世話焼き男子とガールズバンド 作:れれれれ
まずはスクイッド様、アベンジ様、すき焼き風おにぎり様、評価ありがとうございます。
そしておかげさまで評価バーに色がつきましたほか、お気に入りも100件を超えていました。本当にありがとうございます…!
「──もういい時間ね。今日は終わりにしましょう」
「お疲れ様〜☆」
「疲れた〜っ!みなさん、今日はそこのカフェでご飯にしませんか?」
「…私は、大丈夫です」
「私も構いません」
全体での通し練習を終え、ふぅと一息つく。
今でこそは放課後などにこうしてRoseliaで集まり練習に耽ることができているが、かつては私たちが抱えていた火種は多く、その脆さからしばしば衝突が起こっていた。
その中でもとりわけ大きな『衝突』。解散の可能性すらあったそれは、裏でとある人物の助言を受けたことで一気に好転したというのは、先日白金さんが言っていたことだ。
『禍を転じて福と為す』。降りかかる災難を利用し、逆に事態を好転させてしまうというこの故事成語を、その人物──筑波昌太は体現してしまったのだ。
『──そう。そんなことが…知らなかったとはいえ、私も配慮が足りなかったわ。ごめんなさい』
『い、いえ…気にしないでください。結局は私の…ただの、一人相撲だったんですから』
先日白金さんは、この解散騒動の件について助言をくれたという筑波さんの存在と、その筑波さんに事の顛末を話したという事実を私たちに打ち明けた。
解散騒動の話が広まるのは望ましくないことは確かだ。だから湊さんも『なるべくこのことは口外しないように』と言ったのだ。
しかし私たちの中でも特に危機管理能力の高い白金さんはこれを重く捉え、そのために事が終わってもずっと悩みを抱えていたようだ。
確かに、なんとなく今の白金さんはどこかすっきりしたというか、吹っ切れた様子である。普段にも増して、凪いだ海のように落ち着いた雰囲気をまとっている。
『確かになるべく言わないようにとは言ったけれど…燐子からしてその人は、信用できるのでしょう?それに、その人が事の収束に一役買ったのもまた事実』
『…はい。それは間違いないです』
『それならその人に顛末を話すのが筋、というものなんでしょうね。だから、そのとき打ち明けてくれて…ありがとう』
そう言って当時の湊さんは締め括った。
彼女のように、Roseliaの皆は筑波さんには一様に感謝している。もちろん、私も。私だってここがかけがえのない場所であることに変わりはないのだから、当然のことだ。
「カフェって言ったらさ、料理がすっごい上手い新人さんいるらしいじゃん?まだ見たことないんだけど」
「…ああ、あの」
「…新人さん?湊さんもご存知なんですか?」
「ええ、私も見たことはないのだけど…その人の料理は一度だけ食べたことがある。…とても、美味しかったわ」
「んー?りんりんは知ってる?あこは見たことないなー」
「私も、知らないかな…」
「湊さんにそこまで言わせるとは…その人は料理人でもやってらしたのでしょうか」
「アタシも友希那と一緒に食べたけど…正直、ありえると思う」
「…」
湊さんは、今井さんのその言葉に黙って首肯する。
彼女は知っての通り、私のようにとてもストイックな性格。それは他人に対しても同じだから、あまりストレートに褒めるということはしない人だ。
そんな湊さんにここまで言わせるとは…気になるわね。少なくとも相当な実力者には違いない。
そう考えながら、私はリハーサルスタジオをあとにした。
◇◆◇
今日はバイト先であるCiRCLEの初出勤日である。その業務内容は受付。月島さんから聞いた感じだと特に難しいことはなかった。
電話予約を入れた顧客の情報がまとめられた名簿を基に、割り当てられたスタジオの案内とか料金の収受とかするだけ。
暇なときは適当に掃除でも楽器のお手入れでも、受付さえちゃんとやってれば割と好きにしてていいらしい。
力仕事とか言われてたから覚悟はしてたんだが、思ってたよりゆるいんだな。バイトってこんなもんなの?
と思って月島さんにそう言ったら、「今は…今はね…」と昏い目で言っていた。ちょこちょこ闇が垣間見えますよね、こないだといい。
というわけでざっくりと顧客を把握しておこうと名簿を眺めていると、気になる名前に目がつく。
「『Afterglow』に『Roselia』…ここの利用客だったのか…」
「Afterglowがどうしたの?」
「ん?いやこの名簿に書いてあって気になったから」
「そっかそっか。実は私たちここでいつも練習してるんだー」
「そうなのか、知らんかった──えっ誰?」
「もー、誰って何?私だよ、上原ひまり!」
名簿と相対して俯いていた顔を上げると、目の前にニッコニコのわんわんピンクが一人。カウンター越しに手をついて乗り出し、俺と一緒に名簿を眺めていたようだ。
すごくナチュラルに俺の独り言に滑り込んできて普通に会話させるコミュ力はさすがですね。てか近いです。
「昌太ここでバイト始めたんだね」
「ああ、今日からだけど。ほかの皆は?」
「ん?まだ来てないよ?とりあえず早めに手続き済ませとこうかなって」
「お前リーダーだもんな。そういうとこは素晴らしいと思う」
「"は"は余計だよ!でもありがと。今日はどの部屋?」
「今日は一番奥っぽい。ほい鍵」
前を開けたねずみ色のブレザーと紺色のネクタイをふわふわ靡かせながら、体勢はそのままに会話する。
いやだから近いって。さっきから俺の頬をひまりの絹みたいな髪がこちょこちょしてきててくすぐったいのよ。
妙なこそばゆさを覚えながらも、さっき渡された料金のお釣りとともに鍵を渡──
「ねっ、しばらく受付暇でしょ?時間までちょっと話そうよ」
──そうとした俺の右手を、ひまりが両手でがっちり掴んできた。そしてそのまま俺をカウンター外へ引きずりだそうとする。
どうやらさっき見てた名簿で次まで時間があることを悟ってしまったらしい。待ちなさい、俺は今仕事中なんだ。
「おい待てひまり、ウェイトだ。俺今バイト中なんだよ、サボるわけにゃいk」
「まりなさーん、いいですよね?」
「んー?あー君たち知り合いだったの?いいよいいよ、受付さえしてくれれば今日はいいからさ!」
「だって!ほらほら!」
人の話を聞きなさい。
というか月島さん、それ「サボっていいよ」って言ってるようなもんでは…。まぁ、そういうことならいいか。ここでひまりを突き放すのもなんかイヤだし。
「わかったわかった、行くから。まず鍵とお釣り受け取ってくれ」
「やったー!うへへ、早く来てよかった…」
目的こっちだったの?早めに手続き云々はどうした、さっきちょっとでも感心した俺を返せ。
テキパキお釣りと鍵を受け取ったひまりは、財布を仕舞うや否や俺をスツールに座らせ、俺の首に腕を回ししなだれかかってくる。いわゆるあすなろ抱き。
こういうシチュエーションには疎いんだけど、これって男からやるもんじゃないのか。てかこの体勢さっきに増して近え…
「それで、なんでバイト先ここにしたのー?」
「…まあ、家から近いから。あとここで音楽の知識仕入れとけば、お前らを手助けできるかもしれんしな」
「…あーヤバい、今のすごいキューンって来た…んふ、嬉しいな」
顔は見えないけどたぶんめっちゃへにゃへにゃになってると思う。もうこの猫撫で声でわかる。トリガーが何なのかはわかりかねているが、たまにひまりはこうなる。
そして、彼女はそう言いながらさらに強く抱きつきつつ、俺の顔にめっちゃ頬ずりしてくる。
「でも、たまには自分のことも考えなよ?いつも人のことを気遣えるのは昌太のいいとこだけどさ、わがままでも言わないとそのうち倒れちゃうよ」
「んー?無理はしないから大丈夫だよ。それくらいはわかってる」
「ほんとー?まぁ、そう言うならいいけど…でも私たちならいくらでもわがまま言っていいからね!何なら言って!」
いや、俺は本当にいい友を持ったな。
みんながここまでの聖人だから、たまにふとそんなみんなに俺はちゃんと向き合ってやれているのか不安になるんだけど。
と、俺が傷心的なフェーズに入りかけているのを察したのか。
「…大丈夫だよ。私たちは、君の優しさをわかってるから。だから、大丈夫」
「…ああ、ありがとう」
「うん、気にしないで。お互い様だよ昌太!というか私たちが貰いすぎてるまである!」
「…ふふっ。ひまりちゃんと筑波くん、本当に仲いいんだね。なんか胸やけしそうだよ…」
「月島さん…見てたんですか」
「いやぁ、ここでベタベタされて見るなっていう方が無理じゃない?」
「ぐぅの音も出ねぇ」
「ぐぅ!」
「ひまり?それわざわざ言うもんじゃないからね?」
「むふふー。あー楽し」
『むふふー』。可愛いですね。こないだの香澄の『むむっ』とかみたいな美少女の特権じゃん。
しかもこれを左耳元で言われたのでさらにビクンビクンしてる。息が…息が…
頬ずりが止んだと思ったら、今度は左腕を首に回し直し、右手でやさしく俺の頭を撫で始めた。俺はされるがままである。
「筑波くんってほかのAfterglowのメンバーとは仲いいの?」
「そうですね。皆とはひまりのように4年来の付き合いです」
「でも受験のときにちょっと疎遠になっちゃったんですよねー。てか昌太、なんで合格したあと連絡くれなかったのー?」
「…いや、なんか気まずくて…」
「んー…筑波くんの言いたいことわかる気はするな。ずっと連絡してないといろいろ考えちゃうよね」
「まぁ、そうですけど。…寂しかったんだからね?」
「それは、ゴメン。本当に」
その件については大変申し訳なく思っています。
今更送っても迷惑かなとか詐欺だと思われんじゃないかなとかいろいろ考えちゃったんだよ…
「私としては今こうして話せてるから十分…って言いたいところだけど、ちょっと欲が出てきちゃったなー」
「欲?」
「そ。ほら、薬物みたいにさ。どんどん物足りなくなってきちゃうの」
なんてことを耳元でぽしょぽしょと囁いてくる。別に俺は耳が弱いとかそんなことはないと思うんだけど、それにしたってゾクゾクする。
…公衆の面前ではやめましょう!破廉恥ですっ!
「だからこれからはそのとき話せなかった分まで、いっぱい喋ろうね!」
ひまりがそう言って俺から離れると、ちょうどほかのメンバーがCiRCLEに入ってきた。
そのみんなは俺とひまりが近くにいたのを見て訝しがるような視線を向けてきたけど、俺はガンスルーした。知らないったら知らない。
◇◆◇
「次はRoseliaか…なんか緊張するな」
Afterglowをスタジオへ案内して数十分。次はRoseliaの予約時間が迫っていた。
メンバーの全員と面識があるわけではないのにいろいろと首を突っ込んでしまったこともあって、なんとなく気まずい。
もしかしたら「余計なことしたヤツ」とかとして戦犯扱いかも。…自分で考えといてアレだけど今ちょっと死にたくなった。もうやめようこれ。
燐子さんから特にそういう話は聞いてないし流石にない…と思いたい。
「ん?筑波くんRoseliaのみんなとも面識あるの?パイプ広いねぇ」
「いえ、全員ではないんですけど…まあ、いろいろありまして。あと大ファンなので」
「あー、なるほど?Roseliaって一応情報伏せてるから素性もわからないもんね」
「そうですね」
「ま、そんなに気にすることはないと思うよ。鍵渡して部屋案内するだけだし」
月島さんはそう言ってスタッフルームへ入っていった。そうだけどさぁ…やっぱ緊張するもんは緊張するよ。
しかも単にファンなだけじゃなくて中途半端に顔見知り(しかもうち一人には後ろめたいことがある)だから…なんか、ね?
「すみません、Roseliaで──あっ」
「あっ」
「紗夜、私たちはあそこで──あら、見ない顔ね。あの新人さん?」
「あれー?お兄さん意外と若いね〜☆」
「えっ」
「あっ、しょー兄だ!」
「昌太くん…?バイト、始めたの?」
「「「「えっ」」」」
ライトグリーンの長髪の美少女──氷川紗夜さんが俺に話しかけてきてから、一気に場がややこしくなった。いや、氷川さんは悪くないんだけど。
まず銀髪ロングの人の「"あの"新人さん」とか茶髪ロングにウェーブかかったみたいな人の「"意外と"若い」って何?
たぶんその「新人さん」に関して何かしら情報は得てたんだろうけど、それで意外と若いって評価につながる理由がよくわからん。
あと俺の名前を聞いたときに燐子さんとあこ以外が「えっ」って言ったのも謎。これRoseliaの中で俺に関する情報錯綜してね?
わからないことだらけだが、とりあえず今は予約時間が迫っていたので──
「それじゃあお部屋は2番になりますお会計はあとで大丈夫ですそれではごゆっくりー!」
──早口でまくし立てて問題を先送りした。2時間後の俺、任せた。
あ、会計に関してはCiRCLEはそのへんフリーダムだから先払いでも後払いでも大丈夫です。
長くなりそうだったので短めですが今回はここまで。
今回もよろしければ評価や感想等よろしくお願いします。
これからはどっちが見たいですか
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