世話焼き男子とガールズバンド 作:れれれれ
笑顔の決闘者様、評価ありがとうございます。
「君がこないだ連絡くれた人かな?」
「あ、はい。筑波昌太です」
「ふんふん、それじゃ──」
「…はへ?」
◇◆◇
こないだ入学式済ませたばっかりなんですけどー、もう週末になっちゃいました!
というわけで土曜日、朝ですよ。諸君起きなさい。こないだと違ってちゃんと起きた俺は一昨日に連絡を入れたバイト先の面接へ向かっていた。場所?CiRCLE。
こないだ入学式の日に行ったときは特に確認もせず立ち去ってしまったが、帰宅してから改めて調べてみたら、かねてからの予想通りどうやらバイトを募っているらしかった。
世のジンクス的なので高校生になったら出費が増えるって言うじゃん。一応それを気にして小遣いが欲しかったってのもあるけど、あとは音楽的知識が欲しいというのもある。
俺の周りは何かと音楽に携わってる人が多いし、趣味も音楽に寄ってるしちょうどいいかなって。
もちろんほかのバイト先も検討した。そういうリスクマネジメントって大事だと思うのね。でも俺にとっての音楽への憧れが意外と強かったらしく、結局一番CiRCLEが魅力的に思えたのだ。
とはいえこれは落ちなかったらの話。落ちちゃったらおとなしく別のバイト探します。
バイト先からは面接は今日ならいつでもいいって言われてるけどなんか休日なのに早く目が覚めちゃったので、こうして朝からCiRCLEに向かっている。早起きはー…えー、500円の得だから。いや違えわ、朝市か?
Afterglowのメンツと会ったときちょっと匂ったが、実は俺はある程度は音楽の知識がある。やれギターやら、DTMやら。だからこそ誘われたんだと思うけど、たぶん。
今回の面接ではこの経験を切り札として、自分の巧みな話術で牙城を崩す戦法で臨もうと思います。対戦よろしくお願いします。
…と。いつも通りチャリ飛ばしてCiRCLEに着いたはいいが、なぜかこの間とはカフェスペースの風体が全然違う。
…なんで足湯あんの?
いや、ここは道の駅かと。
…で、その近くにはガラス張りの天板が特徴的な円テーブルと、複数のストライプなスツールという組み合わせが何組も設えてあるわけだが。
そのうち3台くらいのテーブルには、…なんか、マカロンタワーが鎮座してる。
なにこれ、えっ?お客さん頼んどいて食べ忘れた?そんなことある?
あまりにも不自然すぎてサンプルかと思うでしょ。でもこれ甘い匂いするよ?たぶん本物だぜこれ…
まっまあ、そうした一部のキテレツな空間に目をつむればこのカフェスペースは大変に素敵な場所である。これは間違いない。
明るくまとめられたナチュラルなエクステリア群がおしゃれだし、広さもかなりのもんだ。こないだ沙綾と待ち合わせた公園くらいあるかも。
ダイヤモンドガラスみたいに輝く川と整然と並ぶ木々という景色も相まって、いつまでも居座ってしまいそうである。
いや、俺はカフェスペースに用があるわけじゃないんだ。でも誰が責任者だかわからんし、とりあえず近くにいた黒髪セミロングの女性に話しかける。
「あのーすいません、バイトの面接に来たんですけど」
「はい?あー君が。えっと、もう少しで済むから悪いけどエントランスでちょっと待ってて。終わったらまた声かけるから」
「了解です」
どうやら責任者はあの人だったらしい。それならまあおとなしく待っとこうと、自動ドアをくぐる。
…おお、中も綺麗だな。さすがに築数か月。ここでギターとか弾けたら気持ちよさそうだな、今度客としてでも来てみるか。
手持ち無沙汰な俺は、壁に貼り出されているポスターやフライヤーをふらふらと眺めて回る。
沙綾もポロッと言ってたけど、昨今はガールズバンドブームなんだと。俺も薄々感じちゃいたが、局地的なものだとばかり思っていただけに驚きもあった。
ただまあ、これを見れば確かにそうなんだろうと思わざるを得ないな。だってここ女性率超高いもん。男はどこだ男は。
…と勝手に店の端っこで震えていたら、さっきの女性から声をかけられた。
「──お待たせ。さてと、それじゃ改めて…君がこないだ連絡くれた人かな?」
「あ、はい。筑波昌太です」
「ふんふん、それじゃ…とりあえず料理してみよっか」
「…はへ?」
と言いつつ、黒髪セミロングの女性──月島まりなさんは俺をカフェスペースに連行する。
アー、結局用事ここなんすね…
ここ旅館かなんかなん?
◇◆◇
「あっはっは、冗談半分で言ったんだけど本当に料理できるとはねぇ」
「えっ冗談だったんすか?あんだけ有無言わさず連行しといて?ってかここなんなんすか。道の駅なのか旅館なのかはっきりしてくださいよ」
「ここはライブハウスだよ…。そう、冗談。だって履歴書の時点でもう採用決まってたもん」
「はーーーーー?????」
僕の覚悟返してくれませんか?
あのねー、まったく意味わからんと思うけど聞いて。俺もわかんない。
ライブハウスにバイトの面接に来たら、カフェスペースで料理させられた。
助けてくれ。
「じゃああの足湯と謎のマカロンタワーはなんなんですか?あれでライブハウス名乗るとか片腹痛くないですか?」
「…さっきからちょっと辛辣じゃない?足湯は、まぁ新たな試みで…マカロンタワーはサンプルだよ」
「あれ甘い匂いしましたけど?」
「…」
「…」
なんで黙るの?
いや、あれはどう見ても本物だった。匂いもそうだけどきめ細かな生地とか見えたもん。仮にアレがサンプルだったら技術革新モノだろ。
…でも本物なら本物だって言えば良くないか?なんで黙るの?
「…まあそれはさておくにしてもですね。なんで料理なんです?」
「今ちょうどカフェに充てる人員足りてなくてねー、今日新人さんここに連れてきて無茶ぶりしたら料理できるかわかるかなーってなんとなく思って。いやー僥倖僥倖」
「それもう金輪際やめてくださいね。俺だったからよかったものを、パワハラとかなんとか言われても文句言えませんよ」
「はーい」
力技が過ぎる。パワハラになりかねないのもそうだけど、俺の料理の腕が「料理できると思い込んでて実際は壊滅的」とかだったらどーすんだよマジで。
ちなみに今俺が作ってるのは、適当にありあわせの材料を使ったペペロンチーノ。
これはスピードがとにかく大事だから、こうやってどうでもいい会話をしながらとっとと作ってる。でもこれ作ったらどうすんの?食うの誰?適当に4人前くらい材料使っちゃったんだけど。
「それで、俺は採用でいいんですよね?何するんですか、仲居でもします?」
「しれっと旅館扱いしないでよ…そうだなー、こうやってカフェ手伝ってもらったりもそうだけど、受付とか楽器のセッティング、あと力仕事とかかな」
「…なるほど。でも料理って俺じゃなきゃダメなんですかね?月島さんはできないんですか」
「筑波くんほどじゃないけど、一応できるよ。でもねー、人手が足りないんだ…」
「もっと人雇えばいいじゃないですか。それで身体壊したら元も子もないでしょ」
「…いろいろあるんだよ、いろいろ…」
「…」
聞かなきゃよかった。
このあと月島さんとペペロンチーノ二人前食った。
◇◆◇
「…!美味しい…」
「うん…これ相当料理上手い人が作ったんだろうね、ニンニクの臭みもまろやかだし…」
普段通り練習のためCiRCLEを訪れると、まりなさんに「新人くんがカフェの新メニュー試作したんだけど、食べてみてくれない?」と言われた。
アタシも結構料理はするし、アドバイスくらいはできるかなと思って食べてみることにしたんだけど…。
「これは、ぜひまた食べてみたいわね」
「すごい新人さんですね…。専門店で出てくるものと遜色ないと思います…」
「やっぱり二人ともそう思う?」
「「…やっぱり?」」
「うん、これ私がたまたま新人くんに作ってもらったやつなんだけど、予想以上の完成度でね…。履歴書でもこんなこと書いてなかったからほんとびっくりして」
「…まずここはライブハウスなのだから、料理スキルが求められるなんて普通は考えないと思うのだけど…」
「まあ、そうなんだけど…一応私が隠れ味音痴だったことを考えて他の人にも食べてもらいたくてね。ありがとね、受けてくれて」
「いえいえ、むしろ良かったです。アタシももっと頑張らなきゃなぁ…」
「もうあなたも十分上手じゃない…でも確かにとても美味しかったわ」
その新人さんって料理人でもやってたのかな?友希那がここまで褒めるなんて相当だし。
これは新メニューに期待かな?楽しみだな~♪
◇◆◇
CiRCLEで意味不明な面接(?)を済ませた日の午後。
今日はこの間に一人ぼっちの俺を憐れんで遊びに来てくれることになった燐子さんとあこがウチに来る日である。というか今いる。
「本当来てくれてありがとうございます…」
「んーん!あこたちがしょー兄と遊びたかっただけだから!」
「うん…。久しぶりだし、ゆっくり話したかったから」
「ありがとう…ありがとう…」
つくづく思うけど俺の知り合いって聖人ばっかだよな。そのうちカタルシスどころか肉体まで浄化されちゃうんじゃないかな。
「はい、緑茶とこないだのお菓子どうぞ。ごめんちょっと食っちゃったけど」
「えっ、食べちゃってよかったのに。だってしょー兄のお金で買ったんだよ?」
「あ、そう?そんじゃ食っちゃお」
「…お茶、おいしい…」
「静岡の川根茶って淹れ方で結構味変わるんですよね。今日は温度高めにして渋み出してみたんですけど」
「へー、お茶って淹れるの難しそうだよね」
「んや、意外と慣れればできるよ」
「目覚めの一杯によさそうだね…今度、教えて?」
「いいっすよ。また今度にでも」
適当に買ったお菓子に合うか微妙だけど今日はなんとなく緑茶にした。気分的に。暇すぎてこういう細かいとこにも凝るようになっちゃったんだよね。
料理とか楽しいよ、みんなやらない?
「あこってまだ中学生だよな。来年はそのまま羽丘上がるの?」
「うん。おねーちゃんもいるし!」
「まあそだよなあ」
「昌太くんは…栄星だよね?」
「あ、あのときの俺制服でしたもんね。栄星ですよ。──そうだ、燐子さんって花女でしたよね?ちょっと聞きたいんですけど」
「そうだけど…どうしたの?」
「いえね、入学式の日の朝に二人、花女っぽい制服着てた人と立て続けに出会ってですね。出会ったっていうか一方的に話しかけただけなんですけど、名前も聞かずに別れちゃって」
「それで、その人たちを知らないか…と」
「そうっすね」
「そもそもなんで話しかけたの?」
「二人ともすっげえアタフタしてたから」
そういって燐子さんにその二人の特徴を伝える。するとなぜかあこは頬を膨らませて「む~」って言い始めて、燐子さんはどことなくムスッとしちゃった。なんで?
「…しょー兄また可愛い女の子たぶらかしてる…」
「それ他のヤツにも似たようなこと言われたんだけど…。俺そんな気サラサラないぞ」
「だからなおさらタチが悪いんだよ…?」
「なんで?」
なんで?
「…ふぅ。一人目のピンク髪の人…本当に知らない?」
「えっ?いや知らない…と思う」
「たぶん、丸山彩さんだと思う。テレビにも出てるよ…?」
「はっ!?あの人花女だったの!?」
燐子さんは落ち着くためなのか一口緑茶を飲んでから、とんでもないことをカミングアウトする。
嘘でしょ、似てるとは思ってたけど。花女って有名人多いな…。あと前も言ったけどなぜかレベルが高い、もはやこの地域に何らかの恩寵があるとしか思えんくらいには。これトリビアになると思う。
「それで、青髪の人は──」
「──かのんかな、松原花音。あこドラマーだし、そのつながりでちょっとしゃべったことあるよ」
「うーん、さすがにその人は知らないなあ」
「ほんとしょー兄ってせわ焼きだよね」
「自覚はしてる、この上なく」
丸山さんは有名人だったから知ってたけど、さすがに…松原?さんは知らんかった。いや、知り合いだったとしてもむしろ困ってたと思うけど。
てか今あこドラマーって言った?てことはあこも松原さんもドラマーだったの!?知らんかった…いやでも巴もドラマーだし、あこみたいなお姉ちゃんっ娘だったらそう不思議でもないか。
…世話焼きと言えば──
「そういえば、燐子さん。ギルド間の不和って今どうです?大丈夫ですか?」
「…?ギルド?」
「そんなことあったっけ?」
「えっ?いや去年の暮れくらいに俺に相談してきたじゃん。『詳しくは言えないけど解散の危機で~』って」
「…ッ!…それ、NFOの話じゃ…ないんだよね」
「おん?そうなの?」
えっじゃあなんだろう。俺てっきりNFOのギルドでガタガタでも起きてんのかと思ってた。
ここでざっくり説明しておくと、去年の11月くらいに燐子さんとあこが俺に相談事を持ってきたのだ。
その相談事というのが『私たちのグループが解散の危機に瀕しているから助けてほしい』って感じのヤツ。
みんな同じ目標を持って頑張ってたんだけど、リーダー格の人物がその目標へダイレクトに到達できる条件を以て引き抜かれそうになった。
その人はいわゆるスカウトをすぐ受けずにそのまま保留にしてたら、他メンバーにバレて離散しそうになってるって感じだったかな。みんなして目標への思いは厚く、それもあってすれ違っちゃったんだと。
この話を聞いた俺は『リーダー格の人物が保留したことに関してジレンマがあるかもしれない』とか言った記憶がある。で、言うだけ言ってそのあとどうなったかは知らなかった。我ながらなんとも無責任な話である。
だからこそこの機会に確認しておこうと思ったんだけど、なんか歯切れが悪い。そもそもNFOの話じゃないって何?
なにしろNFOってのは、どこぞのどう〇つの森みたいに方向性は違えどめっちゃ自由度の高いゲームなのだ。だからそういった人間関係のゴタゴタも十分起こりうるし、だからこそNFOの話だと思ってた。
じゃあ燐子さんとあこはNFO以外にも何か所属してるグループがあるってこと?別ゲーの話?
「となると別のゲーム?さすがにそのへんは管轄外かもしれんけど」
「…ゲームでも、ないんだけど…」
「うーん、言っていいのかな?あんまり言いふらしちゃだめって言われてるんだけど」
ゲームじゃないの?じゃあ俺わからんわ。てかそれってリアルで修羅場経験したってこと?…ヒュウ。
「…でも、せっかく助けてくれた人に隠し事するのも、不義理だと思う…」
「んんー…そうだよね」
「…あのね、昌太くん。聞いてほしい話があるんだけど」
「は、はい?なんでしょう」
…な、なんだ。空気が変わった。どうしたんだろう、改まって。
「そのぉ、解散しそうになってたグループのことなんだけど」
「…Roseliaって、知ってる?そのバンドのことなの」
「えっ」
えっ?
今回もよろしければ感想や評価等よろしくお願いします。
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