世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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 すみませんでした

 


第27話 嘘でしょ…

「日菜ちゃん」

「なにー?」

「『聞けばいい』って…こういうことなの…?」

「そだよ? やっぱり一人でいるときって気が抜けちゃうし、これが手っ取り早いでしょ!」

「うぅ〜、大丈夫かなぁ…」

 

 軽率に日菜ちゃんに相談したのは間違いだったかもしれない。

 

 私と日菜ちゃんが見ているのは私のスマホ。あの後日菜ちゃんは帰っていく昌太くんに接触(物理)して、彼の胸ポケットに通話状態にした日菜ちゃんのスマホを忍ばせたというのだ。

 その通話相手は私。つまり今は彼が何か話せば、日菜ちゃんのスマホを介して私のスマホで聞くことができるという状態なのだ。

 

 …というかこれ、ただの盗聴なんじゃ…。

 

『──外に出たついでにスーパー行って足りないやつ買い出しして…』

 

「しょーたくん、スーパーに行くみたいだね。ご飯作れるんだ?」

「一人暮らしで自炊してるってこの間言ってたよ。軽いのしか作れないって聞いたけど…」

 

 普通は懐に通話状態のスマホを忍ばせたところで、これからどうするかとか今何をしているかとかがわかるわけはない。

 私だってそう思ってたから、倫理的にアレでもそこまで強くは言わなかったんだけど。

 

 でも昌太くんはやることを口に出して整理するクセがあるらしくて、これから何をやるか見事に筒抜けになってるんだよね…。

 うぐぐ、さっきすぐにやめなかった罪悪感が…! でも気になっちゃう…!

 

『あ〜、なんで今日に限って雲一つないんだ…! 暑すぎる…』

 

「あつそう…(小並感)」

「えっ、今日ってそんなに気温高いかな? ちょうどよくない?」

「もしかしたら自転車で来てるのかも…。私が最初に会ったときも乗ってたし」

「…なんか詳しくない? しょーたくんについて。話し始めてからどれくらいなの?」

「えっ!? そ、そんなことないと思うけどな…えっと、一ヶ月経つか経たないかくらい…?」

「どんだけ話してるのさ。あたしももっとしょーたくんとお話したい〜」

 

 でもそれを言うなら日菜ちゃんも今日が初対面なんだよね。千聖ちゃんとの温度差すごくないかな? 千聖ちゃんは妙に警戒してるけど、日菜ちゃんは逆に妙に懐いてるというか…。

 なんというか両極端すぎて、全く参考にならない。

 

「本当に日菜ちゃんって今日初めて昌太くんに会ったの?」

「ん〜、直接見たのはこないだのラジオ収録のときなんだよね。そのときにはおねーちゃんにしょーたくんのことは聞いてたんだけどね」

「紗夜ちゃんが?」

「うん。でもなんでか知らないけど馴れ初めはいくら聞いても話してくれないんだよねー。顔赤くしてすぐに話題変えてくるから…」

「え? 紗夜ちゃんだよね??」

「そうだよ。それでしょーたくんを初めて見たときるんっ♪って来て、つい口に出しちゃってさ。『あの人がおねーちゃんを赤面させたんだ!』って」

「し、信じられない…」

 

 同学年なうえに紗夜ちゃんの立場上話す機会は何回もあったんだけど、いつも生真面目で恋愛とかそういう俗なモノが入る余地なさそうだなーって思ってた。そんな紗夜ちゃんが恥ずかしがる馴れ初めって一体…何したの昌太くん…。

 …あっ、取り締まられたことはないからね!? ほんとだよ!?

 

「あとはー、リサちーとか?」

「リ、リサちー…?」

「あー、あたしと同じクラスなんだけどね。リサちーもリサちーでしょっちゅうしょーたくんの話しててさー。お預け食らってる気分だったよ…」

「あはは…」

 

 もっちーんとほっぺを膨らませながらブー垂れる日菜ちゃん。

 普通なら日菜ちゃんがここまで人に興味を持つことはなかなかないはずなんだけど、やっぱりおねーちゃんパワーかなにかかな。

 

 人への興味が薄いのは紗夜ちゃんも似たようなもので、それも一因ではあると思う。でもそれは逆も然りで、紗夜ちゃんを惹くどころか普段見せない一面を引き出すような人となると…。

 

『お、昌太じゃん。ギターなんか背負って、学校帰り? 今日休みなのに』

『おー沙綾。そう、例の委員会でな…ちょっと…』

『あー、お疲れ様。…なんかあったの?』

『えっ? あぁ、いやぁ…仕事量増えそうだなあと』

 

「さーや? 彩ちゃんは知ってる?」

「ううん、私も知らないかな」

 

 流石に私でもそこまでは知らないよ、日菜ちゃん…。

 なんだか日菜ちゃんの中では私と昌太くんの関係がかなり密接になってる気がするけど、まだそこまでではない。…と思う。

 

『なーにー? また抱え込んでるの? もー、昌太ってば…』

『わかってる。でも今回のはそういうのじゃなくて…あー、まぁ倒れるほど重度ではないとは言える』

『…まぁ、いいけど。ぜっっったい、無理はしないこと! いい?』

『ありがとう、沙綾。今回のも突然降って湧いてきたものとはいえな、絶対成功させたいんだ。無理のない程度に頑張ってみるわ』

『うん』

 

「…え? もしかしてしょーたくんって倒れたことあるの?」

「言葉の綾…とかではなさそうだよね」

 

 さあやって子、すごく昌太くんのことを心配してるのが声色でよくわかった。それもあって、モノの例えとして引っ張り出された『倒れる』という言葉にも、いやに真実味があった。

 …それに、本当に邪な気持ちがあったんなら、『絶対成功させたい』なんて──

 

『ところで昌太。そのスマホ…そんな色のスマホ、使ってたっけ?』

『え? あれ、確かに知らん色だ…』

 

「うげっ、ヤバっ! 彩ちゃん通話切って! 早く早く!」

「うぇっ!? う、うんっ!」

 

 思考の渦に沈みそうになった途端、突然スマホをすり替えたことがバレそうな流れになって、いつも以上に慌てて通話を切った。

 

 経緯はちょっとアレだけど、昌太くんの本音をちゃんとここで聞けたのはよかった。自分が確認できたんだからこれでいい…はずなのに、でもまだモヤモヤする。なんでだろう…?

 

「…あれ? でも日菜ちゃん、この作戦って自分のスマホをそのまま持ってかれちゃうかもしれないよね? よかったの?」

「んー? しょーたくんならるらるんっ♪ってするから大丈夫だよ。絶対」

「へ、へぇ…?」

 

 結局後日に日菜ちゃんの言ったとおり、スマホはすぐに帰ってきた。一回会っただけで昌太くんのことしっかり見抜いたの? …そんなわけないよね?

 

 

 ◇◆◇

 

 

 それからも練習は何回もやったし、全体練習もやった。けど、どうしても胸のつかえが取れない感じがしてどうしても身が入らなかった。

 そのおかげで、今もなお披露する曲に関してはほとんど覚えられていない。はぁ…、ここまでぐだぐだなのも久しぶりだなぁ。

 

 

 こういうときに役に立つのは、普段から気づきをまとめて持ち歩いているノート。今みたいに目標を見失いそうなときや、なんだかモヤモヤするときとかに見返して、活力をもらうんだ。

 

 自分はそんなに要領がよくないから、日頃からこうして勉強していないとたちまちみんなに置いていかれてしまう。だから、日常のふとした瞬間でも勉強なんだ。

 ひとりレッスンルームに残った私は、いつも通り気づきノートを開く。すると、ちょうど挟まっていたのか一枚のルーズリーフがはらりと床に落ちた。

 

「ぁ…」

 

 ちょっと前に日菜ちゃんに聞かれたけど、これは私にとってお守りのようなもの。

 ルーズリーフには走り書きで簡潔な感想が、あとは多くの余白をたくさん使って『差し入れです』と矢印とともに書かれているだけだけど。

 

「ふふっ、懐かしいなぁ」

 

 

 まだデビューする前の、研修生だった頃。長らく事務所には所属しながらも、なかなか芽が出なかった私は、レッスンルームが使えないときも近くの公園でよく自主練習に励んでいた。

 取り柄なんてなにもないことがわかっていたから、自分には誰にでもできる練習しかない。それでひたすら練習してもちっとも花開けず、半ば心が折れそうになっていた。

 

 

 でも、そんな先の見えない研修生生活を送っていたある日。自主練習が終わってみると、自分の荷物のそばにスポーツドリンクが置かれていることに気づいた。

 

『あれ? あんなの今日買ってないよね…? 誰かの忘れ物かな』

 

 私は普段水筒を持ってきているから、自販機とかでは飲み物を買うことはない。だからこそ最初は誰かが忘れていったものなのかと思った。

 でも、よく見てみるとペットボトルのそばには紙が添えられていて、そこにはこう書いてあった。

 

『通行人です。たまたまあなたを目にして、思わず見入ってしまいました。流石に話しかけるのは憚られまして、書き置きででもこの興奮を伝えたかったので、ルーズリーフにて失礼します。代わりといってはささやかすぎますが、差し入れもどうぞ。応援してます』

 

 結露で濡れたその紙は、はじめての自分のファンからのメッセージだった。スポーツドリンクもキャップを開けてみると、初めて開けるとき特有の「カシュッ」という音がして、本当に差し入れとして置かれていることがわかった。

 その時のスポーツドリンクは、生温くて、とても塩辛かったのをよく覚えている。

 

 

 次の週はさすがにあんなことはないだろう、あれっきりだろうと思っていたのだが、その日も練習を済ませてみるとまたスポーツドリンクが置いてあった。

 そして、例によってそばには感想が綴られたルーズリーフ。この日のスポーツドリンクはキンキンに冷えていた。

 

 それからも毎回同じ曜日に自主練習を済ませると決まってスポーツドリンクとルーズリーフの一式が置いてあって、規則的すぎて怖くもあったけど、気づけば週に一回の楽しみになっていた。

 そして涙もろい私は、毎回それを読んではひとり泣いていたものだ。私の努力を陰ながら応援してくれているのが、文を通してよくわかったから。

 

 初めてファンのことを意識して練習し始めたのもこのあたりで、機械的になりつつあった練習にもより身が入るようになった。

 私のファン一号さんも、次第に感想に交えてアドバイスも書いてくれるようになったから、それも助けになったんだろうなぁ。

 

 

 毎週のように必ず起きるから、ある日は自分の荷物のそばを注視しながら練習したことがある。スポーツドリンクとルーズリーフが置いてあるのは、決まって私の荷物の横だったからだ。

 

 それでも気づいたら練習に熱中してしまい、荷物からは視線を外してしまうのだ。

 その隙を突かれて例のモノを設置され、挙げ句ルーズリーフに『環境に惑わされないパフォーマンスに感激した』なんて書かれたもんだから、顔から火が出そうだった。

 

 

 そうして練習をこなしていると、ついに私にもデビューの話が舞い込んできた。それがパスパレだった。

 

 それからはパスパレとして練習場所を確保できるようになって、あの公園での自主練習は自然となくなっていった。

 それでもファン一号さんとの日々を忘れたくなくて、日頃からつけていたノートにルーズリーフを挟んで持ち歩くようになったのだ。

 

 

 今思い返せば、あのときファン一号さんに見つけてもらえていなければ、今の私はいなかったんじゃないかと思う。あの人は恩人で、今一番感謝したい人だ。願わくば、直接話をして、直接感謝したいと思う。

 まあファン一号さんが今も見てくれてるかはわからないんだけど…。

 

「…あぅ、すごい時間経っちゃってる! 感傷に浸りすぎた…」

 

 なんてルーズリーフを眺めてたら、知らないうちに日が暮れていた。ヤバっ、結構時間もカツカツなのに…! えっと、昌太くんにもらった資料ってどこやったっけ〜!?

 

「…あっ、あったあった──あれ?」

 

 

 資料を見て、ふとある部分が目についた。

 ここは…そう、昌太くんが直接書き込んで説明してくれたところだ。彼が筆記用具をいちいち出すのがめんどくさそうだったから、私のボールペンを貸して…。

 

 

 この、筆跡って…?

 

 

 ノスタルジーにぼやけていた脳が急速に明瞭になっていく。

 いまさら見間違えるはずもない。私を変えてくれた、あの筆跡。急いでさっきのルーズリーフを引っ張り出す。

 

 資料の筆跡とルーズリーフのそれは、とても似ているような──いや、同じにすら見えた。

 ありえない、でも間違いない。だって、あのクセのある文字はっ!

 

「…ぅあ」

 

 

 ようやくルーズリーフを引っ張り出すと、すぐに見比べる。

 まさかこんなに似ていて、他人の空似ということがありえるのか?

 

 

「ファン…一号、さん」

 

 

 よもやそれが、最近になって知り合った彼だなんて、どんな天文学的確率なのだろう。それこそありえるのか?

 しかしそれは、目の前の文字がすべてを物語っていた。

 

 

「そっか、そうだったんだっ…あははっ、ぅあぁあ…」

 

 

 ファン一号さん…いや、昌太くん。

 キミは、ずっと見ていてくれたんですね。あの日々から、変わらず──!

 

 




 
 初回投稿から一年経ったってのに未だ三十話も更新してない怠け者がいるらしいっすよ。
 次回もなる早で…。ウッス…。
 
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