ドラえもん「のび太くん、僕を殺してくれ」   作:テスタメント

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彼殺願望杯参加作品です。
台本形式です。


ヒューマンエフェクト

のび太「ドラえもん……」

 

ドラえもん「僕はもう嫌になったんだ。この戦乱の世が」

 

ドラえもん「よくよく考えれば当然のことなんだ、ひみつ道具の中には当然戦争に使用できるものがある。地球破壊爆弾やゴルゴンの首がその最たる例だ」

 

ドラえもん「今の今まで、ひみつ道具は国際条約によって戦争などの用途には使用できなかった。僕らのような猫型ロボットの認証を得なければ、ひみつ道具はただのガラクタと大差ない」

 

ドラえもん「でも、とある国が何らかの方法でその認証を罷り通らせた。人間製造機によって作成されたミュータントたちは体内に爆弾を埋め込まれ唯一の『自己思考能力』を廃棄させたミュータント、国連軍がようやく倒せたそれが今の情勢に加わればどうなるのかは火を見るより明らかだ」

 

ドラえもん「この世の中は全面戦争に突入し、未来デパートは戦争屋と化して、ひみつ道具を嬉々として量産し続けている」

 

ドラえもん「でも、こんなのが僕らの見たかった世界じゃないはずだ。そうだろ、のび太君」

 

のび太「……僕が、僕がひみつ道具なんて作らなければこんなことにはならなかったんだ。ドラえもん、やっと君を取り戻すことができたのに……それなのにこんなのって……あんまりじゃないか」

 

のび太「ジャイアン、スネ夫、出来杉君、しずかちゃん、セワシ、みんな戦争に巻き込まれていなくなってしまった。残ったのはもう僕らだけなんだ」

 

のび太「子供の時にはあれだけ使えたタイムマシンも、今は使用を物理的に禁止されてる」

 

ドラえもん「仕方ないさ、今の未来デパートにとって他のひみつ道具に比べて時に干渉できるタイムマシンは人の手にあまる代物。この戦争の歴史を改変されでもしたら今までの利益が水の泡だ。

 

 なにより、もう死んだことにされてる君がなにをなそうと歴史の修正力が働くから無駄だ。未来デパートは君のことなんてゴミとしか思っていない」

 

のび太「でもだからって、ドラえもんが停止する必要なんてない!」

 

ドラえもん「……それは違うよのび太君。未来は確定されたものじゃない。君がジャイ子と結婚する未来もあれば、今のようにしずかちゃんと結婚する未来だってある」

 

ドラえもん「このひみつ道具に見覚えはないかい? 君なら覚えてるはずだよ」

 

のび太「これは……タイムマシン……? でもどうしてこんな引き出しに偽装させるように……まさか!?」

 

ドラえもん「そう、これは僕らが持つ唯一の希望なんだ。おそらく、まだ回収されてない最後の一つ」

 

ドラえもん「のび太くん、これから君には()()()()()()()()()()()()()()。」

 

ドラえもん「でもこのタイムマシンには起動させるほどの電力が残っていない」

 

のび太「じゃあどうしようもないじゃないか。それって太陽発電でしょ? 太陽発電なんて、いつも暗雲しかないこの世界だと無意味―――」

 

ドラえもん「……僕の電力を使う。一回程度なら、動くはずだ」

 

のび太「……え? そ、そんなのいやだよ。君はもう一回でも機能が停止すれば記憶データがすべて、消去される。それだけはダメだ。

 

 そうだ、ドラミは? ドラミなら……」

 

ドラえもん「僕に全ての電力を託して機能停止した。ドラミから僕へ、僕から未来へ。……わかってくれないか、こんな世界、あっていいはずがない」

 

ドラえもん「考えても見てくれ、バタフライエフェクトを、

 

 蝶の羽ばたきが大きな竜巻を起こせるんだ。とるに足らない小さな虫すらそんなことを起こせるんだ。

 

 それなら、人間にはそんな竜巻よりも更に大きなことができるに決まってるじゃないか」

 

ドラえもん「人間には無限の可能性が詰め込まれている。君ならできる。君にはそれを決断できるほどの男だと自信をもって言える」

 

のび太「でもこんなのって……もっと他に方法があるはずだ一緒にそれを模索して―――」

 

ドラえもん「――のび太君!!! これしか道はないんだ!」

 

ドラえもん「道を選ぶというのは必ずしも、歩きやすい安全な道を選ぶってことじゃないんだぞッ!!」

 

ドラえもん「僕はこれから最後の調整に入る、これから10分後に君はこのスイッチを押してくれ。その前に……タイムふろしき~!」

 

のび太「うわっ! なにをするんだ!」

 

ドラえもん「これで君の歳をセワシの頃まで戻した。向こうののび太くんにはバレないはずだ」

 

ドラえもん「ボタンを押すのは君だ。君の手で殺させてくれ。そうすれば僕の電力は全てタイムマシンに移される。これは君の選ぶ道なんだ。わかってくれ……すべて、君のためなんだ」

 

のび太「ちょっ、ちょっと待ってくれよドラえもん! おい! ドラえもーんッッ!!」

 

ドラえもん(……わかっているさ、僕もこんな方法は使いたくはない。でもこのボタンを押すことができなければ、苦しむことになるのはのび太くんなんだ。覚悟を決めてくれ…)

 

 

 

のび太(あれから五分、ドラえもんは姿を現そうとはしない。当然、僕もこのボタンを押す気は毛頭ない)

 

のび太(ドラえもんはいつも勝手だ。突然理不尽なことを言い始めたと思えばもう作戦を開始している)

 

のび太(………それって、僕のことじゃないか)

 

のび太(僕はいつも無力だった。ジャイアンやスネ夫にいじめられても、ドラえもんが現れるまでは何一つしてこなかった。いざドラえもんが現れたら道具にいつも頼り切りだった)

 

のび太(無価値で、脆弱で、理不尽な僕を母はいつも叱っていたけど、それでも一番に僕のことを考えていてくれた)

 

のび太(父は、いつもお人好しで子供に金をせびるような情けないような人だったけど、怒るべきところでしっかりと怒ってくれた)

 

のび太(ドラえもんは、いつもそんな僕を見ても何もしてこなかった。

 道具をなるべく貸さないようにして、子供の僕はそれにいつも憤慨していたけど、それでもドラえもんは陰で見守っていてくれた。本当に解決できないようなことなら必ず手を貸してくれて、自分で解決できるなら傍観を貫いていた)

 

のび太(……もう残り一分か)

 

のび太(今回は……僕じゃとても対応できない問題に直面している。ドラえもんはそれに手を貸した。自身を犠牲にしたとしても……)

 

のび太(……なら、それでいいじゃないか)

 

のび太「……時間だ」

 

のび太(僕はどうしようもないバカだ。だから愚直に、それに従うしかできない

 

 それでも、それでもだ。僕はこの選択が、決して愚ではない……と思う)ポチッ

 

のび太(そうだろ……ドラえもん)

 

 

 

 

 

 きっと、誰しもがタイムマシンを持っているんだ。

 

 

  未来を切り開くための、タイムマシンを、だ。

 

 

 だけど、僕が身を持って体験したように、未来に進めず閉じ込められてしまうこともある。

 

 

 もっともらしい理由があるならばなおさらだ

 

 

 痛い、つらい、苦しい、他人に理解されない、恥ずかしい、みっともない、どうしようもない

 

 不安や恐怖で未来への一歩を踏み出せなくなってしまうかもしれない

 

 

 だけど、大事なことなので二回言う。必ずどこかに"タイムマシン"はある。

 

 

 

 僕にとってはきっと……

 

 

 

のび太「わあ! 君は一体!」

 

のび太「ようやく会えたね、おじいちゃん。僕はセワシ、そしてこいつが……」

 

ドラえもん「はじめまして、僕ドラえもんです」

 

 

 この選択なのかも知れない―――。




 Q&A


・この世界について
この世界は長年危惧されてきたひみつ道具による戦争が勃発した世界。のび太はこの世界ではひみつ道具の創立者となっている。

のび太の「やっと取り戻すことができたのに」という台詞はドラえもん幻の最終回の世界であることの裏付け。

(幻の最終回:ドラえもん突然機能停止、再起動すればドラえもんの記憶データは削除される。修理のため部品を取りにいこうにもタイムマシンが使えなくなってしまうという世界。最後はのび太がひみつ道具の作成者となり、ドラえもんを修理するというもの)


・タイトルの殺してくれとは?
ドラえもんが死ぬことで未来への活路が切り開くため

・申し訳程度の用語解説
『地球破壊爆弾』
みなさんご存知 地球破壊爆弾。効果は説明するまでもない。

『ゴルゴンの首』
対象を石化させるひみつ道具。解除は一応可能。

『人間製造機』
自宅にある材料で人間を作成できるマシーン。しかし産み出された人間は超能力を持ち、繁殖しようとする、事例の一つには国連軍までをも巻き込む大事件となったものも。

『タイムマシン』
みなさんご存知タイムマシン。いつもはのび太の部屋の引き出しに収納されてる。

『タイムふろしき』
包んだ対象の時間を戻して幼児にしたり進ませ老人にさせるのが可能なひみつ道具。


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