世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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第3話 唯一無二

 入学式のあった4月某日、午後4時。商店街を軽くふらついた俺は、第二の目的地へとチャリを走らせていた。

 

 

 というのも、その目的地に住まう少女はつぐみたいに目を離したらすぐ無理しちゃう系女子二号なのだ。

 

 別に安否確認くらいならメールなりなんなりすれば済む話だけど、前も言った通り受験に際して連絡は控えていたこともあり、今更メッセージだけで済ませるのもなんか嫌だった。

 

 あとはまぁ、ちゃんと顔を見ないと安心できないから。文だけならいくらでも繕えちゃうし、たぶん無理してても彼女は言わないと思う。

 

 

 なにしろ思考回路が俺に近しいのだ、それくらいはわかってしまう。

 

 彼女は誰よりも"優しい"。

 いつも自分を差し置いて、自分を抑え込んで周りを優先する。

 彼女にとってのバラモンはいつだって周りなのだ。そして自分自身はシュードラ。

 

 だからそうしたプライオリティを維持するためには自分の趣味すら捨てることを厭わない。

 

 

 だが俺に言わせりゃ、もう彼女は頑張りすぎた。無理をし過ぎた。

 そうしてもう自分を切り捨ててほしくないからこそ彼女にはもっと頼ってほしいし、我儘だってもっと言ってほしい。

 

 そのためにも俺は今日も彼女をこれでもかというくらいに、めちゃくちゃに甘やかしてやる。俺にできるのはそれくらいだから。

 

 

 とはいえ俺だって人に言うくらいだから無理はしないようにしてるよ。やりたくてやってるんだから、無理()してない。

 

 

 とまあ屁理屈もそこそこに、この鬱陶しい蒸し暑さから一秒でも早く逃れるため俺は余力を絞ってペダルを踏みしめた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「おいすー」

 

「いらっしゃいま…あっ昌太!久しぶり!」

 

 

 うひゃー涼し。やっぱ冷房最高。

 俺は今、第二の目的地である「やまぶきベーカリー」に入店したところだ。

 

 

 で、ひまわり(ひまりに非ず)のような笑顔を浮かべながらこっちに駆け寄ってきたこのポニテ碧眼少女は山吹沙綾。

 このパン屋の娘であり、目を離したらすぐ無理しちゃう系女子二号。

 

 今日はいつも通りそのアッシュブラウンの髪をゴムで結い、その上からさらに黄蘗色のリボンを結んでいる。

 そして、学校帰りからそのまま手伝いをしてるのか花咲川の制服の上に薄い飴色のエプロン。かわいい。

 

 沙綾とはなんだかんだ小学生の時からの付き合いだ。元々親たちが知り合いで、その絡みでな。俺の知り合いの中では一番親しいし、最も気の置けない仲だと思う。

 

 

 ここで俺は徐ろに腰を少し落とし、沙綾の顔を両手で軽く挟んで視線を合わせる。

 

 沙綾は「ふえっ」と今朝のふえぇさんみたいな声を漏らしながらも俺と目を合わせてくれる。…身長差から若干上目遣いになってる上に顔も紅潮してきててすっごい可愛い。なんかこうグッとくる。

 

 

 もちろんただ沙綾を恥ずかしがらせたいわけではなく、こうして沙綾の反応を見ることでそのときの疲労状態もなんとなくわかるのだ。

 疲れてると露骨に視線そらしてくるから間違いない。

 

 反応を確認した俺は姿勢を戻しつつ、手はそのまま沙綾のほっぺをむにむに。やわっこいなー、一生触っていたい。

 

 

「…久しぶり、沙綾。元気そうじゃん」

 

「なんでこれでわかるんだろうなぁ…昌太もね。と言いたいところだけど、昨晩夜更かししたでしょ。クマできてる」

 

「…いやぁ、気づいたら朝6時で…」

 

「ダメじゃん、ちゃんと寝なきゃ。夜更かしは思ってる以上に身体に悪いんだからね」

 

「ウィッス」

 

 

 左手を俺の右頬に添えながら沙綾はそう言う。

 モカにも見抜かれたんだけどそんな分かりやすいかな。朝ちゃんと鏡見て目立たないのは確認してたんだけども。まこれから修正してくつもりだしモーマンタイ。

 

 

「それで、今日はどうしたの?」

 

「あぁ、普通に様子見に来たのとパン買いに来た。フォカッチャあるか?久々に食いたくてな」

 

「…んー、多分まだあると思う。確認してくるね」

 

 

 裏の在庫を確認しに沙綾がレジ奥へ引っ込む。

 実に不思議なんだが、ここのパンは俺が今まで食ったどのパンよりも美味く、幼少期からずっとお世話になっている。

 

 俺も真似してみようと完成品を基に勝手に家でパンを作ってみたことがあるが、やはりこうは上手くいかなかった。こうなってくると「ものづくり大国」の極致感あるよな。

 

 

 沙綾が在庫確認している間俺は暇なので、他にも少しパンでも買っていこうかと店内を見て回る。…ん?不自然にチョココロネだけ大量に残ってる…

 

 

「こんにちはー。…あっ、昌太くん?久しぶりだね」

 

「ん?おーりみりんか。その制服、花咲川だったんだな」

 

「そうだよ。沙綾ちゃんとはクラス一緒になったんだ」

 

「ほへ~そうなんか。沙綾をよろしく」

 

「ふふ、任されましたっ♪」

 

 

 今店に入ってきたのは牛込りみ。

 いつも店で会うときは私服姿だったからわからなかったがどうやら花女だったらしい。なるほど、チョココロネも多いわけだ…

 

 

 りみりんは黒髪でクセのあるボブ、こめかみあたりで左右に跳ねたクセっ毛がかわいらしく、くりっとした垂れ目もありおっとりとした雰囲気の少女だ。

 

 あとちんまい。さっきの白髪のお嬢様といい勝負だと思うけど、とかくちんまい。

 俺は178cmあるがりみりんは多分150あるかないかくらいだと思う。30cmくらいだから、かなりの身長差だ。

 そのこともあって知り合いの中では「小動物」というイメージが一番ピッタリだと思っている。

 

 で、なんでりみりんが来たことで俺がチョココロネの多さに納得したかというと──

 

 

「うわぁ~、チョココロネめっちゃある~!今日はいくつ買おうかな~…」

 

 

 ──彼女、無類のチョコ好きなのである。

 もはやジャンキーとすら言えると思う。関西弁出てますよりみりん。

 

 りみりんと顔見知りになったのもこれがきっかけで、隣でトレイにばかでかいチョココロネの山を作っている少女がいることに気付くと思わず瞠目し、なんか心配になって声をかけちゃったというもの。

 なかなかにシュールな馴れ初めだと思う。

 

 …こうしてみると本当にりみりんって属性盛りだくさんね。唯一無二だと思うよそれ。

 

 

「昌太、フォカッチャあったよ~…あっ、りみりん。いらっしゃい、さっきチョココロネ増やしといたけど足りる?」

 

「うん、ありがとう!」

 

「おーサンキュ。なんかチョココロネ多いなと思ったらそういうことな。りみりんと沙綾同じクラスになったんだって?」

 

「うん、二人とも1-Aだったよ。昌太は?」

 

「俺は1-Cだったな」

 

「昌太くん、その制服って栄星だっけ?いいところ入れたんだね、おめでとう!」

 

「ありがとさん、りみりんもな。そうだ、せっかくだし連絡先交換しん?今の今まで持ってなかったし」

 

「いいよ、私もちょうど言おうと思ってたんだ」

 

 

 さっきになって俺が栄星に受かったことをりみりんが知ったのも、そもそも俺とりみりんが連絡先を交換してなかったから。

 沙綾とも同じクラスらしいし、連絡先交換のタイミングにはちょうど良かったかもしれない。

 

 そして、話題は互いに出会ったクラスメイトの話になる。

 

 

「栄星ってどう?私全然校風知らないんだけど」

 

「そうだな、パッと見た感じ敷地はすごい広いな。グラウンド広いし体育館なんかなぜか二階席まであったし。あとは…気さくなヤツも多くて過ごしやすいと思う」

 

「へー、やっぱり評価高いだけはあるね。そうだ、クラスメイトって言ったらうちのクラスにもすごい人がいてさ」

 

「すごい人」

 

「うん。自己紹介のときすごいハキハキと…えっと、星の鼓動が…なんとかって」

 

「『星の鼓動、キラキラドキドキを見つけたい』…かな。その人、なんというか常にエネルギッシュで、純粋に何かを目指してるって感じで。そうやって自分を強く持ってる人、憧れるなぁ…」

 

 

 …りみりん、なんでこっち見ながらそれ言うの?ぼくよわよわだから。もやしよもやし。実際しばらく日に当たってなかったし的を射てるでしょこれ。

 

 

 それにしても、『星の鼓動』ねぇ。

 

 一見してキテレツなパワーワードにしか見えないが、りみりんをして「自分を強く持ってる」ように見える人が適当なことを言っているとは、ただその人のことを伝聞しただけの俺でも考えづらい。

 

 りみりんも沙綾も性格的に人の感情の機微には敏く、本気か否かってのは結構すぐわかるらしい。そんな二人がわざわざ俺に「すごい人」と話した。

 そもそもそれが冗談だったならその場で笑い飛ばされるのがオチだろう。そうしてすぐに記憶が風化するから、伝えるどころか記憶も残らないはず。

 

 

 それを鑑みるに、その人は本気で『星の鼓動』を希っている。

 

 

「いつでもエネルギッシュってなんか恒星みたいな人だな。…『灯台下暗し』なんて言うし、『星の鼓動』も案外近くにあったりしてな」

 

「?…昌太?」

 

「いや、言ってみたかっただけ。沙綾、これよろしく」

 

「はいはい、ありがとうございまーす」

 

 

 …もしかしたら、その『星の少女』だったら、また取り戻せるかもしれない。俺にはできなかったこともその人なら。

 かなり薄い情報量でもその人が恐らくは本気だろうことがわかるのだ。なら本人は、どれだけ強く夢を見ているのだろう。そう考えると少し身震いした。

 

 

 一目見てみたい。

 

 

 チョココロネの山があっただろう、今となってはまっさらな陳列棚を眺めながら俺はそう思った。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 とりあえず知り合いとの顔合わせという目的は達成し、フォカッチャとその他メロンパンとか色々買った俺は家のそばのスーパーへ向かっている。

 

 沙綾やりみりんと駄弁っていたらあっという間に午後6時。

 まだまだ短い日は落ち日差しがなくなったことで昼間の蒸し暑さが嘘のように捌け、もはやひんやりとすらしている。

 

 

 ちなみにだが、俺は今は一人暮らしということになっている。

 

 ややこしい話だが、今年入ってすぐに実家の近くに住んでいた親類が数年単位で家を離れることになった。

 そしてその間ずっと家を空けておくのも不安だからと俺たち家族に家を見ておいてくれないかとお願いに来た。

 

 

 これをいい機会と見た両親が擬似的な一人暮らしをしてみないかと、まあひねくれた言い方をすれば俺にその依頼を押し付けてきて今に至るわけだ。

 

 俺自身家事はできるし、一人暮らしに仄かな憧れのようなものもあったから丁度よかったけど。

 

 

 困ったらすぐ近くの実家に戻ればいいし、家賃や光熱費などはそのまま親類の名義になってるから俺の負担はゼロだしで俺は得しかしてない。

 実質タダで立派な一軒家を独り占めしてる状況なんだが、いいのかなこんないい思いして。

 

 

 昨日(というか今朝)に平然と奇声を上げていたのも、実質一人暮らしであんまり騒音を気にしなくてもよかったからだ。

 さすがにギターをアンプにつないでジャンジャン鳴らすとかになるとアレだけど。

 

 

 ただ唯一ともいえる欠点を上げるならば──普通に寂しい。

 

 

 これを始めてから大して時間経ってないけど、既に夜がキツい。

 一人暮らし始めてからはずっと引きこもってたせいでちょっと人肌が恋しくなってるのかもしれん。未だに誰も家に上げたことないのもあるかも。

 …今度誰か家に呼んでみようかな。

 

 

 割と俺寂しがりやなんかな…とか考えているうちに最寄りのスーパーについた。

 昼間はあちいあちいばっか言ってたくせに、夜の帳が降りたら降りたでヒンヤリした空気に軽く身を震わせるとかいう滑稽な真似をしながら自転車から降りる。

 ──わが相棒よ、ここで少しばかりお留守番だ。できるね?

 

 

「…」

 

 

 これ、間違いなく疲れてるわ俺。

 …とっとと買い物済ませよ。

 

 

「…昌太くん?大、丈夫…?」

 

「へっ?あっ、りっ燐子さん!?お久しぶりです」

 

「しょー兄!元気だった?」

 

「おぉ、あこもいたのか。奇遇だな、俺はこの通りピンピンしてるぞー」

 

 

 軽く憔悴してた俺に話しかけてきたのは、一つ上の白金燐子さんと一つ下の宇田川あこ。なんかこれ昼前の状況に似てるぞ、話しかけられてるの俺だけど。

 

 

 あこは巴つながりで、燐子さんはあこつながりで、こう…芋づる式じゃないけど。順々に知り合っていった。

 

 燐子さんは黒髪ストレートで黒目、まさしく深窓の令嬢って感じの雰囲気で可愛いよりは美しいが似合いそうな人。

 その黒髪と肌の白さのコントラストがなおのことお嬢様っぽい雰囲気を強めている。

 

 

 反してあこは紫髪のくるくるツインテールにくりくりした紅目で燐子さんみたいな系統の服を着てるけど、内からにじみ出てる純粋さが隠しきれてない。

 そのギャップが可愛くて一生見てられる。どーん!ばーん!

 

 

 二人とはNFOやる仲間で、たまにネット回線通して協力プレイとかする。で、腕前はとんでもない。

 ゲーム内でのギルドっていうプレイヤー同士の組織みたいなのはまた別なんだけど、フレンド同士ではありやっぱり親しかった。

 

 …今日だけで顔見知りにここまで会えるとは思ってなかったな。こりゃ僥倖──

 

 

 ──いや待って、ほんまにそうか?

 俺しれっとさっきスルーしたけど燐子さん「大丈夫?」って言ってたよな?しかもいつもこんなとこで吃んないのに、さも困惑してるかのような…

 

 

 …あれっ?これはーちょっと、まずいかもしれんですなぁ…

 

 

「…あの、燐子さん?聞い…て、ました?」

 

「…」(申し訳なさそうに首肯する)

 

 

 ア゜ッ!(死亡)

 

 

「しょー兄自転車と喋れるようになったんだね!すごい!」

 

「あ、あこちゃん、それ以上は…」

 

「…………いや、わざとじゃないのはわかってるので…ただ、できれば忘れてくれると…」

 

「う、うん。わかった」

 

「??? わかんないけどわかった!」

 

「でも…昌太くん、ちょっと疲れてない…?何かあった…?」

 

「えっわかります?」

 

「うん、ちょっとやつれてるかなー」

 

 

 実はさっき素直に感心されたのが地味にキテます。純粋さは時として何よりも強い毒と化す。学習しました。

 日本での死因ランキングにおいては、ガンに続いてこの“毒”がニ位なんだそうです。嘘です。

 

 

「あこにもわかるのか。俺ってそんなわかりやすい?」

 

「「うん」」

 

「…」

 

 

 …今度から気をつけよ。ちょっと侮ってたかもしれん…

 

 

「いやーその、俺一人暮らし始めたんすけどもう夜とか寂死にそうで」

 

「一人暮らしかー、ちょっと憧れるけど…やっぱり寂しいんだね」

 

「そうなんだ…いつから?」

 

「ここ1~2ヵ月くらいですね。その間ほとんど人と接触してなかったし、誰も家に上げてなかったのでたぶんさっき禁断症状が出ちゃったんだと…」

 

 

 自分から一人暮らしの提案に乗っといてこの体たらく。なんというか、色々と恥ずかしい話だ。

 大の男子高校生が自ら付き合いを絶っておきながら、あとになって寂しさに悶えるなど普通に考えて自業自得である。

 

 だがそんなバカみたいな話もこの二人は真面目に聞いてくれる。自業自得なのに…やっぱりいい人やあ(感涙)。

 

 

「んー、そんなに寂しいんだったら今度遊びにいっていーい?りんりんと一緒に!」

 

「!あ、あこちゃん…」

 

「え、ほんと?それは願ってもないことだけど」

 

「だってさりんりん!いこうよ!」

 

「…それじゃあ、お邪魔します…」

 

「ありがと~~~~本当にありがとう。また家帰ってから日取りは決めましょ」

 

 

 ということで寂死にしかけていた俺を憐れんで二人が遊びに来てくれることになった。や、本当にこれありがたい。これで向こう6兆年は生きられそう。

 

 このあとは3人で買い物した。そんとき俺の買い物かごにあこがめちゃくちゃお菓子ぶち込んできて可愛かった。流石に半分くらい戻したけど。

 

 

 …あと「お邪魔します」って言ったときの燐子さんの仕草。

 両手をキュッと重ね胸の前に持ってきつつ、顔を紅潮させながら流し目でこちらを見る仕草がとても良かったと、最後に付け加えておこう。

 

 




 

 今回もよかったら感想や評価など宜しくお願いします。
 

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