世話焼き男子とガールズバンド 作:れれれれ
「今のところはこんな感じなんだけど、どうかな?昌太くん」
「は?かわいい」
翌週、俺は香澄から現在進行形で作っているというポスターを見せてもらっていた。
「花咲川新人音楽祭」。例年5月に行われる花女のイベントで、屋外ライブよろしく校庭に設けられるステージ上で一年生が歌ったり演奏を披露したりするもの。
新人つっても半数以上は附属中学からの進学なわけだけど。
女子高の行事ではあるが、男でも花女の生徒でもなくとも、チケットを持っていたり在籍生徒の同伴にて入場したりなど、とにかく繋がりを証明できれば入場できるらしい。
でも俺は行ったことないからよくわからん。あ、現役JKは学生証あればいいらしいですよ。
また高校生なら花女の生徒か否かに関わらず誰でも演奏できる有志枠もあり、当日に飛び入り参加ということもザラらしい。流石に運営に届け出るくらいはしないとダメだが。
こうした校内イベント屈指のフリーダムさと開放感も人気の理由だ。
知っての通り、東京都新宿区の花咲川や羽丘などを擁するこの地域はガールズバンドないし音楽の文化が根強い。
そのため毎年例にもれず大変に盛り上がる行事なのだとか。
実際に附属中や花女においては体育祭や文化祭などに並ぶ人気行事なのだ。…と市ヶ谷さんが言ってた。
「なに『Poppin'Party』って。天才じゃないのか。あとなんだこのイラストのゆるさは。天才じゃないのか」
「バンドの名前は有咲が考えてくれたんだよ!イラストはりみりん!」
「キラキラなんたらとかいう名前になったら困るからな」
「えへへ、ありがとう!」
「今どきのJKがあまりに多才すぎる」
「…それ、昌太が言う?」
「いや、俺はJKじゃなくてDKだから。なんかゴリラみたいで嫌だけど」
「あ、そういう感じ?てっきり昌太もJK(仮)なのかと」
「そのへんの14歳JC(仮)と一緒にするのやめろ。俺はそんな派閥じゃない」
「派閥なんてあるのかよ…」
ポスターに描かれている謎生物(りみりん作)は、白くて丸っこくて香澄みたいに猫耳的なの生えてて、手足が短えやつ。
こういうどこかマヌケなキャラクターを見てるといつも何となくニヤニヤしてしまうよな。ひ○にゃんの人形とか家に5体くらいいるからな、こういうストレートに可愛いやつ好きよ俺。
そのひこに○んたちは俺の枕を囲っていて、寝るときの俺は毎晩ニッコニコです。ただ起きてみるとたまに何匹か足元に移動してることがあって普通に怖いです。
バンド名にしたって半濁音の響きが可愛い。まともに発音するの「ti」くらいだから9割半濁音じゃん、ポッピンパーリィ。
「もう今から楽しみになってきたな。良かったら俺にもチケット用意しといてくれないか」
「当たり前だろ。むしろ昌太に見てもらわないと困るぞ」
「うんうん。なんたってアドバイザーだからね!ちゃんと私たちの成長を見てもらわなきゃ!」
「マジか、サンキュー。まあ毎回のように見てるけどな」
「蔵で演るのとステージで演るのじゃ、やっぱり違うと思うよ?」
「それはそう」
音楽祭へ向けての準備は今のところ順調だ。
実はポスター作りに加え、音楽祭のため彼女らことPoppin'Partyはオリジナル曲を披露することになっている。音楽祭はカバー曲の披露が大多数らしいのだが。
彼女らはすでに高校生にして楽器を弾き、歌い、作詞作曲をし、バンド名の発案、イラスト作成などをやってのけているわけだが。万能人にでもなるつもりなのだろうか。
「それで、勧誘は済んだのか?」
「ううん、これから。やるんだったら明日かなぁ」
俺が先日した頼み事──『山吹沙綾の勧誘』。
元々沙綾はバンドをやっていて、そこではドラマーだった。現在ポピパにはそのドラマーの枠がちょうどないため、俺がフリーである沙綾を推した。
聞くところによると、こないだのやまぶきベーカリーでも見たように沙綾とポピパの面々は普段から絡みもあるらしい。
俺はそのことを知らなかったわけだが、まあちょうどよかったな。
「昌太。香澄ね、こないだ山吹さんちで泊まり込みで作詞してたんだよ」
「…へぇ。沙綾がそこまで協力するとは、本当に親しいんだな」
「有咲ちゃん、その日の晩すごく心配してたよね」
「し、してねーし!」
「ほんとに!?ありさー!」
「だぁーひっつくな香澄!」
「あぁ^~」
俺は蔵のすみっこであぐらをかいて、さっきからずっとゆるゆりしている彼女らを生暖かい目で見守る。
もはやあの一角だけ白い百合が大量に咲いているかのような錯覚すら覚えた。そう、かの空間は男の横槍を許さぬサンクチュアリなのである。
そうして、俺はどうでもいい妄想をヌルい緑茶とともに嚥下した。
…練習は?
◇◆◇
「昌太、ちょっといいかな」
「ん?」
夕方、今日もすでに日が暮れようとしている。
香澄とりみりんは先に帰り、俺も遅れて蔵から出ると、盆栽を見ていたと思しきおたえから唐突に声をかけられる。
振り向くとおたえのちょうど真後ろで斜陽が照っており、眩しさに思わず顔をしかめた。
「あのとき、なんで山吹さんを推したの?」
「え、いやだからポピパに近くて俺も経験あるって知ってたから──」
「違う、そっちじゃない」
「は?」
「それは本音じゃない。なんで?」
何故か沙綾を推した理由を聞かれ、俺はさっきも話したことをそのまま言おうとするとおたえに遮られる。
…建前がバレた?もしかしてバレバレだったのだろうかと思ったが、香澄はともかくりみりんや有咲にもそういう様子はなかったはず。
ふと、先日の彼女の視線を思い出す。あのどこか見透かされるような、直視できない視線。
「…」
「…」
俺が思わず口籠るも、おたえはまたもじーっと俺の目を見てくる。有無を言わさぬ迫力を孕んだ目線に、思わず俺は視線を外しつつも言う。
「悪いがそのことは、話せない。勘弁してくれ」
「…何も知らないんだよね?」
「は?」
「ううん、なんでも」
普段はどこか遠くで見守っているような立ち位置だったおたえだが、やけにズケズケと踏み込んでくる。どういうつもりだ…?これも天然さ故か?
と思っていた矢先、おたえに思わぬ質問を投げかけられる。
「じゃあ、なんで昌太は山吹さんがドラムをやめたと思う?」
「…おい、なんでお前がそれを」
「いいから」
俺は彼女らには「ドラムの経験者で同学年の人を知ってるから勧誘してみたらどうか」とだけ言った。一言も「やめた」などとは言っていないはずだが…。
「…。人のためなんじゃないか。沙綾はそういうやつだ」
「…そう。昌太の考えはきっと正しいよ。でも他方でそれは、間違ってもいる」
「なに?」
「山吹さんは、何のためにドラムを捨てたのかな」
おたえは再度同じ質問を投げかけつつ、俺の横を抜け去っていった。…何者なんだ、アイツは。
沙綾が、何のためにドラムを捨てたのか。
一度は答えを出したはずなのに、そのおたえの問いかけは妙に脳裏に引っかかっていた。
◇◆◇
「っ!ね、ねぇっ!…昌太くんは、どうするの?」
羽沢珈琲店を出ようとする昌太を、香澄は思わず呼び止める。彼女自身、なぜ去りゆく昌太を呼び止めたのかはわからなかった。
何となく、そうしないといけない気がしたから。何かはわからないが、とにかく彼女は違和感を感じた。第六感が警鐘を鳴らしていた気がした。
「…………考えさせてくれ」
そうしてボソッと返答してから店を出ていく昌太を茫然と見送る。まだ中途半端にカフェオレが残っていた香澄は、そのまま再び元の席に座り直す。
対面には、アイスのブラックコーヒーが入っていたグラスがポツンと残されていた。
どうせ少し話すだけだからとお互いに軽く飲み物を頼んだだけなため、机上はスッキリしていた。
香澄と昌太は、バンドに勧誘しようとしている山吹沙綾について先ほどまでここで話していた。
一日前に昌太にポスターの進捗を披露し、そしてその翌日──つまりこの日に沙綾の勧誘をする旨を昌太に伝え、彼もこれを承知していた。
そして今日、いざ勧誘しにいったところ。沙綾にはキッパリと断られてしまった。
そのときの反応があまりに不自然だったため、昌太に連絡して詳しいことを直接伝えようとこうして落ち合っていたのだ。
だが、その昌太本人もどこか様子がおかしかった。はっきりとはわからなかったが、なんとなく香澄は違和感を感じた。
そうしてさっきも思わず昌太を呼び止めてしまった。…何なんだろうか?
ふと、机の隅にあるカトラリーボックスの下敷きになった紙幣を一瞥する。五千円札だった。
これは先ほど昌太が勘定にと置いていったものだ。だが、コーヒー一杯分にしてはやけに多い。普通は千円札、いや五百円玉もあればたくさんのはず。
不躾なようだが気づいていた。昌太の財布には明らかに千円札がいくつか入っていたことを。
しかし彼は何故か五千円札を置いていった。お釣りは取っておいていいとまで言ってだ。
──これか、さっきからの違和感は。香澄は一人会心する。つまり、彼はそんなミスにも気づかないくらい考え込んでいたということだ。
勧誘したときの沙綾の反応を話す度、昌太は妙に考え込んでいた。彼はただ、沙綾を経験者でかつ私たちに近い存在だから推しただけだというのに。
その振る舞いが香澄にとっては不思議だった。
「沙綾が悲しげな表情をしていた」と言ったときが特に顕著だっただろうか。
今までに見たこともないくらいの渋面を作りながら、機械的にコーヒーを流し込んでいるさまはとても普通ではなかった。
香澄は持ち前の観察眼から、昌太は沙綾と少なからず因縁を持っていると見抜いた。だが、それがどういうものかは皆目検討もつかない。
エアコンの風にはためく五千円札を見ながら、思わず考え込む。
そんな彼女に声がかかった。
「香澄ちゃん?そんなに考え込んでどうしたの?」
「あっ、つぐ。んー、ちょっと不思議でね」
「…昌のこと?」
「ふえっ!?み、みんな!?」
彼女に声をかけたのはつぐみ、蘭。香澄の座っている席の斜め後ろには、つぐみ以外のAfterglowのメンバーが揃っていた。
香澄とAfterglowはCiRCLEで顔見知りになり、そして香澄のコミュ力からかなり親しくなった。今では皆と名前で呼び合うくらいの仲である。
位置的に香澄が気づかないのは仕方ないにしても、彼女らには昌太ですら気づかなかったらしい。やはり全然周りが見えていないようだった。
実はAfterglowの面々は、昌太と香澄がこの席に座る前から既に集結していて、事の展開を見守っていたらしい。
自分よりも昌太のことを知っているだろうと思った香澄は、話の中身までは聞こえていなかったらしい彼女らにも流れを話すことにした。
「昌太、やけに考え込んでたけど…。もはや憔悴すらしてなかった?」
「私もそう思う~。少し前は元気そうだったんだけどな~」
ひまりの言にモカが同意する。Afterglowは皆してとても不思議そうにしている。
「香澄、良かったら聞かせてくれないか?何があったか」
「…うん。さっきはバンドのメンバー勧誘しようとして失敗しちゃった〜っていう報告だったんだけど」
「…普通?」
「どうだろう…」
そんなこと、バンドをやるならよくある話だ。考え込むようなことじゃない。
確かに昌太は自他ともに認めるお人好しではあるが、かといってそういった些末なことで憔悴するような男ではない。だからこそ謎は深まる。
「そのとき、私が話す度昌太くんが妙に考え込むのが気になって。さっきもお会計にって五千円も置いていったし、変だなぁって」
「二人ともコーヒーとカフェオレだから、両方払うにしても五百円もあれば十分だよな」
「うん。どっちも二百円弱にしてるから、五千円は多すぎるね」
「持ってたのがそれしかなかったとかは~?」
「ううん。ちゃんと千円札もあったし、たぶん音的に硬貨も入ってたと思う」
「よく気づいたね香澄…」
「となると、やっぱり昌はそれだけ周りが見えてなかったってことか…。あたしたちに気づかなかった時点でおかしいけど」
昌太の謎の視野の狭さに尚更Afterglowは不思議がる。元々彼は周りをよく見ていて、視野が狭いどころかむしろ少しの不調にすら鋭敏に気づくくらいだ。
「私は、過去に昌太くんはさーやと何かしらあったんじゃないかなって思ってるんだけど。皆は聞いたことない?」
「えっ、なんで?」
「だって、報告してたの沙綾のことだから」
「…沙綾を誘おうとしてたの?香澄」
「? う、うん。どうしたの?」
「…いや、何でも。あたしは聞いたことないかな」
「うーん…」
「モカちゃんも聞いたことないかな~」
「私も…」
「…聞いたことないな。あの二人小学生くらいからの知り合いらしいけど、ずっと仲よさげだったし」
「知り合い…か。うーん、わかんないなぁ…」
沙綾と昌太は小学生からの付き合いで、ずっと仲は良さそうだった。
香澄にとっては初耳だが、そうなるとなおさら渋面を作る意味がわからなくなってくる。怒りや驚き・悲しみではなく、なぜ渋面だったのだろうか。
──それは上辺だけの仲で、実はとても仲が悪いとか?
そこまで考えて、香澄はかぶりを振る。
なにしろ昌太と初めて会ったとき、沙綾とは恋人なのではないかと思ったくらいなのだから。
二人以外誰もいなかった店内へ不意に突撃したというのに、あの距離の近さだ。それはありえない。
昌太と沙綾は因縁がある、これは間違いない。しかしそれは単なる不仲とかいうものではなく、もっと拗れた何かだ。香澄はそんな予感がしていた。
「でも香澄ちゃんは、なんで昌太くんにそのことを報告してたの?」
「えっと、その人の勧誘が昌太くんの頼み事だったから──」
「頼み事…?」
昌太の頼み事。
そう言ったとたん、彼女らの顔は強張る。
「香澄。アイツはなんて?」
「えーっと、『山吹沙綾をバンドに誘ってほしい』って」
「…沙綾ちゃんを」
「ど、どうしたの?」
「あのね、香澄。昌太は、めったなことじゃ頼み事はしない人なんだ」
「…えっ?」
その剣呑そうな表情の割には大したことはない、と香澄はまずそう思った。その真意を理解できなかった。
それを察したモカが、加えて言う。
「つまり、しょーくんは規模を問わず何でも一人で抱え込む。たぶん自分が壊れようともそれは曲げないと思うなー」
ここでようやく察することができた。
今までおくびにも出していなかったが、沙綾に関して昌太はかなり深く思い悩んでいたらしい。
普段は取ることのない頼み事という手段をとったことがその証拠だ。
端的に言えば、昌太が危険な状態だという可能性があるということ。
そこまで思い至って、香澄は心がしぼむような、どこか切ない感触を覚えた。
「でも、なんで昌太くんはそこまで…」
「関係があるかはわからないけど…沙綾ちゃんは、ドラムをやめてるんだ」
「…!」
ここに来て、香澄は今まで知り得なかった事実をつぐみに告げられる。
昌太はあくまで「経験者」としか言っておらず、今ドラムをやっているか否かには触れていなかった。
「知らなかったみたいだね…」
「そういえば、昌太くんは経験者としか言ってなかった…」
「わざとぼかして伏せてたの…?それならやっぱり、アイツは沙綾がドラムをやめたことに関して何かあるのかも」
「しょーくんは、ギリギリになっても人に核心を任せることはしないよ。そこまで背負わせるのは人に迷惑だとか思ってるからねー」
「それじゃあ…」
「…昌太の頼み事の核心は『沙綾がドラムをやめたこと』になるんだろうな。で、昌太はそれに関してずっと何かを抱え込んできた」
「それが本当なら、どうせ昌太のことだし『沙綾を止められなかったのは自分のせいだ』とか思ってるんじゃないかなぁ…」
「でもなんで昌太くんは、このことを香澄ちゃんに任せたんだろう…」
「…」
Afterglowがそうして話している間、香澄は過去を思い返していた。
思えば香澄は昌太と接しているときに、たまに彼がどこか遠いところを見ているような感覚に陥ることがあった。
…そうだ、違和感はまだあったと思い至る。それは頼み事をしてきたあの晩。
「頼み事…あのときは…」
「…香澄?」
「頼み事をする前、昌太くんは突然立ち止まって…私になんでバンドを始めたのか聞いてきたんだ。あの時は全然気にしてなかったけど、今思えば雰囲気が突然変わったような…?」
「それで、なんて言ったの?」
「私は…『星の鼓動』の話をした。星を見て、キラキラドキドキして…それでライブ見て、もうこれしかないって思って…それで」
「…」
皆が香澄の言うことを一字一句聞き逃さぬよう、黙って耳を傾けている。
彼女らはどうしても手掛かりが欲しかった。そして昌太のことを助けたかった。彼がいつもそうしてくれているように。
「──忘れてたっ!私がやりたいことを思いっきり言ったら、昌太くんがやけに眩しそうにしてた!それ、で…」
「…?ど、どうしたの?」
「そのとき…全然、キラキラしてなかった。それなのに、その直後に頼み事をしてきたときは妙に落ち着いてて…今思えば、そのとき何かを切り捨てたのかな、と…」
「切り捨て、る…?人に頼むときに切り捨てるものって…」
「プライド、とか?」
「昌太は、基本的に自分の責任は自分でケリをつけたがる。その性格を考えると、ありえなくもない」
「…それって、つまり──」
諦める。
筑波昌太は、山吹沙綾に関する何かで、諦めた。
「諦めるって…」
「まあ、これはただの推測だし。元からアイツが全部話してくれれば良かったんだけど」
「そうも行かないんだろうねぇ…」
「…そっか。私、昌太くんに聞いてくる!」
「えっ!?ちょっ、ちょっと!?」
これからはどっちが見たいですか
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いつものゆるい日常
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シリアス
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その他(宜しければ感想などに)