綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
「もう無理……私の生命力が消えて行く……」
嬉々として喋っていた隣の御方が怪訝な顔をする。
「まだこれからなのに。ジルヴァーナ大脱走からの捜索隊を組織した辺りなんて話したい事がたくさん……」
「お母様、お願いだからもう静かにして」
恥ずかしい黒歴史を母親から語られるなんて最悪の時間だよ、うぅ。
「じゃあ専任侍女選抜の時、貴女が胸や下着を」
「わぁー‼︎ もう夕方だし、休憩しよっか! ね?」
「そうだな……どう思う、クロエリウス」
「少しお師匠様が可哀想になってきました。流石の皇妃陛下、恐ろしい方ですね。ではまた別の場所で……じょ、冗談ですよお師匠様。マジギレはやめましょう」
睨み付けたのに気付いたのか、クロの顔色が変わる。飄々としたままのツェイスには効いてないのが悔しい。シクスさんだけは気を利かせて席を外しているのがせめてもの救いだよ、うん。ガハハ笑いの煩いおっさんだけど、三人娘を育てる父親だけあって常識はあったらしい。
「まだ語り足りないけれど、仕方ありませんね。御二方の参加に関しては問題ありませんし、お暇しましょうか。最後にお茶を楽しんで下さい」
「此処、私の家……」
「何か言いましたか? ジルヴァーナ」
「い、いえ!」
家主って俺だよな? 何だか肩身が狭いんですが。
「シャルカ様」
「うひぃ⁉︎」
いきなら背後に現れないでくれぇ……やっぱりキーラってキャラ変わってない? あんなに可愛くて純粋な子だったのに。気配遮断なんてホントヤバい……いや、まあ俺の所為かもだけど。
「何かしら?」
「先程、魔素通信が。明日到着との事です」
「あらあら。もっと遅い筈だったけど、流石ね」
「はい。如何しますか?」
なに? 明日って。
「まあ周囲に発覚する様な愚を犯す人では無いし、そのままお迎えしましょう。時は有限、直ぐに始めるのも有りね。それと例のお方にもお伝えしてくれる? 下話はしてるから大丈夫」
「分かりました」
また気配が薄くなり、キーラは部屋から出ていった。
「あのぉ、お母様、一体……」
「明日を楽しみにしてなさい。それとツェイス殿下、クロエリウスさん」
「いつでも」
「僕も!」
「ふふ、心強い返答ですね。では明日、今日はお開きです。お泊まり頂きたく思いますが……」
「いえ、婚約前の女性宅にお邪魔する訳にもいきません。おい、クロエリウス、帰るぞ」
「は、はい!」
「ジルヴァーナ、お見送りを」
「別にそんなの……あ、はい、行ってきます」
笑顔なのに目が笑ってないの、怖すぎる……
○ ○ ○
「ぐへぇ……疲れたぁ」
ポイッと身体を投げ出し、ベッドに転がる。長い髪の所為で首筋とか擽ったいけど、今は無視。
「何が何だか分からない内に進んでる……それに残る参加予定者って誰なんだろ」
ツェイスやクロ以外なんて、他の超級とか? いやでもアイツらって変わり者だからそんな俗世的な事に興味ないよな? やっぱりバンバルボアから誰か来るんだろうか? 八年も離れてるからよく分からない。
「いやいやいや! 何を認めちゃってるんだ俺は! 大体結婚する気なんて無いのに……」
完全にお母様のペースに嵌まってるぞ。何とか流れを変えないとヤバい。うぅ、癒しが、癒しが欲しいのです。
「ターニャちゃん……」
可愛い小柄な姿。プニプニのほっぺ。サラサラなショート髪。クールなのに実は優しくて、笑顔なんて何回でも見たい。
「ああ……! ターニャちゃん!ターニャちゃん‼︎」
ゴロゴロと広いベッドを左右に転がり、枕に顔を押し付ける。だってツェルセンのお風呂に二人だけで入ったのを思い出したのだ。恥ずかしいけど、忘れたくない。
「……ん?」
何か聞こえたような?
「……お姉様、いますか?」
再び響くノックの音、か細く聞こえた声。ビョンと飛び起き、一瞬で部屋の扉へ到達! 同時に動かした魔素によって鍵は簡単に解除された。
「い、いるよー! どうぞ!」
開いた先には予想通り、至高のTS美少女ターニャちゃん! まさか俺の願いが届いたのだろうか。
「今、良いですか?」
上目遣い、たまりません。
「もっちろん! さ、入って入って」
うん、思い出したぞ。後で話そうって約束したんだ。
おお……やっぱりこれって告白のチャンスでは? 最近なかなか時間が合わなかったし、お母様とかが居て難しかったのだ。しかも今回はターニャちゃんからも話があるって言ってたし。逆告白だったりして! 「お姉様大好きです! 付き合って下さい!」なんて……いや、分かってますけど現実は。夢くらい見ても良いよね、うん。
「入る前、私の名前が聞こえた様な……」
「そそそそれは気の所為だよ、う、うん」
ヤベェ、妄想全開で連呼してたの聞こえたみたい……
「と、とにかく座って。はいここ」
ベランダの近くに配置した簡単な応接セットにご案内。薄暗くなった庭園と、魔力を応用したランプ達が見えて綺麗でしょ? 雰囲気最高だし、ほら、高級レストラン的な。
「ありがとうございます。お姉様、先程シャルカさんから聞きましたけど、明日大会?が始まるんですか? ジルヴァーナ争奪戦ですよね、確か」
「何だか知らない内に進んでて……私も困惑してるとこ」
「シャルカさん、急いでる感じでした。やっぱり八年の月日は大きいんでしょうか」
「んー、どうだろ。其れとは違う気がするけど……」
「そうなんですか?」
「うん」
でも確かに急だよなぁ……お母様って無茶苦茶な人だけど、大事な事は丁寧に対応してたイメージだし。でも理由が分かんない。逃げ出したりするのが心配なのかもしれないけど、それだけじゃないと感じる。うーむ……
「あの……時間も無いし、早くお姉様に話したい事があって」
「え⁉︎ あ、はい、大丈夫です」
な、何かな、その思わせぶりな態度……チラチラと俺を伺い、泳ぐ視線。何だかほんのり赤い頬。可愛いけど、凄く緊張してる?
ま、まさか、本当に告白とか……そそそそんなわけ……
「決めたんです。もしお姉様が許してくれるなら、これから先もずっと」
これから先? ずっと?
うそ? ホントに⁉︎ 前世も含め初めての、女の子からの告白⁉︎
「ずっと、一緒にいたいって」
「い、一緒に」
「はい」
ま、間違いないよな? これって告白、いやプロポーズ……
ヤバい、嬉しい、幸せ、クラクラする。
じゃ、じゃあ、これからは一緒のベッドで、一緒のお風呂で、ラブラブOKって事だよね⁉︎
「今迄と同じ、いえ、以上にお姉様を支えていけたら、きっと幸せだから」
「えっと、つ、つまり私が旦那、じゃなくてご主人的な?」
「そんな感じで」
ターニャちゃんって自分がリードしたいタイプだと思ってたけど、違ったんだ。やっぱり超絶美人でお姉様なジルに守って貰いたいもんね! ふっふっふ、任せなさい!
「じゃ、じゃあ今迄と違って姉妹じゃなくなっちゃうね。ターニャちゃんは私の大切な妹じゃなく、別の関係に変わる」
「そう……ですね、確かに」
おお! 可愛い妹から可愛いお嫁さんに変身だ!
あれ? ターニャちゃん何だか悲しそうな表情……いやいや人生の中で大切な瞬間だし、一生添い遂げる覚悟を決めた感じかも。
「お願いがあります」
「うんうん、何でもどーぞ!」
新婚さんだし、何か買い揃える? それとも逃避行の準備かな? 大丈夫だよ? 俺が本気で、ちょっとだけターニャちゃんが協力してくれたら絶対に逃げ切ってみせるからね。
「あの、立って貰っていいですか?」
「はーい」
もしかして、チューですか⁉︎ ここは、俺がリードすべきか。よし、が、頑張りま……って、いきなり抱きつかれたんですが‼︎ 積極的なターニャちゃんも可愛い!
「ターニャちゃん」
「……お姉様」
勿論ギュッとお返しして、ついでにターニャちゃんの髪に鼻と口をつける。おお……怒られないぞ。うん、良い香り。ポカポカ温かいし、プニプニ柔らかな感触! ああ、幸せです。
「今はまだ、妹ですよね」
「そうかな? そうかも」
「だったら……
「ターニャちゃんが望むなら何でも叶えちゃうよ! 沢山甘えてね?」
ありがとうございます。そう言うと、ターニャちゃんは視線を外して俺の胸に顔を埋めた。背中に回された両腕にも力が入った気がする。
ふむ、まあ夫婦と姉妹じゃ色々変わっちゃうし、姉妹として思い出作りも大切だろう。その時ってやっぱり、初、初夜的なやつのことだよな? これは急いで勉強しないとダメだ。前世で学んだ知識は子供が見ちゃいけない動画とかだけだし、まさかあんなお馬鹿なコトなんて現実には使えないはずだ。誰に聞けば良いのか……パルメさん? いや、意外にリタとか?
「ふふ、お姉様って少し震えてますね。私の方が緊張するはずなのに、可笑しい」
「ええ⁉︎ 気の所為だと思うけど……」
「間違いないです。こうやってプルプルして貰えるのも、最後かな」
「ん?」
最後? もしかして、プルプルさせるのは俺の方って意味かな? プレッシャーが凄いです……
くっついていた体を離すと、ターニャちゃんは笑顔を見せてくれる。うん、可愛い。やっぱり悲しい顔なんて見たくないからね。
「迷いも無くなりました。お姉様、これからも宜しくお願いします」
「こ、こちらこそ!」
不束者ですが! よろしくです!
「明日からキーラさんに色々教えて貰いますね。沢山勉強しないと」
「キーラに?」
まさかジルヴァーナ捜索隊の技術ですか⁉︎ 気配遮断と察知……えっと、浮気なんてしないよ? ホントだよ? ハーレムなんてお姉さん嫌いだから、うん。
「はい。
「え?」
「身分もバンバルボア帝国が後見してくれるそうです。身分不詳の人間を皇女殿下のそばに置くわけにはいきませんし、凄く助かりますね。それに、やっぱり侍女って大変なお仕事でしょうから、一日でも早く認めて頂けるように頑張るつもりです」
バンバルボア帝国が後見? 皇女殿下? 侍女?
何を言ってるの?
「その顔、信じてませんね? でもホントです。お姉様が留守の間にシャルカさんと話したんですから」
「ご、ごめん、ちょっと混乱してて」
「大丈夫です。旦那様がツェイス殿下でも、クロさんでも、他の誰であってもずっと支えていきますから。私を信じて下さい」
「タ、ターニャちゃん……あの」
う、嘘だよね?
「あ、随分遅くなっちゃいました。明日もありますし、早く寝てください。でも、いつもの様に起こしにきますから安心して良いですよ? それじゃ、お休みなさい……お姉様」
脚も腕も、動かない。魔力も感じないし、全てから取り残されたみたいだ。こんな感じ、初めて。どんな強い魔物も、誰が来ても負ける気なんてしないのに。
ターニャちゃんの瞳に涙が見えた気がしたけど、それも遠い世界に思える。パタリと閉じた扉は勝手に鍵が締まり、魔素を操作しないと開く事もないだろう。
「……そっか」
前世も、今世も合わせて、初めての経験だから当たり前か……
「これが……」
まあ自分から告白なんてした事ないし、最初は吃驚するのかも。うん、これも初体験ってやつだ。
「失恋、か」
あれ? やっぱり反応が鈍いな、この身体。
魔力強化すれば大丈夫かな? 俺は超絶美人、超級冒険者の魔剣ジルなんだから。
「いや、もう、ジルヴァーナ=バンバルボア、だね」
バンバルボア帝国の皇女として、水色の瞳を持つものとして、始原の竜から連なる血を繋げる義務を果たすために。
「ターニャちゃんがTS女の子じゃなく、普通の男の子だったら運命は変わってたのかも。もしそうなら、結婚して子供だって……」
寝よう。
ほら、身体だってもう動くじゃん。