黄昏の王国〜ヒロイン不在の乙女ゲームの世界で私が勇者をつくるまで〜   作:大岡 ひじき

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37・廊下がやけに長い件3

「…確かに父や弟の意見も聞かずに、安易に決めるべき事ではないかもしれませんわね。

 勝手な事を言って申し訳ありません。」

 迷いを見せた緑の瞳を見返しながら私がそう返すと、アローンは明らかにホッとしたような顔で首を横に振った。

 単に知人に会いたいか会いたくないか、ただそれだけの事であっても、口に出してしまえば思いはそれだけ強くなる。

 確認してしまったのは酷な事だったのかもしれない。

 今の彼はシュヴァリエ商会の庇護を得る代償として、己の意志を商会に委ねているも同然なのだから。

 …けど、先ほどの表情の明らかな揺らぎを考えると、ひょっとしたら、既にアローンの意志は、商会のそれとはズレ始めてきているのかもしれない。

 商会の意向はアローンを王族に戻し、ゆくゆくは王座につける事にある。

 それはメルクールが言っていた通り、恩を売った王子を王座につける事が商会の利益となるからであり、彼本人がそれで幸せかどうかは一旦は思案の外だ。

 今は利害が一致しているから商会は彼を保護しているし、ある程度自由に動き回らせてもいるだろうが、アローンが商会の意に反した行動をとれば、父や弟はおそらく平気で彼を切り捨てる。

 父は身内には甘いが、外ではやり手で冷徹だ。

 その面は見事にメルクールにも受け継がれている。

『ゴロー』はアローンの従者でありながら、実は監視役であるわけだ。

 私も、神殿上層部の人間として立場的には中立かもしれないが、シュヴァリエ家の人間でもある以上、彼にしてみたら商会側の筈だ。

 

「…言っておくが、おれはパリスやゴローに、良いように使われてるとは思っていないからな。」

 と、目の前の規格外イケメンがいつの間にか距離を詰めてきており、耳元で囁かれた桜井賢広ヴォイスの、その意味を理解するまでに若干の間を要した。

 

「えっ?」

「すまなそうな顔をしていたから、大方そんなような事を考えてたんじゃないかと思ったが、違ったか?」

 見上げた緑の瞳が細められ、その距離の近さに今更驚く。

 アローンは片手を私の肩越しに壁に置き、その体勢から私の顔を見下ろしている。

 …コレ、私の背中が壁に付いていないだけで、体勢的には『壁ドン』に近いシチュエーションではなかろうか。

 

「あ、あの……」

「シュヴァリエ家はおれにとっては身内だと思ってる……ゴローは言うに及ばず、パリスもテレサもディーナも……勿論、ヴァーナ、貴女の事もだ。」

 身内、ああうん身内だよね。対外的には親戚だもんね。

 というかこの顔面偏差値は眩し過ぎて若干目に優しくないので、少し離れてくれないだろうか。

 

「…やっぱりそうだ。

 貴女が視界にいる間は、おれの世界に色がつく。

 こうして視界いっぱいに貴女を映していれば、すべてのものが色で溢れる。

 その中で一番、貴女の色が鮮やかで…眩しいくらいだ。」

 いや、眩しいのはこっちなんですが。というか。

 

「…まあココ、ランプの真下ですし。

 眩しいようでしたら、少し離れた方が…」

 夜中でも、一度灯せばひと晩保つオイルランプの灯りが、我が家の廊下には灯っており、今私たちがいるのはその真下だった。

 そういえば目が良くないと言っていたし、明るすぎるのが苦手なのだろうか。

 

「そういう事を言ってるんじゃないんだが。

 ……それとも、わざと話を逸らしてるのか?」

「…何を仰っているか、判りませんわ。」

「判らなくていい。

 けど、ようやく決心がついた。

 貴女を得る為におれは王になる。そう決めた。」

「はえっ!!?」

 その唐突な決意表明に思わず声をあげると、アローンは喉の奥でくつくつ笑った。

 

「なんて声を出すんだ。」

「…あのお話は、メルクールがお断りした筈では」

「相応の立場を得てからならば求婚していいと言われただけで、断られてはいない。

 貴女を娶る為ならば、おれは喜んでシュヴァリエに都合のいい王になってやる。」

「いやうちどんな悪徳商人!?」

 そして、まさかの傀儡宣言。

 というか、この時点でゲームのストーリーとは真逆の方向に向かってないだろうか。

 ゲームでのアローンは途中から、王族に戻る事よりも自分の幸せを考えるようになる。

 少なくともプレイヤーの目にそれがわかるのは例の身代わりイベントを消化した後、日常編に戻った時点で必要な愛情値に達していた場合、以降の会話内容がそれまでのパターンから違うものに一新される。

 プレイヤー視点ではそのタイミングでも、アローン視点では実はそれ以前から、思うところはあったのだろう。

 己が心にあるマリエルへの想いが、ファルコではなく自分自身のものであるとはっきり自覚したアローンは、王族としての未来よりも、マリエルと共にある未来を選びたいと彼女に告げていく内容へと変化するのだ。

 …それが、なんで積極的に王位を目指す方向に向かってんの!?

 

「…パリスやゴローには間違っても言えない事だが、正直言えばつい今までは迷ってた。

 少なくとも、12年前に神殿の奴らが危惧した通り、帝国の問題が片付かないうちは、ルイ…王女に次期女王の肩書は絶対必要だから、おれの存在は却って邪魔になる。

 けど、それが片付いておれが王家に戻っても、本当に国が守れるかなんて、やってみなきゃ判らない事だからな。

 そもそも自分の事は二の次にして国の為だけに生きるなど、おれには絶対に無理だ。

 ならいっそ開き直って、おれ自身の幸せを考えることにした。」

 …自分の幸せを求めるという方針だけは一貫してた。

 それなのに目指すものが真逆になるとか。

 私かマリエルか、その違いだけでどうしてこんなに差が出るんだろう。

 そんな事を考えて、思わず固まってしまっていた私の、その反応をどう見たものか、アローンは急に真顔になると、同じ距離のまま私に目線を合わせて、囁いた。

 

「…ヴァーナ。改めて言う。おれの妃になってくれ。」




アローンの話す距離が近いのは単に目が悪いからです。
見たいと思ったものに対しては必然的に顔が近くなります。
けどまさか壁ドン始めるとは書いてるやつも思いませんでした。
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