世話焼き男子とガールズバンド   作:れれれれ

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 たかちゅー様、なげわ様、評価ありがとうございます。
 


第6話 信じる

 前回のあらすじ。

 バイト面接で料理した。知らんうちに推しバンドに介入してた(らしい)。

 

 

「…なんやて?」

 

「簡単に言うと、昌太くんはRoseliaを助けてくれたの」

 

「…は?へ?」

 

 

 俺が知らないうちに俺の知らないところで俺が問題解決してたとか、『事実は小説より奇なり』にも程がある。『俺の知らないところで俺の推しを俺自身が助けていた件について』。ラノベじゃん…

 

 

「…や、Roseliaは知ってるかといえば、知ってる。どころか大ファンだ。発足当時から追ってるが…。えっ、解散しかけてた?マジで?聞いたことないけど?」

 

「しょ、しょー兄、落ち着いて。わけわからないのはわかるけど…あれ、わかるのにわからないの?あれ~…」

 

「ふ、二人とも落ち着いて~…。緑茶飲も?」

 

 

 …。あ゛ー美味え。

 やっぱ緑茶っていいよな。

 俺緑茶ってどっちかっていうと温かいやつのほうが好きなんだけど、貴様は?

 なんで温かいほうが好きかっていうと、冬にこれを一口飲むと体内が(ほの)かに熱を帯びるあの感覚あるじゃない。アレが本当に大好きなんだよね。

 ほら、俺って夏より冬のほうが好きだからさ。緑茶においてもそれは言えることで、夏に飲みがちな冷たい緑茶より冬に好んで飲まれる暖かい緑茶のほうが好きになるのは当然の帰結と言えるんだよね。

 確かにね?夏場の冷たい緑茶ののどごしも捨てがたいよ?夏場にピッタリな冷たい緑茶推しの諸君の言い分もよくわかる。

 なんでわかるかって?なぜなら俺は緑茶をワイドに愛しているだからだ。つまり同士なのだよ。

 というか俺はそうした同士諸君の意見を聞いてみたかっただけで、冷たい暖かいで線引きしてきのこたけのこ百年戦争みたいな(みにく)い抗争を起こそうとかそんな意図なんてないことは理解してほしい。

 ただ俺はその中でとりわけ暖かい緑茶が好きってだけだ。だからさっきから飛ばしてる口撃という矛を収めてくれると俺としては助かるんだよね。

 でまあなんで暖かい緑茶が優れているかっていうと──

 いやだから俺は両方好きなんだって!そういうくだらない線引きはどうでもよくて分け隔てなく愛してるの!いや優劣とかどうでもいいから──

 

 …あれ?なんの話してたっけ?

 

 

「…はふ。ごめんねりんr…あれっ!?しょー兄!?しょー兄がフリーズしちゃった!」

 

「…あれ、なんの話でしたっけ?緑茶?」

 

「なんで緑茶…!?去年の、11月のことだよっ…!」

 

 

 そうでした。窮地に陥ると現実逃避するクセどうにかしたほうがいいねこれ。そのうちマジで現実からドロップアウトしそう。

 

 

「えっと一応確認したいんですけど、二人はRoseliaの一員…でいいんですよね?」

 

「うん。あこはドラム、りんりんはキーボードだよ」

 

「…そうか。いや、うーん…正直俺が推しバンド事情に介入してたって未だに信じられんわ…でも確かにChanterの更新止まってた時期と被ってるしなぁ…」

 

 

 落ち着いた今よく考えてみると、Chanterの公式垢が更新されなくなったのもちょうど相談事が持ち込まれたときくらいだった。うーんそう考えると…?いや、でも気づけるわけなくないか?

 

 この間も言ったように、Roseliaはメンバー情報のことごとくが伏せられている。そのうえでいちいちメンバー内で不和が生じたことなんて公式垢で流れるはずもないのだ。やっぱ無理。

 

 

「でも今はちゃんと動画もアップされてますよね。ということは解決…?」

 

「うん。しょー兄のおかげで、みんなまた一つになれたよ」

 

「…それはよかった」

 

 

 過去の俺よ、よくやった。一時的とはいえ、なぜか知らないうちに自分の推しバンドの命運を握ることになっていたのだ。その重圧は相当な…

 …いや、俺けっこう気楽に問題にあたってたかもしれない。だって知らないもんその重大な事実を。そう考えるとまさしく知らぬ仏と言いますか…。

 

 

「まあどんな形であれ燐子さんとあこが俺を頼ってくれたのは素直に嬉しかったからなぁ…。もしかしたら騙したみたいになってたの気にしてるのかもしれませんけど、なんだかんだやりたくてやってるんで気にすることないですよ」

 

「──ありがとう。…やっぱり、優しい。でも…それに甘えてちゃダメだよね…

 

「りんりん?」

 

「…ううん、なんでも。それで、あの後なんだけど…」

 

「…聞かせてください」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 そして燐子さんとあこは、その後の展開を吶々(とつとつ)と語る。

 

 Roseliaのリーダー──湊友希那(みなとゆきな)さんがなぜすぐにスカウトを受けなかったのかという疑問点と、その答えとなりうるジレンマという要素の提示。

 それを聞いて可能性を感じた二人は、湊さんへ矛盾点をタネに発破をかけたんだと。大胆なことを…。

 

 そもそもこの問題の原因が湊さんのどっちつかずな態度だったので、発破を機に当の本人がスパッと決断してしまえばあとは早かった。

 

 真なる自分の想いを理解した湊さんは、スカウトを断りRoseliaとして目標へ進むことを決意する。そして後日のミーティングでその想いを吐露、すれ違いをどうにか解消したことで和解と相成った、らしい。

 

 強い結合って分離ありきだし、復活した時に音がよくなってたのも納得だ。とまあこのあとは特に大きなトラブルもなく、今日までバンドを続けてこられているというが。

 

 

 しかし、問題はここからだった。

 

 ここまでは特になんともなかった燐子さんだが、話し終えたところでじわじわと泣き始めてしまった。

 どうしたのか聞くと「あこちゃんは昌太くんを心から信じてたけど、私はできなかった」とか「昌太くんを()()()()()()()」とか、どこか要領を得ない。どういうことだ、俺を信じるとか信じないとか。

 

 

 俺がどうのってことは俺絡みなんだろうけど、なんのことかさっぱりわからない。…考えろ、何がおかしい?どこですれ違った?燐子さんは何を抱えているのだ?

 

 

 ちらとあこを見るも、アタフタしながらも首を傾げていた。ふむ、あこも何が何だかよくわからないらしい。

 

 ということはRoselia単位でなく、燐子さんが一人で何かを抱えているってことか。

 

 

 「話さなかったこと」が一因としてはありそうだが、別にそれ自体は十分理解できる。

 俺に真実を話すということは、「Roseliaの解散騒動」というとてもデリケートな情報を、外部の無関係な人間──完全に無関係かと言われると疑問だが──に漏らすということ。

 これが変に広がればまたRoseliaは面倒なことに巻き込まれる可能性が高い。慎重になって当然だ。

 

 

 だが、たぶんこれだけじゃ泣きだす理由には弱い。そして、これだけじゃ理由を察するには情報が少ない。

 …と、燐子さんが声を震わせながら、絞り出すように言った。

 

 

「今まで、私は…昌太くんのことを、心から信頼できてるって思ってた。…でも、私は…、決断できなかった…怖かったから」

 

「りんりん…」

 

「…いや、これはとてもデリケートな情報なんです。慎重になって当z」

 

「違うのッ!!!」

 

 

 この情報は非常にデリケートだ、だから話せなくて当然だと──言おうとして、それを遮るように燐子さんが慟哭(どうこく)を上げる。

 

 

「確かに…これは、とても繊細なこと。でも、だからこそ…信頼してた昌太くんになら、すぐに話せると思ってた」

 

「…いや、今こうして話してくれたじゃ──」

 

 

「──私は、()()()()()()()

 

 

「…!」

 

「いつも、まっすぐ向き合ってくれてる、昌太くんを…信じられていなかった私自身が、どうしようもなく許せない…!」

 

 

 ──「裏切ってしまった」。なぜこんな言葉が出てきたのか。

 おそらく事の発端は、このデリケートな情報をすぐに俺に口外する決断ができなかったということ。

 

 「疑ってしまった」と、燐子さんはこう言った。つまり、俺が誰かに口外することを少しでも考えてしまったということ。

 

 彼女は実に該博(がいはく)だし、頭もよく回る聡明な人だ。そして、同時にRoseliaを強く想っている。

 だからこそ、デリケートな情報を広げるリスクをよく知っているし、それによってRoseliaがまた離散することを危惧した。そうした責任感と危機感から、真実を話すことを躊躇してしまった。

 

 

 要するに。当時の湊さんが「バンド」と「目標」とで板挟みになっていたように、燐子さんも「バンド」と「筑波昌太」とのジレンマに悩まされていたのだ。

 

 

 そうして少しでも疑ってしまったことで、今度は自分が向けていた「信頼」に疑念が出てきた。解散騒動以前の「信頼」すら、揺らいでしまった。

 すっとまっすぐに自分を見ていてくれた人に対して、自分はずっと()()()()()()()。これが、彼女の言う「裏切った」ということ。

 

 

 そして、恩を仇で返すような真似をした自分自身が許せなくなった。

 「自分が許せない」という発言が、何よりの証拠だ。

 

 

 要するに、彼女は今までずっと、騒動以前から信頼を裏切り続けていたことを悟り、言いようのない罪悪感に苛まれているのだ。

 

 さっき呟いていた「いつまでも甘えていてはダメだ」という発言。

 たぶんこれは、「俺自身のやさしさに甘んじて、いつまでも偽物の感情を向けるという、恩を仇で返すようなことはもうごめんだ」という覚悟の表れだろう。

 

 

 

 …本当に彼女は、芯の強い人だ。いったいどれだけ悩んできたのだろう。

 

 ここまで想われて、嬉しくないはずがないじゃないか。

 

 

 

「──ごめんね、昌太くん。せっかく助けてくれたのに、ずっと隠してて…裏切るようなことしちゃって…」

 

「そもそも、話を聞く限りだと俺口を出しただけですし…いや、燐子さんは裏切ってなんかいませんよ」

 

「…でもっ。私は結局、甘えてただけ。信じられてなかった。昌太くんの、信頼を…裏切っちゃった…」

 

「…」

 

 

 彼女は、あくまでも「裏切ってしまった」という。でも俺としてはそうは思わない。本当に俺のことを()()していなければ、泣き出してしまうほど悩むことも、俺のまっすぐな態度に報いようとも思わないはずだ。

 ジレンマに悩まされつつも、燐子さんは俺と真摯に向き合おうとしてくれた。

 

 

「…燐子さん。失礼します」

 

「…っ」

 

 

 だから、俺は思う。

 本気で自分の気持ちについて悩んでいること自体が、逆説的に()()足りえるのではないか、と。

 

 この強い想いを信頼と呼ばずして、なんというのだろうか、と。

 

 

 俺は燐子さんの今にも散ってしまいそうな華奢(きゃしゃ)な体枢を、そっと抱きしめた。左腕で彼女の肩回りを支え、右手で黒い艶やかな髪を()くように撫でる。

 

 彼女は体勢を変えず、俺の胸元を軽く握りながら、そのまま俺に体重を預けている。

 

 

「…裏切った?そんなことないじゃないですか」

 

「違う、違う…私は…」

 

「さっきも言いましたけど、俺は裏切られてなんかいませんよ。だって、信じてくれたじゃないですか」

 

「…!」

 

 

 胸元で息を呑む音が聞こえる。俺の服を握っているしなやかな手が力む。

 

 

「信じてくれたからこそ、こうして話しているんでしょう?今まで、ずっと悩んでいたんでしょう?だから…」

 

「…」

 

「ありがとう。俺のことを、たくさん考えてくれて」

 

「…っぁ」

 

「ありがとう。たくさん悩んでくれて」

 

「…っく…ぅあぁっ……」

 

 

「──俺のことを信じてくれて、ありがとう」

 

 

「…んぅっ…あぁぁぅ…うぁああぁぁ…」

 

 

 ◇◆◇

 

 

『──そうして本気で俺のことについて悩んでいる時点で、逆説的にそれはずっと()()していたことの証左なんですよ』

 

『そうでもなければ、そもそも話すのを躊躇してしまったことに罪悪感なんて覚えないはずだ』

 

 

「…」

 

 

『そもそも口外を躊躇したのも、多分信頼がどうのというよりは燐子さんの危機管理能力の賜物(たまもの)だと思いますから』

 

『…だから、ありがとうございます。俺を、そんなに想ってくれて。嬉しいです』

 

 

「…っ///」

 

 

 あの後。私は優しく撫でられていたこともあってか安心してしまい、昌太くんの胸で思いっきり泣いてしまった。…恥ずかしい。

 でも、すごくすっきりした。ずっと抱えていたしこりがやっと取れたこともあるだろうし、久しぶりに思いっきり泣いたこともあるだろうし。

 

 

 それで、そのあともまた私たちはしばらく他愛もない話をしてから彼の家を後にし、あこちゃんと一緒に帰途についている。

 

 

「りんりん、なんかすっきりした?ろぜりあが復活してからもずっとどことなく顔色暗かったけど…」

 

「…うん、もう大丈夫。ありがとうね、あこちゃん」

 

「そっか。よかったね、りんりん!」

 

 

 実際、私は自分が昌太くんを知らずしてずっと裏切っていたかもしれないということを悟ってから、罪悪感という無限回廊に囚われてしまっていたのだ。

 今までは普段からおくびにも出していなかったし、演奏に影響が出てもいけないからと自己暗示しつつ問題を先延ばしにしてしまっていたけれど。

 

 しかし今日になって、その彼に事の顛末を話すことに。そしてそのあと罪悪感に耐え切れず、彼の目の前で泣き出してしまった。あまつさえ声を荒げてしまったし。

 正直、私はビクビクしていた。今までずっと口を噤んでいたのもあるけど、なにより自分の口から「あなたを裏切った」と言ってしまったのだから。

 

 

 でも彼はそんな私の想いを見抜いて、『むしろ真摯な想いの表れだ』って肯定してくれた。

 

 

 …嬉しかったなぁ。それにすごくホッとした。だって喪ったと思ってた()()が、実は然りと私の中にあったんだから。

 思えば、私は私の想いを誰かに理解してほしかったのかもしれない。そしてそれが本物だって、確認したかったのかもしれない。

 

 

 それで、私が泣き止んだあとも昌太くんはしばらく私の頭を撫で続けてくれたんだけど…。なぜかすごくドキドキした。胸がきゅーっと締まるっていうか…

 そういえば悩んでる時もそんな感覚があったような。…そもそも、なんで私はここまで深く悩んでいたのだろう。

 

 

 …あれ?

 

 

「それじゃあね、りんりん!またあした!」

 

「…!うん、またね」

 

 

 …と、気付いたらちょうどいつもあこちゃんと別れる交差点まで来ていた。

 またね、か。

 

 私にとってのRoseliaは、すでにかけがえのない居場所となりつつある。それは昌太くんとの関係も同じ。

 下手したらどっちも手放さなければいけなかったかもしれないし、今こうして「またね」って言える日常を維持できてるのは、本当に僥倖だったと思う。

 

 

 Roseliaは、私に新たな世界を見せてくれた。私を受け入れて、頂点へのメンバーとして認めてくれている。これが本当にうれしくて、そしてそれに報いようと自分を能動的に研鑽できる。

 お互いにお互いを高めあう関係は、かつての自分にはなかったものだ。そんな素晴らしい世界を教えてくれたRoseliaが、大好きだ。

 

 昌太くんは、いつだって私を見守っていてくれた。彼には、何回も救われてしまった。はっきり言って私は臆病だ。それでも彼は私の本質を見ていて、そして認めてくれる。

 

 

 そんな太陽みたいに暖かい彼が、大好きだ。

 

 

 …そっか。私、そんな彼にまた救われてしまったのか。これはますます『恩を仇で返す』ことができなくなってきたなあ。

 昌太くんのそばにいても、いいんだ。ふふっ、なんだか嬉しい。

 

 

 

 これからも、このかけがえのない日常を大切にしていこう。私はそう誓った。

 

 

 




 
 よろしければ今回も評価や感想等よろしくおねがいします。

 

これからはどっちが見たいですか

  • いつものゆるい日常
  • シリアス
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