綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、解説者になる

 

 

 

 

「ほら、皆揃ったみたいだよ」

 

 まあ、まだ試合開始って訳じゃ無いけどね。腕組みしたツェイスとエロジジイは話し込んでるし。クロは聞き役かな。

 

「え、ええ。そうね……」

 

 衝撃的事実を突きつけられ、お母様は意気消沈。マリンブルーの瞳は綺麗なままだけど、少しだけ輝きが少ないかも。まあバンバルボア帝国の起源と言っていい"始原の竜"が厨二病患者でエロだったなんてショックだろう。俺は前世の記憶を持ってるからそこまでじゃない。始原ことヒロシくんに親近感だってあるくらいだ。

 

『ふむ。お主達が受け継いで来た伝承もまた正しいのじゃ、シャルカよ。兄達二人は人を憎み、今も深い眠りについておる。あの時、始原と妾が怒りを鎮めるよう語り掛けたが……もはや正気を失い、封ずるしか方法が無かった。つまり、戦いは避けられん』

 

 ハッと顔を上げたお母様の瞳に強い意志が戻る。そしてそんな言葉達に耳を傾け始めたのも分かった。何故かルオパシャちゃんは俺をチラッと見て、語り続ける。

 

『本当に……ジルを見ていると彼奴(きゃつ)を思い出す。始原は巫山戯た奴だったが、同時に酷く優しい竜じゃったよ。争いを嫌い、人を想い、生き物や樹々を心から愛しておった。話すのも好きでな。いつも馬鹿な事をして、妾は笑う事を覚えた。そうじゃな……幸せな日々であったと今なら分かる』

 

 思い出してるのかな。橙色の眼が遠くを見てフニャリと曲がってる。凄く可愛いけど、やっぱり寂しそう。始原はもう居ないらしいし、残る二人も正気を失っているなら、ルオパシャちゃん一人だけになったって事だよな。何となく眺めてしまっていたら、お母様とターニャちゃんが呟いて我に帰る。

 

「ルオパシャ様……」

「お姉様の旦那様を決めるのも、やっぱり大切な事なんですね……」

 

 お母様の言葉に被せる様に、ターニャちゃんは瞳を伏せたみたい。表情が見えなくて少し不安になる。つい手を伸ばしたけど、やっぱりやめよう。フラれたのに馴れ馴れしいかもしれないし……

 

「分かりました。ジルヴァーナを伴侶とし、血を広く受け継ぐ。それに、早く孫を見たいですから」

 

 うーむ。お母様が元気になったのは良かったけど、理由が全然嬉しくないんですが。嫌なのに、やっぱり逃げる気が起きないよぉ。でも、アイツらの誰かに……

 

 観客席から下を見れば、魔王陛下とツェツエ一行。ツェイスは相変わらずイケメンだし、クロはイケショタ。一人だけ禿げたジジイが居るけど、無視無視。

 

 ここは敢えて歳上の方が良いのか? 顔馴染みのツェイスとかクロなんて真面目な顔して見れないし。魔王陛下なら逆に……わ、わー! 何を考えてるんだ! ん? エロジジイがこっちを見てニヤリとしやがった。お前は最初から論外だからな?

 

 でもなぁ。

 

「ジルヴァーナ。試合前にルオパシャ様へお伝えしてくれる? 魔王陛下をはじめ、皆様と戦った事があるのは貴女だけだから」

 

 ん? まあ確かにそうかも。

 

 よし。見下ろす様な感じだけど、何となく観察。

 

「んー。じゃあ先ずは魔王陛下から」

 

 魔王陛下とは六年前だけど、一度勝負した。まあまだ超絶美人じゃなく超絶美少女だったから、陛下……いやスーヴェインさんが本気じゃなかったのを気付かなかったけど。結局もっと成長した後に分かったからね。多分魔力を奪ったり、コントロールを失わさせる才能(タレント)だと思うけど、あの日は様子見してた感じだもん。今の俺なら違う戦いが出来るとしても、昔は未だ未だだったし。

 

 まあ、別の日に大まかな内容は教えて貰ったのがホントのところです。あと魔力強化のコツとかね。やっぱり魔力に関しては人種と違うみたい。

 

「そんな感じかなぁ。とにかく、段々と近くにある魔力を感じられなくなったから、長期戦はダメだと思う」

 

「……さすが魔王陛下ですね。如何ですか、ルオパシャ様」

 

「うむ、面白いの。始原のヤツも似た事をして遊んでおったのを思い出した」

 

 へー。

 

 真っ黒なマント、水色の肌、似合ってる。武装らしいものは無いけど、スーヴェインさんは要らない。剣や鎧も魔力で代替えしちゃうし。あの魔力の剣なんて滅茶苦茶デカかったもんね。ある意味、俺の剣と一緒だよな。あと当たり前だけど、エロジジイと同レベルかそれ以上の攻性魔法も操る。相手に魔法を制限させ、自分は使い放題。うん、ヤバイ。

 

「次はクロ? ちゃんとした名前はクロエリウスって言うんだけど、ツェツエが認めた"勇者"だね。才能(タレント)が変わってて、魔力放出、使用、全部が必ず()()なの」

 

「定量? 決まった量ってことよね?」

 

「うん、お母様の言うとおり。類似する才能が無いから、凄く珍しいでしょ?」

 

「あ、お姉様が魔力強化を教える事が出来たのは……」

 

 さすがターニャちゃん! やっぱり頭が良いなぁ。

 

「御明察! 過剰な供給も、そして不足も無いから事故が起きないって感じだね。未知の魔物と戦う時も、色々な戦闘でも必ず安定的な魔法を使える。実は此れって凄い事なの。おまけに魔素を操れば、威力だけは変えたりするのも可能だし……もっと鍛えたら、私と似た魔法と剣の両用も有り得るかなって。だから師匠を引き受けたんだ」

 

 感心顔のターニャちゃんも可愛い。

 

 おや、クロも珍しく真面目な顔だ。変態なエロガキだけど、TPOは弁えてるんだな。紅い瞳は綺麗でパッと身はイケショタなのになぁ。

 

「魔狂いは……まあ、エッチな変態?」

 

 以上!

 

 魔力馬鹿のエロジジイには十分でしょう。でも魔狂いにとってスーヴェインさんてある意味天敵だよね? こんなとこで広域を破壊する魔法なんて早々放たないだろうけど、ターニャちゃんに被害がいかないよう気を付けなければ。ん? だからこっちを、いやオッパイを見るなジジイ。

 

 お母様からも、ルオパシャちゃんからもツッコミは無い。残念だったなエロジジイ。お前の解説は"エロ、変態"で終わりだ!

 

「最後は……」

 

「ツェツエの王子、ツェイス殿下ね」

 

「うん」

 

 残る一人は大半の男の敵、つまりイケメン野郎だ。

 

 紫紺の瞳も波打つ髪も確かに格好良い。前世の俺なら親の仇とばかりに睨み付け、視線が合ったら怖くて逃げ出しているだろう。うん、何となくムカつきます。あんなイケメンに生まれたら人生が楽しいに決まってる。何より妹が超可愛いし……久しぶりにリュドミラちゃんと話したい。

 

「確か、ツェイスとは六年前は一緒に戦って、あと四年前に少しだけ試合しただけかな。風雷を何処まで使い熟してるか分からないけど、本当に優秀な才能だと思う。ツェイス自身も鍛えるのを怠ってないみたいだし……所謂"攻防一体"をそのまま現した様な戦い方かな。風雷は攻撃だけじゃなく、身体とか剣とかに纏わせたり出来るから……普通に近づくとこっちが痺れる。何より始動が速いから、見た後だと対処が間に合わないかも」

 

 雷ってきっと光速だよな? 漫画とかアニメでも良く出てたし。何となく悔しく思います、ええ。

 

「でも、やっぱり瞳と同じ色の、雷撃が一番かな。効果範囲も広くて、何より防ぐのが難しいよ。相対する属性も無いみたいだし……土魔法とかで上手く地面に逃がすくらいかな、多分。でも、土じゃ速度的に間に合わないから……うーん」

 

俺の魔力強化でも、逃げ切れるか分からないな。よく考えたらホントに厄介な才能だ。

 

「魔力強化とは違う原理で、身体の強化も出来たはず。今の実力は私も知らない。でもスーヴェインさんもきっと苦手に感じると思う」

 

「あらあら? ツェイス殿下の説明だけ、やけに詳しいわねぇ?」

 

「違うからね?」

 

 微笑ましいもの見たって顔、やめて下さい。まあ他の人達と比べると友達だから、多少知ってる事も多いのだ。

 

『ジルや』

 

「はい?」

 

『お前はあの様な男が好みか?』

 

「……好み?」

 

 正直、ルオパシャちゃんが聞いてくる質問と思えなくて、一瞬意味が分からなかった。それに橙色の瞳が俺を観察してるみたいで不思議。

 

『余計な質問じゃったか? まあ良い、先ずはシャルカの依頼が先か。ふむ、何か動きがあったかの。魔王に相対するための作成会議というところか』

 

 お、ホントだ。二人に何か指示してるっぽい。悔しいけど、ツェイスって指揮能力も高いからなぁ。竜鱗の騎士団長だから当たり前だけど。紫紺の瞳はスーヴェインさんから離さず、何やらエロジジイとクロに話し掛けてる。

 

 みんなの戦い、少し楽しみになってきたかも。でも、我ながら他人事に感じるのは何故だろう。イケメン三人衆の誰かと結婚するなんて現実感が無い。

 

 

 

 ○

 

 ○

 

 ○

 

 

 

 

「二人とも最後の確認だ」

 

自然な立ち姿の魔王から視線を外さないままに、ツェイスは呟いた。

 

「ほほ、何ですかな」

「はい、殿下」

 

 超級冒険者"魔狂い"のフェルミオは、真っ白な顎髭を揺らしつつツェイスの横顔を見る。そこには余裕があり、歴戦たる超級の凄みが感じられた。

 

 一方のクロエリウスは緊張を隠せていないが、それは仕方が無いだろう。

 

 相手は魔王であり、当たり前には勝てない存在。しかし味方である二人は其々がツェツエ最強の一角だ。師であるジルヴァーナの教えを守り、魔力強化で攻撃離脱を繰り返して撹乱すればいい……そんな風にクロエリウスは自身を奮い立たせている。

 

「魔王陛下に対して時間を掛ければ魔力を奪われるだろう。六年前、一人で相手取ったジルは、長期戦ならば絶対に勝てないと言っていた。魔力を操る事に関しては人族最高位の" 万能"を以ってしてもそうだから、我々では尚更だ」

 

 驚きもせずコクリと二人は頷いた。ルオパシャより魔王に対して全員で戦うことを聞かされたあと、ツェイスは伝えていたからだ。

 

「つまり、短期決戦に持ち込むのが最良だ。予定通りフェルミオは殲滅魔法を撃つつもりで、出来るだけ早く魔力を消費してくれ。奪われるくらいなら最初から手加減抜きだ。その混乱に乗じ、何としても近接戦闘へ移す。それと、クロエリウス」

 

「は、はい」

 

「強化に空間からの魔力供給は殆ど必要ないと聞いたが、間違いないな?」

 

「それは間違いなく。お師匠様なんて自分の持つ魔力だけで、半永久的に強化出来る程ですから。まあアレは例外ですけど。重要なのは魔素の体内循環と、その把握です」

 

「よし。ならばやる事は単純だ。クロエリウスは隙を見て斬りかかれ。ただし深追いはなしで、離脱と防御を優先だ。実際にはお前が唯一の武器になる……俺とフェルミオは派手に暴れ回ってクロエリウスへ意識がいかない様にするんだ。兎に角"一撃"、其れが最初の目標になる」

 

「儂は構いませんが、殿下は宜しいのですかな?」

 

「何がだ?」

 

「だだの囮や引き立て役など大して目立ちませんぞ? 貴方様をお嬢……いや、シャルカ皇妃へ売り込み出来ぬでしょう」

 

 すると、分かり切ったことを聞くなとツェイスは笑った。

 

「この戦いで、その程度を理解出来ない方では無い。古竜との決戦に備えて団結する必要があるのに、我々が独りよがりをしていたらそれだけで失格さ。純粋な戦闘の才だけを見ていないとシャルカ皇妃陛下は仰っていた。凡ゆる角度から我等をご覧になっている。それに、どうせなら勝ちたいだろ? ジルが居ればなんて言われたら情けないし、そもそも俺は」

 

 言葉を一度切り、此処でフェルミオとクロエリウスを見る。そして此方を眺めているジルに視線を合わせ、呟いた。

 

「負けるのが死ぬほど嫌いだ」

 

 

 

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