桂香の元カレ   作:サルガシラン

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 過去と現在の話のシャトルラン。キバかな?

 そんなわけで現在編。たとえどんなに続けてもアニメの範囲で終わる模様。



元カレと師弟

 

 

「ただいま~」

「おう、おかえり」

 

 俺、九頭竜八一が新たな弟子、夜叉神天衣の指導を終えて部屋に帰ると万丈の声が返ってきた。

 

「風呂にするか? 飯にするか? それとも……」

 

 もう夜なのになぜか電気のついてない廊下で万丈らしき珍妙なシルエットが新婚三択っぽいなにかをぬかしている。また変なことをやりだして……と呆れながら明かりをつけると。

 

 

「この娘たちと将棋にするか!?」

 

 

 そこにはJSが実る筋肉が屹立していた。

 

 

「師匠っおかえりなさい!」

「バンジョーすごーっ! みんなつかまってるのにビクともしないや!」

「っけ、けっこう高いのですぅ!!」

「わァ、たかーいたかーいダヨー!」

 

 正確にはJS研のみんなが万丈の伸ばした腕に掴まって、そのまま持ち上げられていた。片腕に二人ずつ、計四人の小学生が万丈の腕だけで宙ぶらりんで楽しそうにしている。

なにその羨ましいの!?

 

「いや、なにやってんだよ!?」

「仕事で疲れて帰ってきた九頭竜先生に驚きと笑いを提供してやろうと思ってな」

「反応に困るわ!」

「ま、ホントは何人同時に持ち上げられるか試してたんだわ。ねー」

『ねー!』

 

 『ゴリラ問答』Tシャツの万丈が同意を求めると、腕から幼い四重奏が返事をする。留守番を頼んだのはこっちだけど数時間で手軽に仲良くなりやがって……。

 

 今日は家でJS研の日だったが帰りが少し遅くなりそうだったので、万丈が桂香さんと予定が合わず時間が空いていたので留守を任せた。女子小学生だけだとちょっと安全面に不安があるし。

 

「ともかく、留守番ありがとう。助かった」

 

 大成功ー、と降ろした小学生たちとハイタッチする万丈に礼をいうとひらひら手を振られた。

 

「こっちの台詞だ。今やってる翻訳が女児向けの本でよ、ナウなヤングの意見聞けて助かったわ。

仕事の方もはかどったし、またいつでも呼びな」

「ナウなヤングって……でも翻訳の仕事ってそういうのも必要なんだな」

「流石に女子小学生の感覚は直接聞かなきゃわかんねぇからなー」

 

 あっけらかんと笑う万丈の姿を見て、俺はこっそり見直した。

俺はプロ棋士として指導対局をすることもあるが、相手はほとんどが年上だ。だから現竜王という肩書があっても素直に指摘を受け入れてもらえないことが時々ある。

それを踏まえると自分の本業への意見を戸惑うことなく子供に聞ける万丈ってすごいのかも……。

 

「あと恋愛相談にのってもらった」

「それは小学生に聞くことじゃねえよ二十五歳!!」

「最終的にオスの白馬型バイクより足速くなって校庭から将棋で求婚という答えにたどり着いた」

「明後日の方向に走り出してる!?」

「なんか行ける気がする、もう誰にも止められねぇ!」

「止めろー!? 人生の棋譜を汚しぬく詰みに一直線だから!!」

 

 どう考えても桂香さんに迷惑だから絶対止めろ! 前言撤回。こいつただのバカ!!

 

「んで八一、どうすんだ飯か風呂か。もしくは筋トレからのプロテインか」

「三つ目変わってるし……俺は別にそんなムキムキになりたくは」

「筋肉つけたらさっきのができるぞ」

「……」

 

 ちょっと悩んだ。

 

 

 

 ☖☖☖

 

 

 

 そんな風に師匠と万丈さんが楽しそうにやっていた日から何週間かたったころ。

 

 

「どーしたあいちゃん。何か用かい?」

 

 わたし、雛鶴あいが師匠とケンカして大先生のお家へ家出して三日目。

夕方、桂香さんに負けた万丈さんが台所でお皿を洗ってる所をのぞいてたら声をかけられた。隠れて様子を伺ってたのに『スパークリング泡ぁ!』Tシャツの人にバレた。

 

「いえ、その……」

 

 聞きたいことがあるのにどう切りだせば良いのか迷って下を向いてしまった。

 

「……じゃあ話し相手になってくれよ! 手は皿の相手してんだけど、口と頭が暇しててさ」

「お話ですか……?」

「このままじゃこの手強い汚れにイラつきそうなぐらい暇なんだ、助けてくれ」

「……なら、はい」

 

 洗剤のついた手で小さくおいでおいでされて、台所に入る。

手伝いますか、と聞くとこっちはいいのいいのとやんわり断られた。ちかくにあった踏み台をイスの代わりに座るとすっごく大きい万丈さんの背中がさっきより大きく見えた。

 

「つっても何の話すっかなー……あいちゃんは何かないか、友達の話とか」

「お友達……?」

「そっ。お友達がなんか悩んでたーとかでいいぞー」

 

 万丈さんの声が洗い物の音と一緒に降ってくる。

 そうだ。お友達の話ってことにしてわたしの相談を聞いてもらおう。それなら、家出の事情を知らない万丈さんにもわたしの悩みだってわからない。

 

「……学校のお友達の話なんですけど」

「ふんふん」

「そのお友達がし……か、カレシに浮気されたんです」

「小学生の話だよな?」

 

 万丈さんがびっくりしてふり返る。そんなにおかしいかな?

クラスメートの美羽ちゃんだって、家庭教師のお兄さんと付き合ってるって言ってたし。そういうと万丈さんがゴリラみたいに顔を難しくしてお皿に向きなおった。

 

「んんーそっかぁ……さ、最近の小学生って進んでんナー……わるい続けて」

「そのお友達は年上のカレシさんとドーセーしてるんですけど」

「最近の小学生って進んでんな!?」

 

 再び万丈さんが勢いよく振り返る。お笑い芸人のコントみたいだ。

 

「そのカレシがよそで他の女の子の手を取ってイチャイチャしてたんです」

「……もしかして、その女の子も小学生?」

「はい、お友達と同い年でしかも名前まで同じなんです」

「その男をカチ割らなきゃいけない気がしてきた。年上として」

「それは! 困り、ます……お友達が……」

「あー……そーだな、ウン」

 

 筋肉ムキムキの万丈さんと師匠とケンカになったら間違いなく師匠が負けちゃう。スイカ割りみたいに師匠がタテにさけちゃう。

 

「それで、お友達はそれ見てどうしたって?」

「ケンカしちゃって口もきいてないそうです。謝られたそうなんですけど、ゆるせなくて……」

「そりゃなぁ……」

「あと相手の女の子は今度会ったら全力で立場を教えてあげるみたいです」

「恐ろしい教育!? どうしてそうなった!!」

 

 万丈さんの髪の毛がウサギさんみたいにはねた。ビックリしたときのクセ、だったっけ。

 

「お母さんに相談したら『泥棒猫は徹底的に潰して立場を教えなさい』って言われました」

「恐ろしい教育ぅ……泥棒猫とか、小学生の娘にする教えか……?」

 

 万丈さんは渋い顔してるけど、お母さんは師匠へのアピールの仕方を教えてくれるわたしの心強い味方。昔お母さんにお父さんとどうやって結婚したのと聞いたら「お母さんがアプローチをして始まった大恋愛の結果」らしいからお母さんが教えてくれるアピールはきっと間違ってない。

その話を横で聞いてたお父さんはなんでか苦笑いしてたけど。

 

「か、噛み合いになりそうなら周りと相談して止めような……?」

「そんなことしませんよ?」

 

 だからあの天衣って娘とは将棋でオハナシをする。師匠に将棋を教わってるならそのうち必ず研修会にやってくる。そのときてってーてきにしよう。

 

「ならいいんだけどよ……とりあえず返り討ちにならないように気を付けんだぞー?」

「はい、大丈夫です」

 

 だってわたしにはりゅうおうである師匠が認めてくれた才能がある。あの娘もそうらしいけど、わたしは研修会でもたくさん勝てるくらい成長してる。入りたての娘に負けたりしないもん。

 

「でもその女の子がどうってことより」

 

 わたしに黙ってよりにもよってかわいい女の子を弟子にしてたのは、もちろん許せない。

わたしだけが師匠の弟子だから。師匠の弟子なのはわたしだけの特別だとおもってたから。

でもそれより。

 

 ――――俺は別に、あいに興味深々とか、全然そんなことあるわけ……!

 

「ウソをつかれたり、師匠に興味がないって言われたことが、すごくモヤモヤして」

 

 なにか隠しごとをしてるのは師匠のクセで気づいてた。それを問いつめたら、おじさんの指導対局をしてるとウソをつかれた。

 あのときからずっと胸の奥がすごくざわざわして気持ち悪い。これはきっとそのせいだ。

これがある間は師匠と会いたくない。師匠と会ったとき変な顔をしちゃいそうだったから。そんな顔を師匠にだけは見せたくなかった。

 

 そういうと万丈さんの手が止まった。髪の毛も落ちついた。

 

「……大事なことをちゃんと言ってくれないってのは寂しいよなぁ」

「万丈さん……?」

 

 万丈さんが小さな声でつぶやいた。なんだか悲しそうな声だったような気がする。

 

「あぁ、わるいわるい……モヤモヤする、か。苦しいよなぁ。口でうまく説明できないもどかしさってのはすごく嫌なモンだよな」

「はい。でも……このままは嫌なんです」

「おぉ、そりゃいい傾向だな」

「だから万丈さん、質問してもいいですか?」

「お、何だ? 何でも答えちゃうぜ」

 

 許可をもらってようやく、万丈さんに最初から聞きたかったことを聞く。

 

 

「桂香さんに三百回フラれてもガンバれるヒケツを教えてください!!」

「だーいぶ慇懃無礼な質問だっ!!」

 

 

 何かと思えばそんなこと聞きたかったんかーい、と万丈さんがのけぞってまた髪がはねた。

 

「その話の流れでなんでそんなこと聞きたくなったわけよ!?」

「それがわかったらイヤな気持ちを無くして師匠と会える気がするんです!」

「いやよりにもよってなんで俺のー…………あー……桂香さんか?」

「はい。桂香さんに相談したら『本人に聞いて』って」

「桂香さぁーん!! いや別にいいんだけども!」

「だって変じゃないですか! 好きな人から全然興味ないどころかお付き合いしたくないって毎回言われてるのに全然こりないなんて、なんでそんなに平気そうなんですか!?」

 

 すごく変だ。もう別れたのにもう一回付き合ってって言うために何度も何度も対局して勝てなくて、もしも勝ったってお断りされそうなのは子供でもわかるのに諦めてない。だから今日も桂香さんのお願いをきいて晩御飯を作って洗い物をしてる。

 わたしなんて師匠からドア越しに一緒にいるのが嫌になったわけじゃないって言われてもまだモヤモヤするのに。

 

「変って言われてもなぁ。桂香さんに拒否されてないから、に尽きるんだよなぁ」

「そうなんですか?」

「そりゃ『もう二度と来ないで~!』とか言われてたら、いくら俺でも引き下がるわ」

「じゃあ桂香さんはどうして……?」

「…………さぁ? おかげで俺は桂香さんに会いに来れるんだから理由はなんでもいいって」

 

 そういえば万丈さんは桂香さんにとってすごく調度いい練習台なんだって師匠がいってたきがする。万丈さん本人の忙しさもあって月に一度か二度くらいしか対局を挑んでこないし、桂香さんの都合を最優先するから無下にしづらいとか。

 

 前に見たドラマでそんな登場人物がいた気がする。その人は散々悪い女の人につくしたのに利用されて捨てられる、かわいそうだけどちょっと気持ち悪い男の人だったと思う。

 桂香さんは、本当は万丈さんのことをどう思ってるんだろう。

 

「他は……うん。あいちゃん、単純接触効果って知ってるか?」

「たんじゅん……?」

「簡単に言うと、一緒にいる時間とか回数がたくさんあると相手にその気がなくても自分と仲良くしたいかもなーって思ってもらえるっていう話だ」

 

 質悪い友達が言ってたことそのまんま言ってんだけどな、と万丈さん。

 

「例えば、あいちゃんがこれからも八一のところで内弟子をしてれば、前よりあいちゃんを大事にしたいなーって思わせられる、とかな。たくさん会ってればウソを吐かれたりしても、もうするなーってちゃんと怒れるぞ」

「……お友達の話なんですよ?」

「だから例えば、だろ?」

 

 へっへっへと笑う横顔を向けられて、プイッと顔をそらす。ほっぺもふくれた。

 

「だから、今はお断りされてても桂香さんにいっぱい会って興味を引きゃいいってわけだ。同じやり方で八一たちとも仲良くなれたしな」

「そうなんですね……」

「まぁ長いこと続けてたら桂香さんに会いに来てるのか、八一たちに会いに来てるのかわかんなくなってきてんだけどな!」

「変わっちゃってます! 目的!!」

 

 冗談だよ半分、とカラカラ笑う。ぜんぜん冗談に聞こえない。

 

「あとはー……将棋に勝ちたいから、だな」

 

 わたしはハッとして膝をギュッと握りしめた。

 

「賭け云々より負けっぱなしはゴメンだわ。一々落ち込んだままじゃいられねぇって」

「っ……」

 

 負けたまま終わりたくない。

 

 同じことをお母さんに叫んだのはついこの間のこと。なのに今わたしなにやってるんだろう。このお家でも将棋は桂香さんと指せるし大先生だって教えてくれる。それに不満なんてない。

 

 でも、わたしは師匠に教わりたい。師匠に教わって強くなりたい。

 だけど、モヤモヤしたまま師匠のところに戻りたくない。モヤモヤが変に残りそうで。

 

 でも。だけど。でも……。

 

 

「あいちゃん」

 

 

 顔をあげると、いつのまにか万丈さんが目の前でしゃがんでいた。

 

「好きな人のことでモヤモヤするのは、もうしょうがねぇんだ。だから半端に納得しないで、そのモヤモヤ一度思いっっ切りぶつけてみな」

 

 優しい目がまっすぐ向けられる。その手を見ると洗剤で泡だらけだった。

 

「そしたらきっとスッキリして晴れると思うぜ」

 

 初めて会ったときもこんな風に目を見つめられたのを思いだす。

あのときわたしは万丈さんと桂香さんがうまく行くのを応援するって口に出したんだった。

 

 本当は桂香さんにカレシさんができれば敵が少なくなるとおもったから。

師匠は桂香さんにすごくデレデレするときがある。師匠が隠せてるとおもいこんでるエッチなマンガとか本。その開きやすいページは桂香さんみたいにお胸の大きな女の人ばっかりだった。

 だからきっと師匠はちいさい女の子とそういう大人の女の人が好みなんだ。わたしだっていつか大人になったら大きくなるもん。多分。空先生よりは。

 

 だからそれまでに師匠と桂香さんが万が一にもお付き合いし始めないように、万丈さんが桂香さんのカレシになってくれたら安心だとおもってた。

 

 そういうズルいことを考えていたのがなんでか、すごく恥ずかしくなって目をそらした。

なのに万丈さんはクシャっと笑って。

 

「……って、いうことをお友達に言ってあげな。少しは助けになると良いんだがな」

 

 え? っとなってから思いだした。そうだ、お友達の話ってことにしてたんだった。

 

「あ、はい、すっごくサンコーになりました! きっと、お友達も!」

「そりゃいいや……っうおヤベ洗剤垂れるっ」

 

 慌てて洗い場に戻ろうと、万丈さんの背がぐんっと伸びる。その背中がさっきよりもっと大きく見えた気がした。

 

「……うんっ」

 

 万丈さんにも届かないぐらい小さく息をはく。

 師匠のことはまだ許せないし、モヤモヤは無くなってない。でも今度は師匠とちゃんと話せる。そんな気がした。

 

「あいちゃ~ん、お風呂沸いたから一緒に入ろ~?」

 

 台所の外から桂香さんがひょっこり顔を出して、わたしを呼んでいる。

 

「は~い! あ、万丈さん!」

「おん?」

「お風呂からあがったらわたしと一局おねがいします!」

「……いいぜ、負けねぇぞ~」

「はい!!」

 

 万丈さんの強さはこの間のJS研でわかってる。ホンヤクのお仕事の合間にわたしたちとも四面指しでやってくれたから。今は強い人と指して今より強くなりたかった。あの女の子に負けたりしないように。

 

 キョトンとしていた桂香さんが、やる気になったわたしを見て急にふふっと笑った。

 

「どうしたんですか?」

「ううん、元気になって良かったなって」

 

 桂香さんが万丈さんの方へ向いて微笑む。

 

「あいちゃんとどんな話してたの?」

「……いやぁ何も? ちょっと手強い汚れに洗剤つけてただけ」

 

 

 

 

 それから。

 

 結局わたしは夜叉神天衣ちゃんに負けちゃった。だけど負けたくない、勝ちたいライバルができてもっともっと強くなりたいって改めて思えた。

 師匠ともちゃんと話してわたしが一番なんだって確かめて、天衣ちゃんよりたくさん指導対局をしてもらって仲直り。モヤモヤなんてすっかり消えちゃった。

 

 万丈さんにそれを伝えたら、少し困った顔をしてから「良かったな」ってすごく喜んでくれた。

 

 

 





 解決はしない。でもできることはやる。それを女は知っている。

ナニとは言わないがどれがいい?

  • 付き合う間にベストマッチ済み
  • 二人は未使用ボトル
  • 桂香だけレジェンドライダー
  • 今も時々Be the oneしてる
  • 桂香の三百連敗(全駒)
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