黄昏の王国〜ヒロイン不在の乙女ゲームの世界で私が勇者をつくるまで〜   作:大岡 ひじき

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9・その時、男たちは

 神官長と呼ばれていた彼女の従者として連れてこられた2人が、案内してきた帝国兵を一瞬にして昏倒させて無力化する。

 ダイダリオン殿は数年前より、神殿の聖騎士団の中で随一の実力者であると言われていたから驚くことではないが、一緒にいる若者もそれには及ばぬものの、相当に腕が立つことは間違いない。

 しかも驚くべきは彼が、戦闘訓練を受け始めて、僅かひと月足らずしか経っていないという事実だ。

 神の子の勇者、というのも、この様子を見るとつい信じてしまいそうになる。

 いや、仮にも大神官様の『神託』を疑っているわけではないが、にわかに信じられる話でもない。

 神の救いというならば、何故、今なのか。

 ……何故あの時に、齎されなかったのか。

 あの方の命を、神が欲したとでもいうのか。

 

「バアル殿…どうかされましたか?」

 ファルコという名の若者の、緑色の視線が俺を捉え、その邪気のなさにハッとする。

 どうやら、内心の葛藤が顔に出てしまっていたらしい。

 そうだ。勇者だろうが神の子だろうが、彼が今一生懸命、事を為そうとしているのは間違いない。

 …その瞳の色が、かの人と同じ色である事に改めて気がついて、覚えずこぼれそうになった笑みを、慌ててしまい込んだ。

 

「何でもない…こちらだ、ついて来るがいい。」

 気を取り直して、王族や貴族が囚われている棟へと2人を案内する。

 今は、余計なことを考えている時ではないのだ。

 ……俺も、まだまだ修業が足りぬ。

 

 ・・・

 

 彼らと共に、人質となっている王族たちの部屋の前へたどり着くと、途中で合流した兵たちに、俺は声をかけた。

 

「皆、よく耐えてくれた。

 神殿の協力が得られ、この王城は現在、聖騎士団が包囲している。

 そして交渉という名目で呼ばれた神官長ヴァーナ殿が、今、アンダリアス将軍と謁見しており、彼を謁見の間に引き留めて時間を稼いでくれている。

 その間に我らは人質となっている王侯貴族を、速やかに避難させねばならん。」

 それが済めば外で待機している聖騎士団を迎え入れ、場内の帝国兵を一掃できる。

 そして最後に残るアンダリアス将軍の身柄を確保すれば、帝国との交渉に持っていけるのだ。

 

 ……と、説明するつもりだったのだが。

 

「ヴァーナ神官長…ひょっとして、ヴァーナ・シュヴァリエ嬢の事ですか?」

「…その通りだが?」

 唐突に兵の1人から上がった質問に答えたのは、俺ではなくダイダリオン殿だった。

 途端、兵たちが騒めき出す……何だ?

 

「ヴァーナ嬢が、あの野獣を引き留めていると!?」

「あの方が!?何故そのように無謀な策を!!

 あなた方はそれでも騎士か!」

 …何だろう。助けにきたはずが、俺たちが悪いみたいな雰囲気になり始めてるんだが。

 

「皆、落ち着いてくれ。

 これは、彼女が自分で申し出てくれた事なのだ。」

 予想外の事態に戸惑いつつ、俺がしどろもどろにそう言うと、兵たちは何故か、感動に震え始めた。

 

「くっ…何という献身と慈愛…!」

「ああ、あの方こそこの国の聖女…!」

「違う!あの方こそアルマ女神の化身だ!!」

 …いや、今そんな事を論じている場合じゃないんだが。というか。

 

「…ヴァーナ殿の事を、皆は随分と慕っているようだな。」

 神殿ならば判るが、ここは王城だ。

 彼女は管理職の立場上、あまり頻繁にその敷地から外には出ていないだろう。だが、

 

 

「「「あの方は、我々の恩人なのです!」」」

 

 

 騒めいていた王城の近衛騎士や兵士たちは、俺の言葉に、声を揃えて答えた。

 更に口々に、その『恩』を俺たちに訴える。

 

「うちの娘は7年前のあの件で、売られる直前だったところで助け出されたのです!

 ヴァーナ嬢のお陰で!!」

「うちの妹もです!!その後良き縁を得て、今では5歳の双子の母親です!」

「僕は姉が!!

 ヴァーナ様より年上であるにもかかわらず、姉はあの方を『お姉様』と呼び崇拝しています!」

「当時婚約者だった私の妻は、未だにヴァーナ嬢の居る神殿の方角に足を向けて寝られないと言ってます!!」

「うちは母が!!」

「我が家は弟が!」

「ちくわ大明神。」

「誰だ今の。」

「とにかく、こうしてはいられない!

 今こそ我々が、ヴァーナ嬢を助ける時だ!

 あの薄汚い帝国の走狗などに、あの方を汚させてたまるものか!!」

「いざ!我らの女神をお守りするのだ!!」

「「「オオオォ────ッ!!!!」」」

 …急遽自然発生した『ヴァーナ親衛隊』は、雄叫びと共に俺たちの脇をすり抜け、謁見の間のある主棟の方へと駆け出していった。

 

「ええぇ〜……」

 救出すべき人質の部屋の前で、俺たち3人だけがその場に取り残され、俺は呆然と立ち尽くした。

 

 ・・・

 

「ごめんなさい、ダイダリオン殿、バアル殿!

 ヴァーナが危ないというなら、僕も行きます!!」

 一番早く我に返ったのは勇者ファルコだった。

 彼は俺とダイダリオン殿にそう言い置いて、こちらに背を向けて駆け出すと、先に行った者たちの後を追う。

 

「ま、待てファルコ!それなら私も…」

 それに続いて駆け出そうとしたダイダリオン殿の肩を、俺は慌てて掴んで止めた。

 

「…ダイダリオン殿。

 申し訳ないが留まっていただこう。

 貴殿にまであちらに行かれては、避難誘導の手が確実に足りなくなる。

 人質となった王侯貴族の中には、この生活で身体を弱らせてしまい、歩くのも難儀な方もおられるのだ。

 ……貧乏くじを引いたと、諦めて欲しい。」

「くっ………!!」

 俺にそう説かれて、彼もようやく自身が何をしに来たかを思い出してくれ、その後は何とか2人で、人質たちを城の外へと誘導する事ができた。

 外を取り囲んでいた聖騎士の何人かがそこからの避難誘導を引き受けてくれ、俺とダイダリオン殿は顔を見合わせて頷き合うと、先に兵たちが向かっている筈の謁見の間へと向かった。

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