【完結】魔法少女奇譚   作:ふーま

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最終話~追憶~

「頑張って、暁美さん、美樹さん、佐倉さん……」

 

とある“家”にて巴マミは祈りを捧げていた。

彼女の周りには無数の子供たち、そして、黒い服の少年と臙脂色の服の少女。

皆が共に祈っていた。

そして、祈りを捧げていたマミが立ち上がり、気合を入れるように顔をはたくと皆を見渡して言う。

 

「さあ、私達も動きましょう。

 暁美さん達との約束通り、儀式の巻き添えは一人も出さないわよ。

 迷い子さん達を助けに行きましょう」

 

「「「はい!」」」

 

それに子供たちは口々に答えると年長者を中心に連れ立って部屋を出て行く。

 

「皆、死なないでね」

 

マミは、最後に祈ると部屋を出た。

異界に呑まれそうになった人を助けるために。

 

 

 

 

 

避難所でまどかは家族と共にいた。

 

「この街は大丈夫かねえ」

 

そうつぶやく母に、まどかは力強く答えた。

 

「大丈夫だよ、私、信じてるから」

 

その顔つきを見て意外そうな、感心するような顔を見せる母の後ろに蠢く異形があった。

白いモチを無茶苦茶につき、合いの手を何本も巻き込んで混ぜ込んだようなそんな姿に、赤いビー玉のような目だけがそれがまどかの知るモノであることを伝えていた。

 

『信じてると言ったって、君が戦うわけじゃないだろう。

 君が祈ったところで、彼女達の勝敗には影響はないよ。

 確実に勝利したいのなら、君が魔法少女になるべきだ』

 

その塊、インキュベーターだったものに、まどかは心の中で答える。

 

『感情がある生き物はね、やるだけやった後は祈るものなんだよ。

 叶えてくれる人がいなくっても、願いが届いて欲しい、この祈りがわずかでも後押しになってくれればってね。

 それに、これが私達が決めた最善なんだもの、裏切るわけにはいかないよ』

 

その塊は、どこかはもう判らなくなっていたが、首を左右に振ったように見えた。

 

『やれやれ、じゃあ、結末が判るまでは待機だね。

 僕は向こうにもいるから、勝敗がわかったら教えてあげるよ』

 

それを聞くとまどかは窓の外を見上げ、澱んだ空に再び祈り始めた。

 

「ほむらちゃん、さやかちゃん、杏子ちゃん…がんばって」

 

 

 

 

 

「いくわよ」

 

ほむらが己の溜め込んだ戦力を解放するため時間停止を発動させる。

瞬き一つの時間で現れたのは、人類が戦うために生み出した兵器の数々だった。

異界の赤い荒野に広がるのは戦車に大砲、ミサイルの大隊。

赤い空を背にするのは戦闘ヘリの部隊。

無骨な兵器に囲まれたほむらが最後に懐から取り出したのは、大振りではあるがしかし、居並ぶ兵器には見劣りするであろうナイフだった。

だが、それはほむらにとって最も心強い武器であった。

その短剣の名は“魔女の短剣(アセイミ)”、かつて神に挑んだ魔術師の刃。

そして自分の運命を受け入れ、立ち向かうほむらの決意の象徴。

 

「絶望を超えなければ進めないのなら、超えるまで」

 

刃を見つめてほむらは言う。

 

「まどか、あなたならこう言うでしょうね。

 『できるよ!』と」

 

そしてほむらは短剣を掲げて高らかに叫んだ。

 

「『未だ人である我が望みと我が名において、我は絶望を討つことを誓言する!』」

 

呪文の振動を持った魔法少女にして魔術師の弟子たるほむらの<誓言>。

その<誓言>と同時に、ほむらの気配が爆発的に燃え上がった。

それに応じ、自らの主を讃えるかのごとく、大砲が、戦車が、戦闘ヘリが、その砲塔を、その翼をきしませる。

そして短剣を掲げたままのほむらの口から詠唱が流れ出した。

流れるような、ラテン語の呪文が紡ぎだされ、空気を振るわせた。

 

「…オムニポテンス・アエテルネ・デウス・クゥイ・トータム・クレアトゥラム…」

 

大気を直接振動させるように、ほむらの口から呪文が流れ、それと同時にほむらのまとう空気が変質する。

湿った“異界”の空気を一掃し、全く違う強い“意識”の気配が漂う。

気配はほむらの背に純白の翼となって顕現する。

古の魔法<召喚(コンジュレイジョン)>、天使の翼をまといほむらは飛び出す。

それに従い、兵器達もその身を震わせて時の声を挙げ、その武器をワルプルギスの夜に向ける。

ワルプルギスの夜も、相手を認識したのだろう、その身を震わせてほむら達へと向かう。

 

『人が創造した全てと、人が想像した全てでもって挑ませてもらうぞ。

 打ち合わせ通り高位の魔術詠唱は私に任せ、お前は部隊を指揮して攻め続けろ。

 夜は夜らしく、永遠に闇に眠ってもらおうとするか』

 

「そして私たちは夜明けを迎える。

 さあ、決着をつけましょう」

 

右手の短剣を相手に向け、ほむらは表情を引き締めた。

 

『征くぞ、小娘。

 いや、暁美ほむら!!!』

 

「ええ、行くわよ!!!」

 

(くろがね)の使い魔を引き連れ、“魔女”が飛ぶ。

戯曲の共演者を見つけた「魔女」が迎え撃つ。

 

 

異界の空に、轟音とけたたましい嗤い声が響いた。

 

 

 

 

 

「数が足りないって言ったな、キュゥべえ」

 

杏子はキュゥべえを見つめると、にやりと笑って槍をぐるりと振り回し、すうっ、と息を吸った。

そして告げる、彼女の固有魔法の名を。

 

「見せてやるよ、ロッソ・ファンタズマ!」

 

その宣言と共に、杏子が一人、また一人と現れ、5人の杏子が並んだ。

 

「行くぜ!」

 

全ての杏子が武器を振り回して魔女に襲いかかる。

5本の多節槍が魔女を使い魔ごと薙ぎ払った。

 

「君の魔法は幻影だったはず、何故それが実体を持っているんだい?

 それにそもそも君は家族が死んでからそれを使えなかったはず…」

 

キュゥべえの疑問に杏子が答える。

 

「確かにそうさ。

 けどね、私はさやかに出会って、こうしてまた歩き出すことができた。

 本当の言葉を聞いてくれる奴らと一緒になれた。

 だからかな、この夢を現実にしたいと思ってたらいつの間にか出来ていたのさ。

 最も、マミ印のグリーフシードがなきゃすぐ魔力切れだろうけどな」

 

言葉と共に投げられた使用済みのグリーフシードを吸収するキュゥべえに、今度はさやかが声を掛けた。

 

「この一騎当千さやかちゃんも忘れちゃ困るよ。

 “神経融合(ブレイク)”アンド“筋力増強(ブースト)”!」

 

風のようにさやかは魔女の間を駆け抜ける。

攻撃をことごとくかわし、払い、そして力ずく叩き切り細切れにする。

元の場所に戻ると同時に、通り道にいた十体近い魔女が崩れ落ちる。

杏子とさやかは互いに背中を預けあい、不適に笑っていた。

 

「あんたらには悪いけどさ、このお話の結末はこうさ。

 悪い魔女はいなくなり、いい魔女だけが、小さい魔女だけが残るのさ」

 

杏子は再び槍を構える。

 

「懐かしいね、その童話、私も好きだったよ。

 最後に意地悪な大きい魔女達から魔法を取り上げて、相棒のカラスと二人で踊るラストは痛快だったね」

 

さやかも、表情は少々こわばっているものの、剣を構えながら笑って返す。

 

「今回は私が小さい魔女でこいつがその相棒さ。

 大きい魔女さんには、ご退場願おうか」

 

「あたしがカラスってこと!?

 まあいいわ、こっちは私と杏子の宴、私達二人のワルプルギスの夜だ」

 

危機的状況にも拘らず軽口を叩き合った二人は背中を守りあうように、武器を構える。

そして二人はニカリと笑い、歌いながら戦いの舞台で舞い踊る。

 

「ワルプルギスのよーる」

 

「「ワルプルギスのよる、ばんざい!!」」

 

 

 

それらの戦いは一般に知られることはなかった。

その日、見滝原市で予測されたスーパーセルの発生は起こらなかった。

激しく澱んだ風が吹き荒れはしたが、長続きはせず、その後はさわやかな晴れ間が広がったという。

結局死者は一人も出ず、不安に染まっていた避難民の顔にも笑顔が戻った。

この異常気象の発生と急な消滅はしばらく話題になったが、眼に見える被害がなかったためしばらくして起きた別の事件に流されて忘れられていった。

当初の混乱の中で数名の行方不明者が出ていたが、世間ではどうせ連絡の行き違いかなにかだろうと考えられた。

彼ら彼女らが見つかったかどうかまで気にしている者はその仲間や家族以外には誰もいなかった。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

 

 

―――ある時、都市伝説を聞いた。

どんな願いでもかなえてくれる純白赤目の小動物がいるらしい。

 

―――ある時、都市伝説を聞いた。

魂の底から望む、その願望こそをかなえてくれる漆黒の魔人がいるらしい

 

―――ある時、都市伝説を聞いた。

一人ぼっちで寂しいとき、受け入れてくれる部屋があるらしい。

金髪巻き毛の優しいお姉さんがお茶をだしてくれるが、長居しすぎるとその部屋に取り込まれてしまうという。

 

―――ある時、都市伝説を聞いた。

朽ちた教会があった場所に孤児院が建っている。

その孤児院には、どこからともなく、行方不明だった子供が帰ってくることがあるらしい。

その子の手を引いていたのは、赤毛の美女だったという話がある。

 

―――ある時、都市伝説を聞いた。

若くして名を上げたヴァイオリニストがいる。

そのコンサートは常に満員だという。

空席だったはずの席にもいつの間にか子供が座っているからだという。

その子供達と、そのヴァイオリニストの婚約者が話しているのを見た人もいるという。

 

―――ある時、都市伝説を聞いた。

都市伝説の舞台を興味本位で探し歩き、暗がりや廃ビルをさまよっていると、黒い長髪の美女に警告され、気づいたら別の場所に飛ばされることがあるらしい。

別のパターンだと、若い夫婦に警告されたという場合もある。

こちらの場合は突然消えるのはこの夫婦のほうらしい。

この夫婦の男の方は黒い服、女の方は赤い服、そして、小さな男の子を連れていたという。

 

 

 

 

 

この街、見滝原を訪れたのは、この街を舞台にした都市伝説に、かつて関わった事件を思い出させる物があったからだ。

この街にこれらの都市伝説が流れ始めたのは、自分に憑いていた子供の気配を感じなくなってからだという時間の一致も気になった。

ひょっとしたら、ここでも本当に何かあったのかもしれない、そう思いながら今日一日この街を歩いていた。

とはいえ、大した収穫はなかった。

持っている鈴も反応することはなかった。

最も、反応したところでわざわざそれに近寄るかと言われると恐怖が先に立ってしまうだろうが。

 

「それにしても、この施設に上条恭介も出資していて、先生の一人が婚約者なんてね。

 皆で今日のコンサートに出かけてるとは予想してなかったよ」

 

都市伝説にあった孤児院の下になったであろう児童養護施設を眺めて自嘲気味にそうつぶやく。

少しは情報があるかと思ってきてみたはいいが、あいにくと無人だった。

近所の人が留守の訳を親切に教えてくれたが、事前に知っていればバス代を無駄にすることもなかった。

 

「はあ、そろそろ行かないとな」

 

この街に来たのは、元々といえば妻がファンである上条恭介のコンサートのチケットを取ったことがきっかけだ。

会社を休んでコンサートまでの時間を探索に当てていたが、そろそろ移動して妻と合流したほうがよさそうだった。

そろそろ彼女も仕事を終えて到着するはずだ。

孤児院の庭に植えられていた桜の木をぼーっと見つつそんなことを考え、きびすを返した。

 

 

 

 

 

「早く早く、今日は“みんな”も来るんだから!」

 

バス停に向かう途中、横道から元気そうな少女が走り出してきた。

後ろには、彼氏だろうか、少年が追いかけてきている。

 

「まってよ、ゆま~。

 それに“みんな”ってだれだよ、ぼくにも教えてよ~」

 

「ヒミツっ!」

 

微笑ましいカップルを見て、自然と顔がほころぶ。

その姿に、かつての親友を思い出す。

彼らには自分の親友が辿った悲劇に、異界に触れないことを祈りたい。

そう、彼らを見ながら思っていると、

 

「ゆまもたつやも、そんなに急がなくても間に合うのに」

 

もう一人、若い女性が同じ道に出てきた。

桃色の髪のかわいらしい女性だ、とふと妻にどやされそうなことを思った。

それと同時に、妻の到着時間を確認しなければと思い至り、メールを打つ為に携帯を取り出そうとした。

その時、りりりりんと、鈴の音がして、さきほどの女性が携帯に出た。

普通に見ればそれは古風な趣味の着メロだと思うだろう。

だが、その鈴の音は携帯電話ではなく、そのストラップに取り付けられた玉の無い鈴から出ていたのだ。

そんなものの心当たりは一つしかなかった。

 

(なぜ、こんなところに!?)

 

あれは自分が神野陰之から受け取った異界を感知できる鈴と同じものだった。

異界に関わる物の突然の出現に心を取られて固まっている自分に気づかず、その女性は立ち止まって楽しそうに話していた。

ちょっとした連絡くらいだったのか、数分で電話を切るとこちらに気づいたらしい。

固まる自分を怪訝そうに見られ、弁明しようと口を開こうとするがなんと言っていいのか分からない。

すると、りん、と自分とその女性の持つ鈴が同時に鳴った。

すると、その女性は一瞬驚いたような顔をしていたが、何かを悟ったように穏やかな顔をし、声を掛けてきた。

 

「もしかして、あなたが“追憶者”さん?」

 

その名で呼ばれるのは久しぶりだった。

驚きを隠せないが、これであの鈴はあの魔人絡みだということを確信する。

肯定すると、彼女はこう続けてきた。

 

「あなたに、聞いてほしい物語があるの。

 とある少女達の祈りと、願いの物語を」

 

その頼みを断る理由はなかった。

彼女もまた、自分と同じように“追憶”すべき物語を持っているのだろう。

 

 

 

 

 

そうして、彼女に聞いたのがこれまでの物語だ。

彼女達の戦いが最後どうなったのか、戦いの後現在まで生き延び、その願望を叶えることはできたのか。

コンサートの開演時間が近くなってしまったため、そこは終わってから聞くことになっている。

共にかつての事件を歩んだ妻に隠す気はないが、彼女が来たのは開演ギリギリだったので話すのも終わってからになるだろう。

開演までの微妙な時間、気持ちを悟られないように妻が持ってきた雑誌を手に取った。

ぱらぱらとめくって見つけた上条恭介特集、そして、彼と一緒に移る友人達の写真を見つけてにやけてしまった。

妻がいぶかしげな顔で尋ねてくるが、答える前に開演のベルがなった。

そして挨拶の後演奏が始まった。

物語の結末は未だ知らない。

だが、予想はできる。

話をした彼女の陰の無い笑顔が、写真の中の長い黒髪が、そして演奏される力強い音楽が、その物語の続きを示しているようだった。

 




これにて完結となります。
読了ありがとうございました。

この後は外伝を一つと考察を一つ投稿させて頂きます。
よければそちらもご覧ください。
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