世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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 (土下寝)
 


栄星体育祭編
第22話 貧乏くじ


「香椎の兄貴!レンコンがスられやした!」

 

「何…?カマシじゃねぇだろうな?誰だヤツのタマ取ったやつは…」

 

「それが…マメが切れてたみたいで…」

 

「何だオメェ、指詰めるか?おん?おめぇに敷展任しとったやろがい」

 

「す、すいやせん!」

 

 

 先程から裏社会の隠語が飛び交うここは、既に使われることのなくなった古く無駄に広い一室。

 少しのカビ臭さを孕むこの部屋の空気は、深刻な面持ちの男女数名によって非常に重苦しくなっていた。

 

 その空気を読めぬ闖入者によってもたらされた、レンコンがスられた──すなわち「武器が綺麗さっぱりなくなっていた」という情報。リーダー格の男は闖入者の男を詰りはじめ、もはや空気は最悪であった。

 

 引き戸のそばでヘコヘコと頭を下げている闖入者はレンコンの敷展、つまり武器の管理を任されていたらしく、香椎の兄貴と呼ばれた男はそいつに指詰めを迫っているのだが。

 

 

 ここ栄星の空き教室だぞ。

 

 

 香椎の兄貴とは体育祭実行委員長の香椎先輩。そして古く無駄に広い一室とはただの空き教室、深刻そうなフリをしてるヤツらは体育祭実行委員の面々。

 そう、この集まりは体育祭を運営する組織のものなのである。

 そもそもなぜ俺がこんなところにいるのか、事態は数日前にさかのぼる。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「そういえばお前こないだ花咲川にいただろ」

 

「は?何のことだよ」

 

「とぼけんなバカ」

 

「バカはおめぇだろ」

 

「さっそく話脱線してるぞ」

 

 

 音楽祭から数週間。

 俺はいつものように教室でいつものように普段のメンツと昼めしを食っていた。

 

 俺こと筑波昌太とクソ野郎こと諏訪健太郎が売り言葉に買い言葉で罵り合い、それを宗谷修介が諫めるのもいつものことである。

 始業式の日の健太郎は暑苦しくも好青年といった印象だったが、俺らはどこで道を踏み外してしまったのだろうか。

 

 

「逆に俺が聞きてぇんだけど、お前ら音楽祭来てたの?」

 

「当たり前だろ、花女の美女たちを合法的にお目にかかれる貴重な機会なんだぞ?」

 

「諏訪健太郎、あなたはバカだ」

 

「あ?それを言うならステージに上がってるお前のほうがもっとバカだろ」

 

「俺はお前みたいに性欲本位で動いてないから」

 

「はいはいどうどう。俺らはたまたまチケットが手に入ってな、どうせだし見に行くことにしたんだよ。この辺りじゃ有名じゃん、花女の音楽祭って」

 

「らしいな。俺は知らんかったけど」

 

 

 そういえば音楽祭前にこいつらからLIGNEで『明後日は空いてるか』ってメッセージ来てたな。そういうことだったのか…。

 またもや場を諫めた修介に続いて俺がそういうと、健太郎が心底意外そうな表情をする。

 

 この間有咲に聞いてから自分でも調べてみたんだが、テーマを音楽に絞って行われる合唱コンでない高校の祭事(長い)というのは全国的に見ても割と珍しいんだとか。

 加えて花女は女子高で、そのうえ地域に強く根付いている。その希少性を挙げればキリがない音楽祭が全国的に有名になるのは必定と言えるだろう。

 

 まぁ、俺は知らんかったけど。

 

 

「お前ギターあんだけ上手いのに知らなかったのかよ…毎年メディアでも取り上げられてるの見たことねぇのか?」

 

「ニュースとか新聞とかは頻繁に見てるんだけどなぁ。見た記憶がない」

 

「ふーん、不思議なこともあるもんだね」

 

 

 修介がそう呟いたところで、健太郎を呼ぶ声が教室の扉らへんから届く。そこには上級生と思しき男子生徒数名。

 ありゃ、あの一番前にいる人どっかで見たことあるな。なんつったっけ…

 

 

「すまん、ちょっと行ってくる」

 

「おういってら」

 

「あれは野球部の先輩だな」

 

「さっき声かけてた人見覚えあるんだけどなんでだろ」

 

「覚えてないの?あの人は野球部主将の香椎徹先輩。部活動紹介の時に見たでしょ」

 

「あぁ…たぶん俺そのとき死にかけてたかもしれんわ」

 

「…昌太って意外と興味あるないの差激しくないか」

 

「そんなことはない…はず。たまたまだろ」

 

 

 そう、たまたまだ。

 毎年この時期に新聞が消えたりテレビが死んだり、部活動紹介の日にチャリがパンクして猛ダッシュで高校に行く羽目になったりしたのも全部たまたまだ。

 なんか現象による干渉が疑われるような不運さだが、全部妖怪のせいだ。そういうことにしておこう。

 

 とか考えてたら今度はなぜか俺が健太郎に召集される。

 

 

「おーい昌太、ちょっといいかー」

 

「あん?…悪い、俺もちょっと外す」

 

「はいよ」

 

 

 言っておくが、俺は先輩たちとは全く接点がない。

 部活は帰宅部だし生徒会とかに入ったでもないしなので、まずもって上級生との接点がない。

 でもなぜか他校の上級生とは接点がある(あこ以外のRoseliaの皆さんとか)。今の俺を取り巻く人間関係は実に奇々怪々である。

 

 まぁそんなわけで、なんで今健太郎に呼び出されたのか俺には全くわからない。何考えてんだこいつやっぱバカなのか。そうなのか。

 

 

「えっと、お前が筑波昌太…でいいのか?」

 

「あぁはい、俺がそうですけど…何か?」

 

 

 香椎先輩が確認するようにそう言う。すでに嫌な予感しかしないが、話が進まないのでとりあえず先を促す。

 

 

「おぉ、お前が。そんじゃ、筑波には体育祭実行委員をやってもらう」

 

「は?」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 あとから知ったことだが、元々委員会の打診は健太郎に来ていた。そのために初めヤツが香椎先輩に呼び出されたのだ。

 だがその際クソ野郎が「適任者がいる」つって俺の名前を挙げやがったらしい。バイトで慣れてるだろうからだのなんだのと余計な理由付けまでして。

 

 つまりだ、俺は健太郎にこの役職を擦り付けられたというわけだ。

 

 ヤツはもちろんぶっ飛ばした。というかその場で変に断らずに顔を立ててやっただけ感謝してほしいくらいだ。

 

 

 そうして体育祭に向け、活動場所となっている空き教室にて仕事をこなすこと数日、今日はなんでか知らないが委員の一人が空き教室に入ってきて、突然皆がヤクザになった。

 

 冒頭の会話を翻訳すると、

 

 

『委員長!プリンタが動かなくなりました!』

 

『何だと、本当か?どうしてだ…』

 

『どうやらインクが切れてたみたいで…予備もないらしいです』

 

『マジかよ。予備もないんじゃどうすっかなぁ』

 

 

 って感じである。よく知りもしないのに無理やり隠語を使ってるせいで、たぶん本業の人が見てもわけわからん会話になっている。

 

 そもそも俺らが顔つき合わせて囲ってるのそのプリンタなんだけど。

 インクがねぇからさっき指詰め迫られた委員が先生に在庫を確認しに行って、結局なかったもんでそのままとんぼ返りしてきたわけだ。

 

 この意味不明な状況につい独り言を漏らしてしまう俺。

 

 

「学校でインクの予備蓄えてないってそれやばくないすかね」

 

「いやぁ気づいたらなくなっててな。ガッハッハ」

 

「ガッハッハじゃないですよ先生。明日から全校生徒に配るプリント類どうすんですか」

 

 

 指詰め委員についてきていたらしい委員会の顧問の先生が明朗に笑ってそう言ったが、もはや責任を放棄してるようなもんである。そんなテキトーな敷展してちゃ指詰めどころか絶縁待ったなしですよ。

 

 当初俺は高校初の委員会参入ということでビクビクしていたわけだが、体育祭実行委員会は割とこんな感じでゆるいところだった。

 今日はヤーさんだったが、昨日は高貴(笑)なお嬢様だったな。男女比7:3くらいなので大多数がオネェみたいになってマジで地獄だった。

 

 ちなみに空き教室は栄星高校のB棟──基本的には職員室に行くときや移動教室のときしか用がない──の端っこという位置取りで、その位置と委員たちのフリーダムさも相まって一部では「隔離病棟」と呼ばれているらしい。

 やめろ、俺もろとも十把一絡げにして患者扱いするな。

 

 

「つーことで筑波、経費は渡すから適当にインク買ってきてくれねぇか。あ、領収書よろしく」

 

「行く前提で注文追加してんじゃないよ。はいはい、わかりましたよ」

 

 

 こういったクソみたいな紆余曲折を経て、俺は放課後に委員会を放棄してシャバへカチコミに行くことになった。

 こういう買い出しは文化祭でやるイメージがあるが、なんで俺は体育祭の時点で先生にパシられてんだ。訳わかんねえ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 栄星からインクが売られていそうな家電量販店のある通りへは、道中にラジオのブースみたいな設えがある。

 そこではラジオ番組の出演者を窓越しに見ることができる…のだが、今日は一段と人が多く集まっている。この広い歩道を埋め尽くさん勢いである。

 

 パシられてる途中だが、普段あまり見ないその光景が気になったのでとりあえず人混みをかき分けて最前列まで行ってみることにした。はいはい、ちょっとすいませんね〜。

 

 

『白鷺千聖と』

『氷川日菜の』

 

『『ぱすてる✽らじおー!』』

 

 

 なるほどね(悟りを開く)。

 今日は不定期にやっているぱすてる✽らじおの収録日だったようだ。最近はChanterのお知らせとかになかなか目を通せていなかったしラッキーだな。

 

 『ぱすてる✽らじお』。アイドルユニットとして活躍中のPastel✽Palettesメンバーである白鷺千聖さんと氷川日菜ちゃんによる、不定期のラジオ番組である。

 内容はパスパレメンバーの普段の出来事などの雑談、お便り読み上げなど。

 

 白鷺千聖さんは芸能界でのキャリアが長く、高二にして多くの実績を持つ女優さんだ。

 ハーフアップのブロンド髪と紅い目がトレードマークで、そのカラーリングはいちごを思わせる。…えっ、俺だけ?

 

 そして氷川日菜ちゃんはパスパレの発足とともに台頭してきたアイドルで、紗夜さんの妹。

 紗夜さんと同じ緑がかった水色の髪だけど、こちらがロングなのに対し日菜ちゃんはショートミディアム。それでも毛先がウェーブしているのは姉妹共通か。

 

 天才肌の日菜ちゃんはいつも彩さんとか千聖さんを振り回していて、千聖さんがいつも保護者役になっているのだが、見てる感じ今回は割とおとなしめな気がする。

 

 

『──いつもの変なポーズもそうだけど、この間の彩ちゃんも変だったわね』

 

『あーそうだね。ひとたびスマホを開いてはへにゃへにゃしちゃってさー』

 

『正直最初はちょっと気味が悪かったわ』

 

『ねぇねぇそこのリスナーのみんな!どうして彩ちゃんはそんなにへにゃへにゃしてたと思う?』

 

 

 唐突に日菜ちゃんが我々リスナーの方に目線を向けてそう問うてくる。

 彩さんが変だ変だ言われてるのもなんか可愛そうだが、これもいつものことなのでスルーするとして。

 

 へにゃへにゃになるってなんだろう。子猫の画像でも壁紙にしてたんじゃないか?この間も友希那さんがすごくゆるゆるな表情をしてて、何事かと思ったら案の定猫の画像見てたし。

 ちなみに俺は犬と猫とで優劣はつけられないタイプだ。あ、聞いてない?そう…

 

 

『子猫の画像を壁紙にしてた?ぶっぶー!違うよー!』

 

『彩ちゃんは、パスパレとして初出演した番組の収録後に皆で撮った自撮り写真を壁紙にしてるわよ』

 

『それで千聖ちゃんが軽く半目になってて、たまに壁紙を見ては変えてくれって言ってるよねー』

 

 

 ぱすぱれてぇてぇ。あと日菜ちゃんのぶっぶーがかわいい。

 さっきからこっちをチラチラ見てはニコニコしてるけど、俺を見てるのかと勘違いしちゃうからやめてほしい。

 いやその前になんで俺の考えてることわかったの。たまたまだよな、流石に。

 

 

『正解はー…えっと、千聖ちゃん。なんだっけ?』

 

『もう…えぇと、確か『感謝したかった人とまた会えた』って言ってたかしら。それでその人と連絡先交換できて…って話だったわ』

 

『あははっ、だそうです!』

 

 

 可愛いなぁ!やっぱりニッコニコしてる日菜ちゃんは最高だな!

 

 感謝したかった人ねぇ。個人的には彩さんは「地味な苦労をたくさん積み重ねてきた人」という印象がある。

 とりたてて大きな絶望もないが、かといって決して苦労しなかったわけではない。ずっと平坦で山谷のない下積み時代はそれはそれで辛かろう。

 

 むろん「谷」の経験が全くないと言いたいわけではない。あくまでそんなイメージというだけだ。

 要するに下積み時代に世話になった人がその「感謝したかった人」なんじゃないのかな。知らんけど。

 

 

 とにかく生の日菜ちゃんさんと千聖さんを拝めたことだし、名残惜しいがいい加減に離脱することにしよう。

 …ん?電話だ。集団を脱けだしてから名前も見ずに電話を取る。

 

 

「もしもし」

 

『あっ昌太か?俺だよおr』

 

「ハンバーグだよ!」

 

 

 クソ野郎からだった。虫さんトコトコしたので即切りした。このあともスマホがずっとバイブしてたがもう知らん、しばらく黙ってろ。

 

 

 

『…るんっ♪』

 

『日菜ちゃん?』

 

『んーん、なんでもな〜い!』

 

 

 ◇◆◇

 

 

「…で?なんだよ、ここに呼び出しといて」

 

「いや、こないだの件について弁明をな。あと聞きたいこともあるし」

 

「はぁ」

 

 

 買ってきたインクを空き教室に吐き出した後、俺は健太郎と共に今やお馴染み羽沢珈琲店に来ている。

 いつの間にか静かになっていたスマホを見るとコイツから1那由多くらいメッセージが来てて軽く戦慄したので、仕方なくまた招集に応じた次第である。

 

 羽沢珈琲店は知らないうちに新たにバイトを雇ったらしく、店内では見慣れぬ白髪が躍っていた。

 メニューを指先で弄くりながら、視界の端でひょこひょこしていたその人物をふと見やる。

 

 

『らっしゃいャせー!何握りやしょうかー!?』

 

『イヴちゃーん!!』

 

 

「………………………」

 

「はぁ…やっぱりイヴちゃんは目に入れても痛くねぇ可愛さだぜ…」

 

 

 あの、大丈夫?つぐにそう言いかけたが、お冷とともに飲み下す。

 

 イヴちゃんこと若宮イヴ。彼女はパスパレのメンバーだが、先々週くらいからすでにここでバイトを始めていたらしい。

 普段はたまたますれ違ってたらしくて知らなかったけど…。やっぱり作為的な何かが働いているような気がする。

 

 俺らが来たときはつぐが応対したので、あの板前みたいな文句も言われることはなかった。こうして見ると言われてみたさはあるけども。

 

 

「さてはイヴちゃん見たさでここに招集したな貴様」

 

「そそそそそんなことはないじょ」

 

「はいダウト。なんでバレたか、3分後までに考えておいてください」

 

 

 某デカまる子の山田みたいになった健太郎はほっといてメニューを眺める。うん、今日もブラックコーヒーでいいか。

 

 イヴちゃんは北欧のフィンランドから日本に来た娘なのだが、日本語ペラペラだし、モデル業やアイドルを熟す傍らで部活もいくつも掛け持ちしているらしいハイスペック少女である。おまけに高校は花女だ。

 

 思うんだけどさ、全国的に有名なアイドルが普通にバイトしてるって凄いよな。駅前のマ○クドといいここといい、カンストしてる集客力のおかげでそのうちすぐには入れなくなってしまうかもしれない。

 

 

「地味に時間制限キツくね?それはそうと決まったか?」

 

「ああ。すいませーん」

 

「はーい、伺いまーす!」

 

 

 俺らのもとに来たつぐに俺はブラックコーヒー、健太郎はコーヒーフロートを頼む。

 なんとなくいそいそと動くつぐを眺めていると、ふいにこっちを向いて気恥ずかしそうに笑ってきた。

 

 

「…あの子も可愛いなぁ」

 

「は?目潰すぞコラ」

 

「何お前怖」

 

「少なくともつぐはお前みてぇな不埒なやつにだけは渡さん」

 

「お前あの子のなんなの?てか音楽祭のときのポニテの子といいお前の交友関係どうなってんだよ」

 

「俺に聞くな」

 

 

 単純な知り合いの男女比だったらどっこいなんだよ。たまたま普段絡みあるのが女の子率高いってだけで。そんだけですよ?ええ。

 

 

「まぁ聞きたかったことってのはそれだったんだけど」

 

「えぇ…」

 

「んでなんで俺がお前に委員会をなすりつけたかだったな。ほら、お前って細かいとこまで気が回るだろ?」

 

「…それは、まぁ…そうかもな」

 

「そうなんだよ、俺が認めてんだから胸張れ。でだ、正直俺はそこまで効率よく動ける気がしねえんだよ。要領がいいわけでもないしな。そこで代わりにお前を推薦したわけだ」

 

「んん、まぁ納得はできるけど…。いやお前だって言うほどでもねぇだろ。ましてリーダーシップというか求心力で言ったらお前のが上じゃね」

 

「いや求心力で言ったら香椎さんっていう絶対的リーダーがいるからいいんだよ。あそこで求められてるのはお前みたいなよく気が回るヤツで──」

 

「まさしくブシドー!ですね!」

 

「「へっ?」」

 

 

 ムサい男同士の低音ボイスに突然割って入る、よく通るソプラノ声。

 俺の斜め後ろに、ドリンクを載せたトレイを携えたイヴちゃんが立っていた。あっ、すごい目がキラキラしてる。かわいい。

 

 

「そのお互いをリスペクトするフェアな関係!まさしくブシドーに見る素晴らしい心意気です!あっ、コーヒーどうぞ!」

 

「おぅ?ど、どうも」

 

「ふぁっどどどどうも」

 

 

 こいつさっきまで良いこと言ってたのに台無しじゃねえか。この妙な耐性のなさもツテの細さの一因なのでは?

 健太郎はしんでしまったので、代わりに俺が応対する。

 

 

「あの、大丈夫なんですか?バイト中でしょうに」

 

「休憩を頂戴したので大丈夫ですよ!お隣失礼しますね」

 

 

 言って俺の右隣に座ってくるイヴちゃん。警戒心薄くない?

 流石に狼狽えた俺は健太郎に目配せするが、当の本人はコーヒーフロートの隣の亜空間にストローを挿しひたすらに空気を吸い続けていた。

 緊張のあまりストローを適切にコーヒーに挿すことすらできなくなった友人の姿に、俺は感涙を禁じ得なかった。

 

 

「それで、お二人はどんな話をしていらしたのですか?」

 

「あーそうですね、簡潔に言うと学校でコイツが勝手に俺を委員会に推薦しまして。その理由を聞いてたところです」

 

「なんかまだ刺々しいなお前な。悪かったって」

 

「わかっとるからまずお前はちゃんとストローをコーヒーに挿せ」

 

「やはりとても仲がいいのですね!ゴエツドーシューです!」

 

「それは真逆ですよ、えーっと…若宮さん」

 

「私のことご存知なのですか?」

 

「もちろん、ファンなので──というか今更なんですけど、そんな軽率に男の隣に座っちゃって大丈夫なんですか?」

 

「…?大丈夫ですよ?よく危機感が薄いとは言われてしまいますが、ちゃんと私なりに接する人は見極めているので!」

 

 

 ということは、さっきイヴちゃんは健太郎じゃなくて俺の隣に座ったから…。

 再び健太郎の方を見やると、今度はひたすら氷を吸い上げていた。俺は失笑とともに泣いた。

 

 

「おい、なんかお前の視線がむず痒いんだけど。なんか失礼なことでも考えてんじゃねえだろうな?というかさっき嘲笑っただろ!?」

 

「いいえ」

 

「こっち見て言え。イヴちゃんの方見てないで俺の眼見て言ってみろや」

 

「あっ。さっきここに座ったのはなんとなくこっちがいいなーと思っただけで…」

 

「……若宮さん、恐ろしい子…」

 

「へっ?」

 

「……………」

 

 

 先程のフォローの皮を被った死体蹴りみたいなイヴちゃんの一言で、ついに健太郎は物言わぬ屍と化してしまった。骨くらいは拾ってそのへんにばら撒いといてやるよ。

 

 このあとは一方的に名前知ってるのも気持ち悪いので(勝手な自己判断だけど)、とりあえず俺らからも軽く自己紹介をしてからお暇させてもらった。

 どうせイヴちゃんとの直接的な接点ここしかないし、そもそもファンとして推しのプライベートに深入りしすぎるのもアレだし軽くでいいんだよ。

 

 …そんなことしても今更だろって?馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前。

 

 




 
 お待たせしました(n回目)
 色々と忙しくて全く筆が進みませんでした、毎度毎度お待たせしてしまい恐縮です。これからは新章を少しずつ進めていきます。

 迅雷 駿河様、pepepe-様、ジム009様、Lankas様、評価ありがとうございます。
 
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