世話焼き男子とガールズバンド 作:れれれれ
お待たせしました、やっと書き上がりました。新章です。
スーパー1様、松原悠斗様、ガスロ様、評価ありがとうございます。
第13話 ハイ・コントラスト
懐かしいな、この夢も。
俺の目の前にはまだまだ幼さの残る少年少女。もちろん彼らに触れることは叶わない。これは夢なのだから。
少年は背丈に合わぬ大きさのギターを、少女はカスタネットを携えジャカジャカと無造作に掻き鳴らす。
正直今の俺にしてみれば見るに堪えないが、それでも優っている点はある。
眩しい。
突然場は明転し、いつのまにか少女のカスタネットはスティックになっていた。
演奏の腕はかなり上がっている。それこそあの時に勝るとも劣らぬほどだ。
やはり勝てないな、今の俺には。
だって彼らは──
眩しいくらいに笑っているじゃないか。
◇◆◇
ヒロシです…
高校の食堂で昼飯食ってたら、香澄からLIGNEで謎の住所が書かれたメッセージが飛んできたとです…
なんすかこれ。チェーンメールかなんかか?
本当にこの子はいろいろと無防備で心配になるな。こないだの『家の方向が同じ』といいさ、もうちょっと気を付けたほうがいいと思うの。
ついでに言うと、このメッセージは前後のそれと何の脈絡もない。昨晩にした雑談の流れを考えても全く意味が分からない。
この住所の説明が飛んでくる気配もないし…不親切すぎる…。
これがマップの座標を共有したものとかだったらまだ理解できたかもしれないが、そうではなく住所と郵便番号を直接飛ばしてきてるのが猜疑心を加速させる。
とりあえず扱いに困るし香澄に聞いてみよ。
筑波昌太『なにこれ』
Kasumi☆『ありさんち』
Kasumi☆『!』
誰やねん。
筑波昌太『だれやねん』
Kasumi☆『わたしの友だち!』
筑波昌太『はあ』
筑波昌太『てか』
筑波昌太『本人にちゃんと言ったか』
筑波昌太『おれにアドレス送るって』
Kasumi☆『いってない』
筑波昌太『おい』
おい、そのありさって人に確認取らずに俺にメッセージ飛ばしてきたんかよこいつ。
そもそも誰だよありさって。俺の知り合いにそんな名前の人はいない。
筑波昌太『見なかったことにするから』
筑波昌太『住所は送信取り消ししなさい』
Kasumi☆『なんで?』
筑波昌太『なんでってなに』
Kasumi☆『住所わかるの?』
筑波昌太『は?いやしらんけど』
Kasumi☆『練習見てくれるんでしょ?』
筑波昌太『まっ』
筑波昌太『まってどういうこと』
やべ、誤送信した。
何を言っているんだ香澄は。これは理解できない俺が悪いのか?俺のせいなのか?
確かに見るとは言ったが、なんでそれで俺に知らん人の住所送りつけることにつながるんだよ。つながりが全然見えてこない。
筑波昌太『わけわかんねぇんだけど』
筑波昌太『とりあえず今電話できるか』
Kasumi☆『いいよ!』
筑波昌太『俺からかけるわ』
文章じゃらちが明かないと思った俺は、ひとまず香澄に電凸することにした。
たぶんヤツは何か重大な情報を俺に伝えていないはずだ。だから俺も香澄が何を言っているのか理解できていないんだと思う。そうだと思いたい。
ちょうど台湾ラーメンも食い終わったので、食器を返却口に放り込んでから食堂の隅で香澄へ電話を掛けた。
「もしもし。香澄、結局あの住所は何なの?」
『住所?…おい香澄、お前なにした?トーク履歴見せろ』
『えっ?は、はいこれ』
香澄に電話をかけて早々に、知らない女の子の声が香澄にトーク履歴の開示を要求し始めた。どうやらあっちはスピーカーモードで通話に出たらしい。
少しの物音の後に、深いため息が聞こえてくる。
『もしもし。筑波さん…でいいんですよね。市ヶ谷有咲と言います』
「あ、どうも。筑波昌太です。もしかしてさっきの住所って…」
『そうです、私の家です。その、プライバシーに気を遣ってくれたみたいで…ありがとうございます』
「まあ…当然のことですので」
半ばげんなりしたような、疲れたような声色で市ヶ谷さんは感謝してくる。さてはこの人苦労人ポジだな?
『香澄、住所だけ昌太に送ったの?』
『ダ、ダメだったかな?』
『さすがに住所だけじゃ訳が分からないと思うな…』
その後にまた知らない女の子の声(なぜか俺の名前を知ってる)、それに答えた香澄の声と…これはりみりんか?の声が届く。
思ってたよりその場に人いるんすね。
「えーっと、市ヶ谷さん?こうなった経緯ってご存じで…?」
『あーはい、まず私の家って蔵があるんですけど──』
市ヶ谷さん曰く、事はこうだ。
彼女ら四人はバンド活動に向けて日々練習を重ねていて、そこに俺を呼ぶ流れになった。
んで、その練習場所が市ヶ谷さんちの「蔵」なる場所なんだとか。
練習場所の連絡はその時は香澄に任されたのだが、その香澄がめっちゃ雑に俺へ連絡をよこしてきた。
そして事前情報なしじゃ到底理解できないそれを俺が理解できるはずもなく、俺がこうして電話する羽目になったと。
つまりあの住所のメッセージは「招待状」だったわけだ。こんな不親切な招待状があってたまるかよ…。
「じゃあとりあえず俺はここに行けばいいんですね?」
『そういうことです。お手数おかけします…』
「いえ、説明ありがとうございました。助かります」
『絶対来てね、昌太くん!』
「わかったわかった、んじゃ切るぞ」
実に回りくどくはあったが、とりあえず俺は市ヶ谷さんちに行けばいいらしい。
顔すら合わせていない人の家にお邪魔するのは普通に抵抗があるが、まあ仕方ない。一度受けてしまった手前割り切るしかなかろう。
「それにしても、バンド…ね」
◇◆◇
放課後、言われたとおりに送られてきた住所──市ヶ谷さんちにやってきたはいいが。
「…これ、入っていいのか。てか蔵ってどの蔵だ」
全くわからない。
面識ない人の家ってだけで抵抗あるのに、そんな敷地を何も考えずにフラフラできるほど俺の心臓は強くない。
というかこの現代社会において「どの蔵だ」なんて悩む日が来るとは思わなかったわ。
表札には「市ヶ谷」と書かれているため、場所自体は間違いないはずなのだが。
「君が昌太?」
「ん?」
俺が入り口のど真ん中で突っ立っていると、後ろから不意に声がかかる。
グレーのギターケースを背負った花女と思しきその人物は、パッと俺の真横に来てオリーブ色の目で俺をじっと見つめてきた。
…?どこかで見たことがあるような…気のせいか?
「…」
「…俺か?」
「うん」
「あー、俺は筑波昌太って言うんだが。ここの蔵ってとこに用事があってな」
「そっか。こっちだよ」
「えっ?」
「用事あるんじゃないの?」
「お、おう。じゃあよろしく」
「うん、私は花園たえ。おたえでいいよ」
そうしてこれまた唐突に名乗ってきた彼女は花園たえと言うらしい。なんとなくリズムが掴みにくい人だ。
しかもおたえて…まあ呼ぶけど。
ふわりと腰にまで届くくらいの茶髪を翻らせながらずんずんと敷地へ入って行った彼女のあとを、多少狼狽しつつも追っていく。
ここを一言で言えば、なんともシブいお屋敷である。
現代建築によくあるコンクリの類いは一切なく、ぶっとい木柱に漆喰、瓦屋根という佇まいが何とも風流。
またそこかしこに丁寧に剪定された植え込みや盆栽が据わっており、誰だかは知らないがここの住民はいい趣味をしてらっしゃる。
「ほら、ここの蔵。ここね、地下室があるんだ」
「地下室」
市ヶ谷家ってかつての地主さんだったりする?
母屋がすげぇ立派な時点でなんとなく思ってたが、離れである蔵に地下室があるとかもう何かしらの富は築いてますよねこれ。
そんな俺をよそにおたえはやっぱりズケズケと、もはや自分の家か何かのように入っていく。
ビジュアルだけなら氷川さんと同系統なのかなと思ったんだけどね。やっぱ人って見た目だけじゃないよね。
「来たよ」
「あっ、おたえ!昌太くんは?」
「ここに」
「おっす」
「蔵へようこそ、昌太くん!」
「なんでお前が言うんだよ…」
「こんにちは、昌太くん」
「もういたかりみりん。こんにちは」
意を決して俺もついていくと、中にはおたえ含めすでに制服姿の4人が揃っていた。で、何故か香澄に歓迎される。ここお前んちじゃねえだろ。
えー、二人がけの長椅子に座ってる金髪ツインテールの人が市ヶ谷さんかしら?あらかわいい。
「えっと、市ヶ谷さんですか?筑波昌太と言います、栄星の一年です。突然お邪魔して申し訳ない」
「お気になさらず…市ヶ谷有咲です。見ての通り花女の一年生で、えっと…同い年だから、敬語はなしでいいですよ」
「…それならお言葉に甘えて。俺もタメ口でいいぞ」
「ん、ありがと」
「あれっ!?私より打ち解けるの早いね有咲!もしかして知り合い?」
「「ちげーよ」」
「息ぴったりだね」
「お前と違って筑波さんは常識人だからな。勝手に私の家にズケズケ入ってこないし。それをやったお前を警戒してたのは当然だろ?」
「ブルートゥス、お前もか」
「あはは、なんというか…あの二人は不思議な人だから」
りみりんそれフォローになってなくない?
やっぱりおたえもそっち側か。りみりんの反応で確信した。そこで香澄とまとめて扱ってるあたりある種での同類なんだあいつら。
「最初は蔵って聞いてどんな環境なんだとは思ったが、なるほどいいとこだ」
「でっしょ~~?」
「だからここ私の家だから…なんでお前が威張ってるんだよ」
「香澄ってきつねなんだ。うさぎじゃないのか…残念」
「私は人間だよ!?」
「…『虎の威を借る狐』ってか。わかりづら…」
「「あー…そういう…」」
とてもわかりづらいボケをありがとうございますおたえさん。…えっ?まさかそれ素で言ってんのお前?うさぎってなんだよ一体。
「それで、バンドって言ってたけど。パートとかはどうなってるんだ?」
「えっと、今のところはー…私が、ギターとボーカルで」
「私はギター」
「キーボードで」
「私はベースだよ」
「なんかやけにバランスいいな…」
「まぁ、偶然も偶然って感じだけどな」
「あとは…ドラムの人がいれば、完璧だね」
「…」
「おい、筑波さん?どうした?」
「…ああ、すまん。何でもない」
ドラムか。ちょうどそのパートだけ空いているというとなんとなく作為的なものを感じてしまう。
あまり打算的な思惑に巻き込みたくはないが、もしかしたら彼女たちなら…。
「昌太。ギター弾けるんでしょ?聞かせてよ」
「いいけど…ギター持ってないぞ」
「それなら私の貸すよ!」
「あ、マジ?助かる」
もう答えは出したはずだったんだがな。
おたえに声をかけられた俺は、ひとまず考え事は脳の隅へ押し込み練習に集中することにした。
「…」
──おたえのどこか見透かしてくるような視線に、居心地の悪さを感じながら。
◇◆◇
練習後の夜。戸山香澄と二人っきり。
いや、違う。違うんだ。これは言葉の綾だ。
単純に日が暮れるまで蔵で彼女らの練習に付き合い、その後俺は帰途についたわけだが。
そんな俺の隣には、何故かあの日のようにトコトコと歩く香澄がいる。
曰く、「家の方向が同じ」──このくだり前もやっただろ。
何回もこれやってると香澄んちってめっちゃ近所なんじゃないかと思ってしまう。
すでに日も暮れ薄暗い住宅街の路地の左端を、二人で駄弁りながら歩いていく。
前と同様俺の右側には自転車。左側に香澄がいる。
蛍光灯に円くぼんやりと照らされる、とうに夜の帳が降りた路地。徐ろにそのそばで立ち止まった俺は、香澄に気になっていたことを聞く。
香澄は遅れてその光の円の真ん中で立ち止まり、こちらへ振り向く。
「なあ、香澄」
「どうしたの?立ち止まっちゃって」
「なんでお前、バンドやろうと思ったんだ?」
元より香澄が何かを強く希って行動していることは、先日沙綾やりみりんから聞き及んではいた。
だがそれを聞いてからずっと、その想いの丈を彼女の口から直接聞いて確かめてみたかった。そして、それが何故バンドにつながったかも。
「…私ね、最初にバンドのライブを見たとき、すっごい感動したの。私の『キラキラドキドキ』がここで見つかるかもしれないって」
「それは『星の鼓動』ってやつか?」
「うん。ほら、今だって金星が輝いてる。月は見えないけど、他にたくさんの星が輝いてるよね」
そう言いながら、彼女は広がる青黒い夜の色を真っ直ぐと指さした。
つられて俺もその先を眺める。ここは中心街に比べかなり暗いため、長らく見ていなかった星々がよく見える。
「ずっと前に明日香…えっと、私の妹と森で迷子になっちゃって」
「えっ、遭難?それは大丈夫──いや、ここでこうして話してる時点で無事か」
「うん。まあどこにでもあるような、ちょっとした森だったから。それで…今こうして見えてる星たちの光の話って知ってる?」
「あぁ。例えば地球から700光年離れてる星は、その光がここまで届くのに700年かかる。つまり俺らが見ているのは700年前の星だ、って話だろ。結構有名だよな」
「そう。だからこの星たちは私たちが生まれるはるか前から、こうやってキラキラと輝いてるってことだよね」
「そうなるな」
何よりも速い光ですら数百年、数千年とかかる距離に数多の星は浮いている。
だからこそ今見ている星ははるか昔の姿で、今現在の姿を観測しようと思えばまた数千年も待たねばならない。
俺が挙げた例で言えば700年前。南北朝時代の"出来事"を文字通り目の当たりにできているとは、なんともロマンのある話だと思ったものだ。
「ずーっと、ここからでもはっきりと分かるくらいに強く輝き続ける星たち。森で迷子になったときに、たまたまそれを見たんだ」
「…」
「それで、はっきり感じたの。『星の鼓動』。空に目が、もしかしたら私の意識ごと吸い込まれてたかもしれないけど。ドックン、ドックンって」
「星の…鼓動」
「その出来事が今の今まで忘れられなくて、ずっと探してた。なんとなく『こうしなきゃ』って思って」
「そうしてたどり着いた答えが、バンドだった」
「実は花女に入学してから全部の部活に体験入部してみたんだけど、全然しっくりこなかったんだよね」
「は?マジかよ」
「うん、マジ。それでいろいろあって、ライブ見に行って。もうこれしかない!って確信したよ」
「そのいろいろって市ヶ谷さんちにズケズケ入ってってどうのってヤツじゃないよな」
「…星を辿っていったらつい…たはは…」
「星を…?」
「えっと、塀とか電柱とかに星のシールが貼ってあって。それを辿っていったら知らないうちに有咲んちにいて…」
星のシールとな。どうやら香澄は星に関して強い縁があるようだ。星まみれじゃん…。
『なんとなく『こうしなきゃ』って思って』。
つまり、こいつは本能的なところで星たちの有様に感銘を受けた。
そして星たちに憧れ、星たちのように強く輝きたくて。そうしてずっと探し続けた結果見つけたのが、バンドという答え。
そういう意味で言えば『星を辿る』という表現もなかなか言い得て妙ではないだろうか。
それにしても『ずっと』か。そりゃ想いも強いわけだ。
「だから、やっと見つけたから…私は絶対に諦めたくない!だからこそ、私はバンドで、キラキラドキドキしたい!」
香澄はそう毅然と言い放つ。その眼は星のように強く輝いてすら見えた。
俺はその眼の、彼女を照らす意思の眩さに思わず目を細める。
本当に俺とは大違いだ。それは街灯の灯りと夜陰のように、まるで相反しているように感じた。
だが俺は、より一層その星の眩さにかけてみたくなった。
決意を聞いた俺は、一つ深呼吸をしてから言う。
「──香澄、頼まれごとを聞いてくれないか」
これからはどっちが見たいですか
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いつものゆるい日常
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シリアス
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その他(宜しければ感想などに)