黄昏の王国〜ヒロイン不在の乙女ゲームの世界で私が勇者をつくるまで〜   作:大岡 ひじき

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6・王宮からの使者2

 ゲーム中の騎士バアルは、ダイダリオンと並ぶ大人キャラであるが、ダイダリオンが割とクールなイメージであるのに対し、バアルは裡に秘める情熱家だった。

 

 …そこまで考えて、隣に立つダリオをちらりと見る。

 私が見る限り、クールなイメージの欠片もないこいつは、やはり偽物なんじゃないだろうか。

 い、いや。今そんな事考えてる場合じゃない。

 

「信用されていると…そういう事ですか。」

「不本意ながら。」

 内心の苦々しさを隠し、抑えた声でバアル様が肯定する。

 その様子に大神官様は、ようやく安心したような笑みを浮かべて、言った。

 この方はそろそろ50に手が届こうかという年齢の女性だが、かつて王妃候補として名を連ねていた、その気品と美しさは健在だ。

 ……人遣いの粗さはさておくとして。

 

「この時期に神託が下ったのは、運命だったのかもしれませんね…神官長。」

 ここで私に話を振るか!

 いや、そうだよね。心の声読まれたわけじゃないよね。

 ヒロインが不在で、何故か代わりにその位置に立たされてるのが私である以上、そうなるよね。

 

「控えております、大神官様。」

「勇者殿の様子は、いかがですか?」

「基礎知識はひと通り、形になったかと。

 実戦経験が皆無なのは当然ですが、いまや剣技に関しては、ダイダリオン様のお墨付きです。」

 水を向けてやると、その場の全員の視線を受けてダリオが頷く。

 …幸いにして外面だけはいい男なだけに、その首肯ひとつで皆がどこかホッとしたような表情になる。

 ……一人を除いて。

 

「勇者……?」

 バアル様がようやく顔を上げ、怪訝な表情で呟く。

 

「この国を救うべく地上に降り立った神の子です。

 ひと月ほど前にこの神殿の前に現れ、その日に神託が下りました。

 彼は必ずや、この国に救いをもたらしてくれましょう。」

「神の子…そのような事が…?」

 バアル様は訝しげに問う。さすがに当然だろう。

 国の命運がかかった戦いにズブの素人を投入するとか、常識的に考えてどうなのと私ですら思う。

 けど、ちょっと前までの私の感覚でもそうだったけど、この世界での神託というのは、かなりの重要度と影響力を持つ。

 だからこそ神殿と王宮は同等の権力を持ち、その神託を受ける大神官には、清廉と徳が求められるのだ。

『神託』と言ってしまえば、やろうと思えば国を思い通りに動かし、好き勝手に思いのままに贅沢をする事だって可能なのだから。

 実際、高齢だった前の大神官シオン様の補佐官だった甥のアーレス様は、その地位を利用して不正を働いており…いや、この話は私の自慢になってしまうので今はやめておこう。

 大体、私があの不正に気がついたのは偶然だ。

 

 ちなみにネタバレをすれば、ファルコは天から遣わされた神の子などではなく、遺伝子操作で作られた失敗作を、扱いに困った研究者が捨てていった存在にすぎない。

 その基にした遺伝子が誰のものだったか、彼の正体の秘密はそこに帰結するのだが、それも今はいい。

 ちなみにこの『遺伝子』という概念は前世でのそれとは違い、こちらの世界ではもっと自然魔法的な存在として認識されている。

 もっともその概念すらここ十数年間で確立されたものであり、解明されていない部分の方がまだまだ大きい。

 ある人物の複製を作ろうとして、その遺伝子を上書きした受精卵を急成長させてここまで大きくしたものの、容姿的にまったく違うものに成長してしまった為、捨てられたというのが真相だ。

 しかしそれに対して勇者の神託が下ったのは違えようもない事実だった。

 何も知らないまま生まれ捨てられ、拾われて戦うことを運命づけられた、造られた神の子。

 求めるのはただ、ひとりの少女の愛だけ。

 まったく、何という都合のいい存在だろうか。

 

 ……しかも、現時点でその少女がおらず、その場所に嫁き遅れのオールドミス神官長とか、もう不憫すぎるよね!

 …ん?

 そういえばゲームに登場する大神官は高齢で補佐官の人がおり、名前も顔も出てこないけどセリフだけはある神官長ってのも、確か嫌味な事しか言わない男性だった気がするんだけど…?

 まあ、マリエルが今この神殿に入っていない事で、少し物語の進行にズレが生じているのかもしれない。

 いつ登場するのかは知らないが、マリエルちゃんには出遅れた分、目一杯彼をかわいがり倒して欲しいところだ。

 …話がそれた。

 

「会見には応じたと、あちらにはお伝えください。

 但し、大神官様は心労で臥せっており、代理の者が王宮へ参りますと。

 こちら側への訪問はお断りさせていただきます。

 そして、代理として出向くのはこの私、神官長ヴァーナ。

 更に護衛として、騎士ダイダリオンと、勇者ファルコをその従者として伴います。」

 …ゲームではこれは、例の嫌味な神官長から言い渡される流れなのだが、今はその神官長が私だから、私が言わなければいけないだろう。

 ついでに言えばその時の大神官は、本当に心労で臥せっていた。

 

「決行は明日、正午。

 それまでに、あなたの動かせる人員を、人質の部屋の周囲に配置していてください。

 王族の命を盾にされたら、私たちも動けなくなりますので、その事態を防ぐためです。

 私たちが王宮に入ると同時に、神殿の聖騎士団は、密かに王宮を包囲します。

 私は会談のために護衛である2人と引き離され、事実上人質となるでしょうが、目的はこの2人を王宮内へ送り込むことです。

 王族の身の安全を確保した段階で、2人は王宮に囚われている他の近衛騎士達と合流させ、内と外から王宮を制圧します。」

 …というか、これは表向きの作戦というか、ゲームでも実際にこの作戦で王宮の奪還に向かう流れだが、実際にはこの通りには進まず、事前に予測不可能な不確定要素により勝ちを拾うことになるのだが。

 

「しかし神官長、それではあなたの身が…!」

「ある程度、神殿の中でも重要な地位の者が出向かなければ、向こうも納得しないでしょう?」

 ゲームでのマリエルは、神官長代理という即席の肩書きをつけられてやっとのところだった。

 その点で私は本物だから説得力は増す筈だし…何より、マリエルの時にはあった身の危険は、私には恐らくは、ない。

 王城を制圧している軍を率いているアンダリアス将軍という男…なんか、前世で好きだった某少年漫画に敵として登場した組織の副将みたいな弁髪隻眼脳筋なオッサンなのだが、こいつ実は筋金入りのロリコンだ。

 チュートリアル期間で勇者ファルコはほぼ確実に、このイベントをクリアできる能力値まで育っている筈なので、狙わないと見ることは出来ないが、この戦いに負けると王城とともに神殿まで制圧されてしまう。

 そしてヒロインのマリエルは彼により帝国に連れ去られて、この男と無理矢理結婚させられるところでバッドエンドを迎えるのだ。

 つまり、既に少女ではない、地味なオバサンの私はこの男の目に留まることはない!ふはははははっ!!

 

 …止そう、ちょっと切なくなってきた。

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