黄昏の王国〜ヒロイン不在の乙女ゲームの世界で私が勇者をつくるまで〜   作:大岡 ひじき

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幕間・誰かの独白

 彼と出会った瞬間に思い出しました。

 わたしが生きているこの世界が、前世でプレイした乙女ゲーム『Born Yesterday〜黄昏の王国』の世界だったという事を。

 元祖はコンシューマーゲームだったそれは時代を経てスマホに移植され、前世でわたしがプレイしたのはそちらでした。

 もっとも、熱中したとは言えませんでしたけれど。

 次々に新しいものが出てくる乙女ゲーム業界において、古臭いゲームだったのもありますが、他にプレイしていたものと比べても、わたし的に攻略キャラがほぼ好みではなかったものですから。

 ……けど、その中で唯一好きだったのが彼でした。

 彼と出会えた瞬間に前世を思い出したわたしは、この出会いを運命と確信したのです。

 

 ……ですが、おかしいのです。

 もしこれがゲームと同じ世界であるのならば、わたしの生家は没落していなければならないのです。

 わたしの家は特別な産出物もないしがない子爵家ですので、あってもなくても世界観は変わらないのでしょうが、そのお陰でストーリー開始前にわたしが彼と出会い、更に婚約者同士となっているこの展開は、明らかにおかしい流れなのです。

 いえいえ、わたしとしては願ったり叶ったりなのですよ?

 ゲームではあのお邪魔虫勇者に何度も邪魔された彼の攻略を、何の苦労もなしに既に終えているのですもの。

 

 …そう、わたしの婚約者は、イエ国の攻略対象キャラなのです。

 彼はわたしよりふたつ年下ですが、子供扱いされるのをとても嫌います。

 わたしとそう変わらない身長にもコンプレックスがあり、子供っぽく見られない為にと服装に気を使ったり身体を鍛えたり、また会話も洗練すべく勉学にも力を入れて、頼り甲斐のある男になる努力を、日々続けてくれているのです。

 そこはゲームと同じで、わたしが彼を好きになったのもそういうところなのですが、大人になれば嫌でもかっこよくなるに決まっているのですから、今はまだ可愛いままでいてくれてもいいのですがね。

 そんな事を言えば拗ねるのが判っているので言いませんけど。

 可愛くてかっこいいのです、わたしの最愛の婚約者は。

 

 設定では、彼の血縁上の叔父にあたる人物が騎士になっていて、それが彼の目には理想とする男の姿であると同時にコンプレックスでもありました。

 故に、彼自身もまた騎士を目指すのが、彼との恋愛ストーリーの開始になるわけなのですが。

 既に婚約が決まっている以上、彼は騎士を目指すことはせず、領地経営の為の勉強をしています。

 わたしも一人っ子なので、本当ならばわたしは婿を取らなければならなかったのですが、父は、早くに亡くした母の親戚から養子を取るあてがあると、わたしが彼のところへお嫁入りする事を許してくれました。

 

 …その、養子縁組の件で、王様の許可をいただきに出かけた父は、そのタイミングで帝国の王城占拠に巻き込まれて、そのまま王族たちと共に城に留められ、人質となっておりました。

 王都のタウンハウスで父の帰りを待っていたわたしは彼に連れ出され、城下が混乱する前に領地に避難することができ、このひと月を領地のカントリーハウスで、王都からの情報を待ちつつ、彼と一緒に過ごしていました。

 …あの、婚姻前ですので神に誓って、不埒な事はございませんでした。

 彼も一緒にうちの領地に居たのは、婚約者のわたしが一人で心細いだろうと心配してくれたからと、あと彼の実家の領地が国境付近である事で、そちらは逆に危険だから帰ってくるなと辺境伯からの伝言が、使者によって伝えられたからだそうなので。

 まあでも、わたしを迎えに来てくれて、領地まで一緒に逃げてくれた彼は、本当に王子様のようにかっこよくて、あくまでも心の中で、抱いてと叫びましたとも。

 

 そして。

 ついに王都から王城奪還の報せが、私たちのもとに届いてきました。

 王女殿下の夫君が犠牲になったものの、他の人質は無事だとのこと。

 使者から渡された父の手紙を読み終えた瞬間、わたしは膝から力が抜けて、倒れかけた身体を彼に支えられました。

 そのまま胸に抱きこまれ、彼の胸元が湿った事で、わたしは初めて自分が、泣いていることに気がつきました。

 

「アドラー、あなたの服を汚してしまうわ。」

 乙女の涙は美しいと言いますが、実際に泣いているとき、流れるのは涙だけではありません。

 わたしが慌てて身体を離そうとすると、彼はますます腕に力を込めて、わたしを完全に腕の中に閉じ込めてしまいました。

 …体格はそう変わらないと思っていたのに、いつの間にこんなに逞しくなったのでしょう。

 

「オレがいちいち、そんな事を気にすると思うか?

 涙でも鼻水でも、全部受け止めるから、安心しろよ。」

 …そのデリカシーのない言い方はどうかと思います。

 けど……幸せです。

 

「……大好きよ、アドラー。」

「オレも好きだよ……マリエル。」

 

 

 今更、ヒロインになんか、わたしはなりません。




マリエル・ビノシュ

本来のゲームのヒロイン。17歳。転生者。
ロングウェーブの黒髪に茶色の瞳。あと貧乳。
ゲームでは神官見習いだったが、ここでは子爵家令嬢。
そもそも神殿入りしたのは生家が没落した為で、その没落をヴァーナが自覚なしに防いでしまった為に神殿入りの理由がなくなったのだが、それが判明するのはもう少し先。



アドラー・ディーゼル

辺境伯令息。15歳。
ゲームでは近衛騎士団に所属する騎士見習いだが、ここでは一応王立学院所属の学生。
声優:岩田アキラ。
ゲームではファルコのブースター的役割を担い、彼と一緒に修行する事でその成長を助けると共に、常にファルコのパラメータのプラスマイナス5〜50までの値をキープする。
婚約を機に領地経営の勉強の為王立学院に通っていたが、婚約者マリエルの父親が王城に捕らえられていた為、王都から彼女を連れ出して2人で彼女の実家に逃げた。
この後、その責任を取る形で結婚が早まる(爆
ダイダリオンの腹違いの姉の息子。
マリエルと婚約したのは、彼女が12歳、彼が10歳の頃。
ゲームでは攻略対象だが、ヒロイン交代の為脱落。



この2人、恐らくはこれ以降、名前しか登場しません。
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