世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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 お ま た せ し ま し た

 TK109様、Canopus様、霞花 悠馬様、エリシュ様、むら24様、ケチャップの伝道師様、カラシスパ様、評価ありがとうございます。
 またおかげさまでUA1万、お気に入り250件達成していたようです。ありがとうございます。
 


第11話 春といえば

 あぁ、ついに来てしまった。俺は感じてしまった。

 

 

 先ほど鼻腔を伝うナニカを感じ、思わず鼻をすすってしまった。そして遅れて理解した。

 

 戦いが始まる。毎年のように起こる、人間と自然の抗争──いや、自然による人類の蹂躙が。

 もはや戦いなどと形容するのもおこがましい。それは一方的な鏖殺にほかならない。何しろ人間には目薬やマスクといった防衛手段しかないのだ。

 反撃の狼煙を上げられないのに、どうしてそれを「対等な戦い」と言えようか。

 

 ついに花粉の蔓延る季節(地獄)が本格的に幕を上げてしまったのだ。かくして戦いの火蓋が切られたのだ。

 花粉という弾を装填した火縄銃──もとい春は、我々をその散弾で射抜き、射抜き、射抜き散らす。まさしく長篠の戦いのように。

 

 ただ一方的に俺らがボコされるだけのあまりに理不尽な季節、春。だからこそ俺はお前が嫌いだ。

 

 

 って言うことを羽沢珈琲店で力説したら、失笑とまでは行かなくても皆して苦笑を浮かべていた。

 なんでだよ!?!?こんな季節あんまりだろ!?!?

 

 

「確かに花粉症はつらそうだけど…」

 

「あたしたち皆花粉症じゃないし。花粉症なのは昌だけ」

 

「ちきしょーーーー!!!!!」

 

 

 思わず場を弁えずに叫び声を上げてしまった。

 

 ふん、持たざるヌシらにはわからんのよ。この塗炭(とたん)の苦しみが。

 花粉症患者にとっては、スギやヒノキの花粉が飛ぶというだけで春は憎悪に値するのだ。なくてもいいなら即滅んでしまえと言ってしまうくらいには。

 

 俺は春だけだからまだマシだが、ひどいと秋も、あるいは年中この症状に悩まされる人もいるとか。

 嫌すぎる。俺だったら動物に転生して自然に生きることを考えるレベル。

 

 生活習慣病などと並んで現代病として悪名高い花粉症。もう二度と同じ苦しみを味わう者を出してはならない。

 さっきはああ言ったけど、正直苦しみ知らないんならもう一生知らないでいてくれって思う。こんなもんで毎年毎年苦しまないでくれ。これは当事者からのお願い。

 

 

「でも、春ってそんな悪いことばっかりじゃないと思うけど…」

 

「ほら、よく出会いと別れの季節って言うじゃん!甘酸っぱい感じして私は好きだけどなー」

 

「ひまりの言ってんのはアレだろ?第二ボタンがどうの言うアレだろ?普通甘酸っぱくはないだろ、さくらんぼかよ」

 

「さくらんぼみたいにぷちっとしてて可愛い?ふふーん、ありがとー昌太!」

 

「人の話聞けや」

 

 

 この子に皮肉なんてものは通用しない。

 さくらんぼに関してはただの比喩だが、仮に悪意を込めて言ったとして穢れを知らないひまりはストレートに受け止めてポジティブに解釈する。

 死ねどす総本家だって通用しないぞ。

 

 多少ムカつきはするが、この穢れを知らない笑顔だけは守らなくちゃいけないんだ。いいね、諸君?

 

 

「桜は?桜あるじゃん」

 

「巴さんや。花粉への憎悪を前に桜の魅力など塵芥にすぎんのだよ」

 

「憎悪が強すぎる…もはやこの世のすべてを憎んでそう」

 

「俺はそこまで真っ黒じゃねえよ蘭」

 

「ん〜?春ってイベント目白押しで楽しいけどな〜。ほら、期間限定のパンとか〜」

 

「言うと思った」

 

「まぁ確かに桜とかこの眠くなる陽気とかいろいろあるけど、それでも花粉症が嫌すぎて表に出たくない」

 

 

 確かに桜は被写体として本当にバエる。それは俺も否定しないし、むしろ全力で賛同する。

 それにモカも言ってたけど特有の食べ物もたくさんあるからな。たけのこに山菜、七草がゆとか桜餅とか。あ、天ぷら食いてぇ。帰りに惣菜コーナーで買ってこ。

 

 それでも俺にとっての花粉は春の象徴すらぶっ飛ばすくらいにはエ↑グー↓な存在なのだ。もう秋冬しか勝たん。

 

 その俺の言い草につぐは一言つぶやく。

 

 

「もったいないなぁ…」

 

「まぁ対策すりゃ出れんこともないけど。今どきイオンブロックがどうの言う、顔にスプレー吹きかけるやつとかあるし。便利だよほんと…」

 

「大丈夫それ?わさびとかじゃない?」

 

「毒霧かよ。何が悲しくて一人でプロレスしなかんのや」

 

「表に出られないのは本当にもったいないよな。春は特に見た目でもよく映える季節だし」

 

「うん。花咲川沿いの桜並木とかすごくきれいだよね」

 

「CiRCLEのカフェテリアの眺めもいいんだよねぇ。スイーツが進むよ…」

 

「…そうじゃなくてもひまりは」

 

「やめて!!」

 

 

 うん。まあ、ね。好きなことを自重してもろくなことないからね。

 「このつまみは酒が進む」つってる親父みたいでなんか嫌だが、ひまりの言うこともわからんではない。

 

 …あっ、忘れてた。CiRCLEつったら──

 

 

「そういやさ、なんでこないだ蘭は俺を振り切って逃げたんだ?正直泣きそうだったんだが」

 

「ッ!?いっいや、それは…」

 

「…」

 

「うぅ…その、ごめんね?」

 

「何が?」

 

 

 何が?なんでつぐが謝るの?

 さっきまでは普通に目線を合わせてくれてたのに、またあの時みたいに皆目をそらし始める。

 

 …何が?

 

 

「え…っと、あっあの日は急用ができて!」

 

「…それと目をそらすのはなにか関係が?」

 

「いやっ!何もないよっ!…ないです…」

 

 

 蘭に聞き返してたら突然ひまりがボリューム調整ミスったスピーカーみたいなデケェ声出すもんだから思わずそっちを向いたら、何故か尻すぼみな敬語で返してきた。

 ひまりさん?

 

 

「ひまり?お前か?お前がなんかしたんか?ん?」

 

「ひゃぁあぁ〜…何もっ、何も…してない、よ?」

 

「あっ、ああああ顎クイっ…!?」

 

 

 怪しい。確定でしょこれ。

 ちょうど左横に座ってたひまりに取り調べ中の刑事よろしく顔面を寄せて圧力(笑)をかけてたら、よわよわしい声を漏らしながらやっぱり目を全力でそらしてくる。

 ついでにつぐがなんか言ってたが聞こえなかった。

 

 くそぅ、あくまでシラを切るつもりか。

 

 

「はぁ、あくまでもシラを切るのか。まぁそこまで言うなら俺も深くは聞かねえけど…」

 

「そうしてくれると、助かるかなー…」

 

 

 珍しく俺の目の前に座ってるモカもどこかそわそわしながらそう言う。いつものおちゃらけた雰囲気はどっかへすっ飛んでしまっているが…。マジでどうした?

 

 

「…嫌われちゃうようなことしたんかな、俺…」

 

「それはないから大丈夫。皆大好きだから、昌のこと」

 

「お、おう?ありがとう?」

 

「蘭っ!?」

 

「…あっ」

 

 

 俺の斜向かいの蘭は顔を真っ赤にして突っ伏してしまった。

 気を遣って言ってくれたのはわかるが、そんなになるなら無理しなくてもいいのに…。

 俺がそんなことを言うと、蘭はくぐもった声で返答してくる。

 

 

「何かすまん。気を遣わせたみたいで」

 

「…別に気を遣ったわけじゃない」

 

「とにかく、何もないから!本当だよ!」

 

「わかったよ…」

 

 

 隣で顔を真っ赤にしながらひまりはそう念押ししてくる。本当に説得力がないが、まぁ本人たちがそういうのならもう触れまい。

 それになんでか知らないけどこれ以上聞いたら面倒なことになる予感がする。こういうときの第六感の精度はヤバいって相場が決まってんだ、素直に従っとこ。

 

 

「えーっと…ほら、中間考査近いし!」

 

「いやそれはたぶん全然関係ないけど」

 

 

 つぐが話題転換のためかそう言うと、突っ伏していた蘭の身体からスンッ…と力が抜けた。えっ、魂抜けた?

 

 それはひまりも同じだったようで、念押しするため乗り出してきていた体勢から一転俺の方へ──と思いきや、無理やり体勢を変え机の方へぶっ倒れた。

 何なんだよ、こないだは躊躇なかったじゃねえか。

 

 それを軽く怪訝に思いながら俺は続けて言う。

 

 

「何?また不安要素あんの?」

 

「授業、聞いてない…」

 

「蘭は別のクラスだからわからないけど、少なくともひーちゃんは黒板だけ写して話は聞いてなさそうだったよ〜」

 

「おい」

 

 

 お前ら中学校で散々苦労してきただろそれで。

 で、この惨状を巴やつぐ、モカに俺が助太刀するまでがテンプレ(天ぷらではない)。

 その甲斐あってか成績的にはみんな問題はないのだが、蘭とひまりは俺らがいなけりゃどうなってたか…。

 

 モカは腹立つことに授業さえ聞いてりゃどうにかなるタイプで、巴とつぐはコツコツやってるタイプ。ひまりと蘭は言わずもがな。

 まぁ良くも悪くも性格が出てますよね。ちな俺は巴とかつぐと同じ。

 

 

「羽丘ってどこまで範囲進むの?流石にめっちゃ進まれると俺は手に負えないぞ」

 

「栄星のほうがずっと進んでるんじゃないかな?えっと、数Ⅰはどこやってる?」

 

「ん?えー、こないだは集合と命題の前まで行ったな。あとは中間までおさらいとかするらしいが」

 

「えっ!?それって40ページくらいあるんじゃ…」

 

「だな。流石に俺もヤバいが、まぁどうにかする。つぐは?」

 

「私たちは…実数のところかな。たぶん20ページと少しくらい」

 

「…それなら大丈夫か」

 

 

 栄星は数学で言えば高1の時点で数Ⅱの半分くらいを終わらせ、高2で数Ⅲをサラッとやる。で、高3の残りの期間でずっと受験対策をするんだとか。

 やっぱりウチって箔がついてるだけあってやべぇんだな。これくらいがザラなのかと思ってたが。

 

 

「今年も、お願いね?」

 

「ん、任された。おう蘭にひまり、()()()見てぇか?」

 

「…」

 

「死゛に゛た゛く゛な゛い゛…」

 

「そこまでは言ってないんだけど…なら今年もやるぞ。ついてこい」

 

「…どこでだ?」

 

「あっ」

 

 

 ◇◆◇

 

 

「うぅぐ…むずかしい…」

 

「日頃から積み重ねてくしかねえよ、こればっかりは」

 

 

 結局手頃な場所がわからなかったので適当に俺んちに招集。そしてリビングで屯して各々教え合っている。

 呻き声を上げたひまりがやってるのは倫理。ただ一回聞いただけでは理解が難しい分野で、それゆえ苦戦しているのだ。

 

 

 そういえば、みんなが俺んちに来た直後はさっきのモカみたいに妙にソワソワしてたが本当に何なんだよ。

 さっき聞くなって言われたことと関係あるのかないのかは知らんけど、そうやって態度に出されるとこっちも気になるからあんま表に出さないでほしい。

 

 …もしかしてちょっと掃除サボってたのバレたか?いや、違うんですこれは。パッと見はキレイだからセーフ。

 ほら梁とかちょっと指でなぞってもなんもつかんやろ。セーフセーフ。冷蔵庫の上もめっちゃキレイなんだぞほら見ろ!

 

 

「あ、緑茶いるか?とってくるわ」

 

「あたしも行く。一人じゃ持てないでしょ?」

 

「すまんな。助かる」

 

 

 家に来てからは黙々と勉強に勤しんでいた蘭が、俺の言葉に反応してついてくる。

 普段は勉強に関してはもう少し抵抗するんだが、今回は存外に素直だ。やっと腹を括ったか。

 

 

「緑茶って言ってたよね。どこのやつ?」

 

「あぁ、そういや蘭もいろいろ知ってたな。今回は川根茶ってのを買ってみたんだが」

 

「ふーん。渋いのが好きなの?」

 

「緑茶に関してはそうだな。羊羹とか大福とか甘いのも好きだから、その反動かな。渋みが強いほうが俺は好き」

 

「そっか。渋いのだったら狭山茶とかがもっと渋いと思う。あたしもよく飲むけど」

 

「へー、今度買ってみるわ」

 

 

 蘭は華道の家元の娘で、趣味もシブいところがある。

 

 Afterglowではギタボをこなす彼女は華道、ないしは花卉(かき)に精通している。花言葉とかもめっちゃ知ってるし…うんちくをスラスラ話してるとこは一回見てみてほしいわ。

 

 その一環で彼女の嗜みもかなり和に染まっているのだ。普段のパンクな装いの蘭しか知らない人には想像もつかないだろうがな。

 

 今更なんだが、やっぱり俺の周りには属性盛りだくさんのヤツが多い。てかみんなそうだわ。普段付き合ってて飽きないわけだよな。

 そもそも今のオタクは何にしたって属性を見出し愛でるスキルを持ってるから、属性がないなんてありえないわけなのだが。

 

 

「やっぱ緑茶はあの渋みあってこそだろ。あれなきゃ飲んだ気にならんわ」

 

「飲み比べでもしてみたらいいんじゃないかな。甘みとか香ばしさ重視の緑茶も捨てたもんじゃないよ」

 

「日本のお茶に関しては信用してるし、そうしてみるわ。海外のは甘くてキツかったが」

 

 

 俺がそのとき飲んだのはいわゆる甜茶ってやつだな。

 海外では緑茶といったらこういった甘い緑茶が主流で、実は苦いお茶というのはマイナーなものである。

 その証拠に日本のように甘くない緑茶はわざわざ「Non Sugar」とか「Unsweetened」って書いてある。

 

 これを知らずに海外で緑茶っぽいのを買うとめっちゃ甘いジュースみたいなやつだったっていう初見殺しが存在するから海外行くヤツは注意しろ。マジで。

 

 

「あ、新茶じゃん。これ渋みというよりは甘みとかが強いやつだよ」

 

「ワーオ。そしたらさっそく香ばしさ重視でやってみるか…?えーっと、どうやるんだっけ」

 

「低温でじわじわ抽出するほうがいいかな。やかんで沸騰させてから湯呑みで一旦冷まして、それから急須に注ぎ直す」

 

「ほう。ちょっとやりながら教えてくれん?」

 

「うん」

 

 

 さっきとは立場が逆だな。そう考えて思わず少し笑ってしまう。

 こういうときの蘭は本当に頼りになる。蘭の親がお茶を始めとした和への造詣が深く、だからこそ蘭の知識も確かなものだ。

 

 

「頼りにしてるぞ、蘭」

 

「…ッ!唐突に言うのはズルいって…」

 

「ん?どした?」

 

「…いや、なんでもない。ほら、そろそろいい温度だから。急須に注ぎ直して」

 

「あいよ」

 

 

 そうして湯呑みのお湯を急須へ注ぎ、40秒くらい待つ。

 今までは蒸らすとかよくわからなくてやってなかったからな。多少調べてやってはいたが、なんでも沸騰させときゃいいのかと思ってた。

 

 ちなみに急須は何故か実家にあったデケェのを了解を得て持ってきた。60号というサイズらしいが、たぶん1Lくらいは入るから6人分ならちょうどいい。

 

 流石にこんな大人数じゃないと60号は引っ張り出すこともないし、普段もっと小さいのを使っている。

 

 

「このあとはどうすんだっけ」

 

「2〜3回回して、少しずつ均等に淹れてく。いつものことだけど全部絞りきっちゃうから」

 

「まぁ、それはいつも通りだよな。今まで俺は直接沸騰させたお湯をブチ込んでたわけだけど」

 

「同じお茶でも低温でじわじわやるか高温でササッとやるかで味も違うからね。高温だと味濃くなるし、渋いのが好きなら高温でいいんじゃない」

 

「なるほどね。勉強になるわ」

 

 

 たぶんちょうどいいくらいに蒸れたので、いい加減回そうと急須を持つ。

 そのときに俺がトンチンカンな持ち方をしていたのか、蘭がまた一つ言ってくる。

 

 

「柄を右手で持って、左手で軽く蓋をおさえる」

 

「…こうか?」

 

「まぁ、それでもいいけど──」

 

 

 そう言いながら、蘭は俺の手を握ってちょこちょこと持ち方に修正を入れてくる。あ、これは楽だわ。変に力が入らない体勢というか。

 

 

「なぁ、蘭。ついでだしこのまま回し方とか注ぎ方とか教えてくれないか」

 

「えっ」

 

「ん?ダメか」

 

「いっ、いや…………いいよ」

 

「おっ、サンキュー」

 

 

 俺がそう言うと、みょーにぎこちない蘭が手を軽く重ねながら一連の動作をこなしていく。ちなみにやりづらいのかその前に俺の腕の間に入ってきた。

 うおぁすげえ。一応俺が急須を握ってはいるが、信じられないくらい洗練された動きで緑茶が注がれていく。俺が俺じゃないみたい。

 今の俺の気分?そうだな、『日本の技』みたいな動画で超絶技巧を見せられたときの気分。そのままじゃん。

 

 ボーッとそのさまを眺めていると、注ぎ終わるのはあっという間だった。

 

 

「いや、すごいな。ありがとう蘭、参考になった」

 

「……ん。ほら、早く持ってこ」

 

 

 蘭は少し手を強く握ってからパッと離してそう言った。…んー、やっぱさっきのぎこちなさは気のせいだったかな。今はそんな素振りは見せてないし。

 

 ちなみに緑茶はめちゃめちゃうまかった。流石にこの味を知ってしまったらあとには戻れないと思った俺が、もっと拘りを持つことを心に決めたほど。

 




 今回もよろしければ感想や評価等宜しくお願いします。

これからはどっちが見たいですか

  • いつものゆるい日常
  • シリアス
  • その他(宜しければ感想などに)
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