(ようやく、まどかに会える)
教室の扉の前で待つ暁美ほむらの心には少々の不安と、親友に会える大きな喜びとがあった。
たとえこの時間軸のまどかと自分は初対面であっても、どの時間軸でも優しく強いその魂に触れられるだけでほむらは幸せだった。
特に今回は、戻ってきてからしばらくこの街を離れていたのでその感覚もひとしおであった。
だが、
(ただ、神野陰之にまかせていたのがどうでるか・・・)
唯一不安なのはそこだった。
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―――
「それで、願望をかなえてくれるとは言ったけれど、あなたは何をしてくれるというの?」
自らの願望を神野陰之に伝えた後、ほむらが問いかけた。
「君の願望に従い、彼女達を守護し、君の戦いの手助けをしよう。
君の願望があれらや彼女達の願望を超える限り、君の力となろう」
魔人は嗤みを絶やさずその問いに応える。
しかしその答えはほむらにとっては不完全だ。
彼女が求めるものは明確な形をもつ力なのだから。
「具体的には?」
「君の目の届かぬ間、彼女達を魔女から、そして孵す者から守り通そう。
最も、孵す者との契約に関しては、その祈りが本当の願望に繋がるものであり、君の願望を上回るものである場合に関してはそちらを優先せざるをえないがね。
そしてソウルジェムの穢れは私が引き受けよう。
好きなだけ力を使い、願望に従い邁進したまえ」
神野はさも当然というふうに応える。
「ジェムの穢れまで!?」
まさに死活問題である問題に対してあっさりと解決策が示されたことにほむらにしては珍しく驚きの声を上げた。
「その程度造作も無いことだ。
海に雫を一滴垂らしたところで海があふれるなどありえないだろう」
人一人にとって抱えきれない、魂が壊れてしまうほどの穢れであろうと、眼前の、闇そのものといっていい男には大したことはないのだろう。
(これは…思っていた以上ね…)
神野の述べたことは、ほむらにとっては破格の条件である。
これまでのループでの失敗は、ほむら一人では余裕がなかったことにあった。
ほむらがやるべきことは、まどかの守護以外にも多い。
一つには他の魔法少女の守護。
ほむらが繰り返す1ヶ月の間には、ほむらとまどか以外にも魔法少女が二人、高確率で魔法少女になる者が一人存在する。
そのうちの一人は何年も戦い続けたベテランのくせになぜかこの一ヶ月の間に限って高確率で死亡し、この期間に魔法少女になる者は平均一週間で魔女化する。
残りの一人もこの二人の破滅に巻き込まれて死亡する場合が多い。
やっかいなことこの上なく捨て置きたいところだが、最後に控える強敵、ワルプルギスの夜相手にするための戦力確保には彼女達が欲しいところであるし、何より彼女達の死はまどかを悲しませる。
だが、ほむら一人ではカバーしきれず、彼女達の破滅を阻止できないことがほとんどだった。
もう一つは武器の調達とグリーフシードの確保。
時間遡行の願いにより、ほむらは時間停止の魔法を手に入れていた。
これは強力な能力であったが、その代わりに魔女を葬るに足る攻撃魔法はない。
攻撃魔法以外の攻撃手段として、魔法少女には銃や槍、剣等といった個人に特有の武器を作り出す能力はある。
しかし、ほむらの武器はその願いの性質の為か、砂時計を内蔵した盾といったものだったため、武器を別に入手する必要があった。
自作の爆弾に加えて、ヤクザや自衛隊、在日米軍から火器や兵器をお借りしている。
魔法少女としての武器である左手の盾は時間だけでなく空間も司るらしく、いくらでも収納はできるのだが、クリアしなければならない問題も多い。
一つには良質な武器を入手するには遠出する必要があるため時間が掛かるということ。
もう一つは基地等の奥に侵入するには時間停止を長時間駆使する必要があるので魔力の消耗が激しいことだ。
魔力を消費すると魔法少女たる証のソウルジェムに穢れが溜まり濁っていくため、魔女が落とすグリーフシードを余分に入手する必要があった。
神野陰之という反則的な存在以外には、ソウルジェムの穢れを癒す手段はこのグリーフシードしかないのだ。
これらの作業は、最後に控えるワルプルギスの夜と戦うためには必須である。
しかし、武器の充実を優先して時間を使っているとまどかが契約したりほかの魔法少女が破滅してしまう。
かといってまどかや他の魔法少女を重視した場合、火力不足に陥りワルプルギスの夜相手に敗北したり、戦闘に時間がかかりすぎて街そのものが壊滅してしまったりする。
…長期戦の末ワルプルギスの夜が去るまで戦い抜いたものの、戻ってきて見たものが家族の死体にすがりついて泣き喚くまどかと隣で待つ白いケダモノだった時は、無言で時を戻したものだ。
時間遡行者である暁美ほむらにとって、その望む結末に至るために最も足りないものが時間であるというのはなんという皮肉だろうか。
それだからこそ、神野陰之によって生じる時間の余裕はほむらにとって重要なものだった。
「私はこれから転校までの間、この街を離れて武器を調達に行くわ。
あなたが言ったこと、確かめさせてもらうわよ」
ほむらは覚悟を決める。
目の前の魔人に頼るのならば、最大限利用させてもらおうと。
転校までの間、まどかたちに何かが起こるというのは統計的にありえなかった。
何もしなければまどかは猫を助ける為に魔法少女になるが、その猫の位置も引き取り先も以前のループで把握している為、出かける前にその可能性は排除できる。
それ以外で魔法少女になる事もあったので長期間離れることはできていなかったのだが、理由自体は大したことのないものだったため、神野の言う事が正しければ守護を突破することもないだろう。
そこでこの期間は神野に任せて装備を充実させることに専念する。
もし神野が役に立たなかったとしても、早くにそれが判明したならば別の策を練ることもできる。
大量の兵器が集まるだけでも、それはそれで力なのだし、最悪でももう一周する覚悟を決めればよいだけの話だ。
そんなほむらの魂胆はとっくに見透かされているのだろうが、神野はドアを指差し、舞台の開幕を告げるように言葉を紡ぐだけだった。
「行きたまえ、君の願望のままに」
―――
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そしてつい昨日までほむらは見滝原を離れて武器を調達していた。
神野の言うとおり、どんなに時間停止を駆使してもソウルジェムが濁ることはなかった。
能力のほうは信用してもよさそうだが、あの暗黒そのものの存在が近くにいてまどかに悪影響がおよんでいないかが心配だった。
そしてその心配は現実のものとなる。
「暁美ほむらです。よろしく」
自己紹介の際、こちらを見たまどかがあからさまに怯えた目をしていた。