世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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 ※滅びません
 


日常編
第17話 パンは世界を滅ぼす


 音楽祭の翌日。今日も休みなので、俺は朝っぱらからやまぶきベーカリーに来ている。

 で、こんなに朝早い(午前7時)にも関わらず、なぜか店の前にはもうモカがいた。開店まで1時間くらいあるってのに…と思ったが、俺も同じ穴の狢である。

 

 

 俺がステージに上がって(というか上げさせられて)からLIGNEにはさまざまなメッセージが届いた。

 

 珍しく湊さんからもメッセージが来ていたのだが、確認したら『火曜日付き合いなさい』とのことだった。

 とても『何にですか』とか本人に聞けそうにもなく、リサ姉を当たってみたら『練習のことだと思うよ〜』って来た。まあそうですよね。

 

 

「昨日はすごかったね〜しょーくん。蘭もギタボ同士シンパシー感じたのかいつになくニコニコしてたよ〜」

 

「普段はギタボなんてやらないからな…やったことあるのもあの曲だけだし」

 

「ギター自体久しぶりだったんじゃないの?」

 

「いや、割とコンスタントに弾いてはいた。家でだけど」

 

「え〜、弾いてたんなら言ってくれればよかったのに〜」

 

「ぶっちゃけ惰性でやってたし言うまでもないかなと思った」

 

 

 蘭の満面の笑み、見たかった。笑顔を溢すくらいならついこないだも見たばっかだけど、ニッコニコの蘭は久しく見てない。

 どうしよう、今日凸って絡みに行こうかな。

 

 

「てかなんでモカはこんな時間にパン屋来とんの?お前寝起き壊滅的に悪いのに」

 

「ん〜、なんとなく?」

 

「何、虫の知らせってか?」

 

「パンの知らせだね〜」

 

「そのままだろそれ」

 

「今日は珍しくスッキリ起きられたし、たまには一番乗りしてみるのも悪くないかな〜って」

 

「はぁ、そりゃ本当に珍しいな。てかそれにしたって一時間待つ?普通」

 

「しょーくんだって同じようなもんじゃ〜ん」

 

「ぐうの音も出ないな」

 

 

 但し俺の腹は鳴る。

 てかパンの知らせってなんですか。強いて言えばそれは腹の虫による知らせなのではないでしょうか。

 

 隣の健啖家モカちゃんはいつも通りふわふわした雰囲気をまとってパン屋の前に突っ立っている。

 今日は日曜なので私服姿で。ダボダボの灰パーカーにクソ短えショートパンツ…くっ、朝日と腿が眩しい…!

 

 それはそうと、たまに通る八百屋とか魚屋のおっちゃんが生暖かい目でこっちを見てくるのがめっちゃ気になる。あ、そういうのじゃないんで俺たち。

 

 

「よかったねー、しょーくん」

 

「ん?何か言った?」

 

「ん〜ん、なんでも〜。そういえば今日から新作パンが出るらしいよ〜」

 

「えっ、マジでパンの知らせあったん?ごめん疑って。で、どんなやつ?」

 

「え〜っとね〜、暗唱パンだって〜」

 

「おぉ…何か、こう…攻めましたね…」

 

 

 もっとなんか惣菜系で来るのかと思ったら、インベタのさらにインを来た。フッと脳裏を青いタヌキさんが過る。

 『暗唱パン、暗礁に乗り上げる!(激寒)』なんて新聞とかで見出しに出たら笑う自信あるよ俺。

 

 

「冗談だよ〜」

 

「は?」

 

「本当はじゃがバタチーズパンだって〜」

 

「は?神じゃん。100個くらい買うか」

 

 

 は?(驚懼)。は?(歓喜)。

 やっぱチーズって最高だよな。伸びるやつとかカレー作ったときなんかはバカみたいにブチ込んじゃうくらいにはチーズすき。

 それをじゃがいもと混ぜるなんて凶悪がすぎる。そんなことしちゃった日には世界が滅ぶ。

 

 

「え、じゃあ何?結局それ目当てで早起きしたん?」

 

「そうだよ〜」

 

「ヒュウ、情報通ですこと。それだったら早起きできたのも納得だな」

 

「パンのためならどこへでも行けるからね〜」

 

 

 モカならいつの間にか地球の裏に飛んでても違和感なさそうだよな、不思議だ。本当に。

 明日気づいたらシンガポールとかにいるんじゃねえかな。シンガポールってなんかパンあったっけ。

 

 

「フランスのこと考えてたらグラタンが食べたくなってきましたな〜」

 

「唐突に何?なんですか?こっちを物欲しそうに眺めても何も出ませんよ」

 

「じ〜っ…」

 

「出ないよ?」

 

「…」

 

「…」

 

「…じじ〜っ」

 

「…わかったよ。今度買い物付き合え」

 

「やった〜」

 

 

 俺はチョロくねぇ。絶対だ。

 

 このあともずっとモカと喋ってたら、知らないうちにかなり長い列ができていた。まさしく早起きは三文の徳を体感した瞬間であった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「ん〜、おいひぃ〜〜♪」

 

「ヤバ、なんかクセになりそうだわこれ」

 

 

 流石に一人で100個じゃがバタパンを買うのは他の人に迷惑でしかないので4個に抑え、その他にいろいろとパンを買い込んだ俺。

 

 パン屋を出てモカと別れ、なんとなくCiRCLEの方へ歩いていたらりみりんを発見。手元に大量にパンもあることだし、試しに近くのCiRCLEのカフェテリアで餌付けしてみた。

 

 そしたらりみりんはハムスターみたいにパンを頬張り、筋繊維壊れたんかってくらい顔を綻ばせ始めた。

 何というか、ヒーリング効果がすごくてマイナスイオンを感じるわ。これは何度も餌付けしちゃうでしょ。

 

 

「そうだね、私もクセになりそう…」

 

「えっ?」

 

「このパンは世界を獲れるよっ!」

 

「あぁそっちね」

 

「?」

 

 

 首をコテン。ああ可愛い。

 

 パンで世界つったら、一応パンにも世界大会みたいなのはある。

 

 だがその一部門である「飾りパン部門」という名前からして、ここで競われるのはどっちかっていうと美術・芸術的な観点だ。だからこうした惣菜パンの世界大会は(多分)ない。

 例えば惣菜パン部門みたいなのがあったらワンチャン世界獲れるかもってのは俺も思った。

 

 

 この反応からしてお察しかもしれんが、ご存知無類のチョコジャンキーであるりみりんは普通にパンも好きらしいのだ。

 

 恐らく彼女が好きな食べ物ランキングを挙げたならば、1位チョココロネ、2位チョコチップメロンパン、3位チョコレートベーグルとかいう惨状になりかねないが、とにかく普通のパンも好んで食べる。

 

 そのため、たまにはチョコ系のパンではなくこうして別のパンを与えてみるとまた違った反応を見られて面白いですよ(ゲス顔)。

 

 

「気になったんだけど、りみりんって例えばパンダの顔したパンってなんの遠慮もなく食えるタイプ?」

 

「うぅん…できれば、食べたくないかな。可愛いともったいなくて…」

 

「わかる。俺もソーナノ」

 

 

 ちなみに俺は米粉パンが結構好きなので、パン派か米派かって言われたら両方って言う。

 ふくよかな口当たりと、主張控えめながらにしっかりと感じる甘みがなんともよいのだ。見かけたらぜひご賞味あれ。

 

 なんの話してんだ俺。

 

 

「これよく買えたね?私が行ったときにはもうなくなっちゃってて…」

 

「目が覚めちゃって開店の1時間前から店の前にいたからなぁ」

 

「それじゃあ今日発売だって知ってたんだ」

 

「いや、店の前でモカから聞いて初めて知った。だからたまたまだよ」

 

「私に声をかけたのは…?」

 

「それもたまたま」

 

「そ、そうなんだ…」

 

 

 そう、たまたまなんです。○ーフの石をかざしたら○ッシーになります。

 こんな会話をしつつも、変わらずりみりんはちまちまとパンを食っている。確かにどっかうさぎっぽさはある気がする。

 

 

「まぁたまたまではあるけど、これはお礼の一つとでも思ってくれればいいかな」

 

「うん。ありがとう」

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

 

 沙綾とちゃんと向き合うにあたって、りみりんを始めとしたポピパの皆は色々と動いてくれていたらしい。

 公園で俺らが会うよう仕向けたのも有咲の作戦だったとか。あとから聞いた話だからどうしても伝聞調になっちゃうけど、つまりはそういうこと。

 

 音楽祭のあととかLIGNEとかでもう感謝はしたけど、これからはこうやってちょこちょこ恩返しをしていきたいなと思ってる。

 施されたら施し返す、恩返しだよ(大○田)

 

 

 ◇◆◇

 

 

 さて、ところ変わってここは羽沢珈琲店。すでに日は高く昼前となったところだ。

 朝に買い込んだパンは家に一旦留置して、また街へと繰り出した。

 

 まず店内に入って一番に目に飛び込んできたのは、一人カウンターに向かってノートを広げる少女。

 

 

「ハロー、ハゥアーユー?」

 

「うっさい」

 

「ひぃん」

 

 

 というか美竹蘭である。

 

 どうせ蘭のことだし歌詞でも書いてんのかなとか思ったけど、ちゃんと勉強してた。トースト片手に。

 勉強してるところに無神経に話しかけた俺が全面的に悪いけど、めっちゃぞんざいに扱われてぼかぁ悲しい。

 

 どうやら今は漢字をやってるらしく、隣の席からチラッと覗くと端正な字で「愚痴」とか「憂鬱」とかって無数に書いてあって軽くホラーだ。

 

 

「朝モカに会ったよ」

 

「…」

 

「音楽祭のときニッコニコだったんだってな」

 

「ッ!ちっちち違うからっ!」

 

「なにが?」

 

 

 俺が「ニッコニコだったんだってな」つったら蘭の使ってるシャー芯がバキッって折れた。大木が根本から拉げた音したけど大丈夫?

 

 というか俺が余計なこと言っちゃったせいで、蘭が顔を真っ赤にしてわたわたし始めちゃった。違うのに、俺は蘭の満面の笑みが見たかっただけなのに…!

 

 

「いや、単純に気になっただけなんだけど」

 

「…あのさ」

 

「うん」

 

「どこまで、知ってる…?」

 

 

 その「秘密を握った人物にどの程度情報を持っているか探りを入れる殺人犯」みたいな言動やめて。

 さっきの昏いノート見ちゃったせいでちょっとゾッとしたよ今。

 

 

「いや、俺が演奏してるとき蘭がシンパシー感じたのか満面の笑みだったってことしか」

 

「モカあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

「これアウトだったの!?ちょっと蘭ステイステイ」

 

「ひゃっ」

 

 

 素直に知ってることを白状したら蘭が荒ぶって店を飛び出そうとしたので、後ろから抱きついて止める。

 流石に二人分の荷物持って追っかけるのは、普段のチャリ通で膂力の伸びた俺でも厳しい。

 

 

「…昌。わかった、から…はなして…」

 

「ん」

 

「あたしは、音楽祭が楽しかっただけで…昌がギタボやってるの見てお揃いみたいで嬉しかったとかじゃないからっ」

 

「あーうん、了解」

 

 

 一転しおらしくなってしまった蘭。何か今とんでもないことまで吐いた気がするが、ゴニョゴニョしててよく聞こえなかったので適当に流すことにした。

 お互い元いた席に座り直す。

 

 

「それに、昌が心から楽しんでたから」

 

「えっ?俺普段からあんなんだったと思うけど」

 

「ううん、あんな昌は久しぶりに見た」

 

 

 そうなのか、自分のことなのにそんなこと知らなかった。

 いや、自分だからこそかもしれない。傍目八目というべきか。

 

 

「それで今までの昌が戻ってきた感じがして、嬉しくてさ。だから──」

 

「蘭?」

 

「──おかえり、昌」

 

 

 そう言い切って、蘭は慈愛の眼差しを交え満面に喜色を湛えた。

 彼女の想いが一気に入ってきて胸が一杯になるが、それ以上に。

 

 

「蘭の満面の笑顔が見れた…!我が生涯に一片の悔いなし!」

 

「えっ何…ふわぁっ、あああ頭撫でないでっ!勉強するから!もういいでしょ!?」

 

「えー、もう少しくらいいいじゃん。勉強だったら教えるし」

 

「…別にいらないっ」

 

「ぴえん」

 

 

 まぁ、勝手に教えるんですけどね。俺もランチ頼むか。

 

 




 
 昨今の連続投稿でふと気になったので、本作のニーズに関してアンケートで調査させていただきたく。
 よかったら気軽に票を入れていただけるとありがたいです。今後お話を書く際参考にさせていただきます。

 ゆるい日常が優勢となりますと、仮にシリアス要素が入ってきてもかなりマイルドになります。
 翻ってシリアスが優勢だった場合は現状維持か、あるいは頑張ってシリアス要素を増やしていくことになるかと思います。

 作者としましては前者のほうがノリノリで書けるのでこちらのほうが助かりますw

これからはどっちが見たいですか

  • いつものゆるい日常
  • シリアス
  • その他(宜しければ感想などに)
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