世話焼き男子とガールズバンド 作:れれれれ
☆あけましておめでとうございます☆
第32話 攻勢
「おまたせ〜…わっ、すごいクマ。どうしたの? それ」
「寝れなかっただけっすよ」
「昨晩に? 体育祭で疲れてたでしょう、なんで寝れないのよ」
「寝れなかっただけっすよ」
「答えになってなくない…?」
日曜日。明日は体育祭の振替休日のため、全く特別感はないが実質二連休となっている。
で、そんな貴重な休みに俺は何をやっているのかというと、こないだの特番についていろいろ話すことがあると、事務所が千聖さんと彩さんをよこしてきたのだ。
なんでスタッフとかじゃなくて演者たるアイドルを寄越すのかがよくわかんないんだけど。忙しいんじゃないの?
CiRCLEのカフェテリアでボーッとしていた俺へ駆け寄ってきた彩さんと千聖さんは、俺の顔を見てギョっとしていた。
「あなた、また何か変なことしてないでしょうね…? 寝なくていいの? 別に話したいことは後日でもいいから」
「大丈夫っすよ、ええ…それには及びませんよ…」
「えっ、その割にはすごい目が虚ろに見えるんだけど」
いやいや、スゲー輝いてるだろ。寝れなさすぎてギンギンに覚醒しとるわ。
だから彩さん、あまり近くから目を覗き込んでくるな。なおさら寝れなくなる。
「いや確かに筋肉がちぎれるほど疲れてたんですけど、いろいろあって寝れなかったんですよ。それだけっす」
(『いろいろ』のあたりで何かあったわね、これ)
(私もそう思うな…)
原因はお察しかとは思うが沙綾の件である。
正直記憶が飛んでよく覚えていないのだが、沙綾んちで彼女に頬にキスされたのちに『ほら帰った帰った』と言わんばかりに追い出されたのだ。
そんなことされたら寝れるわけねえだろ。どう受け止めればいいの?
女の子にあんなことされたの初めてなんだけど、もしかして女の子って異性にキスするのが普通だったりする?
「その『いろいろ』のところを詳しく教えなさい」
「帰って寝ていいすか」
「逃げちゃダメ! 教えてくれるまで帰さないよっ!」
「横暴だ〜…」
ずっと布団で寝転がってただけだから、身体はある程度休まっても脳はエゲツない疲労を抱えたままだ。そのせいで今もちょっと気を抜いたら世界が海色に溶けそうである。
正直もう何も考えたくねぇ。これ逆に言えば話せば帰してくれるってことだよね? じゃあいっか、別に。
フリーズした俺を見て、彩さんが不安げな声を上げる。
「昌太くん…?」
「昨日(頬に)キスされたんすよ、キス」
「は? (唇に)キスされたの?」
「なんか幼馴染にされて…」
「ぇ…えっと、女の子?」
「そう。それでどう受け止めていいかわかんなくて寝れなかったんですけど。なんですか、女の子って異性にキスするのが普通なんすか?」
「いやいや、好きじゃなきゃそんなもがもが」
彩さんが何か言いかけて、千聖さんに無理やり口を塞がれている。何してるんだろ、刑事ドラマの読み合わせ?(痴呆)
「待ちなさい彩ちゃん。その幼なじみ、確実に彼のこと好いてるわよ」
「う、うん。そうでもなきゃキスなんて…」
「でも、彼はそれを挨拶や親愛の証として考えようとしている。それなら、そのままの方が都合が良いと思うの」
「うぅん…? えっと、進展のジャマができるってこと…?」
「そう。それもあるけれど…私たちも、できるかもしれないわよ。それも…」
「…っ!」
千聖さんがぽしょぽしょと喋りながら唇に指を当て、それを見て彩さんが赤面…あら^〜。てかかなり攻めた内容のドラマだな。いつやるんだろ。
超絶美少女のくんずほぐれつを傍目に眠気と闘う俺。実に意味不明な空間である。
読み合わせが終わったのか、千聖さんが話を続ける。
「そうね、海外でもあるじゃない。親しい間柄の人と頬にキスし合って挨拶する文化が。たぶんそれと似たようなものよ」
「ぅ、うんうんっ! たぶんその子も仲がいい証みたいな感じでしたんだと思うよ!」
「まぁ、確かに。話には聞きますよね、そういう文化」
「全然疑ってないよ…?」
「それだけ眠いんでしょうね。今回ばっかりはちょうどよかったわ」
そういやあったなそんな文化。
もしかして沙綾って俺のこと好きなんじゃねとか思ってたけど、やっぱり自意識過剰だったわけか。マジかよクソ恥ずかしいじゃんそれ。
「人生の汚点になる前に自意識過剰だったってことに気づけてよかったですよ。ありがとうございますほんとに」
「う、うん…」
「…気にしちゃダメよ」
でもそう考えると沙綾以外のみんなとはあんまり親しくないってことにならない?
アフグロのみんなとか特に仲いいと思ってたんだけど…え、それこそ自意識過剰? ヤバ、死にたい。誰か殺してくれ。
なんて思ってたらまた目が冴えてきた。割と今背筋冷えっ冷えだから当然といえば当然だけど。
「なんか死にたくなってきたんでお話聞かせてもらっていいですか? 現実から逃げたいので」
「なんでっ!?」
「え、だってキスしたことない人とは親しくないってことになりません? 仲いいと思ってた人からされたことなくて、それこそ自意識過剰だなって…死にたい…」
「大丈夫よ、キスが一つの表現方法ってだけだから。それがなかったとしても仲が悪いということにはならないわよ」
「マジで!?」
「すごい食いつき」
マジで!? なんだ、ビックリした。これでみんなにさげすまれてるとかだったら本気で自害を考えてた。
なぜか気まずそうな千聖さんは、早々に話を切り上げて本題に入った。
「まぁ、それはそれとして。お話だったわね? 特番は見たのでしょう?」
「見ましたよ。なぜか俺が映ってましたけど」
「だよね。カットするって話だったみたいだけど…」
「何なんですかあれ。晒し上げ? 公開処刑? だとしたら調子乗りすぎましたすみませんって伝書鳩お願いしていいすか」
「今日の昌太、やたら悲観的ね…。心配はいらないわ、むしろ昌太のことは気に入ってるみたいよ」
「なんで」
普通にファン視点だとただのノイズだろ俺。パスパレの特番見に来たのになんで男見ないといけないのってなるでしょ。
俺自身はそういうのはあんまり気にしないタチだが、ファンだって一枚岩じゃない。ノイズがちょっと混じってただけでノイズリダクションで殴打してくるヤツだっているかもしれない。
俺知ってるんだぞ。パスパレのファンではなかったけどその手の話題にお気持ち表明してる厄介者がいること。
「あら、その調子だと特番の反応までは見てないみたいね?」
「え? 見れるわけないでしょうよ、どうせ袋叩きにあってるんすから」
「ううん、それが好評なんだよ。ほら」
「えぇ…? 『日菜ちゃんにモノ教えられるとかどんなオバケやねん』『彩ちゃんのドジに完璧に対応してるこの男子生徒ナニモン?』『いくらなんでも薄暗い校舎にビビりすぎだろwwww』──うるせぇよ!!!!! だれがビビりじゃコラ!!!!!」
「そこ?」
ビビってねえよバカ!!!!! アホ!!!!!
「とにかく、意外とネガティブな意見は少なかったみたいね。それと、お上さんはあなたの演奏技術を買ってるみたいよ? ねぇ、SHOWTさん」
「………あの、サイコホラーみたいなの体験させるのやめてくれません? 鳥肌めっちゃ立ちましたよ今」
「キミのギターを何回も見てたらビンと来ちゃうよね…」
前も鳰原さんに看破されてたもんな。俺SNS向いてない説ある。やめたほうがいいのかなこれ、保身のためにも。
ちらりと通知を切っている例のアカウントを見ると、現在進行形でフォロワーが増えていた。ヒエッ…。
「もしかして特番の男≒SHOWTって等式できてます?」
「うん」
「ギャア」
まぁあのアカウントが身バレしたところで、元からネットリテラシー皆無垢みたいなとこあったから、ダメージ自体は大したことないと思う。
それならそれで開き直り、本名と紐づけていろいろ発信するのも悪くないだろう。
「今後どうするのかは知らないけれど、あなたが気に入られているということはひとまず頭に入れておいてほしいのよ」
「へ、へぇ…。気に入られるとどうなるんすかねこれは」
「…また呼ばれるんじゃない?」
「絶対に呼ばないでくださいって言っといてくれません? あんまり目立つの嫌なんですけど」
「手遅れよ。諦めなさい」
今後は夜道に気をつけなければいけなくなった。
推しに共演しないのを諦めろと言われるよくわからない状況に、歓喜なのか恐れなのかわからないが身体が打ち震えるのであった。
◇◆◇
「…えっ?」
「ひーちゃん?」
「いや…カウンター、見てみて」
やまぶきベーカリーへやってきた私とモカ。先に店へ駆け寄った私が中を伺うと、妙な違和感を覚えた。
「溶けてるねぇ、さーや」
「えっあんな沙綾ちゃん初めて見た」
目線の先には、カウンターに身を投げだし、両腕を前に伸ばしてどこかをボーッと見つめている沙綾ちゃんの姿があった。その頬は心なしか赤い。
それを見たモカはズケズケと店内に入って沙綾ちゃんのもとへ向かった。
「珍しいね〜、さーやがボーッとしてるの」
「ふぇっ!? な、なんだ…モカか」
「どうかしたの? 沙綾ちゃん」
「う、ひまり…なんでもないよ? そのー、暇だったから」
「さーやって隠すの下手くそだよね〜。しょーくんみたい」
「んぐっ」
あからさまに昌太の名前に反応を見せた。ついでに顔はさらに赤くなる。
すいっと目を逸らした沙綾ちゃん。明らかにおかしい。厄介ごとの匂いを嗅ぎ取った私は、スキを見逃さずにすかさず詰め寄る。
「えっなになに!? 昌太と何かあったの!?」
「い、いや…何もないから」
「もう潔く観念しちゃったほうがいいと思うな〜」
「そ、そうだよっ! そんな隠そうとするなんてよほどでしょ!?」
「むぅ…わ、わかったから」
頑固な面のある沙綾ちゃんにしては割とあっさり引いた。てっきりもう少し粘るかと思っていた私は少し驚いた。
すでに顔が真っ赤な沙綾ちゃんに、私もモカも嫌な予感を覚える。
「この間、ね? 昌太が栄星の校門で話してた女の子がいてさ。知らない子だったんだけど、シャンプーの匂いなのかな…それがおんなじだったの」
「…え?」
「それに気づいてなぜか我を失っちゃったんだけど…気づいちゃったん、だよね。私が昌太を好きだってことに」
「なっ」
「うちに来た昌太を詰問してるときに気づいてさ…そのまま勢いで、キッ…キスまでしちゃってっ…! もうあれから何も手に付かないの…!」
「ななななな」
「ヤバいよっ!」
「…突然呼んどいて何? 訳わかんない…」
「何かあったのか? やたら切羽詰まってるみたいだけど」
「沙綾ちゃん、昌太が好きだって気づいたって…」
「ええっ!?」
「つぐらしからぬでっかい声出たね〜…まぁモカちゃんも声出そうになったんだけど」
「あ、ぅ…ごめんなさい…」
「…え? マジなの?」
「さっき聞いてきたんだよ〜」
あの爆弾発言を聞いて店を飛び出してきた私たちは、とりあえずみんなをつぐの店に招集した。
で、すぐにさっきの話を共有。するとやっぱりみんな驚いていた。
はっきり言ってこれはヤバいなんてもんじゃない。
沙綾ちゃんは昌太と一番付き合いが長い同年代の女の子で、いわゆる幼馴染というやつだった。私たちも付き合いは長いけど沙綾ちゃんには及ばない。
もともと沙綾ちゃんが彼を少なくとも悪くは思ってないことだってわかってたし、何なら受験で離れ離れになってすごい寂しがってたのも知ってる。
でも沙綾ちゃんがそれを自覚するのはもっと先だと思ってた。元から近い距離がゆえに気づくのも遅れるんじゃないかと踏んでたから。
でも見知らぬ女の子がトリガーになって一気に慕情を昇華させてしまった。完全に油断してた…! 許すまじ見知らぬ女の子!!
まぁ、何が言いたいかというとだ。
「ついに一番の強敵が恋を自覚してしまった…!」
「…ぶっちゃけ、沙綾に勝てる? あたしたち以上に気心知れてて、性格も似てて、息もぴったりで…」
「私、自信ないなぁ…」
「確かになぁ…。しかも親同士顔見知りなんじゃないか?」
「…む〜」
その女の子と同じ匂いがしたっていうのもすごい気になるけど、それよりも沙綾ちゃんが
彼がたらしで朴念仁だってことは知ってるけど、それでもみんな彼とは離れたくないのだ。こんなとこで蹴落とされるわけにはいかない。
「…でもさ。アイツって鈍感も鈍感だし。気づいてないってことはないの」
「さすがにそれはないんじゃないか…?」
「んー、でもありえなくはないんじゃないかなー。元から好意には鈍いというか、『好かれるはずがない』って決めつけてるとこあるしねー」
「だったら、やっぱり…私たちももっとアプローチしなきゃ。それこそはっきり気づいてもらえるくらいには」
むんっ、とつぐが意気込む。
そういえば、前に私もこんなこと言って昌太にアプローチをかけたことがある気がする。抱きついてみたり、時には思い切ってほっぺをぐりぐりしたこともある。
でも、結局は私が耐えきれなくて…。彼もそのときはかなり意識してくれたみたいだったから良かったけど、ドキドキして心臓が爆発しそうだった。
おっきな手とか、厚い胸板とか、制服からしたお日さまの匂いとか。そんなの堪能しちゃったらドキドキして当然でしょ。
でも不満を挙げるとすれば、こっちが思いっきり抱きついても遠慮してるのか控えめにしか抱き返してくれないこと。たまには思いっきりギューッてしてほしい。…今度言ってみる? いいかも。えへへ。
「ひーちゃん? ひーちゃ〜ん」
「ふぁ、ひゃいっ!」
「…どうしたの、急に口元ふにゃふにゃにしちゃって」
「な、何でもないよっ! うん!」
やば、口元緩んでたっぽい。顔あっつ…。
とにかく、彼がどう思ってるかを聞かないことには始まらない。しかしどうすれば振り向いてくれるかはわからない。
我ながら面倒な人を好きになってしまったなと、どこかぽわぽわした頭で考えるのだった。
自分でも書いてて何いってんだこいつって思った
↑さすがにちょっと加筆しました