世話焼き男子とガールズバンド 作:れれれれ
引っ張りに引っ張ってきた考査回です。展開おっそ。
先日までに感想でしていただいた提案はもう少しだけお待ちください。私は約束は守るタイプです、信じてください。
「あー、数百年ぶりに目覚めたわ」
「冷凍保存か?霜降り肉じゃん、ウヒャヒャ」
「今のが深夜テンションの脊髄トークなのはわかったけど、霜降ってるのが微妙に食う気満々で嫌だ」
健太郎が壊れてウヒャヒャとか言い出した。修理に出すか。
という冗談はさておき、今日はみんなに恨まれてる可哀想な月曜日。
中間考査を先週にひととおり済ませ、今日答案が3分の1くらい返却されたところだ。
さっきはHRをやってたんだけど、昨晩ガッツリ夜ふかししちゃったおかげでメチャクチャ眠くて仕方無しにちょっと寝てた。
んで寝起きに適当なこと言ったらその上を行くくらいに適当なこと言われた。こいつは徹夜明けらしい。寝ろ。
この栄星という高校は、毎回の考査ごとに過去のものや今回のもの問わず珍回答を発表する謎の慣習があるらしい。
流石に名前は伏せられるが、もちろん珍回答をした本人には伝わるためひっそりと恥をかかされることになる。
そのため、この意味不明な慣習が赤点に対する抑止力として働いているという意味不明な因果が成立しているのだ。
というか今回の日本史で杉田玄白のこと潜性遺伝って書いたの誰だよ。大声で笑っちまったじゃねえか。
杉田玄白をしわで認識するのはいろいろと雑。もっとこう、あるだろ!
「チッ、蚊ァうぜえな。殺すか」
「血の気多すぎんだろ。お前も寝ればよかったのに」
「俺思うんだけどさ、ずっと前の人類はこんなカスみたいな虫とかいちいち気にしてなかったわけじゃん?」
「聞いてる?てかカスみたいて。まあそうかもな」
「そうなると蚊からしてみたら『最近の人類やけに過敏じゃね?』とか思ってるはずじゃん?」
「いやまず蚊にそんな思考回路はないし、あったとしても類人猿の時代から生きてる蚊がいねえよ」
「フハハ」
「ごまかすな」
脊髄トークやべぇ。推定約500万歳の蚊とか嫌だわ普通に。
古代生物ってサイズでかいがちだし、もしいたらプテラノドンくらいでかくなってそうだな。
そんなバケモンに血吸われたらしわっしわになるだろ。杉田玄白みたいに。
「昌太ここまでどうよ?」
「あん?数Ⅰでケアレ・スミスやらかしてブチ切れた以外はまずまずだな」
「マジかよ。答案見せろ」
「ほらよ」
「は?87点じゃん。え、化け物?何お前」
「そんなか…?健太郎はどうだったんだよそんじゃあ」
「俺はこんなんだったわ。まあ平均超えてるしいいかなって」
「ほー…」
正直あのトチ狂ったテスト範囲で平均超えしてんなら上出来だと思う。わかってたけど流石に馬鹿じゃねえなこいつも。
そうして渡してきた数Ⅰ、日本史、地理の答案。
日本史の答案を見ると、「杉田玄白」が答えとなるところに堂々と「潜性遺伝」と書いてあった。いやお前かよ、馬鹿どころか天才じゃん。
「お前この後暇?」
「いや、バイト」
「ふーん、凸るわ」
「やだよ帰れ。寝ろや」
「受け入れないとお前の胃を絞るぞ」
「何その…何?とにかくとっとと帰って寝ろや」
「じゃあ杉田玄白を絞るぞ」
「それだと特段俺に害ないんだけど?脅しになってないんだけど?」
うわぁ、徹夜明けのヤツマジで話通じねぇ。いま自分が脊髄に従って活動してるの分かってないんだろうなあ…。
この後健太郎を寮に押し込んだ。
◇◆◇
放課後。今はCiRCLEでバイトに入るためいろいろ準備しているところだ。
準備つってもロッカーに荷物放り込んでブレザー脱いでクロムグリーンのエプロンつけるだけなんだけども。
いやすっげえ楽。あと今日はCiRCLEで貸出してる楽器の手入れとかするだけだからすっげえ楽。テスト明けということもあって配慮してくれたらしい、ありがたい。
とっととスタッフルームを出て、適当なギターを引っ張り出す。俺も大概テンションがおかしいらしく、変な独り言を漏らしながら手入れを進めた。
「ハァ〜ン、弦がボロッカスじゃねえかよ〜ん…」
「終わったあああああ!!!!!」
「うるせえ!!!!!」
新しく巻いた弦の余りをチョン切ろうとしたら、唐突にバカでけえ声が聞こえて危うく指をチョン切りかけた。
おい戸山香澄、何が終わったのかは知らんけどこんなとこで叫ぶな。ここフロントだぞ。
「昌太くん、今日はバイトなんだ!よろしく!」
「あいよ。あれ?てか香澄、いつもの猫耳は?」
「だから星だってば〜!朝寝坊しちゃってセットしてる暇なくて…えへへ」
「Bluetooth、お前もか…。なんか全然雰囲気違うなお前、ちょっと大人っぽく見える」
「ほんとー!?それみんなにも言われた!」
「ああ、だがさっきの言動で台無しだ」
「えぇーっ!?」
相変わらずリアクションでかいなぁ。ちょっと話しただけで香澄の表情10個くらい見た気がする。
ちょっと話したあとの彼女は黙って俺がギターをいじってるとこを見ているが、なんかむず痒い。普通によくある光景のはずなんだけど、猫耳がないだけでこうも違うのか。
「…てか、何が終わったって?」
「花女は今日が中間考査最終日だったんだよ」
「有咲か。俺らは今日からテスト返しなんだが、ちょっと遅いんだな」
「らしいな。だから多分それのことだと思うんだけど、こいつの場合は…」
「…えっ、ダブルミーニング?」
「かもな…まぁ私たちもちゃんと見てはいたし、あとは祈るしかないな」
「???」
「何もわかってねえみたいな表情してますけど」
「……」
有咲マジでお疲れ、今度撫でてあげよう。どんな反応するかな。香澄もなんか撫でてほしそうにしてるけど無視する。ワンコかお前は。
バンドやるにあたって成績悪いのって死活問題じゃないのか、知らんけど。
「有咲、まだ時間あるか?」
「ん?今日は30分くらい早く来ちゃったから待つつもりだけど」
「そか、じゃあ香澄。よかったらそのランダムスターもメンテしちゃうけど」
「ほんと?やってやって!」
楽器に限らず道具のメンテは地味で億劫だって人は割といる。俺もたまにチャリのメンテ面倒になることあるし。チェーンの油引きなおすのとかあんまりやりたくないわ。
最近カウンターそばに設置された、L字型のソファの直角になってるあたりに座って作業し始める。二人は適当に横並びになって座ってる。香澄、あんま近寄るな。ヘッド当たんぞ。
とりあえず弦を取って、いつも引っ掴んでるネックのところをオイルつけたクロスでさらっと拭いてみた。
…が、キレイすぎてワロタ。普段からここまでキレイにしてるならやることないじゃん俺。
ランダムスターに一目惚れしたと言っても過言ではない出会いを果たした香澄、めっちゃギター大事にしてるわ。ちょっとニヤつくじゃん。
「えっ、今俺拭いたよね。クロス真っ白のままだが?」
「普段から調べながらいろいろやってるからね!」
「偉っ…おい有咲、ギターめちゃくちゃ大事にされてるぞ。良かったな、やっぱお前の目に狂いはなかった」
「んにゅっ、そそそそうかよ…ニヤニヤすんな!」
不意打ちを食らった有咲は変な鳴き声を上げてそっぽを向いてしまった。
気持ちはよくわかる。人からもらったものを大切にするってさ、つまりそれはくれた人のことも大切にしてるってことじゃん。うわぁ尊い(早口)。たぶん有咲もそれを察したんだろうな。
指板がこんなに綺麗ならフレットでも磨いとこうかな。フレットって指板と弦の間にある金属のアレね。
ネックにマステを巻きながら、今日まであったらしい中間考査の話をする。
「香澄は大丈夫だったのか、考査。俺全然見てやれなかったけど」
「んー、わかんないけど…たぶん大丈夫!」
「大丈夫じゃねえだろそれ」
「私も香澄の問題用紙見たんだけど…まぁ…」
「反応わるわる〜。あんまり成績悪いんじゃバンドにも影響出るんじゃねえか、今回悪かったら頑張れよ」
「うっ…頑張ります」
「…香澄、居残りで作ってた家庭科の課題すっぽかしてギター弾いてたの忘れてないからな」
「ひゃい」
「えぇ…(困惑)」
…うん。本当にギター好きなんすね。大丈夫、引いてないから。流石にそこまで来るとやべぇだろとか思ってないから、ホントホント。
ん?弾いてるのはギターだろって?うるせえよ。
「おっ、何の話〜?混ぜて混ぜて♪」
「もしかしてテストか?アタシらも今日だったんだよ」
「む、あんま見ない組み合わせだな」
「そのへんでたまたまね。元々商店街つながりで絡みはあったよ?」
「えっ、知らんかった」
「さーや、巴ちゃん!こんにちは」
作業してたらドラマーの二人が横に座ってきた。俺の隣に沙綾、さらに横に巴がいる。
まぁ普通に考えたらそうか。あの商店街顔見知りばっかだし、共同体としての意識もよそに比べたら高いからなぁ。なんで知らなかったんだか…。
「あれ、香澄…いつもの猫耳は?」
「星だってばーー!!!!」
「寝坊したんだってさ。俺もさっき聞いたわそれ」
「…そうなのか。ウチも今朝あこが危なくてさ、髪梳かすの大変だったんだよな。あこってくせっ毛だし」
「えー、起床事故起こしてる人多くねえ?俺も昨晩夜ふかししたせいで今朝寝ぼけてチャリ置いて高校行っちゃったんだけど」
「大丈夫なのかよそんな状態でバイトして…」
「案ずるな有咲、俺は生きてる」
「生死の心配はもとからしてねえよ」
「また夜ふかししたの〜?ちゃんと寝なきゃダメだよ?」
「ハイ」
沙綾に久々にメッってされた、ウェへへ。
ちなみに徹夜すると人は死ぬ、これはマジです。だってさっき傀儡みたいなヤツおったからな。諏訪健太郎っていうんですけど…知らんか、ハハハ。
俺は4時間くらいは寝れないと昼間の意識がなくなるが、貴様は?
「巴ちゃん、羽丘も今日考査終わったの?花女も今日だったんだけど」
「ああ。ひまりが猛烈に唸り声上げてたな」
「…やっぱりどのバンドも得意不得意って如実に現れるんだな」
「あいつ…いやでもアフグロは俺も勉強見とったけど結構行けそうじゃなかったか?案ずるほどでもなくね?」
「羽丘は数Aの難易度設定を間違えたらしくてな…激ムズでたぶん平均点もかなり下がると思うけど、ひまりはそれを知らないっぽくてひどく狼狽してた」
「巴はそのことは言ったの?」
「いや、面白そうだから言ってない」
「やっぱたまに巴いい性格してるよな」
「何というか…幼馴染ってこんな感じなのか…?」
こんな感じです。アフグロ内ではひまりがいじられる構図はよく見られる。だいたいモカのせい。
ただそうなると唸ってたひまりもなんだかんだ出来たってことなんだろうな。良かったなひまり。
「蘭は?今回かなり勉強してるっぽかったけど」
「蘭ちゃん?店にもいつもに増して入り浸ってただけあって手応えあったみたいだよ」
「でやぁぁい!!ってつぐか…びっくりした」
「ひゃっ…ご、ごめんね?そんなに驚くなんて」
「…いや、俺もごめん」
「どっちかっていうと昌太の叫び声にびっくりしたよ」
「アタシも」
「サーセン!!!!!」
弁明させてもらうと、マステ巻く動作って単調だからついのめり込んじゃうんだよね。そんで今しがた来たらしいつぐの声が背後からしたら…まぁ、ビビるじゃん?
えっ俺だけ?いや座ってる俺らに合わせて少し腰落としてたおかげで耳元でしたんだよ、つぐの声が。普通死ぬだろ?
「さっきも似たような状況で指切りかけたし…マジで反省してる」
「いやどういう状況なのそれ。昌太さっきなんかやってたっけ?」
「沙綾が来る前だから見てないだろうけど弦の張り替えしててさ。んでさっきみたいにビビって弦の余りの代わりに指チョン切りかけた」
「切るって裂傷とかじゃなくてマジの切断かよ。怖え…」
「あーうん。そのへんはオージャポナイズムズカシイネーって感じっすね」
「何言ってんだ?」
やっぱもっと寝ときゃよかったわ。口を開かば深夜テンション。帰れ。
いい加減マステも巻き終えたので、研磨液をつけたクロスでフレットを磨く。これと指板、ボディ拭きだけでもいろいろと長持ちするようになるんすわ。
ボディは余裕あったら後でやろうと思ってるけど、指板メチャクチャ綺麗だった時点でやらなくても良さそうではある。そしたら弦磨きか。
…さっきから香澄が静かだと思ったら、また俺の手元をじーっと見てる。いや恥ず…うわ雑だな死ねやとか思われてないといいけど。
あ、でもすげえ目キラキラしてるし大丈夫だこれ。
「そうか…蘭勉強頑張ってたしきちんと報われてほしいなー」
「そんなに頑張ってたのか、蘭ちゃん」
「…有咲がちゃん付けで呼ぶの可愛いな」
「なっ…うっ、うるせー!」
「昌太くん…?」
「えっつぐ?いや今のは…何でもないです」
「…むぅ。いいけどさ」
ヤベ、よくわかんねえけど地雷原に足突っ込んだっぽい。
ちょうど俺の近くの背もたれにしなだれかかってるつぐからの圧がヤバかった。アレは熱エネルギーに変換したら焼け死ぬレベル。
「まあ、あれだけ頑張ってた蘭が手応え掴めてるんならぼくはうれしいです」
「…あたしがどうしたの?」
「ぐっ…!…おう、蘭か」
「今もちょっとびっくりしてたよね」
「「してたな」」
「うるさいよそこ!」
思ったんだけどさ、今来た蘭含めると周りに6人も女の子いるんだよね。何、俺死ぬの?駄弁りながらギターのメンテしてるだけなんだけど俺。理不尽すぎないか?
「勘違いしないでほしいんだが、俺はビックリ系のホラゲは耐性あるからな」
「何の意地の張り合いしてるの…あれ?っていうか香澄…」
「寝坊したんだって。今朝教室にスライディングしてたよ」
「この
「昌太くんは…ヘッドスライディング、だっけ?痛くなかったの…?」
「それ言ったっけ…いや、意外とそうでもなかった」
「こないだ花音さんがつぐんちで言ってたぞ」
「あーなるほどね。そりゃ言ったわ」
「すごーい!綺麗になってる!」
「香澄は話の流れをぶった切らないでくれ」
すごい綺麗にチョン切ったね今。綺麗に。
しかし実際拭いてみるとエグいくらいに光沢が出てくるし、はしゃぐ気持ちもわからんではない。ただタイミングがいいけど悪い。
「そういえば昌太がギターのお手入れしてるの久しぶりに見たかもなー」
「私はそもそも弾いてるとこすらそんなに見たことないんだけど…昌太はもっと人前で弾こうとかないのか?」
「えー…まぁやってみてもいいかなぁとは思うけど。ただ単純にそんな場がない」
「…ソロだとこの辺はかなり、というかないかも。みんなバンドやってるし…でももしやるならまたギタボやって」
「それはー…まぁ前向きに検討するってことで」
よし、フレット磨き終わった。とりあえずマステ引っぺがしてと…。
次はボディ…ハハッ、クロスに汚れ一つつかねぇ。何だこれ。まあ予想はしてたけど…もうすることないし弦磨くわ、うん。
「テストで思い出したんだけど、栄星って考査ごとに場合によっちゃ恥かくよくわからん慣習あるんだよね」
「…なんなんだ?」
「珍回答かますと開示される。名前は伏せられるけど」
「うへぇ…それは怖いなぁ。ちなみに何があったの?」
「バビロン捕囚をパブロン捕囚とかパブロ捕囚とかって。頭痛が痛いみたいな感じだった」
「パブロンはまだしもパブロはゲームやりすぎだろ」
スプ○トゥーンね。あれシャケに殺されるイメージしかないわ。もっと「塗るゲーム」とかいろいろあるだろうけど、一番印象強いのはシャケ。なぜなのか。
てか有咲知ってるのねそれ。もしかしてやってる?
「ちなみに俺は何故かE.T.をE.T.C.と書き間違えた」
「ふっ、ふふふっ…E、T…ちょっと待って」
「何それズルくない?開示された?」
「当たり前でしょ…」
蘭がツボった。この娘普段はクールだけど一回ゲラるとなかなか抜け出せないから、たぶん今回もしばらく戦闘不能になる。耐えろ、耐えるんだ。
…よし、チューニングもオッケー。けど元から大部分きれいだったしあんまり違いわからんな。まあいいか。
「ほいメンテ終わり。見た目じゃ違いわからんけど多分少しは音違うと思う」
「ありがとー!ねぇここで弾いていい?」
「スタジオでやれ」
「学生服姿でギターのチューニングしてるの、なんか新鮮だったなぁ」
「えっ?みんな普段からやってんじゃん」
「昌太くんだからだよ。しかもブレザー着てないしね」
「髪がサッパリしたのもあるかも?一気に行ったよね〜」
「沙綾さん、あんまりさわさわしないでくれませんか。くすぐったいです」
「香澄と昌太見てて思ったけど、やっぱり髪型って重要なんだな。本当に印象がガラッと変わる」
「個人的に香澄の猫耳がないのはスゲー違和感あるわ。衣装違うならまだマシかもしれんけど制服姿だし」
「星だよーー!!」
だから叫ぶなよ。
さっき香澄だけ早く弾きたいのかもうスタジオ前に行っちゃったのだが、まだ予約時間の前だしもう数分は待ちぼうけだぞ。てかそれまだ中に前の人いるだろ。
ちなみにこのあと俺は眠気のせいでパイプ椅子をはっ倒してしまいデカい音を出すミスを犯した。睡眠はちゃんと取りましょう、お兄さんとの約束ですよ。
先日ここすきをいくつかして頂けていることに気づきました、ありがとうございます。どこが気に入られているかわかりやすくていいですねコレ。