世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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 どうしても気に入らず、視点を整理して書き直しました。が、かなり文字数が膨れ上がってしまい。
 既読の方もよろしければどうぞ。かなり描写が変わっています。



始動編
第1話 睡眠は計画的に


「お~来とるやんけ!どうせだしこっちも見とくか」

 

 

 どうも、筑波昌太(つくばしょうた)です。受験生してました。

 今は絶賛ネットサーフィン中です。もう何時間経ってるんだろう、時計見たくねぇなあ。

 

 ふとYou〇ubeを開いたら新着動画があったのでそれを見ていたのだが、関連動画のとこにもいくつか気になる動画があるわけで。そのままズルズル抜け出せずにずっとネットを見ている。まあよくあるヤツだ。

 自分でもつくづく思うが、受験シーズンに根詰め過ぎたツケが大きすぎる。なにしろこのムーブをやらかしたのは今日だけではなく、ここ数ヶ月こんな調子なのだ。バカじゃねえのか。

 

 今までは学校があったおかげで健康な生活リズムが保たれていたんだなぁとここに来てはっきり理解した。中3の2月以降はたぶんどこの学校も自由登校になると思うんだが、俺は2月から今に至るまでずっとネットに入り浸っていたわけで。まあ何が言いたいかというと、だ。

 

 

 今年入って日光浴びたことないかもしれん。

 

 

 バカ、ほんっとバカ。何してんのマジで。ホワイトアスパラガスかよ俺は、なあ。こんなんなら志望校背伸びするんじゃなかったわ。

 志望校は栄星(えいせい)という高校。俺んちに近い三校のうちの一つである。が、この高校やけに偏差値が高い。いくつかは覚えてないけど確か60後半はあった。

 俺はどうしても通学距離を重視したかったので、どうあがいても第一志望校はここになってしまった。博打みたいなもんだったけど、現状を鑑みると大凶が出ちゃったみたいだね。

 

 …他の二校にすればよかったってか?まあ普通そう思うよな、でも両方とも女子高なの。なんで?そんな固まってることある?

 まあそうやって通学距離の短さをとった結果、猛勉強を強いられたんですわ。おかげで無事受かったわけなんだけど、払った代償がデカすぎる。

 

 

 代償はそれだけじゃない。まだわからんけど、ワンチャン人間関係がパーになった可能性があるのだ。…いやこれ改めて思うけど大凶どころか地獄じゃん。これからどうやって生きていくんだよ俺。

 

 別に俺はコミュ障とかってわけでもないから付き合いのある人もそれなりにいたんだが、勉強に集中するためその人らには予め言って距離を置かせてもらうことにしたのよ。

 それで今年2月に結果が出ました、受かりましたと。普通なら連絡入れるじゃないですか、その人たちに。

 

 でもなんか…今連絡して塩対応されたら死んじゃうなあって一回考えてしまいまして、今に至るまで結局連絡できていない次第でございます…はい。

 

 

 待って、弁明させて。だって距離置いてたってもう半年は経ってんのよ。そんだけの間連絡してなかったやつから突然メッセージ来たらお前ならどう思う?「何こいつ、誰だっけ…」ってならん?

 中学時代に大して仲もよくなかったヤツから大学生になって突然連絡来たら詐欺疑うでしょ、そんな感じ。

 

 いやぁ、なんか憂鬱になってきたな。なんて言って顔出そうかな…。もう明日入学式なんだよね、やだなぁ…今の俺日本で一番ブルーな自信あるわ。

 

 

 なんで今の俺の友達は実質パソコンだけです。愛と勇気は敵だ。

 パソコンつったらね、最近の俺には密かなマイブームがあってな。「ロックバンド」が今キテる。さっき俺が反応してたのもそのロックバンドのチャンネルなんだよ。えー、ろぜりあ?ってバンド。今更だけど読み方合ってんのかこれ。

 

 最近伸びてるバンドっぽいんだけど、G〇eeeeNよろしくメンバー情報が伏せられている。分かっているのはメンバーが全員中高生で、ボーカリストは女性ということ。俺と年齢層近いのにここまで注目されてるのヤバくないか。

 注目されている根拠?再生数見ろ、10万に迫ってるぞ。これが注目されてなかったら何なんだよ。

 

 

 俺は運よくこのバンドを発足当時に捕捉(激寒)できた、幸運な人種だ。まだそれから半年も経ってるか怪しいんだけど、その間の成長がすごくて俺はいつも感動していた。このムーブ完全に後方腕組みイキリファンじゃん。

 

 でも唐突に数週間もChanter(〇witterみたいなやつ)の音沙汰がなくなって、後方腕組みイキリファン…めんどくせぇな、xに代入するか。xこと俺は寿命が3000年くらい縮んだことがある。

 今こうして追っているあたりお察しだとは思うが、その後ちゃんと進化した音とともに戻ってきてくれたので俺を含めたxのみんなは不老不死になった、というすごいエピソードがなくもない。この人何言ってるの?

 

 xが復活に沸いたっていうのはマジ。当時俺が『不死鳥Roselia、最高。』ってツイートしたら同業にアホみたいにふぁぼられたから間違いない。リツイートもされて全然関係ない人にまで波及したのはすごかった。さすがxのみんなだ、最高。

 

 

 ここまで広がるとCDとか出さないのかというのはxのあいだでもちょくちょく話題になる。年齢層や伏せられている情報的にライブは厳しいにせよ、CDならまだ可能性はあるんじゃないかと。

 一部のxにはCD出たら破産するまで買うって言ってるヤツもいる。流石に自己破産だけはやめてくれ、同業からのお願い。300年地下行きなんて見たくないんだよ俺は。

 

 でも今のところRoseliaは淡々とMVの投稿やChanterでのツイートをしているだけで、なんというか有名になることにはそこまで執着してないのかなって感じがする。xは待ってるぞ、お前らのCDを。それだけは知っておいてほしい。

 とはいえ焦ってここで直接DMに殴りこむのはxとしてあるまじき行為。それは後方腕組みイキリファンじゃなくてただの厄介だ、去れ。散れ。

 

 

 …今更だけどxってなんだよ。さっきの自問自答といい深夜テンションがひどすぎるぞ俺。

 いい加減寝るか、入学式早々遅刻なんてボカかましたらマジのマジで死んでしまう。そうなった暁には汚名返上なんて不可能だろう。目覚ましセットすとこ。

 

 

 [5:45]

 

 

「…………ッスゥ〜〜〜…寝るか」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 はいやった~。当然のごとく起床事故だボケが!

 

 あのあと俺は結局8時前までガッツリ寝てしまい、超急いで飯かっ込んで髪バーーッやって歯ァ磨いてドアバァンとかする羽目になった。

 でも今は8時ちょうどくらいだし、どうせ高校まではチャリだしなので今からなら超ダラけながらでも十分に間に合う。よし、ちんたら行こう。

 

 ところでね、唐突に心理テストじみたことするんだけどね、まずお前はめっちゃ急いでる。戦闘機でも使わなきゃ間に合わないくらいに急いでる。そんなときにね、路傍にぶっ倒れてる人がいたらどうするよ?

 

 答え?知るか。

 

 

「あわわわわ…」

 

「……」

 

 

 どうしたんだろうなこの娘。ありえねえくらいアタフタしてんだけどどうしたの一体。もう「どうしたの」しか出てこねえ。

 角を曲がってすぐにピンク髪の娘が茫然自失としててこっちがびっくりしたよ。

 

 どうやら彼女は割と近くに佇んでいる俺にすら気づいていないらしい。ひたすら鞄や周囲へ視線を往復させている。

 なんかもう見てられないのでとりあえず挨拶してみる。

 

 

「…おはようございます?」

 

「ひゃあっ!」

 

「ひえっ」

 

 

 めっちゃ驚かれた。もしかして不審者だと思われたの俺?現役高校生(仮)が不審者呼ばわりされた事案なんて聞いたことないぞ。

 まあチャリ乗りながら声かけちゃったし、高圧的に見えたのかもしれんな。そりゃ悪いことをしたなと、今度はチャリから降りて聞く。

 

 

「えっと、どうしたんですか?慌て方が尋常じゃないですけど」

 

「あぁぁごごご、ごめんなさい…」

 

「へぇっ?なんで…いやまぁとりあえず深呼吸しましょう」

 

「は、はい…ひっ、ひっ、ふ〜っ…」

 

「あ、それラマーズ法っすね」

 

「あああああっ!!!!!」

 

 

 やべぇどうしよう、収まりがつかない。まさか深呼吸してって言ってラマーズ法の方やるとは思わなかった。どんだけ慌ててるの。

 さっきからスゲェ慌てている目の前の娘はピンク髪のセミロング。制服的に花女(花咲川女子学園)かな。…あれ?パスパレの彩ちゃん?んなわけ無いか…。

 

 

「ふぁあ、深呼吸、深呼吸…すー、はー…」

 

「うんうん、どうです?OK?」

 

「…ふぅ。うん、その…ありがとうございます。私、生徒手帳をどこかで落としちゃったみたいで」

 

「…生徒手帳?」

 

「はい」

 

 

 正直、言っていいか。マジであんな慌ててたんか?

 でもあれか、生徒手帳って学生証を入れるポケットみたいなのついてるよな。となると学生証も一緒に…あ、そりゃヤバいわ。

 

 

「それはつまり学生証も…?」

 

「そうなんです」

 

「あぁ〜…ここまでどれくらい歩いてきましたか?」

 

「えっと、たぶん数百メートルくらいだと思います…」

 

 

 微妙だなー。歩きで探して回って遅刻しないで済むかどうか…。急げばどうにかなるか?

 生徒手帳ならまだしも学生証を紛失したとなると面倒くさそうだし、できれば早いうちに見つけてあげたい。

 

 

「そうですねぇ、時間の許す限り探してみて、なかったらまた放課後ですかね」

 

「…探してくれるんですか?」

 

「ここまで聞いておいて見捨てるなんて非情なことできませんよ…」

 

 

 ふと不安になって、胸ポケットに突っ込んであるスマホを改める。普通にちゃんと入っとったわ。

 俺の乗ってるチャリはクロスバイクで、乗るとハンドルの位置が低いのでかなり前傾姿勢になる。そうなると振動でたまにポケットのものが落っこちることがあるのだ。怖いよな。

 

 俺の仕草を見ていたピンク髪の人も同じように胸ポケットを──

 

 

「あっ」

 

「ん?どうしました?」

 

「…ありました」

 

「えっ?」

 

「生徒手帳、ありました」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 いや、気まずかった〜。

 散々ないと思って探してたブツが胸ポケットに入ってるなんて思わんやん普通。まして俺の方はポケットとか全部改めた上で慌ててるもんだと思ってたし。

 

 これはあれですね、メガネでも似たような現象が見られますね。

 メガネを頭へスライドさせたはいいけど、しばらくするとそれを忘れて失くしたと思い込み、他人に在り処を尋ねてしまうやつ。

 傍から見たらただのマヌケだしすげえ恥ずかしいんだわ。まあ俺メガネしてないんだけど。

 

 さっきはそのメガネ現象を思い出してこっちがいたたまれなくなり、「あぁあそうですかそれは幸いです、それでは」つって無理やり離脱してきちゃったよ。

 

 

「ふえぇ…」

 

 

 つかさっきの娘マジで彩ちゃんに似てたなぁ。瓜二つまであるかもしれん。

 お前は知ってるか?パスパレ。Pastel✽Palettesって名前のアイドルグループだよ。冠番組も持ってるんだぞ、すごいんだぞ。

 

 

「ふえぇ…」

 

 

 今思うと慌て方とか仕草とかクリソツだったし、おまけにどえらい別嬪さんだった。両手の指先を合わせてちくちくやる仕草とか。

 …えぇ?でも本人なわけなくない?朝っぱらからアイドルに会うとかどんな奇跡だよそれ。

 

 

「ふえぇ…」

 

「……………」

 

 

 …あのさ。

 

 さっきからスルーしてたけどこの鳴き声なに?猫?

 言い忘れてたが、今は8時10分くらいでもう栄星の近くにいる。いやこの辺で野良猫が出るとか聞いたことないんだけど。もしかしたら引きこもってる間に湧いたかもしれんな。

 

 全く、誰だ一体。育てきれなくなったからってすぐ猫を捨てる不届き者は!

 

 

「ふえぇ…」

 

「は?」

 

 

 人じゃん。しかもまた花女の制服着てる。

 声のする方を覗いてみたら、青髪の娘がふえぇふえぇ言ってた。なんだろう、この庇護欲そそられる感じ。

 その人はサイドテールをふわふわさせながら、涙目でひたすらに周囲を見回している。あっ、目が合った。めが あったら ポ○モンしょうぶ!

 

 

「あの…ここってどこですか?」

 

「え、栄星高校のそばですね…あれ?栄星の人ですか?」

 

「いえ、そうじゃなくて…」

 

 

 少女はトコトコとこっちに近づいてきて質問してきた。栄星の人かと思ったけど違うのか。

 住所ならそこの電柱に書いてあるんだけども。もしかして記憶を失ってたり…はないか。それにしては受け答えしっかりしてるわ。

 相対してみて気づいたが、この人もやけに可愛い。意味もなく人の顔をジロジロと見るのが不躾なのはわかってるけど。

 

 

「それじゃあ花女ですか?ここからだと都電挟んで反対側ですけど」

 

「…遠い、ですか?」

 

「んー歩きだと微妙な距離じゃないかな」

 

 

 やっぱり目的地は花女らしい。迷い込んでここまで来ちゃったんかなたぶん。

 栄星は住宅街のど真ん中にあって、大通りからは少し入ったところだ。そのためまずは大通りに出られないとどうにもならないという、まあまあややこしい地形をしている。

 

 

「そうですか…。その、あぅう…」

 

「どうしました?」

 

「ついてきてくれませんか?花女まで」

 

「あぁ、道案内ってことですか?」

 

「はい…。私、一人だといつも道に迷っちゃうんです。マップ見てても気づいたら知らないところにいるし…」

 

「んーなるほど?」

 

 

 方向音痴ってことか。

 でもマップ見てればどうにかなりそうな気がするんだよな。大体そういう人はあまり目印を立てて道順を覚えたりとかしてないから、マップっていう目印があったらいけそうじゃん?

 

 物は試しと、俺のスマホでマップを開いて現在地から花女までの経路を表示させ、そのまま青髪少女に渡した。マップ曰くしばらくは栄星とは反対方向に直進らしい。

 

 

「じゃあ俺が一応ついていきますんで、まずはこれ見て行ってみてください。俺自身ここからの道はよくわからないんで」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 少女が進み始めたのを見て、俺も斜め後ろをついていく。

 

 それにしてもこの辺りには久々に来たが、閑かな住宅街に突然出てくる都内にしては広大な栄星の敷地が出てくるのは今見ても異質だな。

 都電の停留所とかバス停とかからも微妙な距離だし、電車通学するには不便な立地かもしれない。陸の孤島か? 

 

 …ってちょっと待て。あの少女は?

 

 

 えっ、消えた?

 

 

「はっ?」

 

 

 は?まだ後ろに栄星見えるんだけど、100m進んだかも怪しいぞ。どこに失踪する要素あんの?

 振り返ると、ちょうどT字路を越えたところだった。というかさっきのとこからここまで曲がり角がここしかない。恐る恐る覗き込んで──

 

 

「あっいた!」

 

「ふぇっ!?」

 

「はいはいウェイトウェイト。ウェイウェイ」

 

「ふぇ…?」

 

「え、なっ…なんで曲がったんすか?一瞬蒸発したかと思いましたよ」

 

「あ、あれ…?いつの間に…」

 

「ふぁっ??」

 

 

 住宅街に響く「ふぇっ」と「ふぁっ」の応酬。

 

 彼女も声をかけられて初めて気づいたらしく、何が起こったかよくわからないようだった。俺?わかるかこんなの。

 てかさっき渡したとき明らかにずっと直進だったよな?俺の目がおかしかったのか?

 …いや、合ってるわ。彼女の持ってる俺のスマホ覗いたら、マップパイセン戻れつってブチ切れとるわ。

 

 

「なるほど…ここまで来るともはや才能の域ですね…」

 

「うっ…ごめんなさい。どうしても治したいんですけど、どうにもならなくて」

 

 

 マップ見ても知らないうちに変なところにいるとか人生ハードモードすぎる。そりゃ治したいとも思うだろう。

 基本的な方向音痴の対策には目印を覚えるとか地図を書いてインプットするとかあるが、もはやそんなレベルではない。

 

 

「…いや、なにも全部治す必要はないのかも」

 

「えっ?」

 

「そうですね、例えば行きつけのカフェとか。そこに行くときに迷うことはあります?」

 

「いえ、十回に一回くらいは迷っちゃいますけど…大体は迷わず行けます」

 

 

 つまり、何回も通っていれば次第に迷う頻度が減るということ。道順を覚えることはできるが、そこまでに何回も刷り込みをしなきゃいけない。

 要するに方向に関してめちゃくちゃ不器用なのだ。

 

 逆に言えば時間はかかっても何回もやればある程度克服できる。それがわかっただけずっとマシだ。これでどこ行こうにも迷っちゃうとかだったら本当にどうしようもなかった。

 

 

「じゃあ回数をこなせばだんだん精度が上がってくるんですね」

 

「はい」

 

「それだったらなんだかんだどうにかなってますよ。猛烈に時間はかかってますけど、着実に迷う場所は減ってるんじゃないですか?」

 

「…あっ」

 

 

 じわじわとした変化というのは自覚が難しい。それが積み重なって大きな変化を生んでいても、自分のこととなると最初から最後まで全部見ざるを得ないから気づけようもない。

 アハ体験がさっぱりわからないのと同じだ。

 

 その点、客観的な視点は強い。過程を無視して最初と最後だけを冷静に比較できるからだ。おそらく、今回の彼女もそんな感じだろう。

 

 

「克服できてるってわかっただけでも儲けものですし…それに自分の意思に関係なく知らない土地に行けるって俺からしてみたらちょっと羨ましいですね」

 

「羨ましい…?」

 

「だってそれ旅好きには堪らないですよ。適当に放浪して新発見してってすごい楽しそう──ハハハ深夜テンションやべぇ。すいません忘れて」

 

「…そっか。楽しい、か」

 

 

 今勢いに任せてとんでもない失言をかました気がして大湿原。それきり青髪少女は考え込んでしまった。

 久しぶりの家族以外の人との会話に加えて、夜ふかししてしまったことによる深夜テンションのもつれ込みのせいで対人スキルが死んでる。もう今日はなるべく黙ってよう。

 

 

「あの、ごめんなさい…とりあえず早めに行きましょう。一応手繋いどきますね」

 

「あっ…うんっ」

 

 

 この後ちゃんと少女を花女まで連れてくることができた。よくやったぞ瀕死の俺。

 少女はひとしきり感謝してきて、やけにニコニコしながら去っていった。さっきとは全く違った雰囲気に思わずビビったのは内緒。

 

 まぁ寝坊はしたけどなんだかんだ時間あってよかったな、うん。あのまま二人とも放置してたら大変なことになってたよな。両方遅刻の危機だったし。

 とりあえず俺も早いとこ戻るか。ずっと押してきていたチャリに三度跨り、時間を確認す

 

 

 [08:25]

 

 

「ア゜ッ!」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 朝ちんたら行こうとか言ってたバカは誰だよ一体。しばいていいか。

 

 どうにか教室──1-Cだった──にはヘッドスライディングをして間に合ったんだが、その数秒後にチャイムが鳴って本当にギリだった。あと何故か初対面のクラスの面子に拍手された。誰か俺を殺せ。

 

 その後、担任の先生は爆笑しながら「今度からは席についてないと遅刻にするからな〜」って温情で見逃してもらった。いやあぶねぇ〜マジで。ありがとう先生、俺一生ついていきます。

 

 

 今は入学式が行われる栄星高校の体育館に来ている。バカみてーに天井が高い、何これ。

 つーかめっちゃ暑い。チャリ飛ばしてきたからそれはもう暑い。大粒の汗をダバダバかいてて風呂上がりみたいになってる。

 

 俺さ、この時期にチャリ乗るの嫌なんだよな。だって暑いじゃん。

 春は死ね(花粉症)、夏は死ね(暑い)、秋は夕暮れ(最高)、冬はつとめて(神)っていう文句が有名な文学知ってるか?

 知ってるって言ったお前は嘘つきだ、だってこれ俺が今考えたもん。タイトルは『呪草子(のろいのそうし)』。清少納言に土下座しろ、焼き土下座だ。

 

 

「んっ、君さっきヘッドスライディングで教室入ってきた人だよね?俺は宗谷修介。よろしく」

 

「筑波昌太だ、こちらこそよろしく。悪いな、汗だくで」

 

「気にしなさんな。高校なんて汗流してナンボでしょ?…まぁ、それにしたってか。雨にでも降られた?」

 

「窓から見える雲量0の空見ても同じこと言えんの?」

 

 

 整然と並ぶパイプイスは三列縦隊。ちょうど俺が座ろうとしたところには先客がいたので真ん中に座ると、宗谷が話しかけてきた。

 俺知ってるぞ、さっき真っ先に拍手し始めたのがお前だって。面白そうなヤツではあるが、どことなくかのパン大好きな健啖家さんを思い出す。

 

 

「じゃあ風呂上がりか。ちゃんと身体は拭いといたほうがいいよ、湯冷めするから」

 

「身体も拭かずに高校来て教室でヘッドスライディングとかバケモンだろ」

 

「ヘッドスライディングしてる時点でヤベーやつ扱いされかねないことにお気づきでない!?」

 

「うるさ」

 

 

 たまに湧く謎に上から目線のオタクやめろ。強くなれる理由をご存知でない!?

 だが話してみてわかった、こいつウマが合うわ。つーかやっぱり気質が白髪のヤツに本当に近い。今「しょーくん」って呼ばれても違和感ないかも。

 

 と思ってたら俺の目の前に座ってたスポーツ刈りでガタイのいいやつが振り向いて話しかけてきた。

 

 

「んー?何だ何だ、会って早々仲がいいな。知り合いかお前ら?」

 

「いや違うよ」

 

「違うのォ!?」

 

「うるさ」

 

 

 えっ怖…(畏怖)。普通に声量がおかしいし、それをこんな公衆の面前で平然と発揮できる肝っ玉もおかしい。

 あーほら見ろ、体育館にいるほとんどの人がこっち向いちゃったじゃんかよ。全集中 恥の呼吸だよ。てか担任の先生もまた爆笑してるじゃん。

 

 

「あー、俺は筑波昌太というんだが」

 

「宗谷修介です」

 

「諏訪健太郎だ、よろしく」

 

 

 よし、こいつ──諏訪とはよろしくしないようにしよう。お前ブラックリスト入りな。

 いやだってどう考えてもやべーじゃん。驚いたのはわかるけどそれであんなボリュームで叫びますか普通。えっ、ヘッドスライディングした俺と五分だろって?よしわかった、お前もブラリスブチ込む。

 

 

「俺らは会って5分も経ってないぞ。やけにウマが合う感じはしたが」

 

「わかる」

 

「マジかよ。俺は都外からここに来たん

 

 

『まもなく入学式が始まります。新入生の皆さま、静粛に願います』

 

 

「「「…」」」

 

 

 今、わかったことがある。

 

 コイツイジられキャラだ。

 

 




 よろしければ評価や感想等宜しくお願いします。

 '20.08.16 夜更かしのところをごっそり改訂。
 '20.10.26 改訂どころか書き直し。

これからはどっちが見たいですか

  • いつものゆるい日常
  • シリアス
  • その他(宜しければ感想などに)
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