世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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 タイトルのIQ、いいとこ12
 


第25話 ハッピー!ラッキー!!スマイル!!!イエーーーーイ!!!!

 こないだのミニライブのアレといい、七月の体育祭は前途多難である。

 というのも、俺はそのミニライブについて演者さんたちとの情報伝達をするよう言いつけられたのだ。だがそれに当たってすでに困ったことがある。

 

 ハロハピ、どこの誰ぞ?

 

 こないだのパーフェクトパワハラ教室から始まった阿鼻叫喚ミーティングではしれっと名前が出てきていたが、俺はそのハロハピとやらを知らない。市川くん曰く最近出てきたバンドらしいのだが。

 バンドということなので、とりあえず香澄に聞いてみた。なんでって?パッと名前が浮かんだから。

 

 

筑波昌太『Hey, Kasumi』

筑波昌太『ハロハピって聞いたことある?』

 

Kasumi☆『はろはぴ』

Kasumi☆『?』

Kasumi☆『へりこぷたーのあの子?』

 

 

 それハロルドや。

 とにかく、そのハロハピの人とは何かしら連絡手段を獲得しておかなければマズい。

 

 うーん、参った。どうしよう。

 

 

「ん!?おい筑波!」

 

「あ?どうした市川」

 

「今日もいるぞ、弦巻のご令嬢!最近になってまたよく来るようになったけどどうしたんだろうな」

 

「あーマジ?何でだろうな」

 

 

 ドルオタらしく(失礼)はしゃぎまくっている市川くんだが、個人的にお嬢とは噂が噂なのであんまし関わりたくない。悪い人ではないと思うけど…なんかこう、俺の感性だと苦労しそうで。

 

 

「市川、俺今日はもう上がるわ。演者さんと連絡手段確保しなかんでそっち当たるわ…」

 

「あー、大変だな…マジで。頑張れよ」

 

「お互いにな。お疲れ」

 

 

 まぁ一応バンドだってことはわかってるし、当たるならCiRCLEが順当だろうな。あそこはここらのガールズバンドがよく贔屓にしてるとこだ。いつも受付おるからわかる。

 それでもハロハピなんて名前見たことないんすけど。店員の風上にもおけんやつめ。ガールズバンドじゃない説はあるけどそれだったらマジでお手上げ。まりなさん知ってるかなあ…。

 

 駐輪場からチャリをとってきて校門を抜けようとしたところで、目の前に何かが立ちふさがる。

 

 件のお嬢だった。

 

 

「…」

 

「…」

 

 

 完全に俺の目を見ている。全く身に覚えがない。加えてなぜかは知らないがすごく目をキラキラさせてニコニコしてる。別に悪い気はしないがむず痒い。

 身に覚えがないので横をすり抜けようとするが、再びお嬢が立ちふさがる。

 

 避ける。三度立ちふさがる。

 また避ける。四度立ち

 

 

「何なんですか!?何用ですの!?」

 

「やっと話してくれたわね!あたしは弦巻こころって言うの!あなたの名前を聞かせて?」

 

 

 質問したの俺だよな?一瞬で主導権あっちに持ってかれたけど。

 なるほど、これが花女の異空間ね。氷川さんが言ってたことわかる気がする。

 毒気を抜かれてしまい、敬語も忘れて質問に答える。

 

 

「…………筑波昌太だ。誰かを待ってるのか?何回かここに来てるみたいだが、用事があるなら呼んでくるぞ」

 

「あなたが昌太ね!ううん、それには及ばないわ。だってあなたを待っていたんだもの」

 

「はい?」

 

 

 トテトテとこちらに近づきながらそう宣うお嬢。なんかスゲー近いんだけど、ここらの女子ってパーソナルスペースバグってんのかな。

 

 チラとお嬢の後ろ、ちょうど校門の影になってるとこに人影が見えた。が、すぐ目を逸らした。

 スーツに身を包んだ女性でサングラスをしていたが、明らかにヤバい。『手出したらわかってんだろうな』とでも言わんばかりだ。

 

 …なるほど、これぞ弦巻。

 

 

「はぐみや花音から話は聞いてるわ。なんでも泣いてる子を忽ち笑顔にしちゃうとか!素晴らしいわ!」

 

「あ、あぁ。言っちゃ何だが、疑わないのか?俺が嘘こいてるかもしれないだろ」

 

「ふふっ、やっぱり聞いてた通りね。大丈夫よ、笑顔で溢れてる人に悪い人はいないんだから」

 

「え?」

 

「はぐみも花音も、あなたのことを話しているときは皆笑顔だったわ。それに、あなたを見てると安心するもの。これで嘘なはずがないわ!」

 

「…そうかい。今まで待たせて悪かったよ。俺に用があるのはわかったがどうしたんだ?」

 

「そうね──

 

 

 ──あたしと付き合ってくれないかしら?」

 

 

 ◇◆◇

 

 

「…」

 

 

 知ってたよ〜ん。知ってましたよ〜ん。

 言葉足らずなアレは単に家に来てくれというお誘いだった。期待なんて一ミリもしてない。

 

 件のハロハピ──正式名称を『ハロー、ハッピーワールド!』という──はお嬢こと弦巻こころがリーダーを務める新興のガールズバンドだった。

 俺もちょうど彼女らには用事があったので渡りに船だった。

 まあよく考えたら弦巻の名で体育祭に介入してきたのにライブにお嬢がいないわけないわ。単純に消去法で考えたらハロハピにお嬢がいそうなことくらい分かる。

 

 そんで今はその弦巻家におるわけだが、これ何かの城郭とかではなくて?

 

 

「ここがあたしのお家よ!遠慮せずに入ってちょうだい!」

 

 

 だよね。申し訳程度に表札あるもんな。

 入らんことには始まらないので言われるがままに入る。言い方アレだけど日本○研の焼肉のたれ宮殿を思い出す装いだ。

 

 ここへはト○タのセンチュリーらしき車で連れてきてもらったのだが、静音性が高かったにも関わらず耳朶を衝いていたスキール音は何だったんだろう。

 チラッと運転士さんを見たらおかしなくらいハンドルグルングルン回しとるもんで血の気が引いた。公道はサーキットじゃねえよ。

 

 

 ハロハピはいつも弦巻家のスタジオ設備で練習を重ねているらしく、よくここに集まっているとか。今日も例に漏れず練習をすると言っていた。

 何故かは知らないが距離感バグってる系お嬢はさっきからずっと俺と手をつないでグイグイ引っ張ってくる。この数十分でひどく懐かれたらしく俺は困惑していた。

 

 というかスピードが速い!性差あるはずなのについていくのがやっとって何だよ一体!

 そんなありえない速度でだだっ広い廊下をダッシュしていたために、曲がり角から出てきた人影に気づく暇もなかった。

 

 

「わぷっ」

 

「どわぁッ!?」

 

 

 その影に衝突し俺の方に跳ね返ってきたお嬢。当然真後ろを疾駆していた俺にぶつかりかけるが、咄嗟に両腕で受け止め──。

 ──跳ね返る?

 

 

「あっ、ミッシェルじゃない!」

 

「クマーーーーーッ!!!!?」

 

 

 

 

 

「──以上が現時点でのミニライブ概要です」

 

「ふふ、とても儚い話をありがとう。麗しい子猫ちゃん」

 

「儚い計画ってヤバいと思いません?」

 

「お仕事が早いのね。これでもっと多くの人を笑顔にできるわ!」

 

 

 現時点でのミニライブについて確認をとってもらったところで、ハロハピの面々は三者三様の反応を見せている。

 

 なんか気障ったらしい言い回しをしているのは瀬田薫さん。この面子唯一の羽丘生で、その雰囲気はオペラの王子然としている。女性なのだが下手な男よりイケメンムーブが板についている。

 やはりというか瀬田さんは羽丘では根強い人気があるとかなんとか。ケッ。

 

 

「でもその日、ちゃんと晴れてくれるかなー?」

 

「あぁ、それに関しては問題ない。雨になったとしても少なくともライブは室内でできる用意がある。お流れになる心配はないということだ」

 

「おーっ、段取りもバッチリなんだね。すごいすごい!」

 

「大丈夫よ、その日は絶対晴れるわ!」

 

「えっ?まさか天気操作したりは…しないよね?しませんよね?」

 

 

 俺の補足にはしゃぎまくっているのは北沢はぐみ。

 最近家を空けがちになっていたのはこのバンド活動に携わっていたからだったようだ。

 ちょっと見ないうちに変わったかと思ったが無邪気なとことか無限の体力とかといい何も変わってなかった。二本のアホ毛ももちろん健在である。

 

 

「ありがとうございます、ありがとうございます…本当に助かります…」

 

「この数日でよくここまで詰められたね。大丈夫?」

 

「…へへっ」

 

「昌太くん!?」

 

 

 死ぬほど腰が低く、なおかつ死ぬほど苦労してそうな黒髪の彼女は奥沢美咲。

 聞くところによると作曲の大半を彼女が担っているほか、弦巻さんとはぐ・瀬田さんを指していう『3バカ』を取りまとめたりと縁の下の力持ちどころではない、なくてはならない人材。

 

 現にその青みがかったグレーの瞳は濁りきっている。怖い。

 

 因みにさっき曲がり角でお嬢がぶつかったクマことミッシェルの中の人も彼女らしいが、ミッシェル自体はバンドの六人目のメンバーとして3バカに認識されているという。説明したのに通じなかったらしい。んなアホな。

 

 あと一人は花音さん。何でここにいるのあなた。

 

 

「ただアレなんすよね、設営の時間があまりになさすぎるとかは改善の余地ありなんすよこれ」

 

「え?十分じゃない?」

 

「はぐみ、常識的に考えて5分じゃ設営は無理じゃろ。三億人くらい動員したらわからんけど」

 

「それはそれで遅そう」

 

「黒服さんなら3分で設営できるわよ?」

 

「は?」

 

「あー、筑波さん。黒服さんは本当に仕事が早いので不可能ではないと思いますよ。目の当たりにすればわかるんですけど」

 

「あはは…私もアレ見ちゃってからはなぁ」

 

「嗚呼、あれは実に儚い仕事ぶりだった」

 

「そ、そうすか…。そこまで言うならこのまま上に打診しておきます」

 

 

 扉のそばに控えている黒服さんに確認を取る意味で目線を送ると、表情を変えずにサムズアップ。

 黒服さんの労働力は一般People三億人に比類することがわかったひとときだった。誰得。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「気になったんですけど、何で奥沢さんってここいるんすか?言っちゃなんですけど、その常識人ぶりが似つかわしくないというか」

 

「あたしもそう思いますよ、本当に。色々あったんですけど、概ね筑波さんと似たような経緯ですね。巻き込まれたんです」

 

「…ハハッ」

 

「ははは」

 

 

 弦巻邸に何故かある自販機、そのそばで死んだ目をして乾いた笑いを上げている俺と奥沢さん。その手には烏龍茶が握られている。

 彼女はどこかダウナーというか、いつも一歩引いた視点でモノを見てそうというか。お嬢やはぐ、瀬田さんとはいろいろと真逆な性質だと思った。花音さんは…うん。

 

 

「元はあのキグルミ着てバイトしてただけなんですけど、気づいたらこんなことになってたんですよね。何が起こったかわかりませんでした」

 

「めっちゃわかりますそれ。俺は何故かお嬢に捕捉されてて、高校に凸されて気づいたらここにいたんですよね。ずっとこっち見てるもんだから何の用か聞いたら突然自己紹介されて会話の主導権握られた」

 

「あーわかりますわかります…。いつもだってこころが突飛なこと言い出して話題があれよあれよとすっ飛んでいくんだから。もはや暴れ馬ですよあれは」

 

「説明してるときもそうだったなー。はぐとか瀬田さんとかが適当に乗っかるもんだから加速度的に脱線が進むんすよね」

 

「そうなんですよ。手綱を握りながら話をまとめて曲に落とし込んでっていつもやってるんですけど、もう頭がすっとびそうになるんです。あんなの一般人でしかないあたしには本当に難しくて…」

 

「…ヘヘッ」

 

「へへへ」

 

 

 干上がったアラル海よりも乾いた笑いが出る。

 というか一般人には到底不可能なその処理をやってこれてる時点で、逆説的に言って奥沢さんは一般人じゃないのでは…とか思ったが、何となく口にはしない。

 

 

「元々あたしって変化をあまり好まないタチなんです。現状維持でユルユルと生きるのがあたしなりのやり方だった」

 

「…あっ」

 

「お察しのとおりです。こころたちと絡むようになってからはもはやそんなことも言ってられない生活があたしを待ってました。毎日のように自分の常識を疑うような生活なんて、とても現状維持とは言い難い」

 

 

 と言いつつ奥沢さんはどこか嬉しそうな表情をしているように見えた。

 俺としてもお嬢は花女の異空間という異名に負けず劣らずのぶっ飛んだ人という印象がある。

 が、それでも彼女には意図せずとも柵を越え人々を笑顔にさせられるカリスマ性があった。俺も校門で身を持って体験したばかりだからよくわかる。

 

 それでもなんであんなに懐かれたのかはよくわからんけど。正直誰に対してもあんなんだったらそのうち悪いやつに捕まっちまうと思うぞマジで。

 

 

「でも、それが思いの外楽しかったんですよね。いつもいつも振り回されて苦労ばっかりしてるはずなのに」

 

「お嬢にはそれだけのカリスマ性というか、柵を一瞬で乗り越えてしまう何かがありますよね。俺も一瞬で毒気を抜かれてここに連行されましたし」

 

「そうですね、あたしもそう思います。こころはぶっ飛んでいるように見えて、その実何があっても揺るがない柱を持ってるんですよ。知らないうちにそれに中てられて…そうですね、ファンにでもなっちゃったみたいで」

 

「ファン?」

 

「はい。何だかんだ周りを振り回しつつもあたしには新しい世界を見せてくれましたから。我ながらチョロチョロだと思いますけどね、ははは…」

 

「奥沢さんにそこまで言わせるはな。はぁ、噂とあのぶっ飛びようでお嬢とはあんま関わりたくないとか思った自分が恥ずかしい…」

 

「あ、それは無理ないと思います」

 

「えっ」

 

「まぁ、しんどいものはしんどいので…」

 

 

 何だかんだハロハピのことをよく想ってるのはわかった。それでも彼女にこんな死んだ顔をさせるハロハピってあまりにハイリスクハイリターンすぎんか。ジェットコースターか?

 

 

「気になってることがあるんですけど、お嬢って誰でも手引いたりスゲー近づいたりとかするんですか」

 

「えっ?あー、そうでもないですよ。やっぱり腐ってもご令嬢なんで、一線は一応弁えてるようですし。おまけにこころって人の本質を見抜くのに長けてるので…」

 

「んんー…。そうすか」

 

「何かあったんですか?」

 

「いえね、その凸のときとか初めて弦巻邸に入ったときとかやたら距離近いなーって思いまして。単純に大丈夫かなぁって思って」

 

「そういうところじゃないですか?」

 

「えっ?」

 

「あーごめんなさい、言葉足らずでしたね。たぶんこころは筑波さんの根っからの善良さを感じたんじゃないかなと。それにはぐみとか花音さんの話も聞いてたみたいですしね」

 

 

『ふふっ、やっぱり聞いてた通りね。大丈夫よ、笑顔で溢れてる人に悪い人はいないんだから』

 

 

 そういやなんかそんなこと言ってた気がする。そんときは『いや別に俺はお嬢ほど笑顔ではないが?割と真顔だが?』とかバカみたいなこと考えてたけど。

 

 というかお人好しだという自覚はあるけどそこまで笑顔ばっかりというわけでもないんだよな。俺だって聖人君子じゃないんだから散々人を泣かせたことがあるし。

 ちょっと前の燐子さんとか、こないだのさーや然り。

 

 

「俺はそこまで出来た人間じゃないんだがな」

 

「こころは」

 

「ん?」

 

「…こころは、あの通りの感覚派です。さっき言った本質を見抜くというのも直感みたいなものらしいんです。以前にも似たようなことってありませんか?感覚派の人にすぐ懐かれるみたいな」

 

「あー…まぁ」

 

 

 パッと思い浮かぶのはモカとか香澄か。

 そういえばモカはアフグロの面子ではすぐに懐かれたし、香澄もそんなんだった。誰に対してもあんな感じだと思ってたしそれ自体は特に気にも留めなかったんだが。

 

 知ってるか?そうやってすぐに懐かれるたびに、俺は距離を詰める早さに危機感を覚えてるんだぜ…?

 正直マジで余計なお世話だと自分でも思ってるけど、もはや一つの癖みたいなものになっちゃってて全然治らない。

 

 

「やっぱり。感覚派の人って、得てして人の感情の機微に聡かったりするじゃないですか」

 

「確かに」

 

「言ってたんです、こころが。『一緒にいて何となく居心地がいい』って。たぶんその他の感覚派の人たちも、そんな感じで居心地の良さを感じてるんじゃないかと。それこそが筑波さんの善良さの証拠なんじゃないかなー…なーんて」

 

「クハハッ、そうだといいですけどね」

 

 

 そうして駄弁りつつチビチビと烏龍茶を飲み進める。

 このあとは奥沢さんとミニライブの情報伝達のために連絡先を交換した。花音さんに伝えてもよかったんだけど、伝手は多くて損はしないだろうし。

 

 さて、次はパスパレの方に顔を出さなきゃいけないわけだが。こっちはこっちでどうすりゃいいかわからん。

 そのへんよくわからんからとりあえず彩さんにLIGNE飛ばしといたところで、今日は弦巻邸をお暇させてもらった。

 

 

 だから送ってもらうのはいいけどセンチュリーで頭○字Dし始めるのやめてもらっていいですか?

 とか考えつつ、遠心力にぶん回されて壁に頭をぶつけるのであった。

 

 




 
 ガイドライン公開の影響で好きだった作品がゾロゾロ死んでて震えています。二次創作である以上仕方ないことですが辛いもんは辛いです。
 
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