世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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 淡黄様、評価ありがとうございます!
 


第18話 春といえば(2)

「春だ、考査だ!第一回!チキチキ、全国の考査という考査を叩き潰せ〜!」

 

「いえーーーーーーい!!!!!」

 

「あこちゃん…?」

 

 

 音楽祭から数日。俺は狂った。

 そう、中間考査がマジですぐそこに迫ってきているのだ。このくだり前もやらなかったっけ。

 

 別に俺は勉強が苦手ってわけではない。だが栄星のテスト範囲は基本的にトチ狂った広さで、その面積はおよそ東京ドーム0.4個分くらいある。頭おかしいだろ。

 

 

「突然どうしたんですか筑波さん。そもそも高校から勉強をとったら何が残るんですか」

 

「えっ?祭り」

 

「それだったら別に学校じゃなくてもいいでしょう…」

 

「昌太って勉強苦手なの?」

 

「いや、そういうわけでは。ただ、その…範囲が、ね?」

 

「あっ」

 

 

 これだけでリサ姉は察したらしい。さすがの察しの良さである。

 冒頭で俺があげた世迷い言にあこは全面同意、リサ姉は苦笑い、燐子さんと氷川さんは頭痛が痛そうにしてる。

 

 湊さん?路傍にいたネコ撫でながらふにゃふにゃしてるよ。あんな湊さん初めて見たんだけど、めちゃくちゃかわいい。

 あれで隠し通せてると思ってるのもまたかわいい。

 

 

 ちなみになんで俺がRoseliaと一緒にいるかというと、今日が湊さんに呼ばれたその火曜日だから。

 どうせCiRCLEでやるんだろうけど、移動中に何するか聞いたほうが効率いいかと思って早めに合流したらこれである。

 

 俺と湊さん以外のRoseliaはその湊さん待ちで、結構暇だったために発したのが冒頭のアレ。その異常性は理解してるのでもう言わないでください。

 ただそろそろこのままだと話が進まないので、俺が湊さんに声をかけに行く。

 

 

「湊さん湊さん」

 

「ッ!なっ、なにかしら」

 

「じき10分ですけど、そろそろ行かないと時間押しちゃいますよ。名残惜しいですが、どうか」

 

「……………そうね、わかったわ」

 

 

 こころがくるしい。目に見えて湊さんはしょぼんとしてしまった。だがもう予約はとっちゃったし、こうするしかなかったんだ。ごめんなさい湊さん。

 

 

「ごめんなさい、待たせたわね。行きましょう」

 

「気にしてません」

 

「は、はい」

 

「「行こ行こ〜!」」

 

「ニャッ!」

 

 

 おー、俺の頭に乗っかってくんなニャンコよ…ってこいつ丸まって寝やがった!

 

 

「筑波さん、そのネコは…?」

 

「…なんか勝手に頭に乗ってきてそのまま寝やがったんで…まあこのままでもいいかなと」

 

「そう、ですか。本人が気にしてないなら私はいいんですが…それと筑波さん」

 

「はい」

 

「このあと、補習しましょう」

 

「へ?」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 氷川さんに言われて、この練習のあとは彼女とお勉強することになった。余計なこと言わなきゃよかった…と思ったけど役得な気がしてきたのでやっぱりいいです。

 

 ネコに関してはあのあとまりなさんに聞いたら、おとなしそうだし大丈夫だよって言ってた。本当にいろいろと緩いねCiRCLEって。

 

 ん?今何してるかって?

 

 

「…」

 

「…」

 

 

 湊さんに頭(のネコ)を撫でられてる。

 結局あれからニャンコが俺の頭から降りてくれることもなく、練習中も頭に乗せっぱなしにせざるを得なかったのだが。

 

 ひとつ通しで練習するたびに湊さんが物欲しそうな表情をするので、こうして甘んじて撫でさせているというわけだ。

 ぬこは頭上でにゃふにゃふ言ってる。

 

 

「湊さんってわかりやすいですよね、いろいろと」

 

「…そうかしら?表情は固いほうだと思うのだけど」

 

「表情というかオーラの変わり方がわかりやすすぎますね。背後からでもわかると思いますよ」

 

「普通はわかりませんよそんなの」

 

「うんうん。昌太くらいだよ?そんなところまで気づくの」

 

「え?でもリサ姉も友希那さんのことならなんでもわかるでしょ?」

 

「あったりまえじゃん☆今の友希那は超ご機嫌みたいだね」

 

「全然、隠せてませんよね」

 

 

 ほら見ろ。もう開き直ったほうがいいと思いますよ湊さん。隠そうとしたって可愛いだけだぞ、いじらしくて。

 

 俺の頭に乗っかってるネコは黒くて目が青くて、なんとなく俺に似てる。俺も黒髪で目青っぽいし。

 だから遠くから見たら保護色的なアレで湊さんが俺の頭を直接撫でてるように見えると思う。

 

 

「ほら、ゆーきーなっ!そろそろ練習しよ?」

 

「やっ」

 

「『やっ』って…俺、湊さんはどこまでもストイックな人だと思ってたのに…」

 

「全くです」

 

「氷川さんが言っても説得力皆無じゃないですか?」

 

「何か?」

 

「いえ何も」

 

「あこ……見ちゃったの……紗夜さんが、マ○クですごい勢いでポt」

 

「宇田川さん。後で少しお話があります」

 

「やだああああ!!!!」

 

 

 実はぼくも見ちゃったんだよね。こないだ駅前のマ○クで氷川さんがポテトを前に破顔してるの。

 一瞬誰か分からなかったよ、あまりに普段の雰囲気と違いすぎて。

 

 

「…冗談です。湊さん、そろそろいいでしょう」

 

「わかったわよ。それじゃあもう一度通しでやってみましょう」

 

 

 湊さんがそう言うと、ずっと俺の頭に乗ってたぬこが膝に降りてきた。ただ栄星の制服が黒っぽいせいでこの毛玉がいるのかいないのかがすげえわかりづらい。

 

 その毛玉を撫でくりまわしながら通しで練習するRoseliaを眺める。

 今更だけどなんで俺呼ばれたのかな?ボブは訝しんだ。湊さんだけならまだしも、他のみんなもこの状況に疑問を抱いてないのおかしいだろ。

 

 さっきそれ聞かなかったのかって?ゆきにゃさんのアレで全部飛んだんだよバカ。

 

 

「…ふぅ。今度はいい感じだったけれど…あこ、Bメロは半拍だけ遅く入ってみてちょうだい。そうすればもっと上手くハマるはず…できるかしら?」

 

「はいっ!」

 

「そう、お願い」

 

 

 やっぱ音楽が絡むとそのカリスマ性は健在なんだけどなぁ。にゃんこが絡むと一気にダメになっちゃうねほんと。

 あっ、湊さんがまたこっち来た。とりあえずそれを見た俺は膝上の毛玉を献上しようとして──

 

 俺の頭を直接撫でられた。

 

 

「にゃーっ、にゃん」

 

「あの、湊さん?にゃんこはこっちなんすけど」

 

「にゃっ、にゃふ…あら、本当ね。気づかなかったわ…でもこの撫で心地、ネコと遜色ない。昌太、あなたにゃーんちゃんの素質があるわ」

 

「あってたまるか」

 

「おおっ、友希那ったらダイタ〜ン☆」

 

「そんなこと言ってないで助けてくれません?」

 

「あーっ、あこもしょー兄撫でたーい!」

 

「加担すんな」

 

 

 リサ姉は面白がって助けてくれないし、あこはむしろ乗っかってくるしで四面楚歌だ。助けてくれ。

 このあと燐子さんと氷川さんに救出されるまで、なぜか俺は二人にずっと撫でくりまわされていた。なんでさ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「音楽祭の筑波さんと山吹さんの演奏、拝見させていただきました。素晴らしかったです」

 

「おふッ、マジですか…。ありがとうございます」

 

「あの演奏は技術もそうですが、何より心が籠もっているように感じました。是非とも私も見習いたいところです」

 

「恐縮です…あのそれ以上褒められるとしんでしまいます」

 

 

 カフェテリアからこんばんは、筑波昌太です。

 十分前に練習が終わりまして、今は氷川さんと補習のお時間となっております。氷川さん以外は皆さん帰られました。

 

 先ほどは氷川さんと二人っきりになったと思ったら唐突に褒め殺しにされまして、狼狽えたわたくしは腹を踏まれたワンコみたいな声を出してしまった次第でございます。

 や、押しバンドのギタリストに散々褒め散らかされたらこうなるのも仕方なくない?

 

 ちなみに俺似のぬこは相変わらず俺の頭上でスヤァです。お前野良じゃねえのかよ、降りろ。頭が高いぞぬゃんこよ。

 あっおいちょっとネコパンチやめろ!俺が悪かったから引っ掻くな!痛えわ!

 

 

「そうですか?また今度演奏を聞かせてほしかったのですが」

 

「それは構いませんけど…いうて俺そこまでっすよ」

 

「ご謙遜を」

 

 

 氷川さんは執拗にネコパンチしてくる俺の頭上のぬこをチラチラ見ながらそう言った。

 

 どうやら勉強の他に晩飯もここで済ませるつもりらしく、氷川さんは焼鮭定食を頼んでいた。本当に何屋さんだよここ、頼めばタイヤのゴムみたいなグミとか出てくるんじゃねえかな。

 勉強が長引くかもしれないことを考え、俺もそれに乗っかってミートソースパスタを頼んどいた。

 

 

「…あの。その猫、本当に大丈夫なんですか?さっきから筑波さんを攻撃しているように見えるのですが」

 

「ハハハ、気のせいでしょう」

 

「本当ですか…?」

 

「にゃっ」

 

「ひゃっ…やっぱりこの猫、どことなく筑波さんに似てますよね。かわいい…」

 

「………………」

 

 

 さっきまで散々俺を攻撃してきたぬこは、不意に氷川さんの膝の上に移動してまたウトウトし始めた。そんな毛玉を氷川さんはすごい優しい笑顔を浮かべながら撫でてる。

 クソッ、羨ましいなコイツめ…。あっやべ、健太郎出ちゃった。

 

 というか俺が春特有の陽気で若干眠いのに、ここぞとばかりにウトウトしてんの見せつけるのマジでやめろ。これから勉強するのになおさら眠くなるだろうが。

 

 

「失礼しまーす、こちら焼鮭定食とミートソースパスタでございまーす」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとうございます。出てくるの早…ここって頼めばなんでも出てきそうですよね」

 

「さすがに万物は出せませんよー」

 

「じゃあタイヤみたいなグミあります?」

 

「…」

 

 

 何とか言えや。何でここの人はすぐに黙りこくっちゃうんだよ。

 店員さん(?)はそのまま失礼しまーすって逃げるように離れていった。こりゃ増えたな、CiRCLE七不思議の一。

 

 

「…!ど、どうしてこれが…」

 

「氷川さん?」

 

「い、いえ。何でもありません。何でも…」

 

「???」

 

 

 料理がやってきたと思ったら突然氷川さんの様子がおかしくなった。口では何でもないと取り繕いつつも、彼女の視線は一点に固定されている。

 

 焼鮭定食の内訳は白米、味噌汁、漬物に焼き鮭。そして──

 

 

「…にんじんのきんぴら?」

 

「っ!」

 

 

 あっ、ビクッてした。

 固定された視線、そして彼女のおかしな態度。あの、氷川さん?

 

 

「氷川さん?」

 

「…いえ、断じて違います。私がにんじんが苦手なんてありえません」

 

「そこまで聞いてないです」

 

 

 なるほどね。氷川さんって意外と可愛いとこあるんすね、むしろ安心しました。

 それにしてもにんじん…にんじんかぁ…

 

 

「…風味ですか?」

 

「いえ、別に苦手では」

 

「白状してください。風味ですか?」

 

「…………………はい。特有の匂いが、どうしても…」

 

「そうですか。突然ですが氷川さん、苦手はできるなら克服すべきだと思いませんか?」

 

「…!」

 

 

 俺が唐突に質問を投げかけると、このあとの流れを察したのか氷川さんは涙目で首をブンブン振って拒否してくる。

 こんな氷川さん初めて見た(n回目)。かわいい。正直めっちゃ嗜虐心そそられるけどここは我慢。

 

 

「大丈夫ですよ、無理やり単品で食わせるなんてしませんから。オーソドックスですけど何か別のものと一緒に食べてみましょうや。ほら、このパスタでもいいですし」

 

「…いいんですか?」

 

「俺今はそんなに腹減ってないんで。はい、どうぞ」

 

「……それじゃあ、失礼します」

 

 

 定食のメニューだとにんじんの風味をかき消すには能わないと思い、パスタと一緒に食ってみることを提案した。

 渋々といった様子で氷川さんは俺のパスタに手を伸ばす。気持ちはよくわかる。俺もそのにんじんのきんぴらみたいにトマト山盛りとか出てきたら絶望するもん。

 

 こんな変な状況でも氷川さんみたいな美女は様になってるからズルい。

 

 

「どうですか?」

 

「…くっ」

 

 

 俺がそう聞くと、氷川さんは微妙ににんじんの風味を感じたようで、持っていた箸を叩きつけるように置いてしまった。

 あんまりにもキツそうなので、代わりに氷川さんの隣に移動して俺が箸を持つ。

 

 

「少し、にんじんっぽい味はしましたが。まだ行けます…!」

 

「無理してませんか?アレなら代わりに俺が食べますけど」

 

「いえ、ここで折れては私の矜持に傷がつきます。ここで諦めるつもりはありません」

 

「…そうですか。そこまで言うなら…はいあーん」

 

「──あむっ」

 

 

 流石は氷川さん、こんなときでも自分にはどこまでも厳しい。

 そしてこの後は定食にも(箸は俺が持ってるから俺の采配で)ちょこちょこ手を付けつつ、山盛りあったにんじんを半分食べることに成功した。

 

 氷川さんは机に突っ伏したっきり微動だにしない。気を失ってないか不安になって背中を擦ってみたら、ちゃんと息はしてたから多分大丈夫。

 

 

「本当によく頑張りましたね。後は俺に任せてください」

 

「…はい。後は任せました、筑波さん」

 

 

 今世の別れみたいな文句だが、ただ単に俺が残りのにんじんを肩代わりするだけである。

 

 こうして苦手なものを食べた経験は、後に自信に繋がる。彼女がにんじんを克服する日も恐らくそう遠くはないだろう、多分。知らんけど。そう信じたい。

 

 ところで氷川さんってパンケーキに擦り潰されて入ってるにんじんとか、チキンライスに混じってるにんじんとかは大丈夫なのかな。

 もしまたにんじん嫌いの克服に協力することになったら食べてもらおう。

 

 

「「ご馳走様でした」」

 

「…すみませんでした。お見苦しいところを」

 

「とんでもない、苦手を見て見ぬふりせず受け入れて克服に努めた氷川さんが見苦しいわけ無いでしょう。やっぱりすごいですよ」

 

「いえ、私はそんな出来た人間では」

 

「ご謙遜を」

 

 

 そう言い放って、さっきも見たくだりに思わずお互い笑ってしまう。

 相変わらず自己評価が低いが、間違いなく氷川さんは尊敬に値する人なのだ。やっぱりそんな人が自分を卑下してるの見ると悲しいじゃん?

 

 

「やはり、あなたは私に私自身の可能性を見せてくれますね。本当に感謝しているんですよ?」

 

「そう、なんですか。全くそんなつもりはなかったんですが」

 

「ふふ、そうでしょう。あなたはそういう人でしょうから。だんだんわかってきました」

 

 

 そう言う氷川さんはいつになくニコニコしている。それもさっき毛玉を撫でていたときと勝るとも劣らない。

 あんまりその様子を見ていると見とれてしまいそうなので適当に目線をそらす。

 

 

「さて、そんなすごい筑波さんのために勉強を見てあげましょう。今度の中間考査の範囲を教えてください」

 

「ふぁい」

 

 

 不意打ちがすぎます氷川さん。また変な声漏れちゃったじゃないですか。

 このあとは二時間くらいぶっ続けで勉強を見てもらった。めちゃくちゃ教え方がわかりやすくて非常に助かった。

 これで俺は生きて帰れそうだ、本当にありがとう氷川さん。

 

 

 …ぬこ?また俺の頭に登ってきてからはずっと寝てたよ。マジで頭がたけえぞお前。

 

 

 




 
 アンケートのご協力感謝です。日常編、強。
 アンケを設置してから気づいたんですが、そもそもあらすじが『日常』なんすよね。

 …一応アンケはもう少し置いておくので、引き続きよかったら投票の方を宜しくお願いします。
 

これからはどっちが見たいですか

  • いつものゆるい日常
  • シリアス
  • その他(宜しければ感想などに)
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