世話焼き男子とガールズバンド 作:れれれれ
ダウルダブラ様、麻野様、評価ありがとうございます。
「ひまり」
「…な、なに?蘭」
「今日はやけに早くここ来てたけど…何してたの?なぜか昌もいたし」
「昌太はー…ここでバイト始めたんだって。今日、から」
「…そうなんだ。で、何してたの」
「えー、っと…」
筑波昌太のCiRCLE初出勤日。
彼に案内されたスタジオ内で、ピンク髪を二つ結びにした少女が、肩の上で切り揃えられた黒髪に一筋の赤いメッシュを入れた少女──美竹蘭から詰問を受けていた。
その原因は、Afterglowのメンバーが目撃した彼とピンク髪の少女こと上原ひまりの「距離」。
まずなぜ他のメンバーがその光景に違和感を覚えたかというと、一つにはなぜかひまりがいつもよりもはるかに早くCiRCLE入りしていたことが挙げられる。
人の時間に対する行動パターンは大きく3つに分かれる。
余裕を持って行動する人、時間ピッタリになるよう行動する人、そして時間にルーズな人。
中でもひまりは時間にルーズなタイプで、大幅に遅れることはないにせよだいたい数分は遅れてくる。
そんな彼女が早入りしている時点ですでに「何かあった」と察せられるのだが──
彼女らが見たひまりは、スツールに座している昌太のすぐそばに立っていた。というかもはやくっついているくらいだった。
そして彼はなぜか全力で目を逸らしていた。それはもうマグロのように。アウトバーンを疾駆するスポーツカーくらいの速度は出ていた(?)。
こうなれば「怪しい」どころか「確実に何かあった」と思われるのは必定だ。
「もう諦めたほうが賢明だよ。あのひまりが早入りしてる時点でもう怪しいってのに」
「…」
「しかもその場に昌がいたとなれば…ねぇ?ほら」
「…ぁぅ」
「ほら」
「おら、キリキリ吐けや」と言わんばかりの据わった目で壁ドンをしながら、至近距離でガンを飛ばす。その目はさながら鷹のようである。
あまりの威圧感にひまりも思わず声を漏らしてしまう。
勘違いされがちだが、普段の蘭はここまでギリギリと威圧することはまずない。
確かに口数も少なく表情も固めではあるが、その実彼女は心優しく誰よりも友達思いな娘だ。そのことはもちろんいつものメンツも承知している。
しかし昌太の事となると、蘭はなりふり構ってはいられなくなってしまうのだ。このことを当の彼は知らない。そもそも見せない。
「も〜、蘭ったら本当にしょーくんのことが好きなんだね〜」
「んなっ」
「蘭、そこまで詰ると逆に話せなくなると思うぞ…」
「っ…ご、ごめん。ひまり」
「う、うん」
そんな蘭にひまりがビクビクしているのを知ってか知らずか、モカと巴が援護射撃に入る。
モカに半ばからかわれるように諭された蘭は、顔を紅潮させながらもひまりを開放する。
普段の蘭しか知らない者が今の彼女を見たら、おそらく別人だと思われてしまうだろうくらいには可愛らしい様子だ。
「それで、ひまりちゃんはあそこで何してたの?」
「うー…えと、その…昌太が時間までちょっと暇っぽかったから、あそこまで引っ張り出して…」
「…うん」(顔真っ赤なひまりちゃん、可愛いなぁ…)
ひまりは顔を真っ赤にしながら訥々と話す。
今しがた口に出してみて初めてその距離の近さを自覚したのか、口調すら普段のコミュ力が鳴りを潜めていた。
「あぅ…えっと、昌太をイスに座らせて…後ろから抱きしめ、ました…はい…」
「「「「…!」」」」
刹那、閃光走る。
ひまりのあまりに刺激的な行動に、彼女ら4人の反応は様々だった。
先ほどめちゃめちゃガンを飛ばしていた蘭は、一筋のメッシュやそのギターと遜色ないくらいに顔を紅くし、ギターを抱え込みながら俯いてしまった。
蘭にちょっかいを出してからは静観していたモカは一見なんともなさそうだが、よく見たら目がぐるぐるしていた。
いつもはフワフワしている彼女も、恋愛にはどこまでも奥手だった。
巴はキャスターつきの黒い丸椅子に座りながら話を聞いていたが、話を聞いた途端はたと右手を口元に持ってきて、そのままぐるぐる回転し始めた。
なんとも言えぬむず痒さにとにかく動かずにはいられなかったようだ。
いつも通りに準備を終えたキーボードのそばで話を聞いていたつぐみは、蘭のように顔を耳まで真っ赤にしながらキーボードに手をかけつつしゃがみこんでしまった。
つぐみや他の皆の心境を反映するように、キーボードからは「みょえ〜ん」とマヌケな音が出る。
そのキーボードの変な音も相まって、なおのことスタジオ内は腑抜けた空気になる。そんな中、ひまりは続けて言う。
「それで、その後は…その状態のままで、会話して…昌太の顔に、頬ずりとか…」
「ひゃえ!?も、もういいから!!」
「は、はいっ!?」
さらにヤバい情報が投下されそうなことを真っ先に察した蘭が、変な声を上げながらひまりを制する。…こいつ、どこまで…!と思いながら。
続けてつぐみが、しゃがみこんだまま顔だけをひまりの方へ向けずっと気になっていたことを問うた。
「…昌太くんがここでバイトし始めるのは、知ってたの?」
「は、はい…この間、まりなさんがブツブツ独り言を言ってるのを聞いちゃって…」
「…」
「…昌太の初出勤日が、今日だって…言ってたから、早めに乗り込みました…はい…」
ことの全てを洗いざらい吐いてしまったひまりは、壁に背中を擦り付けながらぺたんと女の子座りし、そのまま俯く。
もちろん、顔は湯気が出そうなほどに茹だっている。
このある意味で惨憺たる状況、もはや収拾などつくまい。
モカと巴はくるくるグルグルしているし、ひまりとつぐは座りこんで顔を片手で覆ってしまっている。そして蘭は、顔を真っ赤にしたまま俯き微動だにしない。
徐ろに、またもやキーボードから「んゅ〜」と…いや、これはつぐみの声だった。
──どうしてくれるんだ、ひまり。
申し訳程度の恨み言を吐いたところでどうにもならず、挙げ句この空気は退室時まで尾を引いてしまった。
そのため今度はこのギクシャクした空気は、昌太に大変訝しがられたらしい。
◇◆◇
なんか今日のアイツらの様子がおかしい。何があったの?
先ほど俺は受付として彼女らから鍵を返却してもらったんだが、さっきはあれだけベタベタしてきたひまりすら俺とは目を合わせてくれなかった。
泣いていいかな。
しかもあまりにおかしいもんだから、とりあえずそのとき一番近くにいた蘭をとっ捕まえて話を聞こうと思ったんだわ。
でも蘭は「ごっ、ごめん!」つって俺の手を振り切って逃げてった。
泣いていいかな。
「すみません、会計を…」
あのなあ、俺はお前らのことをずーっと見てきたんだぞ。や、ストーカーとかじゃなくて。友人としてね。
そうやって適当に話はぐらかしてバレないとでも思ったら大間違いだぞ。
…泣いていい?泣くよ?
「…すみません」
というかねえ、スタジオって内容はわからなくても「あ〜、演奏してんなぁ」くらいは外からでもわかるんだよね。
でも今日はそのお隣さんはまだしも奥の部屋から全然そういう音してなかったような気がする。
…ぴえん。なんで話してくれねぇんだよォーーーーーッ!!!!!
「ッ!?あっ、あの…」
…まぁ、こんなところで泣き喚いてても仕方ないんだけども。今度会ったらあいつらとっちめてやる。
そもそもスタジオ来て演奏しないで何すんの?演劇でもしてたんか?
あー、なるほどな?
要はアレだろ、それに感情移入しすぎて泣いちゃったから顔見られたくなくて俺から逃げたんだろ。そうだろ?ねぇ?
「すみません!会計お願いします!!」
「でやあああはい失礼しました!!!!!」
いかん、考え事に没頭しすぎてお客さんに気づかんかった。しかもよりによってRoseliaである。
んー、少なくとも目の前の氷川さんには一言謝っておきたいんだけど…花女門外の変のことは他の人に聞かれたくないし。どうにか二人きりになれないかな。
「…はい丁度ですね、ありがとうございました」
「ちょっといいかしら?話を聞きたいのだけど」
無理でした(笑)
◇◆◇
問題を先送りにした2時間前の俺を恨みつつ、俺はRoseliaの皆さんに連行されカフェテリアの一角に来ている。
もちろん月島さんから俺の貸出許可は得ている。俺は備品じゃねえんだぞ…
イスは六脚あるが、せめてもの抵抗として俺は座らずテーブルのそばに突っ立っている。
さすがに色々と息苦しくて座ってられないんです、燐子さんそんな目で見ないでください。悲しそうな表情をしないで…
「…それで、何用でしょうか?」
「まず、初めに…あなたは筑波昌太、で間違いないわよね?」
「はい、俺がそうですが」
「そう…私は湊友希那、このRoseliaのボーカルで、リーダー。この間、あなたの助言のおかげであの問題を解決できたと聞いたわ。その節は、本当にありがとう」
そう銀髪の人──湊友希那さんが言うと、続いて皆も頭を下げてくる。…良かった、戦犯扱いはされてなかったらしい。本当に良かった。
「…いえ、当然のことをしたまでです。ですが、俺はちょっと口出ししただけ。実際に行動したのは燐子さんとあこです」
「それでもよ。もし燐子とあこがあなたに相談していなければ、どうなっていたかわからないから」
「そうですか…それならば素直に受け取らせていただきます。間接的とはいえRoseliaを救えて、嬉しいです」
「…ふふっ、本当に聞いていた通りの人柄なのね。燐子とあこが信頼するのもわかる気がする」
「本当にね〜。あっ、アタシは今井リサ。ベースやってるよ、よろしくね☆」
「よろしくお願いします。改めまして、俺は筑波昌太です。ここでバイトやってます」
「…氷川紗夜と申します。Roseliaのギター担当です。よろしくお願いします…あの、私からも一つ…いいですか?」
「っあー…えっと、今じゃないとダメですかね?」
「…?えぇ、できれば今のうちに」
氷川紗夜。この間花女の校門で俺がナンパ紛いのことをしてしまった少女、その人だ。
でもさっき俺が言ったように、そのことを他の人に聞かれるのは本当に望ましくない。っていうかこの人ナンパ紛いのことされたって人前で暴露する気?やめて!許して!
「…あぁ、そうですか…。その…」
「すみませんでした」
「ありがとうございました」
「「えっ」」
「えっと…な、なんで?」
「えっ、いっいえ…この間あなたが指摘してくれたおかげで、自分の欠点に気づくことができたので」
「おっ、おう?そうなんですか?」
「はい。むしろ私の方こそ謝らなければなりません。先日は申し訳ありませんでした…つい意固地になってしまい…」
「…えっと?よ、よくわからないけど…一件落着?」
「…どういうことかしら?」
「な、なにがあったんだろうしょー兄と紗夜さん…」
「…」
今井さんと湊さんは困惑してて、あこは口を開けてほへーとしてる。
が、燐子さんだけ何かを察したのか複雑そうな目でこっちを見てくる。えっ、感づいたの?嘘?
「……………昌太くん」
「…はい」
「あのときの…昌太くんだったの?」
「…感づいてらっしゃる?」
「えっと、あの校門でのことは白金さんにだけ話してしまって…その、すみません」
「い、いや…。まああんなこと話しちゃうと思うので…むしろ燐子さんにだけだった分全然ありがたい…」
「昌太くん?」
「ウッス。反省してます」
「…………なら、いいけど…」
「…りんりん?紗夜さん?」
「…アタシ、紗夜がちょっと赤面してるのとか燐子がほっぺ膨らませてるのとか、初めて見た気がする…」
「…私もよ」
…そういえば、燐子さん氷川さんと同じ花女だった。そりゃ知っててもおかしくないわ…
俺が反省の弁を口にすると、燐子さんはほっぺをぷくーと膨らませそっぽを向いてしまった。こんなときに言うことじゃないけどギャップ萌えがすごく来てます。
あとさっきから他の三人置いてけぼりでごめんなさい。本当に、申し訳ないです…
「…私からも、一ついい?」
「…?はい」
「この間…ここで、ペペロンチーノを作ってはいないかしら?」
「えっ、何故それを…」
「…あっ、そうそう!アタシも聞こうと思ってた!実はアタシ、友希那と一緒にね──」
「──『新人さんが作った料理があるから試食してみてほしい』ってまりなさんに言われて、食べさせてもらったのよ」
「…えぇー…」
月島さん、よりによってこの二人にアレ出しちゃったのか…。
あのときは変な会話の応酬しながら作っでたせいで、正直質に自信がなかったものだ。予め言ってくれればちゃんとやったのに…!
と思ったけどそもそも俺が初めに四人分材料使わなきゃよかった話じゃん。俺のせいじゃん。
「…んんー?どういうこと?」
「二人は…その新人さんが昌太くんだって、思ってるんじゃないかな…」
「…というかもう間違いないと思います」
「…はい、それは俺だと思います。確かについこの間作りました。えっと、気になってたんですが"その"新人さん、とは?」
「そのペペロンチーノが…とても美味しくて。Roseliaでその人のことをこの間話したのよ」
「うん。それでてっきり料理人さんだったのかなーと思ったんだけど、意外と若かったからさ」
…なるほど?湊さんと今井さんの「見ない顔だ」のあとの言動はそういうことか。
つまりなんだ、Roselia内で俺に関する情報は。
・花女門外の変の首謀者
・裏で問題に口出したよくわからん男
・料理で話題になった謎の「新人さん」
…えらい交錯してまんがな。それに加えてこれ全部が俺のこととなると──そりゃめんどくせえわ。
「いえ、俺はただの高校生ですよ。正直想定してませんでしたけど、喜んでもらえたんなら本望です」
「…なんか、一気に気になってたことがなくなったなぁ〜…」
「…そうね。でもまさか、昌太がそこまでRoseliaに多く関わってたなんて…」
「えぇ…私も、まさか同じ人だとは…」
「でも、しょー兄ならやりかねないよね?」
「そうだね…」
「…なんですかその変な方向での信頼は」
「だって世話焼きじゃんしょー兄。こないだだってりんりんを…」
「あこちゃん…!そ、それはもういいから…」
「何?昌太、あなたまだ何か関わってたの?」
「いえ、気にしないでください」
「でも」
「気にしないでください」
「…わかったわよ」
今度は湊さんがそっぽ向いちゃった。この人こんな仕草もするのか…
なんかなぁ、俺が思ってたRoseliaって語弊を恐れず言うと「頂点へ盲進している」って、危なっかしいなぁと思ってたんだけど。
こうして話してみると、みんな人間味があってちゃんとJKしてるんだなぁって。
SNS上で絵とかがよくバズってる人って本当に人間なのか疑わしくなるけど、実際に姿を目にしてから存在を確認して安心する。そんな感じ。
俺は推しのそういう一面を確認できてとても嬉しい。感動すらしている。
「…昌太?なんでニヤニヤしてるのかな〜?」
「いえ、なんでもないです」
「言ってくれないと気になるじゃないですか…」
「…推しバンドの色々な面を確認できて感動してるだけです」
「"だけ"って…。そうだったのね。いつもありがとう」
「…本当、筑波さんって何かとRoseliaとよく関わってますね…。合縁奇縁というか…」
「自分でもびっくりしてますよ」
もともとは高嶺の花だったはずなんだけど、なんでこんないろんなとこで関わるようになっちゃったのかな。
知らなかったとはいえRoseliaの一員である燐子さんとあこと知り合いだったわけだし、たまたま話した氷川さんに花女門外の変しちゃうし、たまたま俺の作ったペペロンチーノ食ったらしいし。
正直俺は俺自身の情報がここまで錯綜する事態に人生で遭遇するだなんて思ったこともなかった。
当たり前でしょ、普段一般学生としてすごしてるだけなのに。不思議だね人生って。
このあとはリサ姉(そう呼べって言われた)に料理教えてほしいって言われたから連絡先を交換したら、流れで湊さんや氷川さんとも交換することになった。
明日俺死ぬんじゃないかな…。
三人称視点に挑戦。
今回もよろしければ評価や感想等よろしくお願いします。
これからはどっちが見たいですか
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いつものゆるい日常
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シリアス
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その他(宜しければ感想などに)