桂香の元カレ   作:サルガシラン

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 これを銀子回と騙る狂気。



銀子ちゃんと悪夢

 

 

 ステンドグラスを通った日光がバージンロードを柔らかく照らす。私はそれを家族の席から見下ろした。

 

「姉弟子、どうしたんですかボーっとして」

 

 隣に座る八一が顔を覗いてくる。絡められた指が温かい。

 

「別に。なんでもない」

 

 今日はハレの日。それも私たちのお姉さん、桂香さんの結婚式。相手は言わずもがな。

 まぁ思うところはあるがこうなるのは時間の問題だったし、桂香さんは幸せそうで師匠も桃の被り物をつけて剣を振り回しながらも認めた以上は私も大人にならざるを得ない。

 

「姉弟子は最後まで反対でしたものね」

「当たり前でしょ。あんな色ボケ筋肉ゴリラが桂香さんに相応しいわけないでしょ」

 

 苦笑いする弟弟子を知らんぷりしてステンドグラスを見上げる。

まぁ、私もあのゴリラ男には度々世話になっているし、横のロリコンと違って桂香さん一筋なので及第点ぐらいには評価しよう。

 ため息を一つ。式の前に憎たらしい花婿を睨みつけてやろうと顔を向けて、違和感に気付いた。

 

「……?」

 

 あの男はあんなに細い身体付きだったろうか。もう少し背丈があったような。茶色くて長い髪だったろうか。キレイな女性のような顔をしていただろうか。

 いや、というか。

 

 

「ねえ八一」

「はい?」

「なんで桂香さんが新郎の所に立ってんの?」

 

 

 新婦の入場を待つ新郎の位置にタキシードを着こんだ桂香さんがいた。あんな胸の膨らんだ新郎がいてたまるか。最近また大きくなったと小さく呟いてたのをなぜか思い出した。

 

「なに言ってるんですか、今日は桂香さんの結婚式じゃないですか」

「結婚式だけど……おかしいでしょう?」

「なにがですか?」

 

 心底不思議そうな顔で首を傾げる八一。この男はロリを拗らせてどうかしてしまったのか。

 

 違和感に気付くともう全部おかしかった。

光るステンドグラスをよく見てみると将棋の駒とポーズとってる筋肉しか描かれてないわ、神父の位置に黒い小童が脚立に立ってふんぞり返ってるわ、上空でJS研の小学生たちが天使やってるわ、八一は私の手を握ってるわと意味がわからない。最後はともかく。

 

「それでは新婦の入場よ!」

 

 黒小童の威勢のいい宣言と共に全員が見守る中ゆっくりと扉が開かれる。嫌な予感しかしない中で、その先にいたのは――。

 

 

「ウホッ」

 

 

 ――ゴリラだった。

比喩ではなく、正真正銘のゴリラがウエディングドレス着てた。

 

 

 純白を纏った黒く毛深いゴリラがダンベル引きずりながらバージンロードを練り歩く様を参列客がパチパチと拍手で迎えている。私は拍手どころかパチパチと瞬きするしかできなかった。

 

 ゴリラ。ゴリラ……ゴリラ!? 筋肉ゴリラじゃなくて動物のゴリラ!? 混乱する私をとり残して式は粛々と進行する。

 

「病めるときも健やかなるときもこのゴリラを愛すると誓う?」

「はい、誓います」

 

 お願いだから誓わないで桂香さん。ゴリラのような人間と結婚するのとゴリラのようなゴリラと結婚するのは雲泥の差があるわ。

 今すぐ叫び出して暴れたいのに体が言うことを聞いてくれない。八一と絡めた指をどういうわけか解けない。仕方ないのでもっと強く絡めた。どうすることもできず、誓いの言葉はゴリラの手番だった。

 

「ウホ?」

「ウホッ」

 

 黒小童のゴリラの猿真似にご本人ゴリラが頷く。あの短い問答で誓いの言葉が圧縮されてるのだろうか。ゴリラ語は理解できない、だれか翻訳してくれないだろうか。知ってる翻訳家もゴリラだから期待できない。

 

 予定通りに進んで行くのを止めたいのに止められない。指輪の交換で玩具みたいにバカでかいダイヤの指輪が桂香さんからゴリラの太すぎる指に入れられていく。

 

「では誓いのチューを!」

 

 ちょっと赤い顔した黒小童がちょっと上擦った声で規定通りの絶望を宣言する。

 

 なにが悲しくて尊敬する人と見知らぬゴリラのキスシーンをみなければならないのか。

誰か助けて。どんな理由でもいいからこの結婚式に似た地獄絵図をぶっ壊して。

 

 願った次の瞬間。ゴリラのヴェールが上がり唇が触れあいそうになったその瞬間、扉の方からバゴーンと何かが殴り壊されるような破砕音が教会に鳴り響いた。

 

「ウーホー!」

 

 そこにはゴリラがいた。壊れた扉を踏んづけながら新たなウエディングゴリラが乱入した。

 

「あれは!」

「は、突然なに?」

 

 隣の八一が唐突に立ち上がって大仰に驚いた。指が離れちゃったじゃないバカ。

 

「サゴーゾのゴリラさんだ! 冒険に出たハズじゃ!?」

「誰よ!?」

 

 さも知っていて当然みたいな声音でバカが式に突入してきたゴリラの名を喚く。

周りの参列客も「さごーぞ……」「サゴーゾ!」と知り合いが突飛なことをしだしたような驚き方でゴリラの侵入を呆然と眺めていた。誰か警察か動物園に通報しなさいよ。急いで。

 

 サゴーゾとかいうのが桂香さんの隣にいるゴリラの顔面に向かって、どこから取り出したのかバナナを房で投げつけた。

 

「ウホッ!?」

「ウーホー!」

「ウーホッホウーホッホウー!」

「止めるんだサゴーゾさん! ゴリライズに桂香さんを任せるって言っただろ!」

 

 バナナを皮切りに桂香さんそっちのけで争い始めた二ゴリラ。殴るわ蹴るわダンベル投げるわロケットパンチするわとやりたい放題だ。意味は解らないけど良し。このまま式を壊せゴリラ。

 スルーしそうになったが、あっちのウエディングゴリラもなんか判別できる別ゴリラらしい。

 

「『輝きのデストロイヤー!!』」

 

 その激闘へ水を差すように、また轟音が鳴り響く。

 機械音らしき声と同時に、いつのまにか直っていた扉がダイヤモンドのような結晶になりながらまた吹き飛んだのだ。

 

「あれは!」

「またなんか知ってんのアンタ」

「心優しいハーフゴリラのゴリラモンドさん……あなたのそんな姿見たくないよ俺……!!」

「ゴリラとナニのハーフなのよアレ……?」

 

 体の半分がゴリラでもう半分がダイヤモンドみたいな石で出来ているゴリラっぽいナニカが乱入しゴリラの喧嘩に無言でエントリーしていく。片手に持ったバナナっぽい槍を振りかざして。

 

「『ボルテックフィニーッシュ!』」

「ウーホー!?」

 

 槍持ってない方の手で殴る。槍の使い方を解ってないようだった。

もうバージンロードは増殖するゴリラのせいでぐっちゃぐちゃだった。

 

「お前の夢はなんだ!!」

 

 また直っていた扉をこじ開けて今度はスーツの男が押し入ってくる。

 

「ゴリラじゃない!?」

「あれは!」

「今度は誰なのよ……?」

「フワさんだよ。腕力がすごいんだ」

「知ったこっちゃないわボケ!」

 

 ここまで来て普通に知らない男の人に入ってこられると余計に意味がわからない。乱闘するゴリラを無視して、手に持った扉の残骸をポイっと捨てながらこちらに近寄ってきた。

 

「おい。ここら辺に逃げ出したゴリラがいると通報があったんだがどこにいる」

「は? それならそこに……」

「なに言ってやがる。数は多いが花嫁がいるだけじゃねぇか」

 

 人間だと思っていたが、見た目だけの脳ミソゴリラだった。

 

「どう! 見ても! そこにゴリラいるでしょ!?」

「ゴリラが花嫁衣裳着るわけがないだろ。常識でものを考えろ」

「ブチ殺すぞワレ」

 

 この光景の前で今さら常識を説く方が非常識極まりないだろう。

 

「待てぃ!」

 

 なんか聞き覚えのある声でちょっと待ったコールがかかる。

 

「桂香さんをどこのバナナの皮とも知れねぇゴリラに花嫁だろうと任せられるか!」

 

 扉を普通に開けて普通に入ってきた『プロテインの貴公子』Tシャツゴリラは人間の言葉を普通に喋っていた。

 

「あれは!」

「今度は何のゴリラなわけ……!」

「なんでこんなところにゴリラが!?」

「四匹目になってから驚くんじゃないわよ!」

 

 せめて新婦の入場から驚け。喋るゴリラへの反応だけが普通でどうする。

 

「桂香さんの一番は将棋でも、二番目以降は誰にも譲らねぇ! いずれは将棋より好きだと言わせてみせるぜ!!」

「それはあり得ないかなーっ!」

「夢見るぐらいは許してくれよ……!」

 

 妄言を吐く新ゴリラに乱闘を静観していた桂香さんが容赦のない大声にで断言する。

悔しそうにあっさり崩れ落ちたゴリラは半泣きだ。コイツだけは知り合いのゴリラかもしれない。

 

「ウホッ、ウホッ」

「ウーホー!」

「逃げたゴリラってのはお前か。ゴリラは残らずぶっ潰す!」

「『イエェーイ!』」

「ゴリラだあ!? 俺はプロテインの貴公子だ!」

 

 なんだこれは。一教会に四ゴリラってどういう状況だ。しかも全ゴリラが桂香さんを狙っているようだし。確かに式を壊せと願ったけれど、ここまでやれと言ってない。誰でも良いから収集を付けて欲しい。

 

「新郎、アンタが決めなさい!」

「私に将棋で勝った人と結婚します!」

 

 痺れを切らした黒小童に促されて桂香さんが七寸盤をドンと置いて力強く言い放つ。良かった、それなら万が一負けてもゴリラと結婚することにはならない。

 

「よし、なら将棋のために合体するぞ!」

『ウホー!』

 

 知らない男の号令にゴリラ共が合意代わりのドラミングを連打する。合体できるなら将棋をする意味がない。

 

『エクストリーム!』

『タカ、クジャク、コンドル!』

『トライドローン!』

『マイティブラザーズXX!』

『クローズビルド!』

『トリニティ!』

『アサルトバレット!』

 

 ゴリラの大きな手に握られた数々の玩具みたいなのから起動音が木霊する。ゲームセンターみたいにやかましい。そして極彩色の光がゴリラたちを包んでいった。

 

 ――Are you ready?

 ――ダメです!

 

 最終確認染みた音声にゴリラたちの悲鳴混じりの拒絶が届く。光の向こうからの断末魔は聞くに堪えなかった。

 

「ゴリラとゴリラとゴリラとフワさんとゴリラが一つに……!」

 

 なんか無駄に驚いてる八一を無視して死んだ目でその光景を惰性で見続けた。

 

 完成した衝撃で、特に貴重でもないステンドグラスが吹き飛んだ。

光が晴れて行くと見覚えのある筋骨隆々のシルエットがゆっくりと立ち上がる。そして、片手のバナナを高く高く掲げて吠え猛った。

 

 

「そして現れる俺が八方万丈だっ!!」

「どうあがいてもゴリラ!」

 

 

 限界になって叫んだところで目が覚めた。

 

「……」

 

 酷い寝汗と不快感が体にへばりついていた。朝を知らせるアラームも止めないまま額の汗を忌々しくぬぐう。

 

 夢の内容はまったく思い出せない。だがともかくふざけた内容だったのは確かだった。

 

 その日はどうにも不愉快だったので、その日に対局したヤンキー女が放心するまで徹底的に攻め立てた。

 

 





 今回は多数のオリジナルゴリラが登場します。苦手な方はプラウザバック。
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