯し放題ってコトです、殿下。おまけに隠蔽を解くわけにもいきませんから、反抗もまともに出来ませんよ。な? クロエリウス」

 

 ド、ド、ドサ、ドム……違うんだよなぁ。ん? え? シクスさん何か言った? 聞いてなかったぞ。

 

「……確かに。さすが竜鱗の副長と言っておきましょうか」

 

 何やらクロがキモい動きをしてるんですが? 具体的に言うと両手指をモニョモニョと動か、いや蠢いてる。おい、一体何の話なんだ⁉︎

 

「やめておけ、後で痛い目を見るぞ? それとコーシクス。バンバルボア帝国の皇女だと忘れてないか?」

 

「む……確かにそうでしたな! ガハハ!」

 

 むぅ、さっぱり分かんない。まあ碌な話じゃないな、うん。ツェイスも苦笑してるし、シクスさんがガハハ笑いする時は特に。

 

「しかしアートリスのギルド長とお知り合いとは、全然知りませんでしたよ」

 

 あー、確かに。随分と仲良しだったなぁ。モニョモニョをやめたクロの質問だけど、俺も少し気になる。

 

「ウラスロの爺様は戦士団に居たからな。戦士団は今でこそ蒼流騎士団に吸収されたが、侮れない曲者ばかりだったぜ? 爺様とは何度か仕事したし、若い頃は色々と教わるコトもあったくらいだ。殿下も一緒に馬鹿な遊びもしたもんだし」

 

「へー。馬鹿な遊びって?」

 

「ん、そりゃ……」

 

「コーシクス、黙れ」

 

「おっと。クロエリウス、ヤバいからやめておこう」

 

「は、はい」

 

 ツェイスが静かに怒ってるの怖いよ⁉︎ でも、馬鹿な遊び、気になる……

 

「で、まだなのか?」

 

「随分歩きましたなぁ」

 

 ギルドからは離れてるからね。そもそも早く着きたい訳じゃないし、気持ち遠回りしてるのだ!

 

「僕もお師匠様の家を知らないんですよね。楽しみです」

 

 お前が一番危険なんだよ! イケメンショタのくせして痴漢なストーカーだからな! マジで気が進まないんですが……しかもお母様がいるもん。

 

「ジル、静かだな。そんなに難しいのか、隠蔽は」

 

 まーね。レベルによるけど複数人を纏めてだと尚更だよ。喋ったり刺激を受けたなら一瞬で解除されるし。それと、例えばターニャちゃんなら簡単に看破するだろう。それどころか強制的に行使を消されちゃう。

 

「アートリスの人達、僕等が歩いてるのは理解してるのに不思議ですね。どういう仕組みなんだろ? 出来れば覚えたいな。お師匠様の着替えとか覗けるし」

 

 最後! 最後のところ小声でも聞こえたからな‼︎ くっ、ブン殴りたいけど無理……クロのやつ、分かってやってるな? なんでこんな変態に育ったんだよ、ホント。

 

「だな。アーレと違って雑然としてるが、問題なく歩ける。護衛も付けてないが、気にもならん」

 

 まあシクスさんが横にいるだけで、護衛が沢山と変わらないけどね。ツェツエの剣神は伊達じゃない。クロは勇者だし、そもそもツェイスだって滅茶苦茶強いからなぁ。

 

「コーシクス、魔剣が居るだろう?」

 

「確かに! ガハハ‼︎」

 

 こ、こら、あまりデカい声で笑うなよ! 隠蔽だって完璧じゃないんだからな⁉︎

 

「あ。あのドーナツ美味しそう」

 

 クロも自由だな、おい。

 

 しかしドーナツか……確かに美味そう。あんなの売ってたのか。今度ターニャちゃんと買いに来よう。種類も色々あるみたいだし、ドーナツ。

 

 ん? ドーナツ、ドーナ、ドナ……あ‼︎

 

「ドナドナドナドーナァ♪」

 

 これだ‼︎ 牛買いに連れてかれる仔牛……今の俺にそっくりだよ、うん。

 

「……ジル、いきなり歌うなよ」

 

「あ、ごめん」

 

「お師匠様、ヤバいのでは?」

 

「え? 何が……あ、あー‼︎ みんな! 走って‼︎」

 

 ヤバい、隠蔽が解けちゃったよ⁉︎

 

「マジかよ‼︎」

「コーシクスさん、いいから早く!」

「全く、やっぱり面白い奴だジルは」

「ツェイス、黙って走りなさい!」

 

 ご、ごめんなさーい‼︎

 

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 

 ふぅ、無事到着っと。

 

「無事じゃないからな?」

 

「ツェイス、心を読むのやめてくれる?」

 

「読んでない、顔に書いてあるんだ」

 

 うっさいよ!

 

「まあ多分バレてないですよ。お師匠様、良かったですね」

 

「そもそも最初から良くないからね?」

 

 はぁ、とにかく入ろう。お母様にも紹介して……いやいや、あの巫山戯たチラシの事を問い詰めないと! 何であんなイベントみたいになってるんだよ。大体さ、人が景品なんておかしくない? 幾ら俺が超絶美人のジルだとしても人権侵害だ! うぅ、この世界に人権侵害なんて言葉はないけれど。

 

「じゃあ、付いて来て……ん?」

 

 目の前にある門が勝手に開いたぞ? 魔素も操作してないのに……両開きになったことで、敷地内や庭園が目に入る。そして真正面には小柄で可愛い女の子。無表情で青っぽいメイド服。おかっぱ頭の金髪が綺麗だね、うん。

 

「ジルヴァーナ皇女殿下、おかえりなさいませ」

 

 スッと軽くお辞儀をしてあと気持ちだけ横にずれる。そのままの真っ直ぐな姿勢で話を続けるから口出しも出来ません。て言うか準備万端過ぎませんかぁ?

 

「ツェイス王子殿下。お待ちしておりました。コーシクス様、クロエリウス様、皆様を此処にお迎え出来る事、大変光栄で御座います」

 

「此方こそ、突然の訪問失礼する。その様子だと予め理解頂いていたのかな? キミは……」

 

「ジルヴァーナ皇女殿下の御世話を仰せ付かっております、キーラ=スヴェトラと申します。御来訪に関してはバンバルボア帝国第四皇妃シャルカ様よりお聞き下さいませ」

 

「分かった。ありがとう」

 

「とんでも御座いません。では、此方へ」

 

「あのぉ、キーラ?」

 

お姫さま(おひーさま)は湯浴みとお召し替えを。全て用意しております。シャルカ様より御指示がありますので」

 

「あ、はい」

 

 三人の野郎共はキーラに続く、素直に。俺はポツンって感じ。うん、このまま逃げちゃう? いやいや! 一回ガツンと言わなくては。こ、怖いけど……

 

「お姉様」

 

「あ! 大丈夫? お母様に怖い事言われたりしなかった?」

 

 おー‼︎ 至高のTS美少女ターニャちゃんだ! 少しだけ伸びたショート髪や濃紺の瞳が何だか懐かしい。たった三日なのに不思議。

 

 か、可愛い……何だか可愛さに磨きが掛かっていませんか⁉︎ 憂いを含んだ視線、色気みたいなものを感じる。感じるのだ!

 

「あれ? その格好……」

 

 クラシックな白のブラウスと、ギンガムチェックのキャミワンピはベージュ。袖やワンピの裾はギャザーで可愛いらしくまとまってる。サンダルも淡い白だから全体が柔らかな印象だね。うん、よく見ればパルメさんの店で見た気がする。んー、ターニャちゃんって女の子色の強い服はあまり着ないのに。基本的にガーリーよりボーイッシュかユニセックスだもん。ましてや家の中だし。

 

 こんな装いを何度かお願いしたけど、着て貰うタイミング中々無かったのだ。

 

「お姉様、お帰りなさい。先ずシャルカさんは優しいです。それと、この格好の方が都合が良いので、あまり気にしないで下さい。では此方へ」

 

「ターニャちゃん?」

 

 何だか変だぞ。目も合わせてくれないし。

 

「湯浴みですね、先ずは。行きましょ……」

 

「待って」

 

「何でしょう?」

 

「もしかしてお母様に無理矢理させられてるの? ターニャちゃんは私やバンバルボアが雇った使用人でも無いし、キーラとは違うんだよ? その服だって」

 

「この服は自分で選んだんです。無理矢理なんて無いですから。シャルカさんだって……いえ、それより似合いませんか?」

 

「そんな事ない、可愛いけど」

 

「良かった」

 

 笑顔はやっぱり最高。なのに何で不安になるんだろう。

 

「ね、ターニャちゃんと話がしたい。色々と伝えたいことがあるの」

 

「分かってます。将来のことですよね?」

 

「う、うん」

 

 あれぇ? ターニャちゃんが好きとか、告白とか、全部分かるの? やっぱり二人で逃げよっか?

 

「私も話したい事があります。後でお部屋に行きますね」

 

「は、はい!」

 

 お、お部屋⁉︎ 身体だけじゃなくそっちも綺麗にしないと! いやいや、何を考えてるんだ⁉︎ 落ち着け、俺。

 

「でも今はお客様です。さあ、湯浴みに行きましょう」

 

「はーい」

 

 まあギルドの仕事でお風呂に入ってないし、元々入るつもりでした!

 

 随分昔に何かで読んだ気がする。お風呂? 御飯? それともワタシ?的な! 勿論ターニャちゃんでお願いします! 脳内で遊びながら至高のTS美少女の、至高のお尻を眺める。うん、可愛い。

 

 やっぱり間違いない。ツェイスやクロは友達として好きだけど、ターニャちゃんみたいにドキドキしないのだ。今もお尻から目が離せないし、ユラユラ揺れる後髪だって。因みにツェイス達の尻なんて見学する気もありませんから!

 

 はぁ、バンバルボアの事どうしようかなぁ。

 

 ターニャちゃんと出会う前は全力で逃げれは良いなんて気軽に考えてたけど。真面目な話、ターニャちゃんには無関係で巻き込むのもおかしいよね。この世界で強い力を持つ帝国相手に逃避行なんて……うーん、答えが出ないよぉ。やっぱり告白なんて無謀かなぁ。

 

「着替えは中に用意してます。今着てる物は洗濯籠に入れておいて下さい。流石に装備品は無理ですけど」

 

「うん、ありがとう」

 

 剣は魔力で覆うから血糊なんて付かない。まあ気分的に良くないから整備するけど。とにかく危ないし、ターニャちゃんに任せたりしないのだ。ナイフとか武器類は絶対ダメ!

 

「あの」

 

「ん? なあに?」

 

 剣帯を外しながらターニャちゃんを見る。お、ようやく目が合ったぞ。

 

「カースドウルスって凄く強い魔物なんですよね? 怪我とか、大丈夫でしたか?」

 

「……えと、うん、大丈夫だよ」

 

「回復魔法があるのは知ってますけど、お姉様って何かあっても内緒にしてそうですから」

 

 チラチラと魔力銀の服を眺めてるのは本当に気にしてくれてるのかな。ふ、最近言わないから忘れてしまったかい? 仕方無いなぁ。では教えてあげましょう! この俺、超絶美人なジルは……

 

「分かってます。超級の魔剣、そしてバンバルボア帝国にその人ありと謳われた()()()()()()()()殿()()だって。でも、気になって」

 

 やっぱり心を読んでませんか?

 

「心配させてごめんね? でも本当に大丈夫だから!」

 

 そうですか。

 

 笑いながらそう言うと、ターニャちゃんは折角だし背中を流しましょうかなんて話すのだ。思わず吃っていると冗談ですよって去って行った。

 

 何だかやっぱりいつもと違う気がする……気の所為だよね?

 

 

 

 

 

 

 

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