あの任務を終えてから一週間程が経過した。
その間、アレックスは護送任務や近辺の探索などの依頼を受け、特に何事も無く遂行していった。
空いた時間には暇つぶしに射撃訓練などに参加をして、この世界の兵器などの触り心地を確かめていた。経験は無くとも、「記憶」があるため結果は悪くは無かったようだ。
今日も彼は訓練所へと足を運び、練習を始めようとしていた。
「また訓練をしているのか、見た目に似合わず熱心だな」
「ドクターか...何の用だ」
「いや、なに...実力でも見せてもらおうかと思ってな」
「そうか」
アレックスはハンドガンの装填を済ませると目の前の的に狙いを定め、引き金を引く。
訓練所全体に発砲音が一定のリズムで鳴り響く。
最後の薬莢が吐き出され、スライドが後ろに下がった。
「...なるほど、経験が浅いと聞いていたのだが...これなら銃を扱うオペレーター達にも劣らないだろうな」
「そうか、それなら実戦でも問題は無さそうだ」
「だが、なぜ銃の訓練を?君の持つ力なら銃を持つ必要は無いだろう?」
訓練を終え、片付け始めたアレックスはその手を止めずに返答する。
「いつ、なにが、どんなことが起きるか分からない。手札は多ければ多いほど良いだろう」
「なるほど...用心深いんだな、君は」
「事が起こった後じゃ、全てが遅い」
「...ああ、そうだな...そろそろ仕事に戻るとする、邪魔をしたな。アレックス」
「ああ、じゃあな...」
「...あ、あの...」
散らばった薬莢を片付けていると後ろから少女の声が聞こえ、アレックスは振り返った。
「は、初めまして!わたしはBSW所属のジェシカです!」
「...アレックスだ、何か用か?」
「いえ、その、先程のドクターさんとやっていた射撃訓練を影で見させてもらっていたのですが...あの、銃の経験が浅いというのは本当ですか?」
「...ああ、それは確かだ」
「ど、どうしてあそこまで高い精度で撃てるのでしょうか?何かコツのようなものが?」
「...自分の中にある記憶を頼りにしている、それだけだ」
「記憶...?」
「ああそうだ...悪いが、これはコツのようなものなんかじゃない...俺が持つ能力の、その一部に過ぎない」
「そ、そうですか...」
ジェシカと名乗る少女は笑顔を保っているが、とても残念そうにしているのが分かった。
「...ジェシカ、といったか?」
「っ!はい!なんでしょうか?」
「お前の射撃の腕を見せてほしい」
再び、この空間に銃声が響く。
先ほどアレックスが行っていた射撃とは違い、射撃の間隔は遅い。
「......っ、はぁ〜...」
マガジン内の弾を全て撃ち切ると、ジェシカは息を吐き出す。
「ほぼ全てが頭部の、それも確実に相手を仕留められる場所を貫いている...良い腕じゃないか」
「...あ、ありがとうございます!...ですが、その、私どうしても実戦で上手くいかなくて...」
「...どういう意味でだ?」
「部隊での作戦の時、敵と味方が入り乱れることが多いんです。その援護を任されるのですが...その、もし味方に当たってしまったらと考えると、狙いが上手く定まらなくて...」
「...なるほどな」
不安が原因...いやそれだけじゃない、自信の無さがそれを助長させてしまっているのか。
銃を扱う者に失敗は許されない、誤射だろうがなんだろうがもし当たってしまえば命を奪ってしまう可能性は高い。
...彼女くらいの歳で、その決意を固められるのかといえば、普通なら無理だろう。だが兵士として生きるからには、最低限度としてそれは必要になってしまう。
...ならば
「次の、戦闘が起こりそうな任務はいつだ?」
「え?えっと...3日後に、危険区域へ向かう任務が...」
「そうか...ならその任務に、俺が同行しよう」
「え?それは、なぜ...あっ...」
アレックスさん...い、行っちゃった...
アレックスはドクターのいる執務室へと足を運び、扉を開けた。
「ドクター」
「ああアレックス、先程ぶりだな...一体どうしたんだ?」
「3日後の危険区域へと向かう任務だが...俺も同行させて欲しい、頼めるか?」
アレックスの要望を聞いたドクターは、フードで表情は分からないが驚いたような挙動をする。
「どうしたんだ突然に...?」
「...個人的に、少しやりたいことがあってな...どうだ?」
「うーむ...何を考えてるのかは分からないが、そうだな...わかった、任務に配属されるメンバー達にも連絡を入れておく。行ってくるといい」
「助かる」
今やることは全部済ませた。
...さて、迷える子猫の案内をしてやるとするか。
次回はジェシカちゃんの教育タイム(深い意味は無い)です。