世話焼き男子とガールズバンド 作:れれれれ
評価50人ありがとうございます!!!!!
感想もやたらたくさん来て作者感激。わたくしが口下手なので最近は返信を控えてますが、すべて読ませてもらっています。
こんなにドキドキしたのはいつぶりだろうか。
昌太にはあれこれ言ったけど、もちろんあれが事故だってことくらいはわかってる。
それでも──
「もっと落ち着いて食べれないの?」
「仕方ないだろ腹減ってんだから」
「お、ここにレモンが」
「おい昌太お前それどうするつもりだ? 徐ろに俺の目の前持ってきて──まさかそのまま搾ホグァア! 案の定やりやがったなお前!!」
「ひゃははは、ざまーみやがれ」
また彼をちらりと盗み見る。
さっき昌太に壁に押し付けられたとき、初めて覚える感覚が身体を駆けずり回った。なんというか…ゾクゾクする感じ。
自分でもよくわかってないんだけど、身じろぎすらできなかったときが特にそうだったかも。
一方的に壁に押し付けられて、大きな手で私の手首をがっちり掴まれて、『あぁ、私…昌太から逃げられないんだ』って思って──
「──〜っ!?」
「およ、おたえ? どうしたの?」
「…なんでもない」
危ない危ない、あのときを思い出してまたゾクゾクしちゃった。
…どうにも、まだ我に返りきれていない節があると思う。どこかふわふわした感覚があって、夢と現実の境が曖昧になっている。
男の子にあんなことされたのはもちろん初めてのことだった。だから壁ドンされればいつもこうなる可能性は否定できない。
それでも私の中では、彼じゃなきゃこうはならないという確証めいた何かがある。なんでだろう。
たぶん、私は少なからず彼が気になってたんだと思う。思い返せば、存在感のある彼を自然と私は目で追っていたような気がする。
例えば、かつてSPACEでバイトしてたとき。彼は人一倍各所を駆けずり回ってた。バイトでもなく単なるヘルプのような立ち位置だったのに、人の役に立とうと躍起になっていたのだ。
うん、このときの昌太はよく覚えてる。言っちゃなんだけど、ヘルプの彼はあまりSPACEの事情にも詳しくなかったと思う。だから仕事が捗らなかったって誰も文句は言わないのに、それでも彼はやっていた。
やりきったかが信条だったSPACEのオーナー──都筑オーナーは、やはりというか毎回全力投球の彼をいたく気に入っていた記憶がある。
それからしばらくして、今度は有咲んちで彼と再会したんだったな。
あのときの彼は、SPACEで見たときとは打って変わってすごく内向的に見えた。私も謎のヒロインXみたいな立ち回りで彼をアシストして、結果として丸く収めることができていたけど。
そのときもやはり彼は悩みと真剣に向き合って、あれこれ動いていた。彼にとって沙綾がどれだけ大事な存在なのかがよくわかる一幕だった。
「…むぅ」
…なんかモヤモヤする。
ともかく、思い返してみると私にとって彼が目を引く存在だったのは間違いない。
そうでなくとも色眼鏡なしで私と向き合ってくれる男の子は彼くらいしかいないし、たぶんSPACEの出来事がなくても私は彼を気にしてたと思う。
なんでって? 昌太がいつも嫌な顔ひとつせずに私に付き合ってくれるから、かな。
…自分がいわゆる天然というものなのは理解している。
気づかないうちに周りを振り回すことも珍しくなく、人付き合いもたいていはあんまり長持ちしない。
別に自分のこの性分を恨んだことなんて一回もないけど、それでもいつも彼みたいに律儀に付き合ってくれる存在は貴重だな、なんて思う。
彼の優しさに触れるたび、じんわりと心が暖かさに沁みていく感覚がとても気持ちいいのだ。
それに、彼は私と同じギタリスト。話すにも困らないし、曲に対するアプローチも近いから、好きな曲を共有することもできる。
…少なからずどころか、かなり気にしてたな。彼のこと。
無理やり押し付けられてゾクゾクしちゃうなんて、私にはMの才能があるのかもしれない。彼限定かも、だけど。
ただの事故でこうなるなら、本気で彼に求められたら…どうなっちゃうんだろ。そっと左胸に手を添えると、どくどくと心臓が暴れているのがわかった。
今度はちらりと沙綾に視線を投げる。ふふ、きょとんとしてる。
「ダメだなぁ…沙綾の気持ち、わかってるはずなのに」
気を抜いたら落ちちゃいそうだよ、私。もしかしたらもう手遅れかもだけど…。
まあ、それも吝かではないかな。
◇◆◇
日も暮れかけ、空が紫に染まる頃。着替えた俺たちはポピパも巻き込んでBBQと洒落込んでいた。
あの後はバレーボールをしていたらしいポピパの流れ弾が頭にブチ当たって海に叩き落されたり、レモンの報復に俺の目を狙って執拗に海水をぶっかけられたりといろいろあった。
そして、まあこれだけ動けば腹も減るわけで。
BBQの用具はどこから調達したのかといえば、全て海の家で融通してもらえた。食材も込みで。
ただし食材というのが全く処理がされておらず、たとえば定番のかぼちゃであればかぼちゃがまるごとトレイの上で存在感を放っている。1/2個とかじゃなくてまるごとである。正直どうかしてると思う。
「…昌太くん、かぼちゃまるごとなんて…処理したことある?」
「いや、一人暮らしなのにまるごと買っても食うにも困るし…。知識としてはやり方は知ってるけどやったことはないな」
「う、うん…だよね…」
それはもう困惑に困惑を重ねているりみりん。
誂えたようにタネやワタを削ぎ取るためのスプーンや、やたらイカつい出刃包丁、切れ味がカスだったときのためか砥石など、割と充実している。
そこまでやるなら最初からある程度は処理しといてくれ。
ただし流石に肉は牛肉・豚肉ともに生肉の状態だった。牛とか豚の屠殺からやれとか言われたら発狂してた自信がある。
仮にそこからやらせてたら砂浜が血だらけになるだろうけど。グロいってもんじゃない。
まあともかく、BBQとか以前に下準備が必要なわけだ。
俺自身は普段から自炊はしてるから、こういうのには慣れている。だが今集まっているメンツがどれだけ料理ができるのかいまいち把握できていない。
沙綾ができるのは知ってる。沙綾の母親──千紘さんに代わってしばしばメシ作ってるって言ってたし、何ならお相伴に与ったこともある。美味かった。
あとは…どうなんだ? なんだかんだ料理に関しては話したこともないし、未知の領域である。
などと考えていると、沙綾と有咲の声が聞こえてきた。
「諏訪くん、何その持ち方!? 指切っちゃうよ!」
「いやだってニンジャとかクナイ逆手で持ちがちだし…」
「いやもうクナイって言ってるだろ。これ包丁だぞ」
あいつ何やってんの?
「おい、なにやってんだお前。普段料理しないの?」
「え、逆にお前はすんの?」
「するけど?」
「マジかよ、俺いつもそんな気力なくてな〜」
「まぁ、確かに気分乗らないときもあるけど…昌太は毎日してるんだっけ?」
「まぁ。そっちのが収支を細かく把握できるし、何より安く上がるしな」
「オカンか?」
なんだよ、節制して小遣い捻出するくらいやるだろ。
とにかくお前は包丁持つな、力仕事とか火の番とかやっとけと言いつけておく。
「沙綾は言わずもがなだしな。有咲は料理できんの?」
「それなりにはな。ばあちゃんの手伝いとかしてるし」
「有咲の作る煮付け、すごい美味しいんだよ。今度作ってもらったら?」
「マジで!? やるじゃんか有咲」
「べ、別に…これくらいは…」
デレデレありさ。
沙綾のお墨付きもあるし、有咲の腕は確かなのだろう。安心して任せられそうだ。
「で、さりげに俺の後ろを陣取ってるおたえさんや。料理はどうだい?」
「あ、気づいてた? 私もこう見えて結構できるんだよ、お弁当だって作ってるし。りみも私と同じくらいできると思う」
「うん。私もたまにお母さんのお手伝いするから…。でも有咲ちゃんとか沙綾ちゃんほどはできないかな」
やっぱり女の子って多少は料理とか嗜むもんなのかな。結構平均レベルが高いように思える。
「修介は?」
「俺はあんまできない。包丁も触っても週一とかだし…」
「その時点で包丁逆手で持つ健太郎よりはよっぽど上等だわ」
「しれっとディスらないでくれる?」
「あのな、運動部で寮ぐらしのお前こそ自炊すべきなんだぞ。代謝真っ盛りでなおかつ学生、しかもアスリートという身のお前は何よりも安く、何よりも多くのエネルギーを摂らなきゃだろ。身体が何よりの資本なんだからよ、自分で管理できなくてどうすんだよ。大体な──」
「お、おぅ…流れるような説教…」
「あはは…昌太、あんまり他の人の不養生とか我慢できないタイプだからなー。誰よりも世話焼きだし。私もああやって怒られたことあったっけな〜」
「沙綾ちゃんが?」
「うん。ロクに寝てないことすぐに見破られてさ、怒られちゃった。でも私に言わせれば──」
「沙綾?」
「──…ううん、これは今話すことじゃないかな。それよりも、早く準備しよ! 日が暮れちゃう!」
「う、うんっ!」
…いけね、またやっちまった。
見かねた有咲にちょんちょんと肩をつつかれ我に返った。悪いな健太郎、だがアレは本心なんだ。
さて、ここまでで全員の料理の腕は把握できた──と言いたいところだが、まだ一つ懸念材料が残っている。
「昌太くん! 私かぼちゃ切りたい!」
「おい香澄。なんか嫌な予感がして聞いてなかったが、料理は?」
「できない!」
「おい」
いつもの猫耳がない香澄は、にぱーっと笑いながらそう言い切った。
料理しないのにいきなりかぼちゃの処理するのはヒノキの枝でラスボスに突っ込むようなもんだろ。
ぶっちゃけかぼちゃの切り分け自体はコツさえつかんでいればそこまで難しくはないと思う。
だが厚い皮をブチ抜くためにまあまあ力を入れないとダメだし、要点を抑えていないと変に包丁が刺さって抜きづらくなったりもする。そういった点ではやはり慣れているに越したことはない。
「でも得意料理はあるよ?」
「え、何?」
「肉じゃが」
「…意外すぎる…めっちゃ家庭的じゃん」
「でしょ? あっちゃんに教えてもらったんだ〜。何ヶ月も練習したんだよ?」
あっちゃんってこいつの妹だっけ。未だに会ったことはないが、どんな人なのか全く想像がつかない。
香澄に似てはっちゃけるタイプとかだったら嫌だぞ。俺には御しきれないと思う。
「でもなんでそれだけできるんだ?」
「いつか好きな人に振る舞ってあげたくて…やっぱり女のコなら憧れるんだよねぇ、そういうの」
「ふーん、そんなもん?」
「うん」
やっぱ香澄って猫耳がないと妙に大人っぽいんだよな。気のせいかはわからないが、普段と比べるとちょっと落ち着いてる気がする。
香澄は人の機微に聡かったり、人を慮ってやれて、持ち前の明るさで引っ張っていけるという一面がある。だから直情的というか、今を全力で生きるタイプだと思っていたんだが、案外将来設計みたいなのも彼女なりに抱いていたらしい。
意外じゃなかったといえば嘘になる。
「そうだ。昌太くん、
「…ん?」
「昌太くん?」
「あぁ、いや…ま、いつかな」
「私はいつでもいいからね」
今の香澄の発言にどこか引っかかりを覚えたが、別に大したことではないかと思いとりあえず返事だけしておく。
「それで、かぼちゃ切りたいんだっけ? やり方わかる?」
「え? こう、真っ二つにすればいいんじゃないの?」
「バカ、危ねえぞそれ。ヘタは避けないと下手したらケガする」
「へただけに?」
「俺も言ってて思ったけど触れないでくれるとありがたかったかな〜」
反応されると俺がダジャレ好きなおっさんみたいになるからやめろ。たまたまだっての。
「真っ二つにするのはそうなんだが、ヘタは避けるんだよ」
「えっと、こう?」
「…………一緒にやるか?」
「うんっ」
だからってヘタと平行に真っ二つにしようとするな。ヘタどうすんだよ。
とりあえず他のメンツにはやることを指示しておいて、俺は香澄とかぼちゃの処理に集中することにする。
説明のためにと香澄の後ろに回り、彼女の右手に被せるように包丁を握って、切るところを指す。
「ほら、ここ。この辺から真下に切り落として、後でヘタをくり抜くの」
「ぁ…う、うん」
「…何? どした?」
「な、なんでもないよ! ここから切ればいいんだよね!」
「お、おう?」
なんだその声。
別に真っ二つにする前にヘタをくり抜くこともできるが、包丁の扱いに慣れてないと力加減が普通に難しい。どっちかといえば先に真っ二つにするほうが楽だろう。
今度は左手でかぼちゃを押さえる。
「力要るから押さえとかないと危ないぞ。まあ今回は俺が押さえとくから、切ってみ?」
「ぁう…」
「…なあ、さっきから大丈夫か?」
「えと…はい。き、切るね?」
「いいよ」
「(これ、あすなろ抱きみたいで…なんかドキドキする)」
香澄がちょろちょろ変な鳴き声を上げているが、なんともないと言うのでスルー。
そのまま包丁に力を入れて、かぼちゃを真っ二つにした。
あとはタネとワタをこそげ取って、ヘタとってから薄切りにすればいつものかぼちゃになる。
「ま、これだけやっとけば後はいいだろ」
「真ん中のもそもそも取ったし、水洗いもしたし…」
「ヘタのある方ちょうだい。薄切りにしようぜ」
「うん」
もそもそて。
本当なら少し蒸しておきたいんだが、レンチンはできんしな。硬いけどまあいいだろ。
長々と喋って喉かわいたな。お茶飲も。
「それにしてもー…こうして肩を並べて二人で包丁握ってるとさ、なんか夫婦みたいだよね! 私たち!」
「ブフゥーーーーッ!!!!!」
「わっ!? どうしたの!?」
「バッ、お前…変なこと言うなよ急に」
「えー、でも憧れるでしょ? こういうの」
「お前割と乙女っぽいとこあんのな…」
「ないと思われてたの!?」
さっき好きな人にどうこうとか言ってたせいで、知らないうちに敏感になってたんだろう。香澄の夫婦発言には含んだ緑茶を吹かざるを得なかった。普通にありだと思っちゃっただろ。
やっぱりなんかこいつ今日おかしい気がする。なんでこんなに匂わせ的なことばっか言ってくるんだ? さっきもスルーしたけどだいぶ匂わせてたよな。わざとか?
「てかそれわざとやってんの? さっきから」
「え? なにが?」
「あぁ、わかった。もういいや」
天然だったわ。
嘘、香澄って天然のジゴロ…!?
「それは昌太が言えたことじゃないよ」
「うおっ!? …気配消して近づいてくんなよおたえ…わざと?」
「うん」
お前は養殖かよ。
おたえはおたえでさっきからやたら俺の背後を陣取ってくる。心臓に悪いからやめてほしい。
「おたえっ! 私かぼちゃちゃんと切れたよ!」
「うん、
「えへへ〜」
「んじゃ、私は海鮮系の食材もらってくるから。…昌太」
「ん?」
「後で、ちゃんと構ってあげなよ」
「…ん?」
言うだけ言って海の家へ向かってしまった。構うって何に?
その答えは周りを見回すとすぐ見つかった。
「…………」
沙綾だ。ほっぺ膨らませてこっち見てた。なんで?
わけがわからんが、とりあえず言われたとおりにしとこう。会釈だけ返しておく。
去り際、おたえが沙綾と何か話してた気がするが、流石にここからは何も聞こえなかった。
「
「…ん。ありがと」
ひとまずここは食材の用意に集中することにして、俺はかぼちゃの薄切りに励む。
俺の横で同じようにかぼちゃを薄切りにしている香澄の横顔を盗み見ると、なにやら妙に楽しげだった。それだけかぼちゃを切りたかったということなのだろうか。どんなこだわりだよ。
その後無事に肉類やかぼちゃを始めとした野菜、おたえがもらってきた海鮮系の食材を用意でき、つつがなくBBQを楽しむことができたのだった。
実は海に行く構想は去年末に浮かんだやつで季節外れもいいとこだなと思っていたのですが、寝かせすぎて一周回って季節が追いついてしまいました。