いのちの天秤   作:アサルトゲーマー

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母とデコイ

 システムに沿って生きるのは楽だ。だって何も選択しなくていいから。

 でもそれは生きていると、本当に言えるのだろうか?

 

 

 そんなことをふと考えた。

 

 

 

 私はマザー。人類を再生させるための権限をもった、最も上位のシステム。その一つだ。

 名はカオン。

 

 マザーは三体存在する。

 「セラ」はシステム自体が存在する人工衛星「ヘブン」を管理。

 「ユーナ」は人類再生プログラムが介入する先である地上を管理。

 そして私、「カオン」は、「セラ」「ユーナ」の二体に何かがあった時のための予備である。

 

 しかし予備だからといって仕事が無いわけではない。地上の管理はデコイが山ほどいるから間引きも大変だし、近頃は「マスター」のわがままでイレギュラーが増えつつある。

 ヘブン側の管理も、山ほどいる戦闘員にあれやこれやと指示を出したり、外壁やトラップのメンテだったり、システムの更新だったりと、暇なんてありはしない。

 だが、楽だ。マニュアルに沿ってセラ、ユーナに指示を仰ぎ、その通りに動くだけ。そこに何ひとつとして不確定は無く、ゆえに選択の機会は訪れない。

 

 しかしそんな日常に、罅が入る出来事があった。

 それは、私がセラ、ユーナと顔をあわせて会議をしていた時の事だった。

 

 「セラ」。マザー0。褐色の肌に緑のショートヘア。美人。そして少女。

 「ユーナ」。マザー1。褐色の肌に緑のツインテール。美人。そして少女。

 そして私「カオン」。マザー2。褐色の肌に緑のポニーテール。美人。そして少女。

 

 どうして少女にマザーなんて名前をつけた?

 それともマザーだから少女にしたのか?

 

 我々の造形に疑問を持った罰でも当たったのか、不意に謎の単語が頭を埋め尽くす。

 

 「ピンハネ」

 「トロンさま」

 「エデン」

 「三等市せい官」

 「システム史上最悪のイレギュラー」

 「コブン」

 「タコ焼き作ろうと思っただけなのに」

 「ロールちゃん」

 

 聞いたことが無いはずなのに、懐かしい響きの奔流。そしてそれに紐づけされた記憶が引き出され、理解してしまった。

 私は「ロックマンDASH」という名の創作物の中に居る、と。

 これが何者かに差し込まれた記憶なのか、はたまた転生などといったオカルトな出来事かは判断できない。

 だが、ひとつだけ判ることがあった。

 私は選択の機会……いいや、義務を与えられたのだ。

 

 このままシステムに従って生きてゆけば、そのうち最後の人間マスターは死に、その最期の願いによりトリッガーがイレギュラーと化し、セラは封印され、ユーナは地上から帰ってこなくなる。つまりヘブンは活動を停止する。

 

 そこで重要になってくるのが私の立ち位置だ。

 

 今まで通りセラに従い、システムとヘブンを守るか。それともトリッガーに与し、システムとヘブンを破壊するか。

 はたまたマスターのわがままを阻止し、私と共に無味乾燥な日々に縛り付けるか。ユーナと肩を並べて事態を静観するか。

 

 四つの選択肢。私はどれを選べばいいのか。

 

 まず事件の起点となるマスターの死。これは私にも気持ちがわかる。

 ただ生きているだけの、何のために生きているのかもわからない人間が、自身と引き換えに、子とも言える未来ある存在にバトンを渡せると知れば、そうもなるだろう。

 私はこれを阻止しない。そう選択した。

 

 では次の、未来を託されたイレギュラー、ロックマン・トリッガー。

 彼はシステム側の人間だが、マスターの願いによりシステムより離れ、一等粛清管という高い権限と戦闘力で「人類再生プログラム」を破壊しようとする。

 人類再生プログラムは、今地上に居る人間に似た機械生物「デコイ」を文字通り一掃して、ヘブンに安置された情報で人類のクローンを作成、置き換えるというものだ。

 しかしマスターはデコイを愛してしまった。そしてトリッガーは、マスターの世話役で、だからこそシステムの中で最もデコイに近かった。

 つまるところ、絆されたのだ。

 莫迦だ。愚かだ。なれど一時の感情に身を任せたことのない私にとって、何よりも羨ましい。

 

 ………。

 

 私はこれを阻止しない。そう選択した。

 

 

 

 

 ではセラの側について、いままで通りシステムに殉じるのか。

 システムに沿って生きるのは楽だ。だって何も選択しなくていいから。

 

 だがマスターはどうだった?未来のために死を選択した。

 ではトリッガーは?マスターのわがままを叶えるため、自らの意志でシステムに反逆した。

 そしてユーナ。彼女はシステムにもトリッガーにも付かなかった。しかし彼女はシステムの穴を突いて、デコイの肩を持った。

 最後にセラ。彼女は最初からシステムとして生きることを選択していた。マスターの遺志を知り、そしてトリッガーへの妬ましさを自覚する最期の瞬間まで…。

 

 私は今まで何から何まで他人任せだ。システムに沿って生きているのもその延長。

 なれば、この選択以外を選びたい。

 

 

 

 ではユーナのように傍観するのか。

 

 否。それでは私は本当に何もしてないことになる。あれは地上の管理人ユーナだからこそ傍観する価値があるのだ。

 彼女が抑止力となり、他のシステムの僕たちを抑え込み、情報統制を行う。地上にもヘブンにも権限を持たない私では何の価値もないのだ。

 

 

 

 何を選ぶべきなのか。どれも選べない私は、ひとつ振り返ってみることにした。

 今上げた選択肢は、私のできる事。では、私のやりたいことはこの中にあるか?である。

 

 答えは、否。

 

 私のやりたいこと。好きなこと。それは何だろう?

 

 「マスター」の笑顔?違う。

 「セラ」の労い?違う。

 「ユーナ」の友誼?違う。

 「トリッガー」の感謝?……違う。

 

 

 トリッガー。羨ましいやつだ。マスターに愛され、システムへの叛逆に成功する男。

 流されるままの私とは真逆の、思うがままに生きるイレギュラー。

 

 妬ましい。嫉ましい。怒りが湧いてくるほどに。

 

「あいつの想いを打ち砕ければ、どれだけ愉しいことだろう」

 

 そんな、いままで露ほども考えた事のなかった恨み言が溢れ出す。

 

 ………ああ。わかった。私が真に望む事が。 

 

 

 

 私は、トリッガーの情けない姿が見たい。

 例えば、後悔に打ちひしがれ、理不尽を前にくずおれるような。

 

 そして一つの計画を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決意してから数年経った頃。セラからマスターが亡くなったと知らされた。そしてトリッガーがシステムに反逆したとも。

 私は万が一の時のために残る。そう伝えてセラを送り出した。結末は分かり切っているから、騙すことは容易かった。

 システムの者は嘘を吐けない。だが、伝える情報を故意に絞り、勘違いさせることはできる。未来でセラがやったように。

 

 ヘブンのコンソールで地上を覗き見する。そして記憶通り、二人は相打ちになった。セラは地上に封印され、トリッガーは修復不可能なまで傷を負い、初期化。

 その影響で記憶を失くし、赤ん坊になったトリッガーがユーナに連れていかれるのを見て一息つく。

 

 セラの封印によってシステムはダウン。ヘブンでできることはない。予備である私がマザー0となれば話は別だが。

 しかし、私の記憶通り、()()()()()()()()()()()。なのでその場を後にする。ここからが正念場だ。

 

 

 

 

 

 

 後にニーノ島と呼ばれるべき島。私はそこに足を踏み入れた。

 ユーナは確実に、ここにロックを隠した。

 

 彼はすぐに見つかった。赤ん坊のトリッガー。

 真っ白で穢れの無い、ロック・ヴォルナット……。

 

 私はお前の良き友になろう。

 

 私はお前の良き姉になろう。

 

 私はお前の良き(マザー)になろう。

 

 そしてセラが目覚め。ヘブンのシステムを再び活性化させた暁には。

 

 私はシステムとして、デコイとお前を排除する。

 

 だから、デコイと私を天秤にかけてくれ。 

 

 マスターとお前が愛したデコイか。友にして姉にして母である私か。

 

 どちらを選ぶ?どちらを殺す?

 

 そしてお前は必ず後悔する。その情けない姿を見せてくれ。

 

 

 

 

 

 私はきっと、笑っていただろう。

 

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