黄昏の王国〜ヒロイン不在の乙女ゲームの世界で私が勇者をつくるまで〜   作:大岡 ひじき

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38・廊下がやけに長い件4

 …これ、私を殺しにかかってないだろうか。

 というか、さっきまでバアル様のだだ漏れ雄フェロモンにあてられていたばかりだというのに、今またイケメン王子のプロポーズ攻撃に晒されて、今の私は瀕死状態だ。なんて日だ!

 混乱する私を置いて、アローンは何故かその儚げな美貌に不似合いの、少し悪そうな笑みを唇に浮かべる。

 

「アンダリアスに言っていたよな?結婚したいと。

 大勢に慕われるよりたった1人に愛されたい、だったか?

 とにかく独身のまま大神官に祭り上げられて、一生を送るのは本意ではないのだろう?」

「うえっ!?」

 アンダリアスとの会談は後半は酔って記憶が朧げなのだが、その辺はなんとなく覚えてるのだ。

 けど、あれを聞かれていたなんて思わなかった。

 いや、もしかしたらメルクールから聞いたのかもしれないが。

 どちらにしろ赤面モノだ。けど。

 

 …一旦は動揺したものの、その言葉が脳内に落ちた途端に私は冷静になった。

 

「…あなたは、私を愛しているわけではありませんわ。」

 私はアローンの緑の瞳を見返して、言った。

 

「………何故そう思う?」

「…それが真実だからです。」

 そうとしか答えようがなく、私は首を横に振る。

 私は、確かに結婚したいと思っている。

 しかも、互いに愛し愛される相手と。

 アローンの気持ちは現時点ならば、ファルコの心の投影の筈だ。

 だとしたらそれがどれほど強い感情であったとしても、それは子が母親を慕うのと同じものであり、男女の愛ではない。

 それが変化していく事はあるだろうし、実際ファルコとの恋愛ルートはそのようにして進んでいくわけだが、そうなるには今の私たちは、出会ってから日が浅すぎる。

 そして王の約束は簡単に覆してはいけないものだ。

 ここでうっかり頷いてしまって、後でやっぱり違うと気がついても遅いのだ。

 ……というか展開早すぎる!!

 

「…判った。無理にとは言わん。

 だが、よく考えてみて欲しい。

 貴女は現時点でも国を背負ってるようなものだ。

 この戦争が終わった後で、貴女がその立場から解放されるとはとても思えん。

 むしろ『救国の聖女』を、何らかの形でこの国の中枢に縛りつける為に、必死になるのは目に見えている。

 …ならばこの先、王妃として国を支える事になったとしても、重責はそれほど変わらない筈だ。

 むしろ、おれと2人で背負っていく事になるのだから、負担は半分になるぞ?」

 なんというか、私にとっては死刑宣告に近いような事を言いながら、アローンはゆっくりと私から離れた。

 

「おやすみ。近いうちにこっちから会いにいく。」

 そう言って私に背を向け、振り返らずに手を振った彼の、その背中が廊下の曲がり角へ消えたのを確認して、私は知らず止めていた息を吐いた。

 

「うなんな。」

 足元から聞こえた猫の声に反射的に視線を落とすと、こちらを見上げて鳴くブサイクな猫の顔が、やけに心配げに私の目に映った。

 

 ☆☆☆

 

「…本当に今日、神殿に戻られてしまうのですか?

 ヴァーナ様がいらっしゃる間、使用人一同がいつにも増して生き生きしておりましたので、また寂しくなります。」

 朝食を終えて手配した馬車が着くまでの間、支度を終えて居間に待機していたら、バティストが話しかけてきた。

 

「特に料理長が『ヴァーナお嬢様はなにを出しても美味しい美味しいと、たくさん召し上がってくださるから作り甲斐がある』と…あの無愛想な男が、実に嬉しそうに言っておりましたから。」

 …確かに久しぶりに堪能した我が家のごはんはとても美味しかったのだが、大食らいだと暗に言われているのは女としてどうなんだろう。

 けど、滞在中は私の好物ばかり作ってくれた、無骨なイメージの体格のいい中年男性の顔を思い浮かべて、私は思わず顔が綻ぶのを感じた。

 

「こちらこそ、美味しいごはんをありがとうと伝えてちょうだい。

 あなたも、いつも我が家を支えてくれてありがとう。

 今回もお世話になりました。」

「とんでもない事でございます。

 どうかお身体に気をつけて、たまにはこちらに羽を伸ばしに帰っていらしてください。

 ここがヴァーナ様の家だという事を、どうかお忘れなきよう。

 我々はいつでも、貴女のお帰りをお待ちしております。」

 そう言ってバティストは私に頭を下げる。

 メイドがお茶のお代わりを淹れてくれて、彼女にもお礼を言ってカップを持ち上げた瞬間、ふと思い出して、一礼して立ち去ろうとしたバティストを呼び止めた。

 

「そうだわ。ベルナルドに伝えてくれないかしら?

 例の、ショートブレッドの食感のことだけど、粉を混ぜる前に、一度オーブンで焼いてみてはどうかって。

 既に実行していたら申し訳ないのだけれど、これをやることで粉の粘り気が抑えられると、以前…何かで読んだ事があるわ。」

「……!承知いたしました。」

 前世で一度だけ作ってみた事がある、『ポルポローネ』という名で呼ばれていたクッキーが、確かそんな作り方だったと思う。

 実際どうなるかはやってみなければわからないけど、メルクールやベルナルドが求めているものに、あれが一番近いんじゃなかろうか。

 

 ・・・

 

 馬車が着いたと告げられてエントランスに出ると、何故かバアル様が待っており、私に手を差し伸べてきた。

 

「私が戻るついでに、貴女を神殿に送り届けます。

 どうか今しばらく私に、女神の御手を取る栄誉をお与えくださいますよう。」

 そう言われてエスコートされて乗り込んだのは、王宮騎士団の紋章入りの馬車だった。

 どうやら昨日の時点で同じ馬車を帰らせた際に、既に話はついていたらしい。

 ああうん、なんかすいません。




作中でヴァーナが気がつく事がまずない話なのでここで説明すると、アローンは元々のキャラ設定が基本シスコンなので、本来の恋愛傾向としては、年上女性の方に惹かれやすかったりします。
身もフタもない言い方をすれば、マリエルよりもむしろヴァーナの方が好みなのです。
(そもそもだからこそ、ファルコから流れてくるマリエルへの思慕の念に混乱することになったわけで、ヴァーナへのファルコの思慕に対しては、最初のうちは混乱したものの、ヴァーナと間近で接した事で、これなら自分の意思だけだとしても魅力的に感じるだろうと結論づけて『うん、もう全然オッケー』で受け入れちゃいました。見た目は繊細ぽいのに頭の中身は割と単純なんです、このひと)
そこはバアルやダリオにも言える事で、この3人の側からの愛情値の上昇スピードは、ヒロインがマリエルだった場合に比べるとはるかに高いです。
更にダリオとメルクール(待て実弟)は身内ボーナスというか、マリエルの場合と違い最初から信頼度がマックスなので、それも加えて愛情値がファルコと同じくらい上がりやすくなっています。
ヴァーナ的には、協力者が減った事で育成がハードモード化したと思っていますが、乙女ゲー的にはめっちゃイージーモードです。

あと、在庫がなくなりましたのでここから先は不定期更新になります(爆
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