世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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第24話 無茶振りとしわ寄せ

 五月だ!土曜日だ!

 

 

「此度の招集に応じてくれたこと、心から感謝申し上げる」

 

「…………」

 

 

 委員会だあああああ!!!!!

 どこぞの軍隊よろしく月月火水木金金の体制が敷かれているこの体育祭実行委員会に休みなんかあるわけねえだろボケが!というわけで土曜日も出勤である。

 中学校のときの実行委員ってここまで忙しくはなさそうだったんだけどなぁ。この馬鹿げた仕事量は先生たちの仕事全部ぶん投げられてる説すらある。

 

 ちなみに現在アジト(いつもの空き教室)には香椎委員長と俺以外に市川くん、中戸さん、八田くんの五名がいる。委員長以外は俺と同じ一年で、ここにいない残りの委員は別の仕事にあたっているらしい。

 

 

「本日もいつものように通常業務に…と言いたいところだが、ここで一つお知らせがある。良い方と悪い方どちらが聞きたい?」

 

「委員長、一つなのに良い方もクソもあるんですか?」

 

「うるさい市川、発言を許した覚えはないぞ。罰として本日、これ以降の一切の発言を禁ずる」

 

 

 いや聞いてきたのそっちでしょうが。理不尽すぎる。

 市川くんは唇を噛みながらいかにも不服ですといった面持ちだが、さらに発言を重ねればまた理不尽な懲罰が飛んでくるため仕方なく黙っているようだ。

 

 

「この情報が吉と出るか凶と出るかは貴様ら次第だ…精々馬車馬のごとく励むがよい」

 

「何言ってんすか」

 

「口答えするな八田。お前はいつ私に口答えできるほど偉くなった?身の程を弁えろ、下郎風情が」

 

 

 無○様のパーフェクトぱわはら教室始まったな。

 なんで委員長は秒を噛むごとに加速度的に高慢になっていってるんだ。このような悪ふざけは今に始まった話ではないが、今日はそのテーマがまるでわからない。

 

 

「此度、体育祭にて新たな演目の追加が発表された」

 

「「「「なッ!?」」」」

 

「そしてその演目とは昼休憩に行われるミニライブだということだ」

 

 

 会長から突然発表された伝達事項は皆を一様に驚愕に染め、絶句へ追い込んだ。

 

 元々体育祭当時のスケジュールは全員の討論によってベストな状態に仕上がろうとしていた。が、ここへ来て上からの無理な注文が入った。

 そして当日の実行委員は基本出ずっぱりである。組み上がっていたスケジュールではまともな休憩の時間は昼休憩くらいなものになっていた。

 

 しかし、ミニライブの追加という横槍によって僅かな休憩時間すら潰れ仕事に駆り出される可能性が出た。これらの意味することとは──

 

 

「──ふざけんじゃねえ!労働基準法を遵守しろ!」

 

「被雇用者の最低限の権利を保証しろ!」

 

「労働環境の改善を求む!不当な扱いを受けた被雇用者たちよ、立ち上がれ!今こそストライキの時!」

 

 

 ストライキである。なるほど、さっきから何やってんのかと思ったら横柄な企業とそれに反駁、決起する被雇用者たちの構図か。わかりづれぇよ、悪ふざけが社会的すぎる。

 ちなみに俺はここまで一言も喋っていない。

 

 

「いや真面目な話、この急な変更は本当に申し訳ないと思ってる。俺も実は詳しくは聞いてないんだが、突然顧問の先生に『ミニライブを追加しろ』と指示されてな、我々としては従わざるを得ないのだ」

 

「ミニライブって言われても…。誰が出るんですか?」

 

「中戸さんに同意だ。周辺校は音楽活動が盛んだが、栄星は勉学に力を入れているためそこまででもない。校内で募るには無理があるかと」

 

「それがな市川、校内じゃないらしいんだ。なんとも校外から──」

 

「──あぁ、そこからは俺が説明させてもらおう」

 

「出たな魔王…いや、先生」

 

「まあ聞けや、香椎委員長さん。その要望は俺らのさらに上からのお達しなんだよ。それも校長のはるか上でな、お前らどころか俺ら教師陣でもお手上げなんだよ」

 

「なっ…!?まさか先生のバックに黒幕が存在したとは…!」

 

「そのノリいつまでやるの?」

 

 

 市川くんノリノリだね君。先生も説明してたのに素でツッコミしてるし。

 しかし校長以上の黒幕が一高校に介入してやることがミニライブの実施って、やってることが大きいのか小さいのかよくわからん話だ。ただそのしわ寄せ全部俺らに来るんだよな。ふざけんな。

 

 

「…話を戻すが、さすがにこんな事態に陥って『よくわかんないけどとりあえずやってね』なんてそれこそクーデターもんだろ。だからさっき校長さんを詰ってきた」

 

「詰るって…。それで何と?」

 

「あぁ、校長いわくこれの仕掛け人は──()()だそうだ」

 

「弦巻ィ!?」

 

「うおっ、なんだ筑波。お上さんのこと知ってんのか?」

 

「いや知りませんけど」

 

「は?」

 

 

 “弦巻”。その名を馳せた『弦巻グループ』はまず不動産会社として成功を収め、その地盤を足がかりに他産業にも進出。

 後に弦巻の持株会社を中核に、子会社や孫会社にて不動産業やホテル・リゾート事業など様々な事業を手掛けるようになり、巨大コンツェルンへと成長した。

 

 現在弦巻という名は世界規模で高い知名度を誇っているらしく、そのきっかけは弦巻を統括する社長が世界長者番付にてマイク○ソフト創業者をも凌ぎトップ3にランクインしたことらしい。

 あまりの富や影響力から、英語圏では畏怖を込め『TSURUMAKI』と呼ばれている。

 

 

 恐らくさっき先生が言ったのもこの弦巻のことだろうが、だからこそそんなビッグネームの介入には首を傾げてしまう。

 何しろ彼らはやろうと思えば国をも動かしてしまえるのだ。何故そのような権力を持ってわざわざ一般校の行事に介入してきたのだろうか、と。

 

 

「弦巻──かの『弦巻グループ』のことで、間違いないんですね?」

 

「あぁそうだ、中戸。俺ももちろん聞き返したが間違いないとのことだ」

 

「なんでそんなビッグネームがここみたいなしがない高校に介入してきたんすかね。なんの脈絡もないような気がしますけど」

 

「いや、もしかしたらあれじゃないか?こないだ何故か弦巻のご令嬢がウチの校門のとこに来てたやつ。というか逆にそれしかない」

 

「え、なんすかそれ。知らないですよそれ」

 

「あぁ、お前その時はインク買いに行ってていなかったんだろ。ここ留守にしてるときに来てただろ、確か」

 

 

 委員長の話した心当たりを聞いてすぐさま脳内を検索したが、全く持ってそんな記憶はなかった。が、先生曰くそれはちょうど俺がインクの買い出しに行ってるときに起こったらしい。

 なるほどね。はいはい。

 

 

「いや知らね〜!」

 

「ですが弦巻の一人娘が訪問したくらいでこんなことになるとは、にわかには信じがたい話ですね。もしかして栄星って何らかの政治的な思惑で建立されたとかじゃ…」

 

「あー中戸さん、その線は薄いと思いますよ。な、八田?」

 

「えっ!?…おぉ、悪い。ボーッとしてた。弦巻さんが来たときの話だよな?ちょうど彼女が栄星の校門に来てたときそのそばに俺もいたんだが、確か『素晴らしい学校ね!ここでライブしたら楽しそうだわ!』って言ってた」

 

「「「「「絶対それじゃねーか!」」」」」

 

 

 でもお嬢が来ただけでこんなことになるって一体何なの?TSURUMAKIの権力を一人娘が(ほしいまま)にしとんのか?

 こないだだって花咲川でそんなのやったばっかじゃん。弦巻さんも花女生だしその場にいたはずだろ。

 

 

「それで結局そのライブで何するんですか?」

 

「あぁ…さっき香椎も言いかけてたけどな、外部から()()()を呼ぶんだそうだ。確か…パス、パスカル?とハロウィンみたいな名前のバンドだった」

 

「たぶんそれパスパレとハロハピです先生」

 

「あぁそれそれ。よく知ってるな市川、俺こういうの疎くてなぁ」

 

「えっパスパレ呼んだんすか!?」

 

「そういや筑波はパスカル知ってるんだっけか。呼んだというか、話を聞くに向こうも巻き込まれた臭いんだよな。だから言葉を選ばずに言うとパスカルもミニライブにくっついてきたってことだ」

 

「は?どういう…ちょっと確認とっていいすか?」

 

「ん?別に構わんが…誰にだ」

 

「あぁまぁ、()()()です」

 

 

 流石にちょっと意味がわからない。

 『ミニライブにくっついてきた』というのもそうだが、さっき先生はパスパレをバンドとして計上していた。が、そもそもパスパレはバンド活動をしていない。

 唯一麻弥さんはかつてスタジオミュージシャンとして活動していた経歴があるが、確か他のメンバーは音楽活動をやっていないはずだ。まあやっててボーカルくらいか、CDはあるし。

 

 一ファンとしてはツテを濫用するようであまり気乗りはしないが、今後の委員会に響いてくる可能性が高いのでウラをとっておきたい。

 ポケットに突っ込んであったスマホでその関係者に電話をかけながら、俺は廊下に出て適当な壁に寄りかかる。

 

 

『もしもし、丸山です。珍しいね?昌太くんから電話してくるなんて』

 

「いえ、ちょっと聞きたいことがあって。今時間大丈夫ですか?」

 

『うん、どうしたの?』

 

 

 ()()()である。間違ってはいない。

 

 

「コンプラ的なアレがあったら伏せてもらっていいんですけど、栄星高校でなんか案件来てませんか」

 

『あー…うん。あれっ、この情報ってもう解禁だったっけ』

 

「あーまだだと思いますよ。俺は例のアレをねじ込まれた側で、今しがた軽く説明されたので」

 

『ねじ込まれた』

 

「俺今栄星の体育祭実行委員やってまして、さっきその話が突然ウチに降りてきて阿鼻叫喚なんですよね。それで今後に響いてくるから一応確認を、と」

 

『えっ?それほんと…?』

 

「えぇ、端的には弦巻さんの仕業と聞いてますけど」

 

『あー…そうらしいんだよねぇ。私たちも一週間くらい前に──』

 

 

 ◇◆◇

 

 

『スタッフさんが話していたのだけど…この新プロジェクトが弦巻さんの耳に入ったって噂、知ってる?』

 

『『えっ』』

 

『『?』』

 

 

 新プロジェクト始動をSNSで告知した日のこと。千聖が話の流れで思い出し口火を切ったのは、スタッフによるとある噂話。

 ただ耳に入っただけで噂になるやべー存在こと弦巻こころ。彼女と同じ花女に通う彩とイヴはそれだけで何かを察したかのように反射的に声を漏らしたが、翻って羽丘生の日菜と麻弥はいまいちピンと来ていないようだ。

 

 

『弦巻さんって名前は聞いたことあるけど、なんでそんなことが噂になってるの?』

 

『普通はそう思うよね…』

 

『ココロさんは“言ったことが大体現実になる”ことで花女では有名なんです』

 

『…つまり、それを聞いて何か起こるんじゃないかってことですか?』

 

『まぁただの噂でしょうし、弦巻さんの琴線に触れなければ特に気にすることも──』

 

『──ちょっとごめんね、伝えたいことがあるの』

 

『お、お疲れ様です。どうしたんですか?マネージャーさん』

 

 

 麻弥の懸念に自身の見解を話していた千聖を遮り、レッスンルームに入ってきたパスパレのマネージャー。濡羽色のポニーテールを腰元まで伸ばしていて、切れ長の目に堅く決められたスーツが如何にもできる人という雰囲気を醸している。

 しかし当の彼女は普段のクールさを喪い、少し狼狽えているようだった。彼女は冷静さを忘れなければ容貌通りのできる人なのだが、一度崩れると彩のように取り乱してしまうフシがある。

 

 とはいえそんな不測の事態などそうそうあるものではなく、挨拶した彩も少し驚いている。

 

 

『またオファーが入ったのだけど、これがちょっと…予定を繰り上げなきゃいけなさそうで。一先ず早いうちに伝えておきたいのよ』

 

『予定を…?そのオファーとは一体?』

 

『ライブよ。栄星高校って知ってるかしら』

 

『あの羽丘以上の進学校ですよね?』

 

『そう。そこの体育祭でライブをやるから一緒に演ってくれないかと、かの弦巻さんからオファーが来た』

 

『『『『『えっ』』』』』

 

 

 そりゃ驚く。何しろ先程ちょうど話題にしていた名前が飛び出したのだから。

 

 ここでいう"弦巻さん"とは弦巻系列の会社全体を指す。

 弦巻はその莫大な富で様々な業界を援助したり、適宜仕事を委嘱したりと、経済の停滞や市場の寡占を防いでいる。なまじ影響力が大きいだけに、これだけの企業が油断すると平気で経済なんて倒れてしまうのだ。

 芸能界も割とその恩恵に与っていて、そのよしみで"弦巻さん"なんて呼ばれていたりする。

 

 閑話休題。

 

 

『でも、なんて栄星でのライブのオファーが弦巻さんから来たんだろうねー?栄星に頼まれるならわかるけど』

 

『私も弦巻さんからとしか聞いてないから裏事情はよくわからないけど…それよりもスケジュールよ。そのライブでは是非()()()()()()出てくれと言われたようなの』

 

『バンド?でもそれって今日…』

 

『そうね。でも何故か先方の耳には入っていたみたい。はぁ、一体どうやって…』

 

 

 こめかみに手を当て嘆息するマネージャー。

 

 この日発表された新プロジェクトとは、パスパレの「アイドルバンド」としてのリスタート、それに付した特番の制作である。

 パスパレはデビューから一年も経たないうちにブレイクし、その地位を盤石にしてきた。この勢いを無駄にしないためにもここで新たな手を打ち、他のアイドルとの差別化を図らねばならない。そこで提案されたのが「アイドルバンド」という道。

 

 昨今のガールズバンドブームは日本全国に波及し、各地でその波に乗り様々なグループが活動している。

 その中でもアイドルの要素を持つガールズバンドというのはもちろんいるのだが、明確にアイドルとバンドの両刀を表明したグループは過去類を見ない。

 この新プロジェクトは、昨今の世相に乗るとともにその新たな在り方の開拓を狙ったものとなっている。

 

 因みに特番はバンドとしての初ライブまでを映すドキュメンタリーを予定しているらしい。

 ファンの要望も厚い『パスパレとしての舞台裏』は歴も浅いことから露出が少なく、そうしたニーズに応えた形だ。

 

 

『その体育祭までは、生徒たちの自主性を重んじてスケジューリングも2ヶ月と少しくらい用意されてる。お披露目ライブはその前にやっておきたいから…1ヶ月半くらいになるかしら』

 

『なるほど…。一から練習して一、二曲ギリギリでマスターできるかくらいてすかね。結構タイトではありますね』

 

 

 このオファーを出した弦巻側は、厳しいスケジュール繰りをさせてしまった代わりにハコの確保やライブの宣伝を請け負ってくれるという。

 ライブの宣伝は可及的速やかに進められることになっているが、過去に数回ライブ自体はやっているため、バンドとしての活動開始が悟られることはない。

 

 麻弥はスタジオミュージシャンとしてドラムの経験があり、機材オタクな側面もあることから他のパートの楽器についても何となくわかる。その経験ゆえの発言だった。

 他メンバーの担当パートは彩がボーカル、千聖がベース、日菜が(おねーちゃんと同じ)ギター、そしてイヴがキーボード。

 

 

『…問題は、完全に音楽経験のない私よね』

 

『イヴちゃんはピアノの経験あるんだっけ?麻弥ちゃんはドラマーだし、彩ちゃんは研修生時代にたくさんボーカルの練習やってるし。あたしはおねーちゃんのギターいつも見てるからなー』

 

『大丈夫?もしツラかったらスケジューリング変えてもらうようにするけど』

 

『いえ、問題ありません。女優としての矜持にかけて、最高の状態に仕上げてみせる』

 

 

 どうあれ結局スタッフ間でまことしやかに囁かれていた弦巻さんの噂は、かくして現実となってしまったのである。

 

 

 ◆◇◆

 

 

「──なるほど。そりゃまた…」

 

『結局何で栄星なのかはわからずじまいだったんだけどねー』

 

「あ、それは弦巻のお嬢が何故か栄星の校門来て『ここでライブしたら楽しそう』って言ったかららしいです」

 

『…流石に弦巻さんだなー』

 

 

 さすが世界のTSURUMAKIだ、まさかガチでパスパレにも介入していたとは。こんな形でネタバレを食らうとは思ってなかったが、このことは来るべき日までそっと自分の中にしまっておくことにする。

 つかそもそも弦巻のお嬢はなしてウチに来たんだ。冷やかし?

 

 

「とにかく情報ありがとうございます、こちらはまぁ…どうにかしときますので。それでは」

 

『あはは〜…よろしく。またねっ』

 

 

 電話を切ってまたアジトへ入り直すと、皆が一様にこちらを見ていた。よほどこのライブの真偽が気になるんだろうと思った俺は、特に気にせず本当だったということだけ伝えた。のだが。

 

 

「筑波さん。よく考えたらパスパレの関係者って、何で連絡先持ってるんですか?」

 

「…親のコネです」

 

 

 大嘘である。

 

 

「ん?何でそこで目を逸らした?誰に電話したんだ?」

 

「関係者です」

 

「その関係者はどこの誰なんだ」

 

「関係者です」

 

「おい落ち着け市川!お前そんなにアイドルに傾倒してたのか!?」

 

 

 実はドルオタだったらしい市川くんが何かを察知してめっちゃ詰め寄ってくるのを、香椎先輩が羽交い締めにして抑え込むという光景。

 

 結局このあとはミニライブ前提のスケジューリングをしたが、なんだかんだ阿鼻叫喚であることに変わりはなかった。

 このアホみたいな状況をどっかに吐き出そうとChanterを開き一言。

 

 

 『体育祭実行委員、修羅場なう』…と。

 

 




 
 島とか大型客船とかポンと用意できちゃう弦巻がどんなことしてるかとか考えてたら、いつの間にか平気で国一つ潰せるヤベー企業になってた。
 
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