黄昏の王国〜ヒロイン不在の乙女ゲームの世界で私が勇者をつくるまで〜   作:大岡 ひじき

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7・王城解放作戦・始動

 王城奪還作戦。

 勇者ファルコの初陣にして、この先の王国の未来を担う戦いだ。

 そしてイエ国最初の戦闘イベントでもある。

 

 ゲームでの展開は、まずヒロインがファルコとダイダリオンを伴って王城を訪れる。

 そうしてヒロイン達が王城へ入るとともに、神殿の騎士団が王城を包囲する。

 そこでヒロインは2人と離されて、王城を制圧しているアンダリアス将軍の元に1人で案内され、離された2人は、捕虜として王族達が軟禁されているフロアに連れて行かれるわけだが、ここから将軍に信用されているバアルが密かに掌握していた近衛騎士団と協力して、王族達の救出を行う流れになる。

 

「神官長殿。こちらが謁見の間です。

 御付きの方々は、こちらでお待ちください。」

 おっと、そうこうしているうちにとうとうイベント開始のタイミングだ。

 

「ヴァ……神官長。」

「大丈夫よ。…後はお願いね。」

 不安げに私を呼ぶファルコに笑いかける。

 私の言葉に、彼の隣でダリオが頷いた。

 

 …相変わらずヒロインがいる筈の位置には私しかいないし、まあ結局は後の恋愛を進めていく為のエッセンスでしかない戦いで戦略だの設定だのさほど練りこまれてなく色々とアレなわけだが(声優目当てで買ったけど今考えると結構なクソゲ…がふんげふん)、ここは余計な事をせず、シナリオ通りに進むべきだろう。

 シナリオにない行動をとって、予測出来ない事態に突入するのは避けたい。

 

 帝国の兵士が促すのに従い、私は謁見の間に足を踏み入れた。

 

 ☆☆☆

 

 謁見の間とは本来ならば、王やそれに連なる立場の方が、アポイントを取った相手と公式に会見を行う場所だ。

 その、玉座にあたる席に座っているのは、王でもなんでもない敵国の隻眼の将軍。

 …それにしても、直に見ると本当に似てるな。

 絶対キャラデザインした人、あの少年漫画のファンだったと思う。

 まあ、私もだけど。

 前世の私の推しも、絶対あの漫画の主人公を意識したキャラだったしね。

 

「神官長殿。ようこそ。

 貴女にはここに留まり、神殿に対して宣言していただきましょう。

 神殿も王宮に続き、我が帝国に門を開き、恭順すると。」

 宋k…アンダリアス将軍が、慇懃ながら有無を言わせず、用件を私に対して切り出す。

 

「…これは話し合いの場ではなかったのですか?」

「貴女と言葉を交わしたところで、結果は同じでありましょう?」

 まあ、知ってたけどね。

 ここでの私の役目は、神殿から人質を取ったという安心と油断を彼に与えることと、時間稼ぎ。

 

 ゲームではヒロインが謁見の間へ入ると同時に、帝国の兵士が2人を連行しようと動き、彼らは2人を人質の棟まで案内してくれた挙句に、バアルが配置していた近衛騎士たちに無力化されるのだ。

 この棟には破壊や脱出用の魔法具を無効化する沈黙の結界符が敷かれており、ここでの騒ぎが外に漏れる事なく、王族の避難は難なく成功する。

 

 …王女1人を除いて。

 この時は誰も知らない事だが、実はルイサ王女は、夫を失ったショックから一度自害を計っており、命はとりとめたものの目を覚ますことがないまま、別棟に隔離されていた。

 アンダリアス将軍は本国の皇太子から、彼女だけは帝国へ連れ帰る事を厳命されており、この事が知れれば処罰される恐れがあった為に、味方に引き入れたつもりのバアルにもその事は隠していたのだ。

 

 救出した王族たちの中に王女が居ないと知り、王宮の近衛騎士たちは彼女の救出を優先すべく動く事を主張。

 計画では全員を避難させた後は外を包囲した騎士団と合流して帝国兵を一掃、最後に1人になったアンダリアス将軍を確保する筈だった。

 中で将軍を引き留めて時間を稼いでいるマリエルは、その際人質にはなるだろうが、これまでの、要求を通す為と違い、この場合自分の命を守る為の人質であるならば、マリエル1人ならばまず殺されはしない。

 

 だが王女の身柄の確保に人員を割かねばならず、彼女のいる場所が正確に判らない為に、捜索の手を幾つかに分けなくてはならなくなって、一斉攻撃ではなく、各部署に配置されている兵を、密かに各個撃破していく方針に切り替える事となる。

 

 また、王女の身柄がまだ城内にあるとすれば、人質になる可能性がある人物が2人に増えてしまい、そうなると1人ならまず助かる筈が、2人だと本気を示す為に、どちらかが殺される可能性が出てくる。

 そして王女との2択となった場合、見せしめとして殺されるのは間違いなくマリエルである。

 それを理解したファルコは、彼女を失う可能性に冷静さを失って、まっすぐマリエルの救出に向かってしまうのだ。

 ここでファルコとアンダリアスの一騎打ちとなり、最初の戦闘では必ず負けるのだが、とどめを刺されそうになったところへ謎の仮面の男が現れて、もう一度イベント戦闘となる。

 ここで負ければゲームオーバーだが、一緒に戦ってくれる仮面の男が強いので、狙わなければ負ける事の方が難しい。

 勿論勝てばアンダリアスの身柄を確保して王城の奪還となり、気がつけば仮面の男は消えている。

 この男とは今後の必須イベントで何度も会うことになるのだが今はいい。

 

 だが王女の居場所をアンダリアスから聞き出した時には、彼女の身柄は別の者の手に渡っており、この時点での救出はできない。

 それは次のイベントへの引きとなるわけだ。

 

 という流れで、私が余計な事さえしなければ、滞りなく進むとみて、私は会話を続けなければならない。

 …問題は、ゲームでは今のやり取りの後、視点がファルコ側に切り替わり、そっちの側でストーリーが進行するから、その間マリエルとアンダリアス将軍がどんな会話を交わしていたか、私にはわからないってことなんだよねえぇ!

 

「この状況で、貴女に選択の余地は無かろうかと思いますが?

 貴女の返答ひとつで、血を流す事だけは免れるのですぞ?

 この城に押し込めた王族も、今下がらせた貴女の従者も。」

「…それですわね。

 今ですら、きっと不自由以下の扱いしかされていないのでしょうに、この上命まで落としては、皆様浮かばれないでしょうね…。」

 …とりあえず、嫌味のひとつでも言っておこう。

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