世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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(五体投地)
 


第21話 絨毯爆撃

「アメリカでは豆腐がブームらしい」

 

「そのようですね」

 

「あ、やっぱり知ってましたか」

 

「ええ、新聞でたまたま目に入りまして」

 

 

 まだ5月頭だというのに、春麗らかな候を三乗くらいしたのかというくらいに暑い休日。

 

 今日も今日とて昼飯に適当に焼きそばでも作ろうかと思ったら、そもそも麺すらないというアホな事態に陥った。

 しかし一度飛び出た衝動を抑えることもできず、仕方なく近場のスーパーに出向いて買い出ししてたら氷川さんに会った。

 

 やはり遠巻きに見ても彼女は存在感が強く、一瞬で誰だかわかった。不思議なことに向こうも有象無象でしかない俺にすぐ気づいたらしいけど。だってすぐに目が合ったし。

 

 今日は休日だというのに彼女は学校帰りなのか制服姿であった。

 ギターケースを背負った制服姿の女子高生というだけでも割と存在感はあるわけだが、それを氷川さんがとなると…。

 

 もはや言うまでもあるまい。

 

 

「アメリカでもあんなヘルシー志向の食べ物ってウケるんすね〜。豆腐くらい味気なかったらあっちの人全部吐き捨てそうですけど」

 

「さすがにそれは偏見がすぎるかと…。それでも確かにある程度は人を選びそうではありますね。実際日菜も豆腐みたいな味気のないものは苦手ですし」

 

「…ひな?」

 

「あれ、言ってませんでしたか。私には妹がいるんです。最近はテレビでも露出が増えていてよく見かけるのですが…」

 

「えっ?…あぁ〜、えっ?パスパレの…?」

 

 

 推しバンドのギタリストから齎された唐突な推しの情報にひとつ驚き、続いて同じ名字に思い当たり納得し、そしてその事実を認識してまた驚く三連コンボ。

 

 確かに言われてみれば名字は同じだし、容姿も瓜二つだ。逆になぜ気づかなかった。

 まあ恐らくは真逆なイメージから、無意識下で勝手に二人を切り離して考えていたんだろう。知らんけど。

 

 俺から漏れ出た呟きに氷川さんは一つ首肯する。

 

 

「そうです。…そこまで驚くようなことでしょうか?」

 

「確かに言われてみればってとこではあるんですけど…こう、思ってたより近いなと」

 

「ああ、なるほど…。知り合いの血縁者がアイドルだと言われたらそうなるのも無理からぬことでしょう」

 

「特に日菜ちゃん含めたパスパレ、ファンなんです」

 

「守備範囲広くないですか?」

 

「そうですかね?たまたま気になったトピックを追ってるだけなんですけど」

 

「それは十分フットワーク軽いですよ」

 

 

 ここまで物理的に近いところに推しバンドやら推しアイドルやらがいるとなってくると、もはや合縁奇縁を通り越して奇々怪々くらいに思われる。

 どうもここまでトントン拍子過ぎて不気味ですらある。

 

 セルフレジでカゴに放り込んだ商品を精算しながら考えていると、氷川さんがふと切り出した。

 

 

「時に筑波さん。最近花女で気になる噂が流れているんですが、ご存知ですか」

 

「噂?」

 

「ええ、先ほどの『フットワークが軽い』で思い出したのですが。曰く、『駅前には身軽な鼓笛隊が出没する』と」

 

「聞いたことないですね。なんですか鼓笛隊って」

 

「私が聞きたいですよ。他には『鼓笛隊の一人がシライ/グエンをしていた』とか、『クマが出た』『頭がハッピーになった』なんていうのもあります」

 

「うわ、なんか信憑性が一気に低くなってきた…やっぱりかなり尾ひれついてるんじゃないですかそれ。シライ/グエンとか一般人にできるわけねえだろ…」

 

 

 考え込んでたらセルフレジに『バッグに商品を入れてください』って言われた。うるさいよ、少しくらい考えさせろ。

 

 いや、まずもって鼓笛隊がシライ/グエンなんかできるわけねえだろ。『クマが出た』に至ってはもう噂というか事件じゃねえか。

 こうしたぶっ飛んだ噂はクジラのようなデカい尾ひれがついていることがしばしばであり、信じるだけ無駄な例が多いのだが。

 

 しかし、そんな眉唾ものの噂を氷川さんが『気になる』と評した。

 

 

「そうですね、私自身この噂自体は信じるには能わないと考えています」

 

「でもさっき氷川さん『気になる』と言ってましたよね。多少は噂の裏付けでも取れてしまったのでは?」

 

「流石に鋭いですね。確かに噂は信じるには曖昧なものばかりですが、こうも言いますよね。『火のない所に煙は立たぬ』と」

 

「…なるほど。規模は小さくなろうが、少なからず火元はどこかに存在するだろうと」

 

「はい。どうやらこの噂、火元は駅前で行われたゲリラライブの様子らしいのです」

 

「ほう、ライブ…ライブ?どういう尾ひれのつき方したらシライ/グエンとか出てくんの?」

 

「それは私も気になるところですが、人づてに聞いてもそれくらいしかわからず…」

 

 

 精算を済ませた商品をエコバッグに詰め込み、スーパーの外壁そばに移動する。

 

 こういうときに役立つのはChanterだ。

 発信が簡単なため、気になることは20秒もあれば共有できる。そうした側面からその場にいた人たちによるつぶやきを漁れば、新鮮な情報を手に入れることも難しくない。

 

 『駅前 ゲリラライブ』『駅前 鼓笛隊』。何回か考えられるワードを入力し、結果を浚う。その間氷川さんは俺のスマホを覗き込んでじーっと眺めていた。

 

 

「あ、それっぽい動画上がってますね」

 

「そのようですね…見せてもらっていいですか?」

 

「もちろん」

 

 

 その動画は観衆の後方から撮られたもので、中心で何をやっているかはわかりづらい…というかもうほとんど見えない。何しろ中心の出来事がすべて観衆の頭たちに埋もれているのだ。

 

 だがそれでも収穫は十分だった。

 

 

「これは鼓笛隊というよりはバンドのライブのようですね」

 

「っぽいですねー…え、なんで一瞬足が見えたの?この動画かなりスマホ掲げて撮ってるはずなんだけど」

 

「…バク転、でしょうか」

 

「は??」

 

「あぁいえ…私にもわかりかねますが、考えられるとしたらそれくらいでしょう」

 

 

 動画内で始終ひょこひょこしていた、紅白に前後1:1に塗られた円筒上の何か──たぶん帽子なんだろうけど──や先ほど見えた赤のブーツからして、鼓笛隊というのはこの衣装のことを指していたのだろう。

 観衆の頭のせいで全く姿は見えないが。

 

 

「噂の真相は『駅前で鼓笛隊のような衣装を纏ったバンドによるゲリラライブがあって、うち一人がバク転をしていた』ってとこですかね」

 

「…そうですね、動画という物証がある以上はそう認めざるを得ないかと」

 

「…まだ何か引っかかりますか?」

 

 

 噂の火元は掴めたが、隣の氷川さんは却って深く考え込んでいるように見える。

 気になった俺が問うと、控えめにスマホを指さしてこう言った。

 

 

「えっと、先ほどのバク転のシーンをもう一度見せてください」

 

「あ、はい。ここが何か?」

 

「このシーンですが、一瞬だけ髪が映っています。色までは光の当たり方もあって判然としませんが…」

 

「…金髪、に見えますね」

 

「はい、私もそう思いました。このバク転をしている方とボーカルの方はタイミングなどを考えると同一人物でしょうから、結果女性だろうと推察されるのですが」

 

「なるほど?」

 

「女性でボーカルを熟しながらもバク転をやってのける体力、金髪、そしてこの声というと…実は心当たりがあるんです。花女に弦巻こころという生徒がいるのですが」

 

「このボーカルがその人と同一人物、と?」

 

「間違いないと思います。というのもこの方には花女ではもはや共通認識とも言えるくらいに有名な『花女の異空間』なる渾名がついていまして」

 

「異空間」

 

「彼女は言動から行動からぶっ飛んでいて、その姿を見るとさながら異空間に迷い込むようだと専らの噂──いえ、これはもはや事実でしょう」

 

 

 何かとことが肥大化しがちな噂すらも凌駕する実物の有様。ルー○ル閣下かな?

 曰くその弦巻こころなる人物は『校舎3階から飛び降りても無傷だった(事実)』『冗談を聞かれたが最後、琴線に触れればたちまち実現してしまう(事実)』など、挙げればキリがないぶっ飛びっぷりなのだとか。

 

 噂って事実にも負けうるんですね、初めて知りました。

 

 

「なんというか…誤解を恐れず言うとその人自体が“眉唾もん”じゃないすかそれ」

 

「…どうにも花女にはこういった常識の枠から外れた生徒が多く、しばしば手を焼いています」

 

「あっ」

 

 

 フッと脳裏を過るきらきら星とうさぎ。お前ら言われてんぞ風紀委員さんに。

 額に指先を当て頭の痛そうな仕草を見せる彼女の姿は、マジで苦労している人のそれであった。

 

 

「ところで、まだ気になることがあるんすけど」

 

「………なんでしょうか」

 

「これ見ても『クマが出た』って噂は意味わかんなくないですか」

 

「…本当に出たんじゃないですか、エサに飢えたクマが」

 

「シャレにならねえ…」

 

 

 ◇◆◇

 

 

「炙りカルビ炙りカルビ炙りカルビ!」

 

「おーすげー」

 

「3回くらいだったらまだ行けるかな」

 

「3回でもすごくね??」

 

「昌太はできないのか?」

 

「俺ぇ?いやー、あんま自信がない」

 

 

 おたえの流麗な早口言葉に思わず感嘆を漏らす俺。

 なぜ早口言葉の話題になったかはさっぱり覚えていないが、今は有咲んちの蔵におたえとお邪魔している。ここにいるのは有咲、おたえ、俺の3人だけである。

 …なんでこうなったんだっけ?

 

 

 

 

 

 

『…?なんでインターホンが…おいうるせえ!連打すんなボケ!』

 

 

 目的だった焼きそばを食い充足感を覚えながらも猫野郎と戯れていたら、鳴る予定のないインターホンが死ぬほど鳴り始めた。

 そのBPM500くらいありそうなエゲツない密度の縦連は、俺の手をボコボコにしていた猫も俺の頭上へ逃げ込んでしまうくらいだった。俺も一瞬故障を疑った。

 

 

 今俺んちにいるこの猫は、例の俺に似ている(らしい)かの碧眼の黒い毛玉だ。

 そう、友希那さんや氷川さんに撫でくりまわされていたかの忌々しいぬこ野郎である。

 

 なぜかコイツはあの後帰途についた俺の後ろをついてきてしまい、結局そのまま見捨てるのもなんとなく憚られたためウチでお世話することにした。このことはまだ友希那さんにしか言っていない。

 というか俺は初見時に友希那さんがコイツをメチャクチャ可愛がっていたのを見ていたため、一応確認を取りに行ったのだ。すると。

 

 

『別にわざわざ聞きに来なくても良かったのに…でも、そうね。たまに会わせてくれると、嬉しいわ』

 

 

 うん、周りに人がいないタイミングで聞きに行って良かったな〜って思いましたね。信じられないくらい顔真っ赤だったし。

 でも素直に気持ちを伝えてくれるくらいには心を開いてもらえてると思うと嬉しくもある。

 

 ゆきにゃさんはさておき、この頭上で丸まってる毛玉にはサファと名前をつけた。眼がサファイアみたいだからサファね。

 我ながらすんごく安直に思われたが、名付けたときコイツはどこか満足げだったのでもう気にしないことにした。

 

 

 ……それもさておき。こうして現実逃避をしているあいだも断続的にインターホンはけたたましく鳴り響いている。

 もう2〜3分は放置してるはずなんだが、もしかして数人がかりでこんな嫌がらせしてる?人員の無駄遣いすぎるだろ。

 

 恐る恐るサファと共にインターホンのモニターを見てみる…も、普段の玄関前の景色はどこへやら、映っていたのはただのブラウン一色。

 やべぇ、こりゃ本格的に悪質ないたずら来てるかもしれん。インターホンのレンズのとこに紙ガムテでも貼られたでしょこれ。

 

 

 知らぬ間に身に覚えのない顰蹙でも爆買いしてしまったのかと恐れつつ、対処しないことにはこのクソうるせぇ機械音も鳴り止みそうにないので、仕方なく自分の目で確かめようと玄関へ向かう。

 

 

『…なぁサファ、お前だけでとりあえず見に行ってみてくんね?』

 

 

 頭はたかれた。

 気休めにもならない茶番を交えつつも扉から外を伺うと、存外原因はすぐにわかった。

 

 

『あ、出てきた』

 

『何してんだお前』

 

 

 頭にうさぎ乗せたおたえがいた。彼女は中腰になって執拗にインターホンを連打しまくっていたらしく、モニターに映っていたのはあのブラウンのうさぎだったようだ。

 

 ふーん、なるほどね。そっかそっか。

 

 

『サファ、ゴー』

 

『にゃー』

 

『うわっ。昌太ってネコ…あー待って喋らせて、わかったから痛い痛いイタタタタ』

 

 

 

 

 

 

「今更なんだけどさ」

 

「どうした有咲」

 

「なんで二人とも動物頭に乗せてきたんだ?」

 

「え?なんとなく」

 

「俺はおたえに唆された」

 

「人聞き悪いなぁ」

 

 

 あの後、俺にデコピンされたところを気にしながらもおたえは有咲んちに行かないかと誘ってきた。

 言いながらどこか恨みがましげな目線を俺に向けていたが、マシンガンみたいな音鳴らされてそれくらいの罰で済ませただけまだマシだったと思ってほしい。

 

 そして今こうして有咲と駄弁っている状況からも察せられる通り、俺らは互いに動物を連れ立って蔵に突撃したというわけである。そのとき有咲は盆栽眺めてた。

 

 

 俺らが早口言葉で盛り上がってた中、サファと例のうさぎ──おたえ曰く「オッちゃん」──は蔵の隅っこでゴムボールを蹴っ飛ばし合って遊んでいた。

 遠くから見たら変なボールが三つもぞもぞしているようにしか見えない。

 

 

「え、事実だろ」

 

「いやまぁいいんだけどさ…今に始まった話じゃないし…」

 

「…何?乗っかった俺が言えたことじゃないけどこれいつものことなの?」

 

「ああ…もう慣れた」

 

「でもかわいいでしょ?オッちゃん」

 

「それ関係ある?」

 

「まぁ、モフッたら気持ち良さそうだなぁとは…いや何でもねぇ、忘れろ」

 

「…ふーん?そうなんだ」

 

「サファ」

「オッちゃん」

 

「「ゴー」」

 

「ちょま、急に飛び込んで…わぁあ!」

 

 

 つい漏らしてしまったとばかりの有咲の貴重な本音に、俺らは示し合わせたかのようにそれぞれの毛玉を向かわせた。

 すげーモフモフしてふにゃふにゃになってる有咲を横目に、おたえはさっきの話題を再度持ち出す。

 

 

「さっき有咲も聞いてたけどさ、昌太はできないの?」

 

「いうて俺滑舌はそんなにだと思うけど…まぁ炙りカルビくらいだったら余裕のよっちゃんかな」

 

「そう?じゃあ言ってみてよ」

 

「おう。…炙りカルビアルビ被りタラバばかり!っしゃあオラァ!!」

 

「おいちょっと待て、マジで今の言えたと思ってんのかお前」

 

「おー、ちゃんと言えてるじゃん」

 

「これ私がおかしいのか?」

 

 

 ほどなくして毛玉を手懐け、膝上でうさぎを撫でつつ頭にサファを乗せたままの有咲がなにやらツッコんできた。

 や、俺ちゃんと言ったからな。アラビア数字って。

 

 

「いやアラビア絨毯って言ったぞ」

 

「そもそも元のワードすらわかってないじゃねえか。早口言葉以前の問題だよ」

 

「有咲はツンデレだもんね」

 

「何の話だよ!」

 

「今の話題の飛び方には流石に俺も乗り切れなかった」

 

「…乗られてたら私も反応できなかったよ」

 

 

 話の流れに乗って適当にふざけていた俺だったが、人間困惑するとふと素に戻ってしまうものである。

 賢者モードに入った俺をよそに、おたえは変わらず天然ムーブをかます。

 

 

「前々から思ってたんだけどさ、やっぱり有咲ってうさぎみたいだよね。そのツインテールとか…モフっていい?」

 

「どういうことなの…」

 

「ダ、ダメに決まって…うわぁこっちに来るなぁ!しょ、昌太っ!」

 

「…嫌なの?」

 

「当たり前だろ!」

 

 

 にじり寄るおたえ、逃げる有咲。膝上に乗せていたうさぎをそっとテーブルに置き(やさしい)、頭上の猫はほっといたまま俺の背中に張り付いた。

 俺を挟んでおたえを威嚇するさまはうさぎというよりは猫みたいだ。

 

 

 このあともずっと俺の周りをぐるぐるして抵抗していたが、いつの間にかサファと場所を代わっていたうさぎとともに結局モフられることとなった。南無。

 

 




 
 気づいたら一ヶ月経っていました。本当にお待たせしました。

 ガマガール様、ゴー☆太様、むにえる様、楽々雷天様、テブナンの法則LOVE様、敬称楽様、評価ありがとうございました!
 また放置期間中にお気に入りが500件突破していました。こんな更新間隔が不安定な作品を読んでいただき感謝の念に堪えません。

 たぶん次回から新章です。
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