世話焼き男子とガールズバンド 作:れれれれ
☆良いお年を☆
「昌太、ちょっといいかしら」
「今行きます」
CiRCLEでのバイト中、友希那さんに声をかけられる。
Roseliaの他のメンバーはスタジオ内に残っているようで、出てきたのは友希那さん一人であった。
「今のRoseliaはメンバーの仔細を伏せている。これはあなたも知っているわよね」
「えぇ。クラスの奴らもRoseliaは知っててもやっぱり謎の多いバンドとして扱ってましたよ」
「そうでしょうね。でも私たちはそろそろ…それを明かしてライブもやっていこうかと考えている」
「…ついにですか」
おいおい、このタイミングでかよ。こりゃガールズバンド旋風もさらに激しくなりそうだな。
Roseliaは、その高い技術力に裏付けされた旋律ですでに名を馳せたバンドだが、ガールズバンドとは認識されていない。メンバーが何者なのかもわからないのだから当然である。
元々友希那さんは孤高の歌姫としてすでに名のある歌手だったためか、ボーカルとして彼女が参加しているのでは程度の噂はある。というか彼女ほどのボーカルなんてそうそう居ないし、これだけは確定視されている。
「バンドを組んだ直後はまだまだ音の粒も揃わない状況。だからまずは足並みを揃えることに集中したかった、それ故にメンバーも伏せていたわ」
「…次のステップへはライブの場数を踏まないと進めないだろう、と?」
「やはりお見通しのようね」
「友希那さんが一番知ってると思いますけど、練習とライブはまるで違いますから。いくら練習をしまくったとしても、ライブでの臨機応変なパフォーマンス力が養われることはない」
「その通り、流石によくわかっているわ。いえ、だからこそ私はあなたに惚れ込んだのだけど…」
やめろ、勘違いするようなこと言うな。
彼女はこういう気恥ずかしい発言をなんの躊躇いもなく言い放つきらいがある。たらしか?
しかもあまりにド直球で、その上に不意打ちでくると来た。リサ姉がそれにあてられて赤面してるとこ見たことあるんだからな。
「でもまだ決めたわけじゃない。あなたの知見を聞きたいの」
「俺の?」
「えぇ。あなたは長いことファンとして私たちを追ってきたと言ったでしょう? だからファンの間の空気感とかにも詳しいんじゃないかと思ったの」
「あぁ…なるほど」
「友希那〜、何話してるの?」
「リサ。この間話したことよ」
てっきりスタジオにいるものかと思っていたが、リサ姉は知らぬ間に表の自販機のもとへ向かっていたらしい。俺の後ろにある入り口からやってきた彼女は、俺の横について話を聞いていくつもりのようだ。
「あぁ、ライブもやるよ〜ってやつ?」
「はい。ちなみにリサ姉はどうなんですか」
「ん? アタシは特には心配してないかな。みんながいるし」
「…そうですね、俺もそう思います。ベーシストさんの腕はすでに一級品ですからね」
心配してないと言いつつちょっと眉を曇らせるリサ姉。
この人はかつてブランクがあったらしく、自分が足を引っ張っていないか常々気にしていることは普段の様子から知っている。
友希那さんに聞こえるように言ってもどうせ呆れるだろうから、ぽしょっと耳打ちして本心を伝えた。
「ひゃぅっ!? 突然囁かないでよ…! 恥ずかしい…」
「すみません。でもまぁ本心ですから」
「う、うん。ありがと」
「…そろそろ聞かせてもらえるかしら」
耳を赤く染めるリサ姉、ちょっとムッとしてる友希那さん。リサ姉を取られたとか思ってるのかもしれん、やりすぎたかな。
「むしろ遅すぎるくらいですね。友希那さんが実力面で申し分ないと思うなら、今すぐにでも正体を晒してもいいくらいだとは。友希那さん、投稿したMVありますよね」
「ええ」
「コメントは見たことあります? 『Roseliaの生音を浴びたい』って声ばっかりですよ」
「…なるほど、それなら急ぐくらいでも良さそうね。ありがとう、参考になったわ」
琥珀色の瞳を細め微笑みながら感謝した友希那さんは、踵を返してスタジオへと戻っていった。
そのさまにリサ姉が「おぉ…」と声を漏らす。
「え? なんすか」
「あぁ、ちょっとね。やっぱり友希那はキミにはかなり心を許してるんじゃないかなーって☆」
「いや、あの人割とああやって笑ってるでしょ」
「最近はそうなんだけどね、それでもあんなに柔らかく笑うことってそうそうないよ。昌太の前以外では、ね」
「あんまりからかわないでくださいよ」
もちろん悪い気はしないが。そもそも音楽以外のことにあまり興味を示さないような彼女のことだから、なんか別の理由でもあるんだろう。知らんけど。
ほら、前にサファが乱入して一緒くたにされて撫でられたことあったろ。それの延長線上とかな。
「む〜、信じてないなー?」
「そういうわけではないですよ。単に勘ぐるほどのことでもないでしょってだけです」
「そんな難しく考えて人付き合いしてるわけではないと思うよ? そもそもそれができるほど友希那って器用じゃないもん」
確かにそれは否定できない。
例えば意志疎通の際にも、本人はここんとこ割と気をつけてはいるようではあるが、それでもまだまだ言葉足らずなフシがある。それを見るたび不器用だななんて思ってしまうわけだ。
Roseliaの面々も友希那さんのその性質なんてとっくに承知しているだろうから、今更バンド内のトラブルの心配はしてない。ただ友希那さんをよく知らない人からしてみればまあ言わずもがなな訳で…。
「確かに不器用だなとはちょくちょく思いますけど。ぶっちゃけ不安で、バイト中に友希那さんがいるときはつい気にかけちゃいますし」
「ほら、そういうとこ。友希那も昌太の優しさをなんとなくわかってるんだよ、きっと。不器用なりにね」
そう言うと、リサ姉はスタジオへと戻っていった。
まぁ好意的に見られていて仲良くしてくれるならありがたいなー、だなんてこのときの俺は軽く考えるのだった。
◇◆◇
「ねっ、友希那」
「…何よ」
「昌太のこと、どう思ってるの?」
「なっ…! 今はいいでしょ、そんなこと」
「顔赤いよ」
スタジオへ戻ってから、隅っこでじーっと楽譜を眺めていた友希那に声をかけてみる。
さっき昌太に言ったことは事実なんだけど、彼は話半分で聞いてる感じだった。友希那がここまで心を開いてるのがどれだけすごいことか、あまり理解できてないのかも。
「別に、普通よ。何を勘ぐっているのか知らないけど、そういう目では見ていないから」
「ん〜? そういう目って? アタシは彼のことどう思ってるか聞いただけなんだけど」
「くぅっ…」
「それにさ、友希那から名前呼びしろって言うとか今までなかったでしょ? その時点で普通じゃないと思うんだけどな〜」
「リサ姉がすごいニヨニヨしてる」
「うん…楽しそうだね」
「何をしてるんですか…」
この感じだと、もしかしたらもう落ちちゃってるかもなぁ。あるいはもうひと押しか。
たぶんさっきムッとしてたのも、昌太が友希那を差し置いてアタシと話してたからだろう。…もう、乙女の耳は不可侵なのにな。
まぁ気持ちはわからないでもない。友希那に下心無しで接してきて、その上邪念のない世話を焼いてくるなんてね。
今まで友希那に近づいてくる男はたいてい何らかの下心を持っていて、あしらうたびにいつも鬱陶しげにしてた。だから男への態度もより一層雑になるし、アタシもそれっぽい男は早めにご退場願っていた。
けど昌太は別格だった。やたら女のコの知り合いが多いが、彼自身は広げたくて広げたわけではないらしい。つまりはよほどの人格者なんだ。初めは節操なしなのかななんて思っちゃったけど。
それに彼は友希那のポンコツなとこをよく見てるけど、それでも態度を変えずに、むしろ嬉々として世話を焼いている。
たぶん友希那自身もウィークポイントを見せている自覚はあると思う。それだけに、いつまでも態度を変えずに接してくれるのは評価が高かったのだろう。
「…少なくとも、悪くは思っていない。むしろもっと見ていてほしいと思ってるわ。彼のスキルも一級品だし、見る目もある。それに私に対して物怖じもしないし、逆に下心もない。接しやすくてついつい頼ってしまうわね、彼には。やたら女の知り合いが多いのは少しムカつくけれど、それでも気づいたら彼を目で──ん゛んっ! …まぁ、そんな感じね」
「おぉう? やっぱり高評価なカンジ?」
「別に、普通よ」
無理があるでしょ。顔をほんのり赤らめてもにょもにょしてるのは可愛いけど。普段はここまで口が回らないのに五倍くらいの文量で返ってきた。
こりゃ友希那、完全に手遅れだね。目で追っちゃうレベルとか、アタシもさすがにそこまでとは思わなかった。
まぁ、アタシ自身も彼なら大丈夫かななんて信頼はある。友希那曰く彼とアタシは似た者同士らしいし。
それでも似た者同士に関しては友希那と昌太も大概だと思う。
…平然と人を惑わすコトばっかり囁いてくるとこ、とかね。
◇◆◇
「ほら、見てくださいよこれ。案の定すごい伸び」
「私も学校で見たけど…ここまでとは思わなかったな」
「当事者の皆さん自己評価低すぎません?」
例の相談の翌日、早速Roseliaはメンバー情報を解禁した。
するとガールズバンド旋風真っ只中の世間が騒然。当然このあたりも騒がしくなった。
どれくらいかというと、俺が高校に登校すると、あまり喋らないクラスメイトに街なかで号外を配るノリでRoseliaのことを聞かされたくらいだ。
そんなざわめいてる中で俺がRoseliaと知り合いだなんて口が裂けても言えなかった。
「ううん、そうじゃなくて…。なんというか、実感がないっていうか…」
「まぁ数字は確かにすこいことになってますけど。Roseliaがガールズバンドじゃなかったらこうはなってなかったでしょうなぁ…」
「…ちょっと恥ずかしい」
横で俺のスマホを覗き込みながら、少しもじもじする燐子さん。
今俺はバイトの休憩中で、燐子さんと隣り合ってラウンジのソファに座っているところだ。
何故か休日だというのに燐子さんだけめちゃくちゃ早く来ていて、曰く早めに他のメンバーを待つという。燐子さん、いくらなんでも二時間前は早すぎると思います。
ということをさっき本人にも言ったのだが、今みたいにもじもじしながら『う、うん…ちょっと、ね…』って言うだけだった。何がちょっとだ。二時間ってちょっとって言える時間なの?
話を戻す。
お祭り騒ぎの様相すら呈する世間だが、大騒ぎになっている理由は他にもある。そのビジュアルの麗しさだ。リプライ欄を見るとそれがよくわかる。
何しろ高い演奏技術を誇ることですでに名を馳せていたバンドが、今度はアイドルにすら比肩する高いビジュアルを引っさげて殴りに来たのだ。むしろ騒ぎにならん理由があるか?
リプライの中には当然燐子さんに言及しているのもあって、本人がもじもじと恥ずかしそうにしているのも十中八九それが原因だろう。
「清楚」「深窓の令嬢みたい」といった俺が普段から思ってることを代弁しているものばかりで、頷きすぎて首が取れそうだ。が、彼女のおっきいモノにばっかり言及してるやつお前船から降りろ(即ブロック)
燐子さんは普段から露出の少ない服を好んで着ている。それは注目を浴びるのが苦手だからなのだが、ただでさえ端正な顔立ちと吸い込まれそうな黒髪におっきなモノという抜群のビジュアルを持つのだ。嫌でも注目を浴びてしまう。
特に下卑た視線にはすごく敏感なようで、たまに気分を悪くしてしまうこともある。
こんなこと直接聞けるわけもなく、あくまでも推測の域を出ないところもあるが。少なくとも人目を浴びることが苦手なのは確かだ。
「…まさかとは思いますけど、燐子さんが注目を浴びるのが苦手ってことを友希那さんが知らないわけないですよね」
「うん、大丈夫だよ。ちゃんと理解してくれてるし、今回の公開も確認してくれたから…」
「そっか、よかった」
「Roseliaの一員になったからには、私の都合で邪魔しちゃダメだもん。だから、もう覚悟は決まってる」
俺をしっかりと射抜く視線には覚悟が宿っていた。
別に俺とて不能とかではなく、よくあるヘテロだ。だから彼女の色香にはときどきクラッときてしまう。その点で言えば下卑た視線を向けるやつらとは何ら変わりない気がするのだが、なんで俺と仲良くしてくれてるのだろう。
聞けるわけないけど。
…などと考えている間、俺はじーっと彼女の顔を見つめていたようで、燐子さんは耐えきれなくなったのか持っていたトートバッグで顔を隠してしまった。
「あ、ごめんなさい」
「う、ううん。昌太くんなら、大丈夫…。だけど、ずっと見られると…ドキドキしちゃうから…」
少し下ろしたバッグの端っこから顔を覗かせ、ちらりとこちらを伺う燐子さん。最後の方は聞こえなかったけど。
さすがに不躾だったかと思ったが、気を悪くした様子は本当にないらしい。危ねえ…。
「…気にしてる?」
「え?」
「私が、視線が苦手だってこと」
「あ」
言いながら少し眉を曇らせる。
俺が首肯すると、「やっぱり…」とぽしょりと漏らしていた。顔に出ていたらしい。
身体ごとこちらに向けてすすすと近づいてきた燐子さんは、続けて言う。
「確かに、私は視線が苦手で…昌太くんの目の前でも気分が悪くなっちゃって、介抱してもらったこともあるけど。見知った人なら、大丈夫なの」
「そういえば…」
あのときはゲームのイベントに行きたいからと、同伴を頼まれたんだっけか。
人混みにまみれて気分が悪くなってしまったとき、燐子さんは『視線』を感じたと言っていた記憶がある。舐め回すようなというか、下卑たとあうか…。
「というよりは、視線を感じても大丈夫な人とだけ…『見知った人』になるの」
「じゃあ、俺は」
「うん。嫌な視線にも敏感な分、嫌じゃない視線もわかるから…。いつも、気を遣ってくれてるの…わかるよ」
「…そうでしたか」
「私が本当に嫌なのは、私をモノみたいに見てくる視線。何をしてきてもおかしくない、怖い視線が…たまにだけど、ある」
は? 人をなんだと思ってやがる、そいつ。
思わず顔を顰め握りこぶしを作ってしまうが、燐子さんはふるふると首を振りながら、拳を両手で包み込んできた。
「それに比べて昌太くんのは、なんというか…温かい、というか。嬉しいんだ」
「え?」
「いつも気を遣って、見守ってくれてて…それで、もっと頑張りたくなっちゃう…そんな視線。嫌なわけないよ。だから、どうか気に病まないでほしいの」
どこか懇願するような目で、手を取ったままそう言う燐子さん。
俺はというと、大丈夫って言われて気が緩んだのか、グンと彼女の端正な顔が近づいたことでこんなときに内心めっちゃ取り乱していた。白磁の如き肌、長いまつ毛、宝石みたいに輝く瞳──
変な思考を展開する本能をタコ殴りして、理性をフル動員する。
「…遠慮しないでいいのに。顔、赤いよ?」
「そういう燐子さんこそ…」
「…と、とにかく。本当に遠慮しなくていいから…。でも、どうしても気になるなら──」
流し目でこちらを見据えながら、微笑んで言う。
「──見ててほしいな。私が、ライブで…頑張ってるところ…!」
放置してた期間が長すぎて設定を忘れたので一から読み返そうとしましたが、恥ずかしくて直視できませんでした(問題発言)
齟齬はないかとは思いますが、何か気づいたときは報告してくれるとありがたし。