世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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 大変申し訳ありません、色々ありまして当話を誤削除してしまいましたため再投稿となります。
 内容に変更はない、はずです。恐縮です…。


第10話 勝てばなんとやら

「おい昌太、修介。聞いたか?」

 

「何をだ」

 

「駅前のマ○ク──そこの店員は、レベルが高い。ってな」

 

「…なんだそりゃ。『花女の生徒はレベルが高い』みたいにIQ低そうな噂だな」

 

「いや、昌太。こればっかりはガチだ」

 

「うっそだろ、修介もそっち側の人間だったの…?」

 

「いや違う。断じて」

 

「さっきから聞いてりゃ失礼だなお前ら」

 

 

 いつも通り同じクラスの諏訪健太郎と宗谷修介とともに教室で昼飯を食っていたら、健太郎が唐突に噂の話をし始めた。

 

 この間の「花女の生徒はレベルが高い」という、アバウトで頭の悪そうな噂話もこいつから聞いた。それに関しては元々知ってたわけだけど。

 これらは健太郎が野球部に属していて、そこでまことしやかに囁かれているものらしい。通りで男子校みたいに浮わついた噂になるわけだ。

 

 個人的に噂は大体ソースが曖昧だから、信じるだけ無駄なものだと思っている。

 そうでなくとも伝播の段階でどうしても尾ひれはついてしまうものであり、実態は大したことがなかったりする。「大山鳴動して鼠一匹」ってやつだ。

 

 …まあ、花女の噂に関してはマジなやつだったわけだが…。

 

 

「てかさあ、この学校だって大概レベル高いじゃん。何とは言わんけど」

 

「確かにな。それでなんでこんな噂が広がるんだか…」

 

「…飽くなき探求心。それなくして、どうして漢でいられようか」

 

「何言ってんのこいつ」

 

「昌太?お前は漢ではないのか?」

 

「いや、それって要するに健太郎の三大欲求の一が肥大化してるだけだろ。十把一絡げにするのは止めたほうがいいよ」

 

「修介?お前も?」

 

「いや、元より多種多様な人類を一括に論じようとする時点で既に道を誤ってる。だからこそ、まずはその違いを想定するべきだな」

 

「確かに…いやちょっと待て、論点ずらそうとしても俺は騙されないぞ」

 

 

 チッ、前はこれでコロッと行ったのに。タダでここに入ったわけじゃないってか。

 

 こいつはバカだがアホではない。先天的な出来は決して悪くないはずなのだが、後天的に身についた性癖が邪魔をしている。

 それでその性癖を「男ならみな持っているもの」と先天的なものとして語り始めるからめんどくせえ。

 

 だが俺たちはレベルが高いから、それを適当にいなしつつからかって遊ぶだけの余裕があるのだ。

 実に程度の低い争いである。相対的に見れば間違いなく全員バカだ。

 

 

「聞きそびれてたんだけど、なんで修介まで頭悪くなったの?」

 

「まるで俺は元から頭悪いみたいな言い草だなおい」

 

「実際に行って見てきたんだよ。そしたらガチだったってだけ」

 

「…えぇー、本当?」

 

「昌太も言ってただろこの間。『花女の噂はガチだった』って」

 

「まぁ…そうだけど」

 

「えっお前わざわざ見てきたの?人のこと言えんの?」

 

「うるせえな、たまたま通学路で見たんだよ。そのときちょっと見ただけで納得しちゃったんだよ」

 

「あぁーわかるぜそれ。俺も校門に行って見てきたけど、壮観だったな」

 

「やっぱお前バカだろ。自分からあんな男ゼロの空間に突っ込んで生きて帰って来られるわけねぇだろバカか?」

 

「…いやに実感の篭もった語り口だな?お前も同じ穴の狢だろ?おん?」

 

「違う違う。似たような環境で辛酸舐めたってだけだ」

 

「…本当か?」

 

 

 健太郎に訝しげな視線を向けられるも無視する。余計なこと言った。

 

 見ての通り、俺はこいつらに丸山さんや松原さん・氷川さんと話したことは言っていない。もちろん燐子さんと知り合いだってこともだ。

 あと沙綾にりみりんに香澄…いや多いな。

 

 もちろん俺が辛酸を舐めたのは似たような環境どころか全く同じ環境である。

 だがバカ正直に話せばあとが面倒なのは明らかなので、適当にぼかして伝えている。

 

 女の嫉妬は面倒臭いとよく言うが、それは男でも同じだ。男女に関わらず嫉妬は面倒臭い。

 流石に修介まで健太郎側につくと間違いなく面倒臭いから、面倒臭い。もう面倒臭すぎる。すごく臭ってる。

 

 だから予めそんな事態にはならないよう、あれこれ考えて情報を封鎖しておくしかないのだ。臭いものには蓋をしなければな。

 

 

「…まあこないだのはたまたま真実だっただけで、元々俺は噂なんて信じないようにしてるんでな」

 

「お堅いねぇ昌太は…。そこまで言うなら今日の放課後行くぞ」

 

「あん?どこにだよ」

 

「マッ○だよ。晩飯付き合え」

 

「なんでだよ…別にいいよ俺は」

 

「…俺もなんとなくイラッと来たから無理にでも連行しよう」

 

「あちゃ〜修介が寝返っちまったか」

 

 

 真実を見てきたという修介の証言すらバッサリ行ったせいで敵軍に寝返ってしまいました。

 んだよ、勝てば官軍負ければ賊軍ってか。俺は賊軍か。

 

 噂がどうこうはともかくとして、この辺のレベルが高いことは確かなのである。

 だから元から俺は他の噂ほどその真偽を疑ってはいなかったのだが、そんなことはこいつらの知るところではない。

 

 結局のところ俺は爆弾でバチコーンされ辛酸を舐めさせられた賊軍なのである。ああ、悲しきかな。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「──で?駅前の○ックつったか?」

 

「ああ、間違いない。昌太は行ったことあんのか?」

 

「いや、ないな。大体商店街で済ませてるしこっちにはほとんど用ないし。そもそも鉄道も使わない」

 

「思ってたよりローカルな生態してるんだな昌太って」

 

 

 健太郎の疑問に俺がしれっと答えると、修介にローカルなヤツだと言われてしまった。

 まぁ確かに?そもそも通学の時点で鉄道使う人多いしな?

 

 今は放課後の19時台。男三人で適当に駅前界隈をぶらぶらして時間を潰してから、例のマ○クに向かっている。

 

 

「今ふと思ったんだけどさ、今行ってもその人がいるとは限らなくねぇか?バイトなんでしょ?」

 

「いや今はいるはずだ。水曜と金曜の17時から20時のシフトらしい」

 

「なんでそこまで情報割れてんの?気持ち悪…」

 

「あの勘違いしないで、俺が調べたわけじゃないから」

 

「情報知ってる時点で弁明できないと思うよ…」

 

「…」

 

「…その人ってレジなの?」

 

「あ、あぁ…二人ともレジのはずだ」

 

「ふーん、そう…ん?二人とも?」

 

「あれ、言ってなかったか?その店員さん二人いるぞ」

 

「えっマジ?修介のときもおったんか?二人?」

 

「あー、うん。いたね」

 

 

 初耳学です。

 確かにレベルが高いとは言ってたが、別に一人とは言っとらんわな。ややこしいなぁ本当…

 

 

「──あぁ、あれだ。あそこのマ○ク」

 

「今はちょうどいい時間だし、いてもいいはずなんだが…」

 

 

 マッ○前についた俺らは、歩道を挟み少し遠くからガラス越しに中の様子を伺う。外はすでに暗くなっているため、明るい店内の様子がよく見える。

 もちろんレジにいるピンク髪ポニテさんと青髪サイドテールさんの様子も──

 

 

 ん!?

 

 

「…………………俺用事思い出したから帰る」

 

「あん!?いやいや、もうここまで来たんだから腹くくってこうや。狼狽するくらいの可愛さなのはわかるがな」

 

「…ここまで来て帰れるとは思わないことだね」

 

「いやちょっ、待って!あの人たちだけは!」

 

「何だよ急に!?ほら行くぞ!」

 

 

 ヤバい、今猛烈にヤバい。

 あの店員さんは間違いなく…丸山さんと、松原さんだ。マジかー、ここでバイトしてたんかよ…

 

 知ってのとおり、俺はこいつらには花女の人との関係を伏せている。なぜならそれがバレるとめんどくせえからだ。

 そんな状況で彼女らに変に反応されたら、少なくとも俺が顔を知られていることがバレるのは間違いない。

 つまり、嘘こいてたのがバレる。

 

 これだから噂は信じてねえんだよ!ガッデム!

 

 …いや、冷静になれ俺。バレなきゃいい話なんだ、これは。

 適当に髪下ろして制服脱いで目伏せてればたぶん彼女らにはバレないはずだ。そもそも話してたのはほんの数分だけ、顔を覚えられたとは考えづらい。

 そんな曖昧な記憶の中で、もっとも特徴的だったであろう制服や髪型を伏せてしまえば。

 

 …勝った。俺が官軍だ。

 

 

「わかった、わかったから。その前にブレザー脱がせろ。暑い」

 

「さっきからどうしたんだよ…早くしろよ」

 

 

 そう申し出てから俺はブレザーをリュックにブチ込み、軽くセットしてた髪を適当にかき乱す。こうしたことで恐らく髪は落ち武者みたいになったはずだ。そうだ、これでいい。

 

 

「何、なんで突然戦場に駆り出される兵士みたいな空気まとい始めた?もしかしてお前あの人と面識あんのか?」

 

「ない」

 

「即答も即答すぎて逆に怪しい」

 

 

 そうして覚悟を決めた俺は○ックに入店し、いつも通りダブチセットを頼もうと列に並ぶ。

 さっきは丸山さんがいたはずなのだが、一旦裏に引っ込んだのかレジは松原さん一人で対応していた。

 ちなみに一緒に来た健太郎と修介は俺の真後ろに並んでいる。

 

 

「いや、ピンク髪の人はどっかで見たことあるなくらいだし。青髪の人もこないだたまたま見たのがあの人だっただけだ」

 

「何も聞いてないんだけど…」

 

「緊張しすぎだろ。もしかしてどストライクだった?」

 

「もうそれでいい──」

 

「──ご注文、お決まりでしたらどうぞっ」

 

「アッハイ」

 

 

「えーっと、店内でですね、クーポン番号の──番をひとつで」

 

「…?はっ、はい」

 

 健太郎と修介に聞かれてもいない弁明をしていたらいつの間にか俺の番だった。まあ結構空いてるしな…

 そしてブレザーを脱ぎ髪型を崩しまくったのが功を奏したのか、一応はバレていないらしい。よかった。…訝しげにはしてるっぽいけど。

 まぁ、このまま行けばどうにか切り抜けらr

 

 

「あっ!きっ、君…あのときの男の子だよね!?」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 【悲報】ワイ、賊軍だった。

 

 

「くそぅ…なんであの人パッと見で見破れたんだよ…くそぅ…」

 

「どういうことか、説明してもらおうじゃありませんか…」(半○直樹)

 

「(どうせ困ってたから声かけたとかじゃないかな)」

 

 

 もう諦めた俺はブレザーを着、髪も整え直してU字型のソファみたいな席に三人でついている。詰めれば6〜7人くらい行けそう。密です。

 

 あのとき丸山さんはできた商品を席に運びに行っていたらしい。そして戻ってきたときにレジにいた俺(落ち武者モード)を見て一発であのときのヤツだと見破ったと。

 なんてことだ、顔なんか覚えられていないはずでは…

 

 反射的に声を上げてしまってから集まる視線を自覚し少し顔を赤らめた丸山さんは、『20時にはバイト上がるから、待っててほしいな』ってぽしょぽしょ俺に耳打ちして引っ込んでった。

 まるで彼女かなんかみたいなムーブだったが、そのさまを健太郎がすげぇ目で見てきていたのは記憶に新しい(修介はそうでもなかった)。

 

 また、丸山さんの反応を見て確証を得たのか松原さんにも似たようなことを言われた。もうダメだ。

 このときの健太郎の目はもはやメデューサみたいだった(修介はそうでもなかった)。

 

 

「いやぁ、まさか昌太があの二人と知り合いだったなんてなぁ。しかも一人はあの丸山彩ときた」

 

「おい」

 

 

 修介わかっててやってんだろ。すげぇニヤついてやがる。

 こいつは都合のいい情報を与えるとモカみたいに図に乗って、適当に場を引っ掻き回して面白がるタイプだ。普段は常識人なんだが。

 これだからバレたくなかったんだよ…

 

 

「入学式の日に言っただろ、人を助けたって。それがあの二人だ」

 

「本当ー?」

 

「貴様はちょっと黙ってなさい」

 

「一回話したくらいであんな距離感近くなるわけねぇだろ…!」

 

「それは俺も知らねぇよ!」

 

「どうせそのついでにナンパとかしてたんじゃないの?」

 

「黙ってろつったよな修介」

 

「それでたった一回で落とすなんて…やるね」

 

「ねえ黙れよコラ」

 

「お前俺のこと言えねえじゃねえかゴルァ!俺を三大欲求の一の権化みてぇに言いやがって!」

 

「そこまでは言ってねぇだろ俺!」

 

 

 このままこいつらに場を任せておくと、そのうち俺が稀代のナンパ師みたいになってしまうこと大請け合いだ。この間の羽沢珈琲店でのアレみたいに。

 だから俺も弁明しようとするが、間髪入れずに修介が適当に健太郎をけしかけるせいでもっとややこしくなる。

 

 こうなるのが目に見えてたから俺は抵抗してたんだよ。

 健太郎なんかけしかけられたせいでストローマン論法使い始めたし。だぁーっ面倒くせえ!

 

 あまり手を付けられず大部分が残っているポテトはもう冷めてしまっている。馬鹿が…

 それに気づいた俺は渋々ポテトを食いながら続けて言う。

 

 

「…いや、だから。あの日は寝坊してていっぱいいっぱいだったし、そんなときにナンパなんかしてお互いに遅刻とかマジでバカの所業だろ…」

 

「…やっぱりそうだったんだね」

 

「へっ?」

 

「やっほ。隣、いいかな?」

 

「あぁ…どうぞ」

 

「ありがとっ」

 

 

 俺が弁明してたら髪を下ろし花女の制服に着替えた丸山さんが声をかけてきたので、一つ内側へずれて座る場所を空ける。

 

 クソどうでもいい問答をしていたせいで、知らないうちに20時を回っていたらしい。

 数十分を棒に振った気分になり思わず苦い顔をしそうになるが、丸山さんに勘違いされそうだから我慢。

 …あれっ?松原さんは?

 

 

「あ、花音ちゃんならもう少しかかるって。えっと、改めまして。丸山彩です、よろしくねっ」

 

「…ッ!ぇー、筑波昌太と申します。栄星の一年です」

 

「……………同じく、諏訪健太郎です」

 

「…同じく宗谷修介です」

 

 

 こっ、これが現役アイドルの挨拶…!あまりの可愛さに見とれてしまい、俺は雑な挨拶を返すのが精一杯だった。健太郎なんかしばらく黙っちゃったし。

 なんというか…やっぱ直接見ると違うなぁ…

 

 

「昌太くん、でいいのかな。あのときはごめんね、私が一人でアタフタしてたせいで。ずっと気にしてたんだけど…」

 

「…それが一人相撲だろうと、俺がやりたくてやってるからいいんですよ。それでも、どうしても気になるのなら…」

 

「…うん」

 

「『ありがとう』って言ってもらえたほうが、俺は嬉しいです」

 

「そっか…それなら、ありがとっ。昌太くん」

 

 

 そう言いながら、丸山さんはふわっと笑った。

 うん、やっぱり丸山彩と言ったら笑顔だ。ドジっ娘なところもよく可愛いなんて言われるけど、個人的には笑顔が一推しなんだよな。

 

 

「それで…さっきは何を話してたの?」

 

「えっ?あーえっと、俺が入学式の朝の話で疑いかけられてたんで弁明してました」

 

「えぇっ!?だ、大丈夫だよ私は!昌太くんは本当に助けてくれただけで!」

 

「丸山さんが言うなら間違いないですね」

 

「お前さっきまであんだけ騒いでただろ、手のひらクルックルじゃん」

 

「まっ、俺はわかってたけどね」

 

「じゃあ適当に引っ掻き回すなよお前は」

 

「あの、私も混ぜてもらって…いいかな?」

 

「あ、どうぞ」

 

 

 数分して松原さんも来たのでさらに俺が奥へ詰める。俺の隣に座ってた丸山さんもさらにこっちに詰めてきてちょっと距離が近い。

 

 俺の左横の二人を健太郎はマヌケな表情で見ていて、修介はそんなバカみたいな顔してる健太郎をニヤニヤしながら見ている。

 正直俺もさっきとの落差がひどすぎて面白い。色々と素直すぎるわこいつ。

 

 …と、松原さんはそんな健太郎のバカみたいな視線に気づいたのか。

 

 

「…ふえっ」

 

 

 と言いながら、ちょっと顔を赤くして俯いてしまった。松原さんってやっぱり人見知りだったんだな…。

 その様子を見ていた健太郎は口元を手で抑えてこちらも少し俯いた。でもこれニヤついてるんだわどう見ても。気持ち悪。

 

 ただこのままだと埒が明かないので適当に話をそらすことにする。

 

 

「俺は筑波昌太と言います、栄星の一年です」

 

「……同じく、諏訪健太郎でし…です」

 

「ブフッ…ごめんなさい、同じく宗谷修介です」

 

「笑うなお前修介!てかさっきからニヤニヤしながら見てくんじゃねえ!」

 

「いやぁ、これはお前が面白いのが悪い」

 

「やっぱ馬鹿にしてんだろお前!!」

 

「…ふふっ、仲いいんだね。私は松原花音と言います、花咲川の二年生です。よろしくね」

 

 

 割と無理のある話題転換だったが、健太郎が変に噛んでくれたお陰でうまく行った。今回ばっかりはありがとう健太郎。

 

 

「花音ちゃんは道案内してもらったんだよね?」

 

「うん。昌太くん、あのときはありがとう。本当に助かっちゃった。遅刻とかはしなかった?大丈夫?」

 

「こいつ教室にヘッドスライディングしてきましたよ」

 

 

 と思ってたら余計なこと言いやがった。やっぱお前許さん。

 

 

「ブフッ!……ッ!ちょっ、それは…ハハハッ…」

 

「余計なこと言うな健太郎、せっかく適当にぼかそうと思ってたのに。修介は今更笑ってんじゃねえよ」

 

「…っはー、いやすまん。今考えたら意味がわからんくて」

 

「あれ野球部の俺からしてもめっちゃフォーム綺麗だったんだけど、お前野球やってたの?」

 

「ブハッ」

 

「あーまた笑っちゃったよこいつ。いや俺素人だよ」

 

「マジ?センスあるぞお前」

 

「何それ…」

 

「…ヘッドスライディング…!?まっ、間に合ったの…?」

 

「あー全然大丈夫でしたよ。気にしないでください」

 

「…いや、流石に気になるかな…前代未聞だし…」

 

「反論の余地もない…」

 

 

 よく考えたらヘッドスライディングしていようが結局は自分の席についてなきゃダメなわけで、むしろこれはタイムロスである。

 そりゃ誰もやらんわ。時間の無駄だもん。

 

 とかなんとか考えてたら、丸山さんがこっちにスススと寄ってきた。そしてまた俺の耳元に顔を近づけ…

 

 

『私のことは、名前で呼んでほしいなっ』

 

 

 不意打ちにもほどがある。

 顔がどうなってるのかわからなくなった俺は、思わずテーブルに突っ伏してしまった。

 それを見た健太郎はさっきまで大人しくなったのにまたやかましくなり始めた。あーあーうるせえよお前!

 

 

「…お前やっぱ丸山さんに何かしただろ!なんでそんなに距離感近えんだよ本当に!」

 

「ひぅっ!わ、私は大丈夫だよっ」

 

「うるせえ健太郎!さっき本人が何もされてないって言ってたばっかだろ!」

 

「おっ、また面白くなってきた」

 

「お前も少しは助けてくれねぇか!?」

 

「信じられるかよこれ見て!昌太お前そんなんじゃ松原さんにも手ぇ出してんだろアァン!?」

 

「ふぇっ!?えっと、その…」

 

「松原さん!?」

 

「そら見たことか!とっとと吐け!」

 

 

 …ん?今度は松原さんがこっちに…

 そしてさっきの…えー、彩さんみたいに、俺の耳元へ顔を…

 

 

『私のことも、彩ちゃんみたいに、名前で呼んで…ほしいな?』

 

 

 聞いてたんですか?

 彩さんも松b…花音さんもこちらを少し俯きながらチラチラ見てくる。顔真っ赤…。

 そんな二人の様子を見て健太郎がさらにいきり立つ。修介は放置しながらケラケラ笑ってる。もう収拾がつかない、助けて。

 

 …まあ、頼まれたなら言うしかないですよね?人の頼みは極力反故にはしないタチなので。

 二人にだけ聞こえる程度の声量で俺は言う。

 

 

「…彩さん、花音さん。よろしくお願いします」

 

「…!うんっ!」

 

「よろしくねっ」

 

 

 このあときっちり冷えっ冷えのダブチを五人で騒ぎながら平らげた。ま、まぁ?マ○クは冷めても結構美味いし?

 てか始終健太郎が騒いでたのもそうだけど修介が適当なこと言わなかったらもうちょっと熱いやつ食えてただろ。恨むぞ。

 

 そして21時を回ろうかという頃に彼女らとは店の前で別れた。その時連絡先教えてもらったから家帰ったらLIGNEしよ。

 

 あとその後に店の前で健太郎があまりに執拗にさっきなんて言われたか聞いてくるもんだから素直に白状したら、一発頭をはたかれた。

 

 

 もちろんやり返した。

 

 




 
 よろしければ今回も感想や評価等宜しくお願いします。

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  • いつものゆるい日常
  • シリアス
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