世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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第4話 飛んで火に入る春の虫

 高校入学から数日──明くる日の夕刻。

 俺は買い物に付き合ってほしいと沙綾に呼び出され、待ち合わせのため花女の校門のそばで待機していた。

 

 なんだかんだで花女の校舎とかは初めて見たが、エラい綺麗なところだな。

 栄星といい勝負なのかなー、どうだろう…過ごしてみないことにはわからないが。そうなると俺には一生わからないな。男だし。

 などと考えつつ、わかりやすいように比較的目につく壁に寄りかかってじっとしている。

 

 のだが、何しろここはさっきも言ったように女子校。その上この地域はなぜか女性率が高い。

 

 

 つまり、俺以外に、男が、いない。

 

 

 条件が悪すぎるのか、普段に増して俺に視線が集中しているのがわかる。

 ただ突っ立っているだけで変なヤツ扱いされるとは思えないが、それでも気になるもんは気になる。…これなんかの拷問か?

 

 

 だから念には念を入れて、俺の視線は地面に固定することにした。

 当然変にキョロキョロするとかいうタブーは犯すべからずである。それはバカの所業だ。

 あと視線が気になりすぎてあんまりそっちを見たくない。

 

 だったら見なければ事はすべてがうまく行くと、ソース不明の統計が示している。ダメじゃねえか、信じるなそんなもん。

 

 こうしてこう…視線で地面焼き切るさまをイメージして──

 ──んー、たぶんこれだと俺G〇dzillaになっちゃうかな、うん。陽電子砲かなんかでザギンを火の海にするやつ。

 そんでその後は無人在来線爆弾でバチコーンですよね。結局死んでんじゃねーか、ハハハ。

 

 

 …などと現実逃避をしているときだった。

 

 

「──もしもし、そこのあなた。何をしているのです」

 

 

 …静謐ながらにしてどこか凛とした、よく通る声が俺の耳に入る。

 父ちゃん母ちゃん、すまん。爆弾にバチコーンされたわ俺。塀の中で会おう。

 

 

 ◆◇◆

 

 

「──だから俺は待ち合わせしてるんですってば」

 

「そうですか。それでは速やかに移動しましょうか、警察まで」

 

「ダメだ聞く耳持ってくんねえ」

 

 

 校門で爆破されたGo〇zillaになってた俺に話しかけてきたのは、一瞬息を呑むほどの麗人。

 言うなればクールビューティの権化みたいな感じか。

 

 艷やかなライトグリーンの髪を腰のあたりまで伸ばしていて、垂れ目ぎみな目は髪に近い緑色。

 普通に見たら気が強そうではあるが、どこか危なっかしさも感じる。何でだ。

 

 

 よく考えなくても俺の周りって美少女ばっかだし、失礼な話にはなるけど目は肥えてるほうだと思ってた。でもこの人は俺の知り合いの誰とも違った系統の美少女。

 「肥えた目バリア」なんて何の意味もなかった。

 

 フンイキ的に風紀委員の人なのだろうが、さっきから待ち合わせしてるって言ってるのに全く耳を貸してくれない。

 いいじゃないかー少しくらい聞いてくれたって(かなりえずき)

 

 

「そもそも、待ち合わせするにしてもなぜわざわざあそこなのですか…。その時点でアナタの証言も眉唾ものにしか思えません」

 

「うん…まあ…それはそうなんですけど…」

 

 

 こうなってから薄々思ってはいたけど、やっぱりそうですよね。こればっかりは何も考えてなかった俺が悪い。

 なんでわからなかったの?頭足りてる?

 

 なぜか自ら火中に飛び込み、そのまま炙られながらもその中で策を弄そうとしていた愚かな虫こと俺は、この人の言うことにぐうの音も出なかったらしい。

 

 視点固定したからなんだよバカじゃねえの?お前もう手遅れだよバーカ。あそこに行った時点でもうバカの所業だよバーカ。

 

 

「…待ち合わせの相手は?」

 

「…まだ来てません」

 

「行きましょう」

 

「はぁっ本当!本当なんです!頭足りなくて考えが及ばなかっただけなんです!はぁ〜〜〜ちょっと待っ」

 

 

 ◆◇◆

 

 

「どうでもいいんですけど…仮に俺が変質者だったとして、自らその下へ乗り込むのって危なくないですか」

 

「やはり変質者ではないですか」

「だから仮につっとるやろがい」

 

 

 あの後、ちょっとろくでもない問答をしてからこの人が俺を連行しようとするという無益なループを5回くらい繰り返している。

 あの、僕もう大やけどなんで。もう許してくれませんか。

 

 

「はぁ…いつまでそうやってのらりくらりと言い逃れる気なんですか」

 

「そりゃこっちのセリフですよ…それで、俺は問題だと思うんですよ、これ」

 

「…?別に問題はないでしょう」

 

 

 腕を組み、首を軽く傾げながら風紀委員さんはそう言う。

 美人がこういう仕草すんのマジでズル…じゃなくて。なんでだよ、大アリだよ。

 

 

「いやいや。そこは先生とかに言いつけて対応してもらうのが一番よくないです?」

 

「今の状況でただ一人を追い払うのにそこまでする必要はないと思うのですが。まして歳もそれほど離れてはいなさそうですから」

 

「…はあ」

 

「それに、公衆の面前においてならば自分でも十分に追い払えるでしょうし、なにより最善最速でしょう。何が気に食わないのです」

 

「いや、気に食う食わないというか…わざわざ自ら敵陣に身一つで殴り込むような真似しちゃったら危ないでしょうよ。聡明そうなあなたならわかる話だと思うんですけど」

 

「…私が返り討ちにされるとでも言いたいのですか?だから言っているでしょう。問題はないと」

 

「そうだけどそうじゃなく…あーーもーーー」

 

 

 全然言いたいことが通じん。

 

 俺の言いたい「危ない」ってのは単にぶん殴られるとかそういうのじゃなくて、いやまあそれもだけど、そのー無理やりするヤツのことよ!破廉恥なやつ!

 さっきから俺が何言っても前者のこととしか思ってないのか似たような答えしか返ってこん。なんで?

 

 

 内容が内容だからあまりストレートに言いたくはないんだが…うーん。

 

 

「えっと…俺が言いたいのは、要するに変質者にそうやすやすと話しかけてはアナタ襲われますよって話ですよ。危ないってのは単なる暴力沙汰だけじゃなくて、…破廉恥なやつも。そこは大丈夫ですか?」

 

「…私が?なぜ?」

 

 

 やっぱストレートに言うのもアレだったからぼかしたけど、一応伝わりはしたらしい。でも疑問で返された。

 …こっちのセリフですよ、それは。

 

 

「なぜ?って…。あなただって女の子じゃないですか。変質者からしてみりゃ自分から近づいてくる子なんていい餌だと思います」

 

「…私に限ってそれはないかと。あなたのような変質者を少しでも放っておいてはむしろ他の方のほうが危ない。だからこそ私がこうして来ているのでしょう」

 

 

 …?なぜそうなる?自分に限ってそれはない?それに他の人のほうがよほど危ないと…。

 

 なんだ、さっきからこの変質者にとって自分など眼中にないとわかりきったかのような口調は。

 それはあまりに自己評価が低すぎるような…

 

 …ああ、なるほど…?そういう…

 

 

「だから俺は変質者じゃなく…いや今はそれはいいや。「自分に限ってそれはない」…?そんなわけないでしょう。むしろあなたが一番危ないと思います」

 

「え?」

 

 

 要するに、何故かめちゃめちゃ低い自己評価のおかげでこの人は「自分が対象になることはない」と断定しちゃってる。

 

 もちろんそんなわけはないんだが、それをそのまま言ったところでこの人には通じない。

 この人は、たぶん自分がありえないと思ったものはすぐに切り捨てられるタイプなんだろう。さっきからの会話でもそうだ。

 だからそうした俺の忠告だってバッサバッサ切られてしまう。

 

 今の彼女はファイアウォールやセキュリティとかが皆無なパソコンみたいなもんだ。ウイルスが入り放題、ハッキングもし放題。

 つまり今すぐにでも何かしら策を弄さないとヤバい。

 

 

 そう思った俺は、とりあえず考えうる中で今すぐできそうなことを実行してみる。

 正直これもバッサー行かれる可能性は大いにあるが、しないよりは全然いい、と信じるしかない。

 

 

「そもそも近寄ってこなくともあなたを放っておくなんてありえないと思いますよ。個人的な観点にはなりますが見たところあなたは周りと比べて佳麗さにおいて頭一つ抜けている。目を惹く美麗なライトグリーンの髪、澄み渡る明眸は魂を刺し、その麗容さは傾国を思わせる。そんな美貌を持ちながらにしてその危機感の薄さは危険極まr」

「…ッ!ちょっ、ちょっと待ってください!」

 

「ん?」

 

 

 その人から視線を外し、対抗打.exeを実行しようとぶつくさと自分が思っていたことを高速詠唱していたら突然止められてしまった。

 んー、もうすぐで一通り完了しそうだったのに…と思いながら視線を戻すと、顔を真っ赤にしてわたわたしてる風紀委員さんが…。

 

 

「な、なんなんですか貴方は突然!?口説いてるんですか!??」

 

「違います!…ン゛ンッ。だ、だからですね?貴女は良すぎる容姿と低すぎる自己評価とが離れまくっててそのうち厄介事に巻き込まれそうで心配なんですよ。仮にそうなったら寝覚めが悪りぃから…あーまぁ気をつけて!(ヤケクソ)それじゃ!」

 

「あっ、ちょっとっ!!どこへ…ッ」

 

 

 

 

 

 俺が思っきし口を滑らせまくったせいで、猛烈に居心地悪くなったので無理やり切り上げて逃げてきてしまった。

 

 俺のとった「対抗打」。とりあえず褒めちぎってその価値を理解させ、そしていかに危険かを力説する。

 いや、荒療治がすぎる。

 

 

 今思うとすげえ気持ち悪いこと言ってたなー俺…あの人には悪いことをしてしまった。あんだけ気をつけてたのに何してんのほんと…

 

 

 ──あっ。待ち合わせブッチしちまった。えっヤバどうしよ…あとで連絡入れ直さんと…

 

 

 

 

「…はぁ。「心配」って…お節介な変質者さんでしたね。ふふっ」

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「ごめんごめん、遅れちゃった」

 

「…おう」

 

 

 結局あれから待ち合わせ場所を近くの公園に変更してもらうため、沙綾にLIGNE(リーニュ。なんかおしゃれだね)で連絡を入れた。んで、今ちょうどその公園の入り口そばにあるベンチで合流したところ。

 

 

 俺は女子校の校門とかいう四面敵だらけのとこでさんざ待たされて辛酸ベッタベタに舐めさせられてたんだからな!おこなんだぞ!

 

 

「どしたん?なんかあったの?」

 

「いやー、先生に雑用任されちゃってさ。ごめんね?」

 

「………………そか。や、気にしとらんよ?でもこれからあそこだけは待ち合わせ場所にするのやめよう。うん」

 

「…?昌太、あそこでなんかあった?顔色悪いけど」

 

「いや、大丈夫よ。ヘーキヘーキ」

 

 

 こんないい娘に理不尽な怒りぶつけるなんて俺にはできない。あれは変にそわそわしてた俺が悪いんだ。この聖女は悪くない。

 

 

 先生に雑用を任されたのもきっとその人当たりのよさからだろう。俺とは大違いだな、ほんと。

 

 ただそれで自分を蔑ろにしちゃうのはこちらの心が痛いからな〜。流石にそういうときは俺だっていくらでも手を貸すつもりだ。

 

 まあこの娘人当たりがいいのもそうなんだけど基本的になんでもソツなくこなせるタイプだからそんなときが来るかも怪しいんだが…。

 

 

 あれ、俺いらなくね?

 

 

「そういやさ、さっき校門おるときにライトグリーンでロングヘアの人とちょっと話したんだけど誰か知らん?名前聞きそびれちゃってさ」

 

 

 同じ高校ならばもしかしたらと、いつか謝るために事の内容はぼかしながらも探りを入れ話をそらす。

 会うことなんてないにせよな、変なこと口走ってそのままってのもなんか寝覚め悪いし。一応ね一応。

 

 

「ロングヘア…あー、その人は紗夜先輩かな。氷川紗夜先輩。あの人色々な意味で有名だからね、花女の人ならみんな知ってると思うよ」

 

「ヒカワサヨ…?なぜに有名なの?」

 

「紗夜先輩って風紀委員なんだけど、すっごい真面目だからさ。そりゃもう」

 

「ほーん」

 

 

 やっぱ風紀委員だったんだあの人。オーラだけでもわかるもんだなー意外と。

 …今でも思うけどやっぱあの人自己評価低すぎだよなー。本当危なっかしいと思う、俺のお節介アンテナもビクンビクン反応してるし。やっぱ忠告いれといてよかったか…?

 

 

「あと」

 

「?」

 

「Roseliaのギターも担当してて、その技術の高さもまた拍車をかけてるんだよね。このへんってガールズバンドが活発だしなおさらね」

 

「へぇRoselia…えっろっRoselia!?」

 

「えっ!?うっ、うん」

 

 

 Roselia。新進気鋭の、俺の最推しバンド。そのメンバーの多くは謎に包まれていたとはいえ…

 ──まさかこんな近くにメンバーがいたなんて…ッ!

 

 

 日差しの熱を帯びほんのりと熱い大地に膝をつき項垂れる俺。それを見てなにがなんだかわからず慌てふためくさーや。

 

 

 いっそ俺を殺してくれ。

 

 

 このあともちろん殺されることはなく、そのまま沙綾のお買い物に付き合うこととなった。

 【至急】黒歴史の記憶からの抹消方法【社会的地位の危機】。

 

 

◇◆◇

 

 

 新学期を迎え数日たったある日の放課後、今年も今までと同様に私は風紀委員として校内をぷらぷらしていた。

 弓道部もバンド練もない日は放課後にこうして30分ほど校内を巡邏するのが日課となっていた。そしてこのあとはギターの自主練習。

 

 いつもは特に気になることもないのだが、今日は校門のあたりへ差し掛かったときにふと違和感を覚えたのだ。

 

 

 ──なにやら騒がしい。

 

 

 もちろん普段も校門付近は喧騒に包まれているのだが、なんというか今日はひそひそ話の比率が多いように感じられた。

 

 少し近づいて生徒たちの目線をなぞってみると、その先には恐らくは高校生になったばかりであろう、真新しい制服に身を包んだ男子生徒が一人、校門横の壁に寄りかかっていた。

 あの制服は栄星だろうか。

 

 

 この花女や羽丘を擁する地域にはもう一つ、栄星という共学の高校が存在する。

 確か進学校ではないにせよ、特進コースになると偏差値は70前後あった記憶がある。

 

 

 周りの声を聞いてみると、どうやら皆がみな彼のその端正な顔立ちについて話しているようである。

 確かに彼は身長も高いし、顔立ちもいい。どこかでモデルでもやっていそうだ。

 

 

 しかし周りは気づいていないようだが、彼はやたらと不自然なまでにジッとしている。

 視線は地面に固定されたまま微動だにしないし、よく見たら吸盤のごとく壁にビッタリと、全身の筋肉がプルプル言わんくらいには力を込めて張り付いているようだ。

 

 はっきり言って不自然極まりない。

 

 察するに、彼は極度の緊張状態にあるようだ。それは不吉な予兆か、あるいはただの臆病者か。

 

 

 とにかく、接触してみないことにはハッキリしないことだけは確かだ。仮に彼がクロなら他生徒に危害が及ぶのは必至だ。

 

 そうなる前に私が、芽を摘んでおかなければならない。そうと決まれば──

 

 

「──もしもし、そこのあなた。何をしているのです」

 

 

◇◆◇

 

 

 …失敗した。

 

 彼と接触して程なくして、彼が単純に待ち合わせをしていただけで不審者ではないことがわかった。

 そして周りの目に晒されていたせいでとても緊張していたであろうことも。

 

 

 しかし早いところ勘違いという私の非を認めればよかったものを、変に意固地になってしまい彼に失礼なことをたくさん言ってしまった。

 

 今からでも謝りたいが、私が名前を聞く前に気まずさを感じたのか急に話を切り上げ逃げられてしまい、聞きそびれてしまった。

 

 

 実際の彼はお節介焼きでとても優しい人格者なのだろうと言葉のあちらこちらから感じられたことも、私の罪悪感をより加速させる一因となった。

 

 頭ごなしに変質者扱いした私に対しても危機感を感じ、小恥ずかしい言葉をかけてまで心配してくれたのだから。

 

 …顔が熱い。

 

 とにかく、そんな見ず知らずの彼のおかげで自分はまだまだ捨てたもんじゃないと思えたのは事実だ。実際少し気が軽くなったと思う。

 だからもし今後どこかで彼に会えたなら、まずは謝罪と──

 

 

 ──ありがとうを、伝えたい。

 

 




 
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