世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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 初めて誤字報告いただきました。ありがとうございます。素で誤字ってるの気づきませんでした。
 


第36話 お前は自分で自分を騙している。もしかしたら、自作自演なのか!?テメーのやっていることは!

 千葉の外洋を望む立地にある、小綺麗な旅館。

 リフォームを経ているのか、建物は古さを感じながらも清潔な印象を受ける。

 海水浴場からほど近いこの旅館に、俺たちとポピパのメンツがやってきていた。

 ぼそりと沙綾が呟く。

 

「まさか宿も一緒だとはね…」

「なぁ昌太、本当に合わせに来てないんだよな?」

「安心しろ有咲、俺たちも全く知らなかったから」

 

 ここの宿は俺が適当にとったのだが、向こうは沙綾がここをとったらしい。どんな巡り合わせだよ。

 

「ねぇねぇおたえ、もしかして知ってた? このこと」

「え? なんで?」

「だって『後で』構ってあげなよって言ってたじゃん」

「やっぱりたまに鋭いね、香澄。昌太が言ってた宿と私たちが泊まる宿、名前一緒だなと思って」

「え、そうだったの?」

 

 まぁ、確かに。

 あのあと会釈だけしたとはいえ、ちゃんと構ってやれる暇があるのかというと疑問だった。宿が同じなら、まぁ時間は確保できるだろう。

 と言っても何をすればいいのかは皆目検討もつかないわけだが。

 

「ま、とりあえずチェックインしようよ」

「あぁ」

 

 ここで突っ立っていても仕方ないので沙綾の言葉でとりあえず中に入り、とっととチェックインを済ませることにする。

 宿を取ったのが俺と沙綾だったので、二人でカウンターに向かう。

 

「ようこそお越しくださいました。()()()()ですか?」

「えっ」

「ちちち違いますっ! えっとその、()()別で…」

「えっ」

「おや、これは失礼いたしました」

 

 と言いつつ、どこか微笑ましさを滲ませた視線を送る女将さん。

 てか()()って何? 俺は一瞬で置いてけぼりにされた。

 そんな俺を傍目に、沙綾と女将さんがいそいそとチェックインを済ませていく。

 

「お連れ様…って?」

「あれはな、香澄ちゃん。たぶんカップルだと思われたんだろ、あの二人。くっそ、なんであいつばっかあんなおいしい目に…!」

「カッ…!?」

「む〜〜〜〜〜」

「おたえちゃん…?」

「なんか、初々しいな…本当に似たもの同士というか…」

(昌太…影響力あるな…)

 

 外野がうるせえ。てか健太郎、いつの間に香澄のこと名前呼びしてんの?

 そら俺たちはずっと一緒に行動してたようなもんだし接点もできようが、あいつが女の子の名前呼んでると邪な何かを感じるな。哀れ、日頃の行い──。

 

 このあとはルームキーをもらって、各々の部屋へ向かうために一度解散。

 今回は贅沢にも俺たちは一人ずつソロで部屋を取っている。そのため同室の人を気遣う必要もない。ヒャッホゥ!

 

「おぉ…素朴だが確かな高級感が…」

 

 ルームキーをかざして解錠し扉を開けると、鼻をくすぐるイグサと潮の香り。模造品ではなく、本物の畳が敷き詰められていて、手触りもいい。

 さすがに海の畔に建っているだけあって、オーシャンビューも一級品だ。しかもこの宿は驚くことに各部屋に露天風呂があり、オーシャンビューを望みながら檜風呂に浸かることができる。悪魔的すぎる。

 

 いそいそと荷物を広げていると、スマホからLIGNEの通知音がした。

 

Kasumi☆『これすっごいよ!』

Kasumi☆『すっごい』

Kasumi☆『うみ!』

 

 BBQのあとに新しく作られたポピパと俺らのグルに、香澄がメッセージを部屋の写真とともに連投していた。

 言わんとすることはわかるが、お前作詞してるのにその語彙力の崩壊っぷりはどうなんだ。

 

 BBQをしている時点で日は暮れてしまっていたが、今もまだ日光の残滓がわずかに空を照らしていて、幻想的な風景になっている。

 だから海も真っ黒というわけでもなく、まだ辛うじて視認はできている。

 

 でもなぁ、夜の海って真っ黒すぎて不気味だよな。月明かりがあればいいだろうが、新月とかだと悲惨。

 一度写真を撮るために暗くなるまでずっと海岸に居座っていたことがあったが、近くのホテルに戻るまでの道があまりに暗く、とてつもない恐怖の中猛ダッシュで逃げ帰った記憶がある。

 

 いや別に怖くはないけど。怖くねーし!

 ちょうど帰り道上り坂だったからトレーニングがてら走っただけだし!?

 …誰に言い訳してるんだろう。

 ま、幸いにも今日は満月だ。新月よりはマシなことは間違いない。

 

 そうして海を眺めながらボーッとしていると、また手元のスマホから通知音が聞こえる。今度は健太郎だった。

 

 

『肝試ししね?』

 

 

 ◇◆◇

 

 

「お前ガチでぶっ飛ばしていい?」

「え、でも怖いの平気なんだろ?」

「あぁ平気だよ! 肝試し(テメェ)なんか怖かねぇ!!」

「じゃあいいじゃん」

「お前は今…人道に(もと)る行いをした──」

「どっちかっていうと今の昌太のほうが怖いんだけど…」

 

 あれから完全に日が暮れ、夜の帳が降りた。

 そんな中俺たちは旅館のそばにある散策路の前に集まっていた。健太郎の鶴の一声であれよあれよと言う間に肝試しする方針が固まっていき、俺が反対する間もなく今に至る。

 

 肝試しは夏の風物詩。ほ○怖などを始めとした怪談を扱う特番も多く放映される季節でもある。だから夏は嫌なんだよね!

 健太郎の提案にまず乗っかったのは香澄だった。

 

「お前がすぐに乗っかりさえしなければ…」

「ほぇ? でも夏と言ったら肝試しじゃない? やっぱり一回はやっておきたいよね〜!」

「ふざけんなマジで…」

 

 未だにストレートにしている髪を揺らして楽しそうに話す香澄。

 その後に(俺の性分を知ってるはずの)沙綾やおたえも乗っかり、民主主義の圧力を通じて、俺の反対意見は無言のうちに封殺されたのである。

 前髪をガシガシと引っ掻いていると、ふと香澄が顔を曇らせた。

 

「…もしかして、嫌だった?」

「え?」

「だって、その…」

 

 …なんでお前がそんな悲しそうな顔すんだよ、ただ俺がゴネてるだけだってのに。

 そういえばそういうヤツだったな、お前。さっきのBBQのときに再確認したはずだったんだが。

 

 …はぁ。

 

「…いや、別に? こんなもんちょっと肝冷やせば済む話だしな。あー楽しみだなーーーーー!!!!!」

「ぁ…そ、そっか。えへへ、よかった〜」

 

(アレ、どう見てもやせ我慢だよな…?)

(有咲は知らないんだっけ? 昌太が暗いところとか怖いの苦手なの)

(昌太のこと詳しいね、沙綾。でも律儀に来てくれるあたり、やっぱり昌太ってお人好しだ)

 

 そうだよやせ我慢だよ悪いか!

 安心させるために頭を撫でながらヤケクソ気味に叫ぶと、香澄はいつもの調子を取り戻してくれた。

 本当は絶対にやりたくないけど、水を差すわけにもいかない。ここは腹をくくるしかないだろう。

 

 ちなみに例の散策路だが、昼に来れば森林浴にはうってつけのスポットではある。

 だが夜になった今の散策路はというと、入り口がわずかに街灯に照らされている以外は光源がなく、一歩進めば漆黒の闇。はっきり言って何が出てもおかしくない状態になっている。

 

 …やっぱり帰ろうかな。

 

「さすがにこれを一人は酷だからよ、くじ引きで二人一組になるぞ! 適当にこれ引いてけ!」

「健太郎さん、キモいっす」

「なんで!?」

「いや…うん、やっぱいいや」

「なんで!?」

 

 だって『この機会にポピパとお近づきになろう』って魂胆が丸見えだもん。

 結局くじ引きをした結果、健太郎は奇跡的に修介と組になっていた。

 

「ちきしょー! 俺のお近づき計画がーッ!!」

「キモないか? この男」

「ごめん、流石にそれはちょっと気持ち悪いかも…」

「ウグッ、ありがとう!」

「一から十までキモいなお前な」

 

 珍しく見せる沙綾の蔑んだ表情にも反射的に感謝していたキモ男。たぶん警察に通報したらキモすぎ罪で逮捕されると思う。

 他の組は、沙綾とおたえ、香澄とりみりん。そして俺の相方は──

 

「よろしく。昌太」

「有咲、か」

「な、なんだよ。不満かよ、私じゃ」

「いや、どれくらい耐性があるのかなと…」

「あぁ…ま、普通くらいかな。怪談聞いてもいい感じに背筋が冷えるくらい」

「…うん、そっか」

「なんで傷ついてるんだよ…」

 

 背筋が冷えるだけで済むマ?

 俺なんか怪談聞いた日には、頭洗うときも目に何が入ろうとお構いなしに目開けてないと落ち着かんし、家中の電気つけてないとおちおち家の中も歩いてられんぞ。

 一人で住むには広すぎることもあって、電気つけてないと二階になんか湧きそうで本気で寝れなくなる。

 

 ずっと目をそらしていたことだが、女々しいことにこの手のことには耐性がまったくない。体育祭の前にさらっとお嬢に指摘されてたけど、どうやら俺はドがつくほどに臆病らしい。

 なんでかと言われても、俺にもよくわからない。生まれ持った性分と言うしかないか。

 

 こんなときは男が女の子をエスコートするのが理想なのだろうが、俺の場合はたぶん一歩歩くことすら叶わずに隅っこで震えているくらいしかできない。

 本当に情けない。涙が出る。

 

「いや、情けないなって…」

「気にしてるのか?」

「そりゃそうだろ。なんでこんな臆病なんだろう俺…」

「…」

 

 じーっとこちらを見つめてくる有咲。一つため息をついた。

 

「あのなぁ、そんなことで強がっても仕方ないだろ。確かに女々しいとかなんとか言うやつだっているかもしれないけど…」

「有咲?」

「でも、前に学んだばっかだろ? 一人で全部やる必要なんてないって。誰かに引っ張ってもらえばいいんだよ」

「あっ」

「だから、そ、その…私がいるから大丈夫だってことだ! 今更そんなことで見損なったりしないし…いちいち気にするなよ」

「…た、頼りになるなぁ! 有咲ぁ!」

「ふ、ふんっ。いつまでもウジウジされてちゃ仕方ないから言っただけだ」

 

 ポピパの中では比較的絡みが薄いほうだった有咲だったが、俺とか下手な男よりもずっとさっぱりしていて、とても頼りになる女の子だった。

 ありがとう神よ…! これなら行けるやもしれん──!

 

 

 

 

 ──やっぱ無理!

 

「昌太…本当に苦手なんだな…」

「ぎゃあッ!! なんか物音したって!!」

「大丈夫だぞー、私が落ち葉踏んだ音だからなー」

 

 散策路内部。

 はじめに乗り込んでいった健太郎と修介ペアがとっとと帰ってきたせいで、次の番だった俺たちがすぐに乗り込むハメになった。

 …のだが、予想以上に周りが真っ暗で、散策路と有咲以外もはや何も見えない状態。外界から俺たちだけがシャットアウトされた感覚すら覚える不気味さだ。

 

「有咲? いるよな…?」

「いるいる。はぁ…だいぶ怖いシチュエーションだってのに、昌太があんまりにも怖がるもんだから却って冷静になっちまった」

「マジで!? それは何よりだアッ!!」

「風の音」

 

 有咲が後ろから両手でぐいぐい俺の背中を押してくれてるもんだから進めているが、このままだと有咲の姿がよく見えないため、声しか彼女の存在を確かめることができない。

 かといって彼女が前にいても足が竦んで動ける気もしない。割と八方塞がりの中、俺たちは暗闇を進んでいった。

 

 進むこと数分…いや数時間? 数年? 有咲が不意に声を荒げた。

 

「痛ッ…!」

「はぇ!? あ、有咲!?」

「ぅ、だ…大丈夫だから──痛っ」

 

 俺の背中から手が離れ、彼女がしゃがむ気配がした。

 

 ──何かが起きた。

 そのことを察し、竦んだ脚を無理やり動かして彼女の方を向く。

 

「お、おい…? どうした?」

「…ごめん、昌太。足、ひねった…っぽい」

「なっ…!?」

 

 しまった。

 有咲はずっと俺の背中を押しながら歩いていて、体勢としては不安定な状態だった。おまけに真っ暗で足元が見えなかったもんだから、木の根でも踏んでひねってしまったのだろう。

 

「私は、しばらく…動けそうにない」

「だ、だったら…」

 

「だから、先に行け。昌太」

「は?」

 

 ざわり、と漆黒に染まる木々が音を立てる。今、なんて言った…?

 

 夜目が利いてきて、彼女の表情もうっすらと見えてきた…が、かなり苦痛に歪んでいるように見える。

 

「こうなりゃ、私はただのお荷物だ」

「置いていけ、と?」

「どうせ、出口までは…そんなにないだろう。私はしばらく、じっとしていれば…痛みも引くはずだ…」

「バッ…バカ言うんじゃねえ! こんなとこに置き去りにできるわけねえだろ!」

 

 バカ言うんじゃねえ。

 口からまろび出たこの言葉は、正しく今の心境を現していた。有咲は痛みに堪え、ごまかすように叫ぶ。

 

「バカはどっちだ! いいから行けよッ!! 元から無理を押して来てんだろ!!!」

「だからって…!」

「だったら、ずっと…ここにいるのか? こんな暗闇で?」

 

 確かに周りは真っ暗で、一秒でも早く脱出したいのが本音。

 今でも恐怖で足が震えているのがわかる。

 

「っ…」

「見てた感じ、お前…こういうの、過敏になるくらい、苦手なんだろ。だったら…無理すんなよ」

 

 その時、有咲の辛そうな表情が、さっきの顔を曇らせた香澄と重なった気がした。

 

 ──情けねえ。

 何回自分のワガママでこんな表情をさせれば気が済むんだ。

 

 自分の不甲斐なさを顧みて、須臾(しゅゆ)にして怒りがこみ上げてきた。

 

 ここでこいつを置いていくのはありえない。

 こんな苦しそうな有咲を放っていくなんて人間としてどうかしているだろう。

 それに、ここで男を見せなくていつ見せるんだ──筑波昌太。

 

「ふざけんじゃねえ!」

「は…!?」

 

 誰に向けた言葉か。そんなこともわからないまま、恐怖を振り払うためにも、激情に任せて叫び散らかす。

 

「無理してんのはどっちだ! そこまで俺はヤワじゃねえッ!」

「なっ、おま…! こっちがせっかく心配してやってんのに──!」

「あぁ心配には及ばねえよ! こんなもん何ともねえわ! お前絶対に置いていかねえからな!!」

「やせ我慢もいい加減にしろ! あんな姿見せられて心配しないわけないだろ! いいから行けよ!!」

 

 こんなときだってのに、お互いムキになって言い合い始める俺と有咲。

 いかん、言い合いになっていたら世話がない。一つ深呼吸して、彼女の手を無理やり取ると、続けて言う。

 

「…誰がお前の言うとおりにしてやるか。お前は俺が絶対に連れて行く」

「──っ! 昌太、手…震えてる、のに」

「悪い、有咲。そこまで心配させてるとは思わなかった。でも置き去りにしろってのは、違うだろ…」

「ぁ…私も、軽率だった。ごめん」

 

 確実に伝えたくて、今度は両手を取り、ペタンと女の子座りをしている彼女により近づく。

 

「有咲、さっき言ったよな。『引っ張っていけばいい』って。次は俺の番だ」

「…っ! でも、まだ…」

「あぁ。有咲の言うとおり、こんな状況になってもまだ怖いよ。でも──」

 

 言いながら、彼女の両膝裏とほっそい腰に腕を回して持ち上げる。いわゆるお姫様抱っ──うわ軽…。

 

「ちょまっ…」

「──有咲がいるから、へっちゃらだ」

「ぅ…!? ぁ、あはは…やせ我慢もここまで来れば上等、だな…」

 

 ちょうど木々の隙間から差した月光が俺たちを照らす。さっきまで真っ暗だったのは月が雲に隠れていたからだったようだ。

 

 

「つっても怖いもんは怖──ハァアッ!? なんか動いた!!」

「…台無しだよ、いろいろと。ほら、連れて行ってくれるんだろ? なっさけない()()()

「うるせえよ…」

 

 なんて憎まれ口をたたきながらも、有咲は俺の首に手を回して身を預けてくるのだった。

 

 




 
 今更見てる人いないと思うけど今頑張って一から書き直してるから更新はもうちょっと待って♥
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