【完結】魔法少女奇譚   作:ふーま

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少女達の出会い

「鹿目まどか。貴女は自分の人生が、貴いと思う?

 家族や友達を、大切にしてる?」

 

「え、えっと、大切だよ。

家族も、友達の皆も大好きで、とっても大事な人たちだよ」

 

「本当に?」

 

「本当だよ。嘘なわけないよ」

 

「そう。もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないことね。

 さもなければ、全てを失うことになる。

 あなたは、鹿目まどかのままでいればいい。

 今までどおり、そしてこれからも」

 

―――――

――――

―――

 

これがいつもの時間軸におけるほむらとまどかとの最初の会話におけるやりとりであった。

まどかを魔法少女にしないがため、ほむらは警告を行うのが常であった。

例えその声が届かなくとも、自分を卑下し変わろうとしてしまうまどかを前にしては声をあげずにはいられなかったのだ。

 

だが、今回はその警告が発せられることはなかった。

 

 

 

 

 

どうしてこうなってしまったのか。

授業を受けながらも、ほむらは上の空だった。

自己紹介の際、自分を見たまどかが怯えた表情をしていたことについてだ。

 

(やはり、神野陰之に任せきりにしたのはまずかったかしら)

 

まあ原因には心当たりがある。

いくらほむらに利する存在であっても、あれは闇そのものだ。

いくらあのインキュベーターから守護するためとはいえ、あんなものを普通の女子中学生の側に置いていて何も無いと考えるほうがおかしい。

自分の願望の都合上、直接何かあったとは考えがたいが、恐怖体験でもしたのだろう、とほむらは考える。

しかもその中に自分が悪い役で出ていたようだ。

 

(私はまどかにそんなことしないのに…)

 

もっとも、かつての時間軸では警告の唐突さや断定的すぎる言葉遣いがまどかを怯えさせていたことをほむらは気づいていないのだが。

つらつらとそんなことを考えていると、ほむらが集中していないのに気づいた教師に当てられてしまう。

普通ならあわてふためくところだが、ほむらはスイスイと問題を解いてしまう。

周りからは驚きの声が上がり、熱い視線がほむらに向けられるが当の本人の頭の中ではまどかとどう接触するべきかという考えが続いているだけだった。

この一ヶ月を延々と廻り続けるほむらにとっては、その間の授業範囲ならば数学の証明すら片手間でやれるほどになっていたのだ。

 

 

休み時間。

前の授業で下手に実力を披露してしまったため、ほむらの周りには多くの生徒が群れていた。

そんな姿を見ながら、まどかは今朝の夢のことを考えていた。

ただの夢、そう思いたい。

だが、その中で怪物と戦っていた少女はほむらにそっくりだった。

そして…思い出してしまう。

大切な家族や友達が肉塊に崩れていく姿を。

 

(こんな状態で暁美さんと話すことになったら何を話せばいいんだろう)

 

まどかは悩んでいた。

転校初日で初対面の人間に怯えられるなど、それ自体がトラウマになってしまいかねない。

とはいえ、彼女の顔を見て、今日のトラウマレベルの夢を思い出すなというのも無理な話だ。

 

(できれば、今日は話すことがなければいいなあ)

 

明日なら、顔を合わせて話せるくらいには落ち着くだろう。

だが、そんなまどかの願いもむなしく、唐突にほむらに声を掛けられる。

 

「鹿目まどかさん。貴女、保険委員よね?

連れていってもらえるかしら…保健室に」

 

 

 

 

 

「あ、暁美さん、こっちだよ」

 

まどかはぎこちなくほむらを案内する。

ほむらに動揺を隠そうとするあまり、他の動作もおかしくなっている。

周囲では美貌のほむらに対してざわめきが起こっているが、その中心の二人はほぼ無言で歩く。

 

「鹿目さん、大丈夫?

 私が言うのもなんだけど、あなたの方が保健室で休んだほうがよいのでは」

 

先に折れたのはほむらだ。

いつもの時間軸ならば沈黙に耐えられないのはまどかのほうで、なぜ自分を保険委員だと知っているのかなどとまどかが質問してきて、お互いの名前の話などになるはずだった。

だが、このまどかにはその余裕がないようだ。

原因が自分にあるであろうという負い目や、また、まどかの苦しむ姿を見たくないという想いから、できるだけやさしく声を掛けてみる。

警告なんてしていられる雰囲気ではないと、流石のほむらも感じていた。

 

「え、ああ、ごめん。

 私なら大丈夫、気を使わせちゃったかな。

 保険委員だってのに、これじゃ失格だよね」

 

えへへっ、と笑いながらまどかが応えるが、無理をしているのを隠せない表情をしていた。

だから、ほむらは優しく気遣う声を掛けてみた。

原因を知っているのに白々しいと自らを卑下しつつ。

 

「いいえ、そんなことないわ。

 ただ、あなたは無理をしているように見えたの。

 私を見たとき、驚いたような顔をしていたし、何かあったのなら話を聞くわ」

 

「ああぁ、あれはね…」

 

まどかはいかにもばつの悪そうな顔をして、ためらいながらも声を出す。

 

「今朝、怖い夢を見ちゃったの。

 その中に暁美さんによく似た人がでてきて、それで暁美さんの顔を見てその夢を思い出しちゃっただけなの。

 ごめんね、初対面なのにいきなりこんな話しちゃって、おかしいよね私」

 

まどかは正直に話すことを決めた。

たとえ自分が変に思われても、自分のせいで暁美さんが転校生活に不安を感じるのはいやだったのだ。

それに、嘘を言ったところで隠し事をし通せる自信はなく、それは余計に暁美さんを傷つけると思ったからだ。

 

「そんなことないわ。

 話しづらいことを話してくれてありがとう。

 それはただの夢よ。

 こんな可愛い子を怖がらせるなんて、夢の中の私は何をやっているのかしらね」

 

まどかを励ますように、ほむらはにっこりと笑ってみる。

だが、それはちゃんと笑えているのだろうか。

まどかを救うため一人で戦い続けると決めて距離を置いてきた。

この大切な友人に微笑みかけたのはいつが最後だっただろうか。

歪な笑顔になっていないだろうか、またはその妄執から魔人と同じく嗤いに堕ちてはいないだろうか。

ほむらの微笑にまどかが恐怖したなら、ほむらの心は絶望に染まっていただろう。

 

「ありがとう、暁美さん」

 

だが、まだほむらは笑うことができたようだ。

まどかも笑顔で返してくれた。

いつもの初めの接触においては、暁美さん、という他人行儀な呼び名や戸惑うまどかに距離を感じてしまい、ほむらは胸を締め付けられる思いに駆られていただろう。

そうすれば、ほむらはそのあふれんとする思いを抑えつけるために、突っぱねるような口調になった挙句、端的な警告のみを残して去るしかできなかっただろう。

ただ、笑顔と共に呼ばれたなら、呼び名など大したものに思えなくなる。

ゆえに、ほむらは穏やかな口調で返すことができた。

 

「ほむらでいいわ」

 

「じゃあわたしも、まどかって呼んで。

 よろしくね、ほむらちゃん」

 

まどかは手を差し出す。

その笑顔からは、だいぶ影が薄れたようだ。

 

「こちらこそよろしく、まどか」

 

ほむらも笑顔を浮かべその手をとる。

ちゃんと笑えているか不安になりながらも。

お互いぎこちなさの残る笑顔ではあるものの二人の物語は再び交わり始まった。

 

まどかは、夢のことを打ち明けてもほむらが引いたりしなかったので安心していた。

そして、教室ではまだ誰も見ていないであろうその笑顔を見ることができてうれしかった。

そう、あれはただの夢だ。

新しい友達ができた、そのうれしさが闇を晴らしてくれた。

また、ほむらのほうも、何時ぶりか分からなくなってしまったが、またまどかと近づけた喜びをかみ締めていた。

 

 

 

 

 

「あははは、それが二人の馴れ初めか~

 悪夢から始まる恋物語ってねー。

 二人に電波がずびびってかー」

 

放課後、喫茶店にて鹿目まどか、美樹さやか、志筑仁美、暁美ほむらの四人がテーブルを囲んでいた。

大笑いしながら冒頭のセリフを吐いたのはさやかだ。

まどかは赤くなっておろおろしており、ほむらは憮然としている。

仁美に至ってはその二人を見てニコニコと笑っている。

お互いの自己紹介から、取り留めのない話をする中で、うっかりまどかが昼の出来事を漏らしてしまったのだ。

それにさやかが食いつき、それからはその話で持ちきりになってしまった。

そうしてお茶会が終わる頃には、上機嫌な二人と、恥ずかしさや怒りでむすっとした顔の二人が出来上がっていた。

ほむらにとっては心労が重なりまだ気づいていなかったが、彼女達の距離は間違いなく縮まっていたのは確かであった。

 

 

 

 

 

お茶のお稽古に行くという仁美と別れ、まどか達は街を歩いていた。

さやかのおせっかいで、今日はほむらに街を案内することになっていた。

 

「なあなあ転校生~」

 

「ほむらでいいって言っているでしょう、美樹さやか。」

 

ほむらにさやかが絡み、ほむらは未だ憮然とした表情で返す。

喫茶店での恨みがまだ残っていたのだ。

 

「あ、ごめん。

 ってあんたも私のことフルネームで呼んでるじゃない。

 まどか相手みたいにさやかって呼んでよ」

 

「二人の仲を笑っておいてそれはないんじゃないの、美樹さやか」

 

「あ、また~」

 

まどかの眼前ではさやかがほむらに絡んでいる。

 

(ほむらちゃんも大変だな~。

 それにしてもさっきのさやかちゃんは笑いすぎだったよ。

 こんなのってないよ)

 

まどかも先ほどさやかにからかわれたことを根に持っていた。

今日はとことんほむらちゃんの味方をしてやる、と思いほむらを援護しようと口を開いたそのとき、

 

(助けて、まどか)

 

まどかの耳にどこからともなく声が響いた。

声変わり前の少年のような声だ。

あたりを見渡してみるが、それらしき人物の姿は見えない。

それどころか、隣を歩くさやかとほむらには聞こえてすらいないのか、まるで反応を見せない。

 

(助けて…)

 

再び声が聞こえてくる。

その声は、絞りだすようにか細く、助けを求めていた。

 

「どこ、誰なの?

 待ってて、今助けに行くから」

 

まどかは助けを求められて放っておけるような性格ではなかった。

突き動かされるような衝動に心をとられ、さやかとほむらを置いて走りだしてしまう。

だが、冷静になって考えれば、その現象のおかしさにと気づけただろう。

 

なぜ、自分にだけ声が届くのか?

なぜ、自分の名前を知っているのか?

なぜ、言ったことのない場所なのに、声の主のいる場所が脳内に映し出されるのか?

 

最も、彼女がこれらのことに不安を感じ、足を止めてしまうような少女だったのなら、この物語、暁美ほむらの戦いは始まりすらしなかっただろう。

鹿目まどかの持つ他者への共感と思いやりは、自分自身の保身などを追いやってしまうものであり、ほむらもそれに助けられたからだ。

 

「どうしたの?まどか」

 

(まさか…)

 

いきなり走りだしたまどかに驚いてさやかが声を上げる。

ほむらも驚いていたが、それはまどかの奇行に対してではない。

インキュベーター、魔法少女を勧誘するモノ、そいつがまどかを呼んでいるのだということにはすぐに気づいた。

彼らは魔法少女及びその素質があるものに対してテレパシーを使うことができるのだ。

だが問題は、インキュベーターがまどかに助けを求めたことだ。

いつもの時間軸ならば、まどかとインキュベーターを遠ざけるため、ほむら自身が狩りを行っていたため、インキュベーターがまどかに助けを求めることも考えられただろう。

しかし今回の時間軸ではほむらは狩りを行ってはいない。

そもそもこの街の魔法少女、巴マミはインキュベーターと良好な関係を気づいているはずだった…それが無知から来るものだとしても。

まるで心当たりが無い上、神野陰之の守護を越えて両者が接触してしまうことは、ほむらを焦らせるには十分だった。

 

「待って、まどか!」

 

「っ!

追いかけましょう」

 

まどかを追い、駆け出したさやかを見てほむらも思考の渦から再起動を果たして後を追った。

 

 

 

少女達の出会いは最初の印象にも関わらず良好なものではあった。

しかし、暁美ほむらの願望にも関わらず、この時間軸でも少女達は魔法少女の物語に巻き込まれることになる。

 

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