世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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 不定期投稿です(鋼の意思)
 


第26話 るんっ♪るるるんっ♪

 ハロハピとの邂逅から数日。週末の休日ということで本来なら家でゆっくりしているところだが、なぜか俺はパスパレの所属事務所に赴いている。

 先日彩さんには、体育祭でいろいろ連絡事項があるからと予定の合う日を教えてもらうようLIGNEでメッセージを送っていた。が、まともな時間が今日しかないという。休日出勤万歳!ちくしょう!

 

 

 そのパスパレの事務所はとにかく大きく、何階建てだかもわからない高さのビル一棟がまるまるそれらしい。蒼穹に染まるガラス張りの外壁が煌々と照っていて目が潰れる。

 ここならソーラービーム1ターンで撃てそう。

 

 …などとビルに関して感想を述べるのはいいが、そろそろ現実逃避もやめにしようか。

 

 

「ねーねー!キミってこないだラジオ聞いてくれてたるんっ♪ってする子だよね!?名前は?名前はなんていうの?事務所にはなんで来たの?スカウトされたの?ねーねー!」

 

「うぇえ…?ぇーと」

 

「うんうん、声質もいいしカッコいいしるるるんってするしキミをスカウトした人はわかってるよね!あ、あたしのこと知ってる?氷川日菜!よかったら応援してくれると嬉しいな!って、およ?もしかしてギターやってる?お揃いだね!あたしもおねーちゃん見て始めてさー!楽しいよね!ねーねー」

 

「えー、そのー…ウッス」

 

 

 やせいの ひなちゃんが あらわれた!

 

 唐突に現れた推しな上に、その推しに返答も許さないレベルでマシンガントークを投げつけられ脳がオーバーヒート寸前である。そうでもなかったらこうもしどろもどろにはなっとらん。

 しれっと手を握られたときにギタリストであることを看破されたが、まぁそれはそれ。

 

 

「えっと、日菜ちゃ…氷川さん。俺はスカウトされたんじゃなくてパスパレに用事があって──」

 

「んむー、その呼び方るんってしないー!日菜ちゃんでいいのに!…というか、あたしたちに?それじゃあキミがしょーたくん!?わあぁ、やっと会えたね!おねーちゃんとか彩ちゃんとかから話は聞いてるよ!んー、まさかあのときるんってきた子がしょーたくんだったなんて!るらるんってきた!ねーねー、今度一緒にセッションしようよっ!ねーねー!」

 

 

 ──悪化した!ちょっと返事しただけで数倍悪化した!

 いや、目の前でかわいいが暴れてるのはいい。別にそれは問題じゃない。頬を膨らませてみたり、キョトンと首を傾げてみたり、目を輝かせてはしゃいでみたりとたった数十秒でコロコロ変わる表情が愛くるしいがそれは問題じゃない。

 

 このままじゃ話が全く進まなうわやめろ手を握るな!恋人つなぎしようとすな!それ以上惑わすな!うわぁ手小さ…指ほっそ…

 日菜ちゃんさんに指を抜かさせないようガードしながら言葉を紡ぐ。

 

 

「日菜ちゃんさん、それは願ってもないことなんですけど…今日はもう時間が」

 

「んー?あっ、そっか。今からだもんね!じゃああたしと行こうよ!場所わかるからさ!」

 

「え、それはちょおい引っ張らないで!指通そうとするな!!」

 

 

 ◇◆◇

 

 

「ここだよ!ってあれ?まだみんな来てないのかな…一緒に待ってよ?」

 

「…ういっす」

 

 

 結局抵抗も実らず日菜ちゃんさんに恋人つなぎ(一方的に握られてるだけ)させられてしまった。あれ?前にもこんなことあったような…。

 そんな頭痛がアイタタする記憶はとりあえず置いて、会議室らしき部屋で日菜ちゃんさんとほかのパスパレメンバーが集まるのを待つ。

 

 現在、十畳ほどの広さの会議室にはテーブルを囲うように椅子六脚が置かれている。

 そして部屋の隅には学校の教室にありそうな縦長のロッカーがあるのだが、そこはかとなく妙な気配と視線を感じたため一度も近づいていない。

 もりのようかんの○トム出てくるテレビじゃないんだから…。

 

 

 この状態でも頑として日菜ちゃんさんは手を離してくれない。

 パスパレファンにハンカチを咥えてキーッ!と妬まれそうなシチュエーションだが、いざ巻き込まれてみるとそれどころではないのがよくわかった。たぶん心臓4cmくらい縮んだ。

 

 ちゃんと抵抗はしたからな!してこれなんだよ!

 

 

「あの日菜ちゃんさん」

 

「んー?どうしたのしょーたくん」

 

「この手は」

 

「これ?握り返してくれていいんだよ?」

 

「いやその、ぼくにはすぎたものかなーと」

 

「えー、いいじゃーん。つなごうよー」

 

 

 日菜でいいのにー、なんて言いながら日菜ちゃんさんは手をニギニギし続ける。俺がよくねぇんだなあ!このままじゃほかのファンに刺されるから!

 でもそうなるとすでに彩さんとかイヴちゃんとかと知り合ってる俺って…。まだ準備期間とかで情報が未解禁のRoseliaのみなさんとも顔見知りで…あっ、やめようこれ。死んだ。

 

 

 今更なんだけどさ、なんで俺が連絡網の形成に奔走させられてるんだろう。

 

 ライブをやるなら演者との連絡手段は用意しておかなければならないものを、ろくにそのへんのパイプも用意せず放置されてる時点でさ。

 そもそもこれ顔合わせる意味ある?メールでよくないか?

 

 という旨を先公にメルったところ、

 

 

『お前は所詮…先の時代の敗北者じゃけェ…!!!』

 

 

 と返信が来た。要するに尻拭い全部押し付けられたらしい。

 ハハハ、そうですか。許さん。

 

 

「んふふ」

 

「ん?どうしたんですか日菜ちゃんさん」

 

「え?やっと握り返してくれたからさー♪るんってきたよ!」

 

「………」

 

 

 やべ、メールにムカついたせいで無意識に握っちゃってた。すぐ力を抜くとやっぱり日菜ちゃんさんが「握ってよー!」と隣で駄々をこね始める。かわいい。

 

 

「おはようございまー…えっ!?昌太くん何で日菜ちゃんと手つないでるの!?」

 

「どうも彩さん…いや離してくれないんすよ日菜ちゃんさんが…」

 

「しょーたくんが握ってくれないのー!」

 

「え、えぇ…?どういうこと…?」

 

 

 彩さん、困惑。

 大丈夫、俺も意味わからん。お嬢といい何でみんな手つなごうとしてくるんだろう。

 んなことを考えているとほどなくしてイヴちゃんが入ってくる。

 

 

「おはようございます!お久しぶりです、ショータさん!」

 

「ひ、久しぶり〜…」

 

「あ、イヴちゃん」

 

「どうしました?アヤさん」

 

「…これ見てもなんとも思わないの?」

 

「え?仲睦まじくていいと思いますよ?」

 

「そ、そう…あれ?これ私がおかしいのかな?」

 

「いえ、それが普通です。ところで大和さんと白鷺さんはまだなんすかね?」

 

「マヤさんはもう三十分前に着いたと連絡がありましたよ?」

 

「え?でもあたしたちが来たときは誰もいなかったよ?ね、しょーたくん」

 

「…まさかアレじゃないですよね?ロッカー」

 

 

 そう言いながら例の変な気配がするロッカーを指差した瞬間、ガタンッ!と音を立てて揺れた。

 「ぴっ!」と声を漏らしビビる彩さん。日菜ちゃんさんが全く驚いてないのは予想できたけど、イヴちゃんもちょっと首を傾げるだけで済んでる。意外と肝座ってるよね。

 

 …俺?うん。まぁね、平気でしたよ?えぇ。つい反射的に日菜ちゃんさんの手握ったりしてないから。してないしてない。ほら、ビックリフラッシュとか最強だから俺。

 

 イヴちゃんがそのロッカーを平然と開け放つと、案の定そこにいたのは麻弥さんだった。

 

 

「フヘヘ…助かりましたイヴさん。興味本位で中に入ったら出れなくなってしまって、携帯も外でしたので…。あなたが筑波さんですか?こんな形での挨拶ごめんなさいっス。大和麻弥と申します、よろしくお願いします!」

 

「栄星一年の筑波昌太です。…本当だったんですねそれ」

 

「アハハ、お恥ずかしいことに…」

 

「…麻弥ちゃん、また狭いところに挟まっていたの?いつもほどほどにしておきなさいと言ってるじゃない…まして今日に」

 

「おはようございます、千聖さん。面目ないっす」

 

 

 最後に会議室に音もなくやってきたのは白鷺千聖。彼女は未だに(一方的に)繋がれている手を一瞥して目を細めつつ、どこかぶっきらぼうに俺に挨拶した。

 

 

「…白鷺千聖よ。あなたが栄星の人よね?」

 

「えぇ。栄星一年の筑波昌太と言います」

 

「そう。…あなたが、例の…

 

 

 さっきと同じように名乗ると、ボソッと何かを呟いた後にツカツカと空いているイスへ向かっていってしまった。…あまりよろしくはしたくなさそうな雰囲気だな。初対面だよな?

 何かをしたというのであれば、未だに日菜ちゃんさんに握られているこの手だろうが。俺からではないにせよ、押し切られているだけお前も悪いということだろうか。

 

 

「…千聖ちゃん?」

 

「どうかした?彩ちゃん」

 

「ぅ、うぅん。何でもない」

 

「そう。ギリギリに来ておいて悪いのだけど、早いところ始めましょう。時間が押しているのよ」

 

 

 そのぶっきらぼうさに違和感を覚えながらも、特に従わない意味もないので素直に話を進める。

 ハロハピにしたものと同じ説明を彼女らにも済ませ、長居することもないだろうとそそくさとお暇させてもらおうとしたら、白鷺さんに声をかけられる。

 

 

「筑波くん、少し時間いいかしら?」

 

「え、はい。構いませんが」

 

「そう。場所を移しましょうか」

 

 

 時間がないと言っていた上に、彼女が少なからず嫌悪感を抱いているであろう俺を呼び止めるとはどういうことなのだろうか。

 無論考えてもわかるはずなどなく、少なくとも浮ついたそれではないのだろうと呑気に考えながら白鷺さんについていくと、事務所内の人気のない廊下で立ち止まる。

 

 

「いくつか確認させてちょうだい。あなたは今日はあくまでも学校の用事で来たのよね?筑波くん」

 

「ええ、それは知ってのとおりでしょう。さっき説明したことが全てです」

 

「次。あなたは彩ちゃんや花音──松原花音と知り合い、という認識でいいのかしら?」

 

「そう、ですね。知り合いです」

 

「日菜ちゃんと手をつないでいたのは?」

 

「それは俺にもよくわかりませんよ。抵抗してもすり抜けて握ってくるので諦めました」

 

「…はぁ。まぁ、それはそうよね。他には?イヴちゃんとも顔見知りだったようだけど?」

 

「若宮さんは知り合いの店でバイトしてるんです。たまたまですよ」

 

 

 さっきから詰られるのは交友関係が中心。確かに白鷺さんの周りにはやけに俺が最近知り合った人が多い。しかしもちろんそこに何らかの打算があるわけではない。

 それに関しては俺が言ったようにたまたまでしかないのだが。

 

 

「…例えそれでみんながあなたを認めても──」

 

 

 ◆◇◆

 

 

『──私は、あなたを認めない。これからは必要以上に私たちに近づかないでちょうだい』

 

「──ぇ」

 

 

 飲み物を買おうと自販機へ向かっていたところ、廊下の曲がり角から聞こえてきた千聖ちゃんの声。その拒絶としかとれない言葉に私は思わず声を漏らしてしまう。

 

 説明も終わり帰ろうとする昌太くんを呼び止めた千聖ちゃん。その用件を盗み聞きする気はさらさらなかった。

 もちろん気にならなかったといえば嘘になる。あの二人は今日が初対面のはずで、千聖ちゃんは昌太くんについては私とか花音ちゃんの話でちょっと聞いたくらいだろうから。

 

 でも、だからこそわからない。関係の浅い千聖ちゃんが、どうして…?

 

 疑問を覚え立ちすくんでいると、用件を済ませ戻ってきたらしい千聖ちゃんに見つかってしまった。

 

 

「彩ちゃん?盗み聞きだなんて感心しないわね」

 

「あ、えっと…ごめんなさい。たまたま通りがかったら聞こえちゃって…」

 

「…冗談よ。でもまぁ、ちょうどいい機会だし言っておくわ。彼には気をつけなさい」

 

「どうして…?昌太くんとは初対面なんだよね?私だって何回も助けてもらって──」

 

「──それが危ないのよ。彼にどんな裏があるかわからないでしょう?下手に恩を売られて、それを盾に強要されたり…とかね」

 

「ま、まさか…昌太くんに限ってそんなこと…」

 

「人は見かけによらないものよ。これからは彼に近づくのは控えることね」

 

「う、うん…?」

 

 

 状況についていけず曖昧な返事をする私をよそに、千聖ちゃんは会議室に戻っていく。

 

 昌太くんはそんなことをする人ではない…と思う。でもさっき千聖ちゃんと昌太くんは関係が浅いと言ったが、私だって彼とそんなに深い付き合いというわけではない。

 だから千聖ちゃんの言うことを一概に否定もできないのだ。

 

 そもそも千聖ちゃんはなんの根拠もなしにあんな忠言をするような性格ではない。忠告をするからには何かワケがあるんだろうけど、そこまでは私にもわからない。

 

 ──昌太くん、あなたは一体…?

 

 

「彩ちゃーん…あれ?どうしたの?」

 

「あ…日菜ちゃん」

 

 

 私がなかなか戻らなかったからか、千聖ちゃんと入れ替わるように日菜ちゃんが私を追ってきた。

 日菜ちゃんなら何かわかるかな。独特の感性からくる表現は私にはわかりづらいけど、直感はいつも冴えてるし。何なら見た目じゃわからないマネージャーさんのトチる性質もすぐ見抜いてたっぽいからなぁ。

 

 

「ねぇ、昌太くんとは今日初対面なんだよね?」

 

「んー、まぁそうなるかな?なんで?」

 

「さっき千聖ちゃんに『彼はどんな裏があるかわからないから気をつけろ』って言われて…どうすればいいかわからないの」

 

「ふ〜ん?それならさ、聞いてみればいいじゃん!」

 

「えっ?」




 
 大変お待たせしました。長期間放置してしまって本当に申し訳ない。

 作者が執筆をサボっている最中に関わらず拙作を評価してくださった方、ありがとうございます。履歴が吹き飛んでしまいどなたに新しく評価いただいたかわからなくなってしまったため、このような形でのお礼となってしまうことをご了承ください。
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