善悪とは何か
彼にしてみればそれは人間社会というシステムにとって有益か否かの差でしかなく、そこに大きな意味はない。
理想も、思想も何もかもが彼の正義においては妨げでしかない。だから切り落とした。腐ったから切り落としたのか、腐る前に切り落としたのか。彼は自らを定義するものすべてを削ぎ落とす。
自己を失いただただ己ではない誰かのために戦い続ける。そこに一切の情はなく、人類の害といえるものを躊躇なく殲滅する。自らを機械と同じと嘯くその姿は、皮肉にも人とは程遠い獣のものだった。
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――ある出会いがあった。
おそらくは、一秒すらなかった光景。
されど。
その姿ならば、たとえ地獄に落ちた魂でも、鮮明に思い返すことができるだろう。
「――お前が俺のマスターか……俺はアーチャー。真名はない…呼び名はなんでもいい。好きに呼べ。とうに捨てた名前だ、そこに意味はない。」
皮肉屋。無愛想。およそ好印象とは言えない彼の姿。手に握られるのは二挺の銃。ある種の悪趣味ささえある。そんな彼を前に私は…
「お願い、助けて……」
反吐が出る。助けを乞うたのだ。恥も外聞も捨てて、目の前に男に助けを乞うた。
きれいな、きれいな夏の月の夜。醜い私と黒い男。男は私の目の前に立つ異形を見て、舌打ちをし――私を追っていたモノを、物言わぬ塵にした。刹那の出来事。運命の出会い。男が口を開く。
「厄介極まりない。お前、何故あんな輩に目をつけられた?」
やはり無愛想。
「私は何もしてないわよ!ただちょっと光ってたのが気になって触っちゃったのよ!」
私のそばに落ちる瓶を見る。溜息。
「なんてことだ。こんな間抜けに俺は…」
「間抜けって何よ!」
「ほう。ではお前はなんだ。興味心から得体の触れないものに手を出して挙句の果てに俺を呼び出した…間抜け以外の何に映る?」
「それは…」
「まあいい。お前はこの争いに何の関係もない間抜けだとわかった。」
わけのわからないことを言い出す男だ。
「そもお前はなぜ俺を怖がらない?」
「別に…あんなのがでてきたんだからまた黒い男が出てくるのくらい不思議じゃないわよ。それにあんたは何か…そんなに悪いことをするような人に見えなくて…」
「…ッお前の目にはガラス玉でも入っているのか?お人よしにもほどがある…まあいい。お前はこのオレが召喚されたこと…聖杯戦争について知っているか?」
首をかしげる。何を言ってるんだこいつは。
「はぁ…仕方あるまい。説明しよう。聖杯戦争は、万物の願いをかなえる「聖杯」を奪い合う争いだ。その道具として、英霊…英雄が死後、祀り上げられた存在が召喚される。もっとも、イレギュラーはあるが。英霊…サーヴァントはその逸話に基づいて7組のクラスへと振り分けられる。七騎のサーヴァント、七人の主によって繰り広げらえる聖杯の奪い合い…それが聖杯戦争だ。」
「本来お前のような一般人がこれに参加するはずなどないのだが…お前、魔術師なのか?その便はどこで手に入れた?」
「魔術師って何よ。この瓶はおばあちゃんの家からかわいいからもってきただけよ。」
溜息。まったく、こいつは礼儀というものを知らないのか。
「呆れた。仕方あるまい。一から十まで説明してやる。文句は言うなよ?」
私は渋々頷いて、男の講釈に耳を傾けたのであった。
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「ここにすべての英霊は集った!ありとあらゆる英雄が熾烈を極める争い!今世紀最大の叙事詩が今宵始まる!刮目せよ!」
教会で、壮年の男が笑いながらに独り言…そういうには大きすぎる声量で、何かを叫ぶ。
「ンンン、これはこれはマスター。あまり大きな声で叫ばれますと聞かれてしまいますぞ。」
「それもそうだな。しかしキャスター、お前は楽しみではないのか?ここまで来られたのはお前のおかげだ。感想の一言くらいは聞きたくてね。」
キャスターと呼ばれた男は、妙な紙を取り出して壁に映像を投影する。
「えぇ!大変楽しみにしておりますとも!ところで、あのアーチャーは何者です?武器は西国のもののように見受けられますが、あまりに近代的すぎる。この聖杯戦争にふさわしくない人材では?」
「確かに。お前の感想よりそちらのほうが気になるな。気になるならちょっかい程度、出しても構わんぞ。」
卑しい笑み。それを受け取ったこれまた悪趣味な男。それはいつの間にか姿を消していた。
今宵、聖杯戦争は幕を開ける。